真の仲間
「ふむ、やはり君たちは無事だったか。希望が潰えずよかった」
開口一番。
白衣の美人がメガネくいっ。
「何だろう……緊急クエストなのに人選するの、止めてもらっていいですか」
「すまないな、ヤマト氏。手間を省かせてもらった。期待の裏返しと思ってくれたまえ」
「指名料、高いですぜ?」
「そんなことより、先生。マナコンディショナーの異変をさっさと説明してちょうだい」
ミューが俺を押しのけるや、リコールさんに詰め寄った。
「場所を変えよう」
受付から会議室へ。
座学よろしく俺たちが着席し、先生はコルクボードの前に立った。
「トレニーの町全体で、魔力欠乏症が発生している。先に結論を述べよう。原因はマナコンディショナーの暴走によるものだ」
「それな。大気中のマナ濃度さあ、こってり濃厚マシマシじゃん?」
ラーメンか。
「やはり、エルフのフィオナくんは肌感覚で理解できるのか。素晴らしい」
「あざまる水産」
「事態は魔力干ばつの域に達しようとしている。留意してくれたまえ」
「オフシーズン……魔力干潮とどう違うのですか?」
クリスが当然の疑問を口にする。
「魔力干潮とは、一定周期で起こる季節の特徴。魔力干ばつとは、環境問題に属する公害だ。急激なマナ増加により、豊かな自然バランスの崩壊。水資源の劣化、森林の乾燥化、大地が荒廃し、自浄作用の低下……」
「分かった! つまるところ、魔力干潮のすごい版でおけ?」
「構わないよ。放置すればいづれ、砂漠化が始まるだろう」
「そもそも、なぜこんな事態に陥ったわけ? あたしは原因が知りたいのよ」
「それは……現在調査中だ。すまないな」
歯切れが悪いリコールさん。
組織人ゆえ、全てを開示できないらしい。
かつて俺が奴隷懲役を科せられた強制労働施設――そこでは、不都合な事実など常時存在しなかった。不正まかり通りて、真実へ至る。爆ぜろッ。
「はあ? 先生は校内で、研究分野に関して優秀じゃない。どうせ、別の奴が手柄を横取りしようとして事故ったんじゃないの? 大方、責任だけ押し付けられたわけ?」
「君のような察しの良い子は嫌いじゃない。が、天才ほど困った者はいないな」
やれやれと肩をすくめた、リコールさん。
「以前、君たちのおかげで運用テストが成功した。試しに一機稼働する準備をしていたわけだが、成果を焦ったバカ共の横やりが入ってしまってね。あれよあれよと、町全体にマナコンディショナーが投入されたのだ」
「配備してしばらくの間、正常でしたよね。オフシーズン、季節を一つ飛ばしで経済活動の再開。自然環境をコントロールする技術、世紀の大発明じゃないですか?」
「うむ。手前味噌になるが私が挑んだ生涯の研究テーマと思ってくれたまえ」
実際、大体成功していた。ミューが懐くということは、同類らしい。
「時に、クリスくん。トレニーは、駆け出し冒険者が集まる町と呼ばれている。他に特徴と呼べるものは何かね?」
「え……空気と水が綺麗とか?」
「捻りだした褒めの常套句っ」
「フ。つまり、そういうことだ」
いや、どういうことだってばよ?
俺は、シンプルに知恵も知識も少なめ。
精神年齢が中学の頃と全然変わらない、なんちゃって成人男性。
雰囲気で会話しないで。ニュアンスで察せられると思うなよ?
「ヤマちょ、トレニー全体がマナコンの見本市になるっしょ。魔力循環に成功したモデルシティ。観光資源の獲得で、町から街へスケールアップ余裕だし」
「おお! このギャルほんと賢い。冒険者なんか秒で辞めて、さっさと学問をすこれ」
「コスメ極めるじゃん」
化粧品会社でいいんで究めてくれ。
「日曜日の住宅展示場見学会のノリ、ね。じゃあ、トレニーの町が栄えて得する奴は……」
俺は、考える人よろしく考えた。
誰が一番偉くて、はたして利害関係を仕切っていたか。
ブラック企業で鍛えられた瞬時の判断力。悲しいかな、この反応速度。パルスッ!
