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回復がコンプラ違反だと追放された触手ヒーラー、もう働きたくないのに美少女パーティーから魔力をせがまれて全く休めない。  作者: うえき蜂


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第三者委員会

 コンコンコン。

 ノックは三回。

 はたして、その礼儀作法とやらは誰が作ったのだろうか?

 出処不明なマナーを崇めるなんてマナー違反だろ。


「どうぞ」

「失礼します」


 応接室で面接官と対面し、俺は他人事のように淡々と口を動かした。


「ヤマト・ガモウです。等級はシルバーランク。現所属先はトレニーです」

「はい、おかけになってください」

「よろしくお願いします」


 一礼。


「私は、ギルドからコンプライアンス調査を依頼されたジャッジと申します。第三者委員会のメンバーとして、冒険者の公序良俗や法令順守の指導や改善を提案しています」

「大きな責任が伴う仕事ですね」


 ある意味、リラックスしていた。

 なぜか?

 現世ではブラック企業。あの世では女神から散々圧迫面接を承ったから。

 ある事ない事、理不尽な要求言いがかりその他諸々。


 俺の精神はすでに擦り切れている。ゆえに、無敵。

 どうせ、触手が公序良俗に反してドウタラー。

 トカゲの尻尾もとい触手の先端切りで、健全な組織運営に努めてまいります、やろ?


「今回、ガモウさんにお声をかけたのは他でもありません」

「はい、この度はお騒がせして申し訳ございません」

「あなたのスキルに関して」

「謹慎ですか? 一カ月の使用禁止制限が妥当でしょうか」


 一カ月スキル無しは実質ニート宣言。

 もちろん、冒険者に失業保険なんてないぜ。


「ガモウさん? ガモウさん?」

「はい、再発防止を徹底すると共にコンプライアンス研修の参加を義務付けると」

「ガモウさーんっ」

「懲戒処分の前に、辞表したためますね」


 自己都合の場合でも、冒険者に退職金出ないぞ。

 そうと決まれば、善は急げ。いや、悪は急げか?

 俺は立ち上がり、早速失礼しかけたタイミング。


「ちょ、ちょっと! 待って、話をしっかり聞いて聞き届けて」

「はあ」

「まず! 私はあなたの敵ではありません」

「はあ。味方でもないでしょ」


 コンプラ調べる人が触手使いと面談。

 どう考えてもさ、アレコレ決めつけ俺がセクハラ認定されるパターンじゃん。

 それ面倒だし、サクッと割愛したかったのだが。


「確かに、ガモウさんのスキル<触手>に関してそれなりの声が届いています。触手のうねりが卑猥。女性ばかり狙って悪辣。自称ヒーラー、自分の精力ばかり回復させる等」

「おい、最後の奴誰だ! 俺が直接相手してやるッ」

「匿名です。内部通報者の保護は義務です」

「イジメの加害者ばかり守られるのは異世界も一緒だな!」


 っぱ、冒険者はクソ。はっきり分かんだね。


「当初、ガモウさんは調査対象の候補でした。しかし、回復魔法を実体験した方々へヒアリングした結果――誰もあなたを責める者はいませんでした」

「んなバカな」

「むしろ、リピーター希望がほとんど。マッサージ店の開業を求める声多数」


 皆して、俺の冒険者業を否定しやがって。


「サービスアンケートで好評を博するのやめろ」

「見た目で周囲を不快にさせるのは問題。しかし、人をスキルで決めつけるのもまた然り。昨今、あらゆるものをハラスメント扱いしてしまう風潮が目立ちます」

「日本と比べたら全然やぞ。なんやねん、ホワハラって」


 会社がホワイトすぎて、自身の成長チャンスを奪われて辛い!

 はあ? 始発と終電に縁がない奴、労働語ることなかれ。


「協会のガバナンス強化、ギルド憲章の更新にあたり、ぜひガモウさんのお話を参考にさせていただきたいのです」

「下っ端冒険者の意見なんて、何も採用されないのでは?」


「はい、全てを通すのは困難を極めます。ですが、コンプライアンス事案に関してあなた以上の適任者はいません。前パーティーのソウケイさんも、追放が誤った判断だと認めました。謝罪で足らな場合、処分も受け入れると」

「そのくだりはもう終わりました。お互い、蒸し返される方が迷惑なんで」


 誤解だろうが、判断は下された。

 撤回しようが、その痕跡は消えやしない。

 そもそも、別に怒ってないし恨んでないしざまあもしない。


「まあ、今後同じような理不尽が減るなら是非もなし。世間話くらい、付き合いますよ」

「それはよかった! では、セクハラ認定と誤用の具体例を――」


 ジャッジさんが黒いファイルを取り出したタイミング。


「ちょっと待ってください!」


 ドアが勢いよく開け放たれる。


「ヤマトさんがセクハラなんて、何かの間違いです!」

「クリスさん!」

「確かに、回復術師を名乗るには不審な言動が目立ちます。手つきがやらしいと思えば、こちらの様子をねっとりと眺める行為。一度や二度じゃありません!」

「クリスさん?」


 援護射撃に期待すれば、後頭部を撃たれた一兵卒。


「ヤマちょのぬるっちは医療行為っしょ。あくまで回復スキルじゃん」

「フィオナさん!」

「相手が美人・美少女に限り、キュートなツラをねばねば粘液まみれにするだけだし。並行操作と性質変化は卓越した技量。ドロドロなリビドーが触手スキルにプラス補正っしょ」

「フィオナさん?」


 性欲の権化か、俺は。

 ……何だろう、心証を害するの止めてもらっていいですか?

 パーティーはおろか、此度はギルドから追放されそうである。

 おそるおそる、ジャッジさんの様子を窺えば……


「ガモウさん」


 うん、と。

 しっかり、頷くや。


「当事案。別件のコンプライアンス問題を含めて、調査する必要があるようですね」

「……黙秘権を行使します」


 来たれ、異世界弁護士。

 ところで、お金ないんで国選っています?

 法律より、貴族の権力が強いぜパストロール。

 やはり、暴力……っ! 暴力が全てを解決するっ!


 ハラスメントすら防止できないのに、冤罪を阻止できるわけないじゃないか。

 それでも俺はやっていない。

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