緊急警報
「状況を整理しましょう。フィオナ、ミュー。何か意見、あるかしら?」
「どう見たって、マナコンディショナーの暴走。マナ吸収はおろか、大量放出する有害設備と化したわけ。即刻、破壊させなさいよ」
「マナを取り込みまくったせいじゃね? あーしもタピりまくっと、お腹ヤバいし」
「魔力循環施設とギャルの腸内が同じ構造?」
なぜか、ドヤ顔なフィオナ。
あの後、俺たちはギルドへ避難した。
魔導アーマーのビームを浴びた刹那、やられた!? と、覚悟したのだが。
「――損傷軽微、だったな。奴の言葉を借りれば」
やられたは、やられてない。逆フラグである。
しかし、あいかわらずの圧倒的防御力で仕切り直しを強いられた。
「おめおめと敵前逃亡する必要あったわけ? せっかく、リベンジする機会だったのに!」
「町の中心で、あなたの最大火力なんてダメに決まってるでしょ」
「ふん、おびき寄せて仕留めればいいじゃない。おじさん、囮やって。役目でしょ」
「スケープゴートは得意だぜ? 上司のミスは俺の責任。俺の成果は上司の手柄」
「つらたにえん。ヤマちょ、涙ちょちょ切れるじゃん」
シルクのハンカチーフを目頭に押し当てられた。
社畜に優しいギャルは存在する!
ふと、周囲の様子を伺った。
酒場には普段の賑やかな雰囲気がなく。
「う、うぅ……」
「からだ、しんどー」
「疲労感半端ないって」
「だるい。きつい。やる気でねえよ」
いつもバカ騒ぎに興じた見慣れた連中たちが、テーブルで突っ伏すばかり。
お前ら、酒の席の活気だけが取り柄だったでしょうが。
「何よあれ、ほんとだらしないじゃない。まるで、あんたが分裂したみたいね!」
「あんな鬱屈してるわけなかろうに。ネガキャンの盛りすぎチャレンジやめろ」
「ヤマトさん、言いにくいけど……普段あんな感じよ?」
「それなっ」
ひょ!?
寝耳に霹靂。
青天の水だっけ?
「確かに、やる気の無さに自信あるけども。モチベの低空キープに自信あるけどさ」
「おかしいわ。突然、ここまで皆が無気力になるなんて」
「原因なんて、ハッキリしてるじゃない。異常現象がすでに起きたもの」
「あーしらも巻き込まれたのに、健康状態良好っしょ? 魔力回復に秀でたスキルのおかげだし」
一斉に視線を注がれた、俺。
背後を振り返るお約束を披露するや。
「この格好、魔力の自然回復量が上昇するのよね?」
「リカバリーウェアは、着るだけで疲労回復。遠赤外線で血行促進? そんな健康グッズ」
「あの一瞬の判断こそ、彼らとわたしたちの現状に一線を画したもの。助かったわ」
俺は思わず、苦笑する。
いや、あれは……
「マジ神ってた。ナイスサポじゃん」
「自称ヒーラーの対策として、及第点をあげてもいいんじゃない?」
珍しくミューさえ、褒めてきた。
いよいよ気まずくなり、犯人よろしく自白フェイズ。
「触手が動いたんだ。文字通り、勝手に」
「スキルが勝手に? オートじゃないの?」
「違う。命令、操作しなければ、ぬるぬるしてるだけ」
「そのわりに、いつも明確な意思を感じたけど」
クリスが首を傾げた。
女騎士にアプローチするのは仕様です。
「直接脳内に語りかけてくる、わけにあらず。普段、なんとなくフィーリングで意思疎通してる。だから、今回の件に関して問い合わせした結果――」
スキル<触手>を発動させたところ。
「ぬるっち~っ!? 干物ってんじゃん!」
「水分の抜けた白菜みたい」
……
返事がない、しなしなのようだ。
さながら触手の天日干し、一丁あがり。
「これ、平気なの?」
「大丈夫だ、問題あり。目下、技が全部使用不可」
「大問題でしょ!」
「フ、回復できねえヒーラーはただのブタさ」
大空を飛びたいぶひねぇ~。
「クッ、俺はもう戦力外。可及的速やかに離脱して、トンカツでも食ってるよ!」
「後ろ向きに前向きなのやめなさい」
「ヒールも使えん回復術師は酒場送りやろ」
「あんたには、引き立て役がまだ残ってるじゃない」
魔女っ子。全然フォローになってないぞ。
「なーる。ヤマちょの無意識の危機感がぬるっちを最善の一手へ導いた的な? ガチ友情パワーっしょ。マブあちぃ!」
「いや、彼らとはビジネス関係のみでプライベートは一切関与しない方針です」
「スキル抽選でも切れない縁。一心同体だしっ。照れんな」
「チートじゃないのに、ユニーク枠許してねーから!」
燻ぶっていた憤怒の火種が燃え上がったちょうどその時。
「――緊急クエスト。緊急クエスト発令! 戦闘可能な冒険者は受付まで来られたし!」
酒場、いや町中の拡声器から火急のアナウンスが響いた。
残念ながら、マナコンの暴走でほとんどの冒険者は深刻な魔力不足。
いわゆる若者の魔力離れ。
「クリスさん、行って来られたし。クエスト、受けたかったんだろ?」
「あなた、まさかサボるつもり?」
ムッと顔をしかめた美人に対し、俺は肩をすくめるばかり。
「触手が元気ならなあ。それなりに後方支援頑張れたんだけどなあ」
「白々しいじゃない。干乾びた触手より、こんなくたびれた中年使えないに決まってる」
うんうん、そうだね。
魔女っ子。俺が辞退するフォローになってるぞ。
「特に、シルバーランクのミューさん! ヤマトさんは大至急よろしくお願いします! 先方から強い指名を受けております!」
「……え、なんだって?」
この瞬間ほど、ラブコメ主人公を羨んだことはない。
背中を汗でびっしょり濡らしていれば。
「さ、行きましょ、ヤマトさん。緊急クエストを指名されるなんて。お手並み拝見ね」
微笑み眩しい聖騎士に肩を叩かれた。
うわあ、責任重大だなあ。
このプレッシャー。
残業二時間した後、翌朝のプレゼン資料作りを追加発注された感覚とシンクロ。
ふざけろッ!
「だから、俺の手が使い物にならないのだが」
おい、触手。
カサカサ肌に潤いケアのクリーム出してくれ。健康グッズだろ?
……
もちろん、返事がない。
ただの乾燥肌のようだ。