「――ハッ! まかさ、町長が黒幕、って……こと!?」
「フィクサーは不在だねえ」
「会ったことないけど、俺はずっと怪しいと思ってたんだ! おかしな研究に先行投資とのたまい、町の予算をぶっこむなんて! 問題が起きた以上、責任を取らせろ辞任しろ! 捕まえろふんじばれ! 会ったことないけど!」
過激派冒険者が鼻息荒く、正義という名の暴力を息巻けば。
「ヤマトさん、目の付け所はいいけど、話進めてもらうから」
「あ、はい。どうぞ」
「研究機関、学園、町、投資家。それぞれが出資している。助成金を受け取るとは、結果という対価が発生するのだよ」
「利権! まあ、儲かるから金を出すわけで……」
テックの大事な基礎研究ほど、疎かにされがち。
その点は、ファンタジーでも共通らしい。
資本主義の悪い部分、存分に発揮されて何よりです。
「誰が悪いかと言えば、全員だ。功績を、評価を、利益を、焦った愚者たち。むろん、私も含めてくれたまえ。プロジェクトにて、裁量権ある上司を説得できなかったのだから」
リコールさんは自嘲的に語っていく。
「その上で、情けない大人のお願いを聞いてほしい。目下、まともに動ける冒険者は君たちだけだろう。くだんの暴走の鎮圧に、力を貸してくれないか?」
「協力します。困ってる人を助けるのがわたしたちの役目ですから」
リーダーは悩んだ様子もなく、即答。
聖騎士スキルに相応しい立派な精神だ。
「ふん、先生の不始末に対処してあげるのも天才魔法少女の務めじゃない」
「もち、おっけー。あーし、この町はタピオカミルクティーくらいオキニだしっ」
ミューとフィオナも首肯した。
なんだかんだお人好しなパーティーメンバー。
頑張れよ、お前らは才能に満ち溢れた期待のシルバーランク。
俺は満足げに頷き、邪魔しちゃ悪いと抜き足差し足忍び足――
「おじさん、この流れで平然と帰ろうとするの、ある意味大物じゃない」
「いやいや、臆病風に吹かれて逃げようとしたぜ。ちゃんと小物だぞ」
「ぬるっちの弔い合戦っしょ? 張り切ってわっしょーい」
「あいつ、別に死んでねーだろ……」
最近、やたら自己主張強かったけどさ。
触手スキルが表示される以上、産廃にあらず。多分。
「緊急クエストを受けるかどうか、あなた次第だわ。きっと、わたしたちだけじゃ乗り切れないもの」
「ギリギリで、リカバリーウェアを粘体精製できた。さらなる後方支援なんて役者不足」
「それ、本気で言ってる?」
クリスと目が合った。
正直、長い付き合いじゃない。アイコンタクトで以心伝心とは程遠い。
「……真の仲間、か。憧れちゃうね」
「ヤマトさん、いつもふざけてるけど人との関係性はドライよね」
「一度追放された身ゆえ、そういうの望まないスタンスさ」
生前、あのオフィスに同僚はたくさんいた。
文字通り、身を粉にして働いた言わば勤労同志たち。
否、デスクが隣にあるだけで、はたして仲間の心を通じ合わせただろうか?
「あんた、バカあ? ウジウジしちゃって見苦しい! あたしの家来ならご主人様に力添えできるって感涙に咽びなさいよっ」
「ヤマちょ、鬼萎えなん? あーしらとパリピろうじゃん!」
「前にも伝えたけど、パーティーを組んだ以上、そっちが嫌がっても絶対に見捨てないわ。やる気が出ないなら、出るまでわたしが叩きましょう」
そして、お三方ドヤ顔である。
俺は深いため息がてら、やれやれと肩をすくめるばかり。
これがラブコメなら、ヒロイン三人でとても嬉しいと思いました。
「ったく、とんだパワハラだぜ。ブラックパーティーや。前のチームが恋しいぞ」
「散々セクハラしてクビになったんでしょ。自業自得じゃない」
「触手ヒーラーは卑猥じゃねえ。医療行為だ」
生意気ロリと小競り合いが白熱。
俺は老若男女平等主義者。手加減しねぇ!
フィオナがウェーイと煽る中、クリスは依頼人に改めて宣言した。
「リコールさん。今回のクエスト、わたしたちに任せてください!」




