最強の弱点
緊急クエスト・マナコンディショナーの暴走を収拾せよ。
これは――トレニーの町、存続をかけた戦いである!
意気やヨシ。現場猫もにゃっこり。
「……結局のところ、何をすればいいんだ? 設備まるっとデストロイ?」
「いいわけ、ないじゃない。おじさん、少しは頭使ってちょうだい」
「解体業も恐れおののく破壊王に言われたくねー。リーダー、作戦は?」
「魔力干ばつの発生原因を叩くのは間違ってないわ」
ギルドを後にし、中央通りを進む中。
クリスは、道端でぐったり倒れた人々を案じた様子で。
「マナコンディショナーの中央制御装置のコントロール権を確保。それが不可能な場合、強制停止させる。手段は問わない」
「っぱ、デストロイや! まあ、悪用されないよう対策済みだよな」
テロや災害に弱い重要施設なんぞ、ただの的当てゲームですやん。
「場所は、魔法学園旧校舎。以前、あなたたちは見学したんですって?」
「あそこが本丸ね。確かに、難しそうな機械と偏屈そうな学者いっぱいだった」
「魔導工学のフィールドワークっしょ? あーし、機械イジリは苦手だし」
フィオナはリケジョじゃないん? どちらかと言えば、物理より化学だ。
「エルフのエンジニア、逆に映えるぞ」
「そ、マ?」
「マ!」
ギャルが新たな副業を模索していく。
「さっそく、乗り込むか? いや、待った。魔法学校なら、優秀なウィザードたくさんいるはず。異変が起きた時、旧校舎に詰めてたスタッフは対処できただろ」
「魔力干ばつなんて、ウィザードと相性最悪じゃない。天才のあたしはともかく、その辺の有象無象が近場で巻き込まれたわけ。構内にいた全員、欠乏症でぶっ倒れたのよ」
「じゃあ、そいつらを助け」
全員、診療所送り? ベッドが足りんよ、チミィ。町人分、用意してくれたまえ。
「救出は時間がかかりすぎるのよ。事態収拾に全力を向けます」
「あのにっくき機械人形が、学校に集まってる。防衛装置、ちゃんと機能してるのよ」
「ガーディアンを突破するん? あーしら、めっちゃアウトローじゃん。ウケるし」
「正面突破は厳しいわね。アレに囲まれたら、こちらの戦力だと倒しきれないでしょう」
クリスは極めて冷静に、最悪の事態を想起する。
魔導アーマー一機であれば、ギリギリごり押し可能。
たとえ、マナを圧倒的防御力に変換しようとも、火力以外で機能停止に陥らせよう。
しかし、恐怖のオートマタ集団であれば話は別。
無限スタミナによる質量爆撃はお手上げである。戦いは数だよ、兄貴!
「裏口からこっそり忍び込みましょ」
「ダメ。あいつら、熱源センサー搭載してる。マナコン周辺は警戒ゾーン」
「警備兵の鑑か。休息0秒待遇悪すぎぃぃイイ! ストライキしろよこの野郎!」
ブラック企業で使い捨てだった俺でさえ、一日三時間睡眠取れたぞ。
お前ら、たいそう頑張った……永遠に休め。
「現状、こちらの切れるカードが少ないわ。魔力枯渇はヤマトさんが防いだけど、最小戦闘数でゴールまでたどり着かなきゃいけない。奥の手、切り札は使えても一回限りよ」
リソース管理で難易度上げるのは、昭和のRPGだけにしてくれ。
クリスが、うんうんと思考を巡らせる。
彼女は王道を征く聖騎士。奇策妙計に富んでいるとは言えない。
トンチキと屁理屈は俺の役目だな。
たった一つの冴えないやり方を、閃け閃け閃け閃け!
