異変
商店街の肉屋のコロッケ美味し。
異世界でも普遍の真理であった。
田舎町だろ、街を名乗るほどの規模じゃない!
セルフツッコミがてら、買い食いのグルメにしゃれ込んでいれば。
「あたしが特訓してる間、あんたたちは遊んでたわけ?」
魔道具屋から、ミューがちょうど出てきた。
「そんなわけないでしょ。ヤマトさんはともかく、わたしがサボると思う?」
「それな。ヤマちょはともかく、あーしは仕事も全力じゃん?」
「お、パーティー内イジメ。そうかそうか、つまり君たちはそういう奴らだったのだな?」
心中、エーミールが軽蔑の眼差しを向けた。
ぬるぬるぅ~。
嫌味な返しをする子供もまた嫌気がすると批評した触手。
中学の頃、同じ国語の教科書使ってたん? 触手の義務教育って何ぞや。
「レベル上げに励む若人よ、首尾はどうじゃ?」
「あたしはいずれ最強ウィザードへ至る大器晩成型。怠惰なおじさんと違って、必要経験値が多いのよ」
「旅パに採用しにくいな。ロリは早熟タイプが多いはずだぞ」
「同じレベルでも、ステータスは全部あんたより上じゃない。試してあげる」
魔女っ子はグーを構えた。
「ミューは魔法職だけど、前衛もできるパラメーターよ。天才と呼ばれるのも納得だわ」
腕力、俊敏、体力。その他諸々の数値を耳打ちされる。
俺はニヤリと笑みをこぼし、ごまをスリスリ。
「低レベル縛りの旅とか、ゲームで人気コンテンツ。すげーよ、天才魔法少女は」
「くたびれた中年を屠っても、熟練度は増えないじゃない。己の小物っぷりに感謝なさい」
「俺が、雑魚だと!? 確かに!」
そして、納得である。
「自己分析は立派じゃない、おじさん」
「まあな。照れるぜ」
「……ふんっ」
「ミューっち、力押し一辺倒じゃ手応えないっしょ。スライムに打撃的な?」
ぬかに釘的な?
賢いギャルをギャフンと言わせるべく、生意気ロリはギリギリ歯ぎしり。
「力こそパワーなの。最強はそこから目を逸らさない!」
「……一撃必殺以外、あり得ませんぞ?」
「そう! たまには良い事言えるじゃない。ちょっとだけ見直してあげる」
「フ、ロマンを追いかける夢人か? 嫌いじゃないぜ、あーしの若い頃そっくりだし」
フィオナが明後日の方角を眺めるばかり。
年齢に関して、いつか尋ねなければならない時が訪れるかもしれない。
逆説的に考えて、その時まで俺の生存が確約された気がしないまでもなし。
「ふざけてないで、早く戻りましょう。四人揃った以上、この後も活動します」
リーダーが号令し、俺は渋々従った。
金髪美人を追いかけ、自由な空に思いを馳せた。
あー、どこかに不労所得落ちてないかなー。
ヤマトは正義の冒険者。断じて、ネコババなどしない。
もつろん! 交番に届け、三割貰うだけにゃん。
「せめて、今日はもうバラシでおなしゃす」
ある意味、俺の切実な願いが聞き届けられた。
「おい! 様子が変だぞ!」
突如、一般通過冒険者が声を荒げた。
向こうの広場で野次馬たちが集まっている。痴漢でも出たのかい?
「安心なさい、あんたはいつも変だから。正常なヘンタイじゃない」
「異常を仕様と言い訳する企業は炎上するぞ。ガバガバナンス!」
「一応、確認しましょ」
クリスは現場へ駆けていく。
俺たちが遅れて到着すれば、確かに異変が生じていた。
キキキィィイイイイッッ!
発生元は、マナコンディショナー。
悲鳴のような音と共に、煙が立ち上っている。
「故障? 試作機ゆえの欠陥ですかな」
「おいおい、魔力干潮と決別した最先端の魔導工学じゃねーんか?」
「今にも燃えそう。火事とか大丈夫そ?」
「ぶっつけ本番の大量配備なんてイカれてやがるぜ」
見物人たち、好き勝手言い放題。
マナコンが告げた、オフシーズン強制終了のお知らせ。
ある意味、貴重な休日を潰された手前、愚痴りたくもなろう。
俺は生前、連休と祝日も強制労働だったんですけどね。電車が空いてるやったー。オエ。
吐き気を催す邪悪を思い出し、頭痛腹痛腰痛に苛まれたタイミング。
ギギギィィイイイイッッ!
風車のブレードがガクつくや、なんと逆回転していく。
濁った色の魔力が風に乗って、大振りに扇がれていた。
「マナの悪循環じゃん! デフレスパイラルっしょ!?」
「いや、その理屈はおかしい。流石に経済用語やろ」
図らずも、真っ当なツッコミをしてしまった。
テキトーな世界観を受け入れたはずなのに、一番恥ずかしいやつ。
「これ、ガチだから! あーし、汗でメイクヤバいしっ」
フィオナが焦ってる。こんなん、限定コスメを買い逃した以来だ。
「フィオナが焦ってるわね。事態は急を要するようね」
「フィオナが焦ってるじゃない。魔力循環が反転して、デフレスパイラル――」
「つまり、どういうことだってばよ?」
「とりま、一目散に撤退かましてもろて! 詳しくは落ち着いた頃によろ~」
任せろり。
広義に解釈すれば、帰宅。
億が一、残業が存在しなければ最も才能が発揮される部門。
「全員、離れろーっ! 危険が危ないッ!」
俺の合図を皮切りに、ヤバいと察した奴らから散っていった。
辛いことから逃げるべし。それが俺の異世界モットー。
されど、マナコンディショナーは昭和世代の施設だったらしい。
上部のハッチが開放され、射出された魔導アーマーが飛来する。
「はん、根性なしに制裁か。さとり世代を敵視すな」
「――敵性確認。排除開始」
メタルボディに行く手を塞がれ、足を止めてしまう。
「チェンジッ!」
オーダーを受け、咄嗟にバックステップ。
リーダーが前衛ポジへ割り込んだ。
勢いそのまま抜刀するも、剛腕に押し返される。
「――充填完了。魔力照射」
魔導アーマーは右手を構え、掌底部の魔石が怪しく輝いた。
「光学兵器!? ビームなんて実装してないはずだろ!」
「わたしが受けて立つ! 隊列乱さないで」
聖騎士の加護を発動寸前――
ぬるぅぅうううウウウーーっっ!
真っ先に動いたのは、触手。
初手で繰り出せし、クリエイト・テンタクル。
こいつ、勝手に……っ!
リカバリーウェアに強制変身させられた、パーティーメンバーたち。
「なにっ?」
予想外のインターセプトを食らい、クリスの反応は遅れてしまい――
「――真名解放。自我崩壊」
暗たんたる魔力光線が視界を覆いつくした!




