長湯は日本人の嗜み
「ごめんなさい。あなたが濡れ衣を着せられたと思って。フォローしたかったのよ」
「それな! あーし、嘘は付けないじゃん? ハートでぶつかるしかないっしょ」
会館の裏庭に建設されたマナコンディショナー。
風車よろしく、大きなブレードがゆっくり回転している。
「あ~、マナが分解された時特有のニオイが鼻孔をくすぐるんじゃ~」
俺は、ベンチで真っ白に燃え尽きたぜぇ~。
リアルガチな質問状を作成され、小一時間詰問される運びとなった。
今後、ギルドの規制が厳しくなった場合、責任の一端は俺に生じる可能性微レ存。
粗暴でデリカシーやプライバシー配慮に欠ける荒くれ野郎ども。すまねえ。
ぬ~りゅぬりゅぬりゅぬりゅ~。
俺がずいぶん目に合ったのが、たいそうご満悦な触手。
くねくねダンスを披露するや、肩まで揉んでくれる大盤振る舞い。
「失敗を引きずるのは良くないわ。決めた、クエストに行きます。多少忙しい方が気晴らしになるじゃない?」
「あーね? 急がばクイックターン的な?」
「……忙しくて目を回した結果、俺はここにいるんだけどな」
異世界転生の志望理由? 忙殺です。死亡しました。
必ず殺すと騙った必殺技より、こちらの方が信憑性あり。
「大丈夫。今回の依頼、あなた好みのはずだから」
「え、何もしないをするん? ギリ、全く客が来ない本屋の店番」
「本当は、シルバーランクの合同演習、教会が封印した怨霊退治とか、選びた」
「ぜひ俺好みでやらせてください!」
うぉぉおおおっ! 働くだけでお金が貰えちゃうのすばらしいなあ。
「そう……じゃあ、早速行きましょう」
妙にガッカリした様子のクリス。
金髪がなびいた後姿なのに、哀愁を感じたのは杞憂にあらず。
「フ、クリぴもまた武人よ。かの剣、振らずに錆びらせること欲求不満なり」
「前衛アタッカー、往々にしてバトル脳で困る。俺も聖剣や魔剣使いになりたかったぜ」
「ヤマちょも、いくつになっても男子ですな。童心と冒険心忘れることなかれ」
「あの頃は、大人になりたかったはずなのに……」
逆に、子供に戻りたいと願うばかりゆえ大人だね逆に。
本場のピーターパンも、女児が大人になろうとすれば平気で始末にかかるらしい。
流石、不審者ヘンタイロリコン業界の最大手にして覇王である。
しばらく同行すれば、馴染みの施設へやって来た。
「銭湯じゃん」
別名、大衆浴場。
トレニーの町は水資源豊かだけど、各ご家庭に風呂なんて備わっておらず。シャワー室完備が、貴族や金持ちのステータスの一つだ。
そもそも、現代と比べて異世界の上下水道の管理って――以下略。
「最近は、王都のブームを参考してスーパー銭湯って呼ぶみたいね」
「そういえば、ずっと工事してたな。ここの草津の湯、悪くないんだよねぇ」
今更、ツッコミなど不要っ。
他の銭湯より若干値が張るものの、満足感はダンチ。
「風呂入んの? それってつまり、仕事終わりって意味だよな?」
「違うわよ。ちなみに、ご飯も食べません」
「知ってた。せめて、コーヒー牛乳飲ませてクレメンス」
「あーしは、キンキンに冷やしたフルーツ牛乳派!」
心中、ローマのテルマエと日本人の風呂へ対する熱意に思いを馳せていると。
「たのもうっ!」
フィオナがさっさとスーパー銭湯のエントランスを抜けていく。
古き良きかぽん、とかけ離れたレジャー感重視の内装。
明るくて、こぎれいな、女性一人でも入りやすい店内の雰囲気作りをしている。
広いロビーには、くつろぎ用のソファや真新しいカウンターが設置されていた。
「誰もいないじゃん」
「改装オープンは来週ね」
「じゃあ勝手に入っちゃダメだろ」
「依頼と言ったでしょ」
そりゃそうだ。けど、無施錠は不用心やで。
「あっちよ」
クリスは迷わず、通路を進んでいく。
「てかさ、あーしって健康ランドオタクじゃん?」
「そだねー」
「源泉かけ流しで美容マニアを満足させてもらうしかなくね?」
「そだねー」
フィオナがあっちにふらふら。こっちにふらふら。
ヘッドスパ。あかすり。エクストラバージンオイル。
ボディケアの文言に惹かれる都度、俺はうろちょろエルフを確保する。
曰く、キュアプリショップを訪れた幼女の如し。
「クリぴぃ~、温泉に浸かったコケバードのゆで卵食べたいし」
「あとで買ってあげるわ。もう少し我慢して」
「りょ!」
「お母さんは大変やなって」
鋭い眼光……っ!
「お姉さんは大変やなって」
優しい眼差し……っ!
「あーしの方が大人のレディみたいな? 溢れる知性、にじみ出てるっしょ?」
「いやいや、精神年齢の話だからフィオナさんは大人しくしてもろて」
「め~っちゃヤングだし」
フィオナのポジティブさを才能。見習いたいものですな。
「ここよ」
クリスがぴたりと足を止めた。
目的地を指さしたのだが……
「それじゃあ行きましょう」
「ちょ、待てよ!」
俺は咄嗟に、クリスの肩を掴んでしまう。
セクハラですか? キムタクじゃないので、逮捕しますね。
「安心して、ちゃんと許可は下りてるわ」
美人は大丈夫と頷くや、さっさと中へ入った。
「うぶなボーイだぜ。あーしに付いてきな、大人の世界見せてやんよ」
ギャルはチョリースと懐かしポーズで、さっさと中へ入った。
徐に、視線を上げた俺。
「はたしてこの先、楽園か煉獄か」
かの聖域、男子侵すことなかれ。
立派なのれんには、デカデカとこう記されていた。
――女湯、と。




