サヨナラ・ホームラン
俺が子供の頃、一瞬だけ磁器ネックレスなるものが流行っていた。
かけるだけで高周波にて疲労回復、肩こり解消と謳い文句。
結構有名なスポーツ選手に宣伝させていた。広告塔、ギャラなんぼ?
「行け、ドローン!」
磁器ネックレスは、健康グッズ。つまり、粘体精製可。
ロボアニメの小型無線兵器よろしく、触手の先っちょが伸縮を繰り返しながらオールレンジに飛び跳ねた。
仲間たちの首元に引っ付くや、輪っかを形成する。
リカバリーウェアに加えて、自然回復力をさらに活性化させた。
否。
目下、欲しい効果は短期決戦用即効性――
「続け、コンバート!」
余った先っちょは、魔力分与に特化したテンタクル。
「オホ」
喉元を通過する頃、魔力が急速チャージされていく。
【朗報】触手ヒーラー、全体魔力回復技を取得。
RPGでいえば、終盤に覚えるやつ! やったぜ。
「――ノットインサイト、脅威度上昇。変更スラッシュモード」
魔導アーマーの両手が、バリアからビームソードへ切り替わって。
「はあああっ! <アーク・ブレイド>ッ!」
裂ぱくの気合と共に割り込んだ、聖騎士。
「クリスさん!」
「今、すごく調子いいわ! ありがとうっ」
光の剣同士による鍔迫り合い。
「……あ、腰痛対策に湿布張ってる」
クリスがどうすれば本領発揮できるか、触手は知っていた。
「それは黙ってて! 恥ずかしいのよッ」
金髪美人が赤面しながら、銀の剣を流星のごとく一閃させた。
「ヤマちょ~。とりま、離れろし~。強烈なブレス注意報じゃん」
「フィオナさん!」
ドラゴンの背に乗り、腕を組んでいたエルフ。
「我が送迎役で済まされるなど、あり得んことなり! マナエネルギーを纏いしハリボテよ、真の幻想に恐れおののくがいい」
中腰さん、ちゃっかりサポーターベルトを巻き付けていた。賢い触手である。
「<ペインズ・フレア>ッ!」
腰痛くても、竜。
その劫火、灼熱につき。
強烈なブレスは、石畳の舗道を焦土へ変えていく。
防御に徹した魔導アーマーに直撃。
完全に防がれたと思いきや、炎の渦が守護者を包み込んだ。
「――損傷重大。許容ダメージ超過。魔力障壁、展開不能」
かの威力――掌底部のマナ放出機能さえ、焼き切れるほどに。
「フン、炙り過ぎたか? 覚えておくのだな、我はミディアム派ぞ」
後で自慢げに語られたが、相当手加減したらしい。
曰く、貴様たちの戦いだから。
その割に、めちゃくちゃ助けてくれた気がする。
強面に限らず頼り甲斐もある上司、ブラック企業にいてくれたらなあ。
泡沫の夢が吹き飛ばされる魔力の風が吹いた。
「おじさん、起点作れるじゃない。あたしの下僕として、及第点よ」
「謹んで返却します。養ってくれなきゃ、主人にあらず!」
家事残業禁止。週休五日。月20万ゴールドのベーシックインカム希望。
何もしないをするフレックスタイム導入。プライベート干渉要相談。
「注文が多いロリコンねっ。早く捕まりなさい!」
「俺が違反したのは、労働基準法だけさ。いや、会社が悪いよ」
タイムカードを打刻しても、勤務時間が全て――正しく、修正されちゃうからね。
そのシステムも、社内SEのサビ残による成果なり。
ミューは、くたびれた社畜の哀愁など瞬く間に興味を失って。
「機械人形は二度死ぬ! 今はあなたに感謝しましょう」
「――継、続。けけけ、ケケケケ、いいいいい、ぞぞっ、くくククク」
煙を上げたオートマタは、壊れかけのレイディオよろしく音声が乱れるばかり。
「あたしが破るべき壁! 踏み台ごと壊して、高みを目指せるってもんだから!」
様々な属性特化フォームに変身できるスキル<マジプリ>。
さりとて、稀代の天才魔法少女は一本芯が通った性根のようで。
「最強は一振りで十分なわけ。ひっきょう、無属性上級魔法を極めればいいッ」
「いや、その理屈はおかしい。凄い奴なんだから、せめて四大属性を修め」
「マナの加護すら虚無へ誘え、天・誅――ッッ!」
本日二度目のフルスイング。
今度こそ、防衛装置を破壊尽くす爆発が引き起こされた。
視界が虚空に飲み込まれる刹那、夢を追う若人の満足そうな横顔が過った。
ったく、希望に満ちた無茶しやがって。
おじさん、キラキラな若い子が眩しいよ。
「爆発オチなんて、サイテー」
ぬる~ん。
触手も、やれやれと両手を広げるのであった。