魔女っ子にうるさいと背中を叩かれた。
「そろそろ、先人の知恵でも披露してちょうだい」
「ヤングアダルトだしっ。てか、フレッシュギャル?」
「そういうのいいから。ホコリかぶっても、叡智の結晶。あたしよりほんのちょっと賢いところ、認めてあげなくもないんだからね」
「素直じゃないぜ、ミューっち。思春期かー?」
フィオナがりょ! と返事がてら、虫歯ポーズ。
「……」
「何よ、その構え? 虫歯?」
「名探偵ギャルが考える時の仕草だろ。知らんけど」
昔、プリクラで小顔効果を演出するって聞いたことがある。
「魔導アーマーさあ、プロトタイプじゃん? 流石に、レーダーはまだ付いてないっしょ?」
「そこまで詳しくないけど、先生は魔力障壁に熱心だったみたい」
「あーね。オートバリアはコストやばたにえん。資金繰りマジつらたんぴえん丸」
「日本語でおけ」
失礼、ここパストロールだ。
ギャル語は実質、異世界言語だね。それは違うよ。
「ピカーンッ! 天啓神ってる!」
「そりゃまあ、主の啓示なれば?」
「ふふふ、ヤマちょ。あーしにいい考えがありまくり」
「い、いかほどなりや?」
古今東西、いい考えはいい考えにあらず。大体失敗するやつ。
ドヤ顔エルフ、自信満々に。
「正面突破はガチ無理め。渋滞まぢムリ。もっと空いているとこ、あるべ」
「地下通路でも掘るか? スキル禁止縛りでトンネル掘りはきついぜ」
魔法学園と言えば、秘密の通路。隠し坑道があるかもしれないぞ。
若干、ワクワクしたところ。
ギャルは細長い指を、真っ直ぐ上へ向けていく。
「もち、真上からソッコー攻めるじゃん。電撃戦みたいな?」
「それができれば苦労しないでしょ。わたしたち、飛行スキルなんて持ってないわ」
「機械人形の視界から外れるほど上空高く飛べるわけ? ふん、魔法使いがほうきに跨るとか見当違いじゃない。どうせ、おじさんみたいな奴の妄想ね」
「いや、ロリにメルヘンチックは期待してない。逆に童話に謝って、逆に」
俺とミューが仲良く徒手空拳を捌き合うと。
「クリぴ、青いな! ミューっち、青いぜ! ヤマちょ、アオハルかよ!」
「青春に特別思い入れがない成人さ」
「ぴえん」
本気で悲しそうにしないで。傷つくわ。
「あーしにいい考えがあるって言ったし」
フィオナはパチンと指を鳴らす。
「今時、飛べねえギャルはただのギャルじゃん!」
スマホっぽい端末を取り出すや、ピポパポピ。
「カモン、ズットモ! マブダチ召喚ッ!」
道のど真ん中に大きな魔法陣が展開された。
バチバチと空気が弾ける音。
光の奔流が、巨躯なるシルエットを映し出す――っ!
「この我を呼び出すとは、褒めてやろうぞ。エルフの娘」
「さんくす」
はたして、フィオナが召喚したのはドラゴン。
ご立派な角、猛々しい逆鱗が強者の証。
「お前は!? 腰痛のっ」
「久しいな、矮小なる人の子よ。我が真名、ペイン――」
「中腰ドラゴン!」
「違うわッ。ペインバックロアだ。忘れたと申すか、ヤマト」
流石、幻想種。ツッコミの圧が魔力ビンビン。
「いや、ペインさん? 何で? ダンジョンボスでは? マブダチなん?」
「一度拳交えたら、ズットモっしょ?」
「「いや、その理屈はおかしい」」
図らずも、ドラゴンとシンクロ。これで俺も最強や!
「そもそも、我はエルフの娘と試合ってないのだがな。貴様との縁。その中継役をエルフの娘が名乗り出たわけだ」
「ヤマちょ、ドラぴとマブじゃん。マブのマブはズットモだし」
「うんうん、それもまたズットモだね」
細かいこと気にしたら負け。
この世界を楽しく生きるための不文律。
「魔力干ばつは我も他人事――他竜事ではないのでな。詳細は与り知らぬが、特別に力を貸してやろう」
「まかさ、伝説のドラゴンさえ干乾びちゃう?」
「フン、侮るな小僧。我の心臓こそ、無尽蔵の魔力を生み出す体内機関だ!」
すげーよ、ドラゴンハートは。
「……無尽蔵は言葉が過ぎた。大量精製、減退しておる。大量消費、抑制中」
「……まるで資本主義だな。ファストドラゴン」
ペイン何某が気まずそうに舌チロチロ。
この表情なら、戦っても恐るるに足らず。
「ドラぴが協力してくれるじゃん。遊覧飛行としゃれこむべー!」
「さしづめ、ドラゴンライダーってわけ? いいじゃない、最強魔法使いの進軍に相応しいじゃない!」
「聖騎士的には対峙する方よね? でも、力を借りて共闘も悪くないわ」
ミューとクリスが、ドラゴンに挨拶した。
「才能の原石たちよ、この我を送迎扱いするのだ。必ずや、禍根を断ち切るがいい。失敗は許されんぞ」
「上等よ!」
ドラゴンは中腰からさらに姿勢を下げ、二人を背に乗せた。
「作戦名・青天の霹靂! オペレーション・サンダーボルト! ぶちかませーっ!」
かっくいい。稲妻のごとき電光迅雷の襲撃である。
悪いな、石火と疾風。
お前らはこの先の戦いに付いてこられないから置いてくぜ。
「むしろ、疾風に全部任せなさい」
セルフツッコミをしながら、ドラゴンの背中に失礼すれば。
――ガッ。
刹那、踏んだ箇所が悪かったと悟る。
「ほぎゃぁぁあああアアアア~~っっ!?」
最強が吼えた。
否、鳴いた。
「ごめん! 腰痛の!」
「く、クク……我、幻想の王なるぞ? 全然、痛くないんですけどぉ~?」
「なんと度量の広さ! これがファンタジー業界大御所の懐か!」
「此度の件が終わり次第――貴様に奉仕する名誉を与えん。触腕によりをかけておけ」
そして、翼を羽ばたかせた大空の支配者。
飛翔直後はフラフラで、いつ墜落するか冷や汗ダラダラだった。
魔力が尽きるが先か、気力が尽きるが先か。
その命運、竜のみぞ知る。




