練れば練るほど
草津の湯。
岩盤浴。
炭酸風呂。
ジェットバス。
電気風呂。
サウナ。
全て改装済み。
スーパー銭湯の名に恥じない多種多様なラインナップ。
テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ~。
「キョロキョロしてどったん? 緊張かー、緊張してんのかー?」
フィオナが肩を組んで、うぇーいとアゲ。
「ギャルの距離感っ」
俺は努めて冷静を装った。
もちろん、女湯に客の姿なし。
さりとて、普段足を踏み入れられないピンクゾーン。
いろいろ悶々したり、エロエロ妄想したり……
「ガハハ! おう、兄ちゃん。遅かったなあ」
「すぅー」
夢想、屈強なマスラオに打ち砕かれん。
ガチムチより、ムチムチなボインで頼むよ。ぐすん。
仕方がなく、極めて渋々、苦虫を噛み潰した表情にて。
「どうして、ガサッツが女湯に!? キャーエッチ」
「そりゃ、うちの組が工事を担当したからよお。最終点検ってやつよ」
「立派な浴場造りやがって。女性人気間違いなしだな」
「若いモンにデザインを任せて正解だったわい」
豪快に笑ったガサッツはベテラン土木職人。
大雑把な印象だけど、結構思考が柔軟性に富んでいる。
「初めまして、ガサッツさん。クリスです。いつもメンバーがお世話になっています」
「ああぁん? 世話なんかしちゃいねえよ。一杯ひっかけてるだけじゃねえか」
「ガサッチたちがリノベしたん? 神大工かよ」
「綺麗な嬢ちゃんに褒められるたあ、汗水垂らした甲斐があるってもんよ」
ガサッツな。ガサツっぽいけどガサツじゃない人。
「店長とマネージャーの奴らが急用で出払っている。依頼の引継を任されたわい」
「職務放棄だろ、それ。まあ、ガサッツ以上に現場監督の適任者はいないか」
「ガハハ! こっちだ」
偉丈夫の案内に従えば、こじんまりとしたバスタブの前へ。
「空っぽだわ」
「空っぽだし」
「空っぽだな」
今、俺の頭だとバカにした?
被害妄想はさておき。
「この風呂が、健康ランドの目玉の一つになるはずだったわい」
「はーん。バカには見えない温泉ってやつか。まさに、透き通るほど美しい源泉!」
「違うなあ」
「違うんかい」
半分冗談はさておき。
「本来、薬湯を満たす手筈だったわい。その名も、エリクサー風呂」
「入るだけで魔力回復できる温泉? それは集客効果があるんじゃないかしら?」
「あーね? 話題性抜群みたいな? 実際の効果はともかく、飲むより入るエリクサーとか宣伝材料っしょ」
トレニーは広告会社が幅を利かせていないため、クチコミが超大事。
俺も中抜きだけして、下請けに丸投げする仕事やりたいな~。
「まあ、わたしたちにはあまり刺さらないわね」
「ぬるっちなら、魔力回復が手軽に手間要らずじゃん。どれ、お手を拝借」
ぬるぬる~。
触腕二頭筋を強調すな。
俺の手を煩わせるんじゃない。
「商人グループや製薬組合と交渉して、規格外のエリクサーを大量発注しやがった。なのに、全く納品されねえんだよ」
「たまにポーション屋で、なんちゃって秘薬モドキ売ってるよな。粗悪品、ダメ絶対」
怪しい露店にも気を付けろ。
うち? ヤマト印はジェネリックなPBなんで。
「今頃、契約の不備があったとか合意したとか揉めに揉めておるわい」
「ビジネスは難しいわね。起業はちょっと興味あるのだけれど」
「クリぴ、スタートアップな感じ? ベンチャー行っとく?」
「べ、べんちゃー?」
ちょこんと首を傾げた、クリス。
「全然知らなくて大丈夫。法人化は、ゴールドランクまで昇格できたら考えてくれ」
「そ、そうね。勉強不足だったみたい」
「フィオナさんが無駄に博識なだけ。ギャルもエルフも関係ないジャンルなのに」
「あざまる水産BtoB!」
異世界で聞きたくない単語だぜ、ビジネストゥービジネス。
ファンタジーにリアリティーは必要である。
しかし、リアルの再現は望んでないぞ転生者一同。
「それで、急場しのぎの方法が冒険者にエリクサー類の調達依頼だったのね」
「製薬スキル。材料採取。コネ。手段は問わねえ。オープン初日の完成披露に目玉企画を、なんとしてもこぎ着けたいって訳だわい」
ガサッツが下あごを撫でつつ。
「うってつけの人材が来たもんで、肩の荷が下りたもんだがなあ」
「つまるところ、肩まで浸かって魔力回復できればいいと」
「オメーさんのアレ、効能は真っ当じゃねえか。真っ先に思い出せば話が早かったじゃねえか、ガハハ!」
「否ッ。景品表示法に反するなんて、俺の倫理が許さない!」
パストロールに、消費者庁ないです。
じゃ、構わんか。
「――クエスト・エリクサーの代替品要求。急募、魔力回復可能なスキル持ち」
「ヤマちょにピッタリじゃん。適任おめっ」
「ほぼ狙い撃ちやめろ。企業スカウト殺到なんて、エリートだけのとんだおとり広告」
即戦力のハイクラス転職? それができる人、エージェントなど不要。
「一仕事終わらせて、宴会としゃれ込むわい。今日は景気良く奢るってもんよ」
「相分かった。シルバーランクの末席を汚す冒険者として、義を以って命を成す!」
「ヤマトさん……どれだけ欲望に正直なのよ」
「それな。ウケるし」
なぜか、聖騎士さまが呆れ果てていた。
きっと多分、おそらく宗派の違いだろうメイビー。
「今日はノー残業デーだ。ちゃちゃっと終わらせるぞ」
逆説的に考えて、別日はサビ残……ってこと?
カァーッ!
社畜はどうして、異世界の奴隷より待遇が悪いのか?
財産ではなく、替えの利く部品ゆえに。
大量生産大量消費の工場を許すな。
異能力バトルであれば、俺は猛烈な憤怒パワァで覚醒していたね。
薬湯だろ。エリクシールを大量にぶち込めば、それで済むのだが……
衛生面や足し湯の手間を考慮し、一工夫加えるべきか。
俺はイメージを膨らませ、触手に注文を付けた。
ぬんっ。
取るに足らんと後方腕組み職人面。はよ、手を動かせ。
「変換せよ、コンバート・テンタクルッ!」
右の触手から魔力の粘液が流れだす。
「創造せよ、クリエイト・テンタクルッ!」
左の触手からマジックパウダーをかけた。
手持無沙汰な指たちに草津の湯を中継させ、仕上げにかくはんしていく。
色が青から紫に変われば、ゼリー風呂の完成。
唐突な既視感。
「ねるねるねるよ。フ、童心に帰るぜ」
バケツプリンよろしく、バスタブ知育菓子の様相。
※風呂用品です。良い子は食べないでね。
※悪い子は食べていいのかよ! クレーム言ったら罰金。
「ゼリー風呂。バクテリアが老廃物を食べ、魔力分与してくれる。エリクサー風呂ほど効力ないだろうけど、入れる回数と効能の多さがウリ」
規格外エリクサーとは言え、初期費用とランニングコストは高いはず。どうせ、着色で誤魔化してスーパー薄めるに決まってる。魔力回復、どっこいどっこい。
「ゼリー風呂とか、健康グッズの応用っしょ。ヤマちょ、ユニークか!」
フィオナがそれをつつけば、ぷるるんと弾力に富んでいた。
「ユニークなのは触手なんだろ。はあ~、スキル抽選したい」
ぬるぬる野郎がビシバシ叩いてきた。
「健康、グッズ……? 物は言いようね。でも、あなたの発想力って大したものよ」
素直に感心したクリス。
「既存の商品をパク、リスペクトしてるだけ。センスじゃないよ」
どじょうは三匹目までなら狙ってヨシ。
生前、薄月給から徴収されて配布されたビジネス本に書いてあった。爆ぜろッ。
「あとは秘薬を小さじ一杯で、エリクサー風呂と名乗れるやろ?」
「騙すような真似で、気が引けるわ」
「魔力回復できるし、成分表示にエリクサーと書ける。虚偽にあらず!」
悲しいけどこれ、金儲けなのよね……
「調達間に合わないのに、メンツ優先な時点で今更タウン。俺の故郷でも、企業の偽装改ざん隠ぺい不正がまかり通ってたな。結局、初手謝罪が一番マシなんだけど」
「元々、話題性で集客狙ってるし。お互い、ネタになればいいんじゃね?」
テンションアゲなギャル。根っこの部分は、達観気味。
「ゼリー風呂は期間限定と宣伝してくれ。少しの間、入れ替えは協力しよう」
魔力代、技術費、仲介手数料等。別途、報酬を頂きます。
俺は、勝手に温泉に浸かる触手を引っ込めた。のぼせて、赤くなりやがって。
「定時上がりだ。お先に失礼するぜ」
「まだお昼過ぎよ。もう一つ、クエスト受けても」
「クッ、魔力を使いすぎた。残念、もうMPが足りないっ」
震えさせた左腕が疼きやがる。そりゃそうじゃ!
「回復できないヒーラーは正直、この先の戦いに付いて行けそうにない」
「この町で、あなたより魔力管理に優れた冒険者いないでしょ」
「ヤマちょ、ガチのオフシーズン満喫かよ。うらやま!」
フィオナにバシバシ背中を叩かれ、シンプルに痛い。
あとで、ヒールかけとこ。三分間待ってやる。
「とにかく、この依頼は達成。ギルドへ行こう。報告するまでがクエストだろ」
「分かりました。やたら元気な声が気になるけど、頑張ったのは事実ですもの」
「おけまるっ」
俺が先陣を切って、出入口へ足を延ばしたちょうどその時。
「おう、兄ちゃん。最後の確認作業してくれや」
「いかに?」
「オメーさんの実力は知ってるがよお、効能の証拠となる資料が必要なんだわい」
「成分調査ってやつか。具体的にどうすればいい?」
分析魔法? アナライザー?
それはセルフサービス……へいへい、依頼人のご意向ですね分かります。
「ガハハ! んなもん、簡単な話だな。ここは銭湯――女湯じゃねえか」
ガサッツが豪快に宣言した。
「当然、美人たちが直接入って、その肌で確かめてもらうのが筋ってもんよ」
――湯けむり入浴シーン、突入。
ポロリもあるかい!?
なお、謎の白い発光現象に注意されたし。




