パーティー再会
【4章】
平日の昼下がり。
お天道様がサンサンと目を光らせる中、酒場に入り浸る客など数えられる程度。
空席が目立つテーブルまで、店員たちの気だるげな雑談が聞こえてきた。
「今日、めちゃくちゃ空いてない?」
「ねー。マジサイコー。オフシーズン、超繁忙期で地獄だったじゃん」
「うち、こういう日だけバイト入りたい」
「あれ? 繁忙期っていつもならあと三週間くらい続かへん?」
「うちらはオフシーズンとか全然休めないやん。うるさい冒険者連中が減って、ほんとストレスが消えたって感じ」
「旦那に聞いたんだけど、トレニーの町で魔力循環トライアルっての始めたんだって」
「それ、何なん?」
「なんかー。扇風機みたいな大きな装置使って、大気中のマナを吸収するんだって。そのエネルギーを私たちの魔力に還元するんだってー」
「「へー」」
「そういえば、結構体軽くない? 体調も普段通り?」
「分かる。化粧のノリとか、この時期最悪だったのに。今日の合コン、バッチリ」
「えー、うちは朝起きるのずっとキツいやん」
「「それはただの夜更かし」」
「ハモりすぎぃ~」
スタッフたちは、まかない食べよぉ~とキッチンへ引っ込んでいく。
「だから、冒険者が仕事を再開する必要があったんですね」
聞き耳を立てていたわけじゃないが、現在の状況を把握した。
魔力干潮の時期は、働きたくても働けない長期休暇。
クエストがないから、フリーターなど実質プー太郎状態。
そんなシーズンルーティーンに待ったをかけたのが、マナコンディショナー。
世界に搾取された魔力を奪い返すのだ。
「おかげでまた、たくさん依頼受けられる。悪魔の兵器だよ、それは」
深刻な冒険者不足? いいえ、低報酬の奴隷不足と訂正しやがれ。
人を機械のように稼働させ続ける装置。
まるでブラック会社! ゆ、許せねえ! それは俺の敵や!
昨日あたり、エリクシールが再び売れ始めた。利益は嬉しい、増収めでたい。
「それでも! 守りたい休暇があるんだッ!」
「ヤマトさん。独り言多い時って機嫌良さそうよね」
残念ながら、パーティーリーダーのお迎えが来た。
「まかさっ。俺は今、猛烈に怒っている! 魔力循環トライアルだあ? どうせ、税金ジャブジャブ中抜き政策に決まってる!」
「一定の効果はすでに出てるみたいだけど」
クリスさんは苦笑交じりに店内を見渡した。
「真面目な冒険者は、とっくにクエストへ向かったみたい。しっかり切り替えられて、なんだかんだやる気がある人たちよ。あなたは……?」
「死んでも嫌だねっ。あ、間違えた――間違えてないけど、ちゃんと経済活動中」
「向上心の方向性が問題だわ。そのやる気を別に生かしてほしいわ」
「アイデンティティーの喪失だ。キャラが死ぬぞ」
バカは死んでもなおらない?
一度死んだくらいで、性根は変わらない。
ソースは、異世界転生一般成人男性。
「クリスさん。しばらくチームの活動停止と言っただろ、オフシーズンにつき」
ホワイトパーティーは、完全週休二日制。副業認可。有休消化義務。
むろん、長期休暇にサビ残なんてもっての外。
「マナコンディショナーのおかげで、魔力が有り余ってるでしょ。シルバーランクに上がったのに、まだ新しいクエスト挑戦できなくてフラストレーションが溜まる一方なの」
「え、休日返上……って、こと!?」
「あくまで、魔力干潮の行動制限だったでしょ? わたしたち、元気に動けるわ」
……終わり、だ……
元、社会人三年目。
夢に見た社畜の夏休みは、セミの一生より短し。
「って、今にも泣きそうだけど!?」
「俺は中身のない空蝉なんやなって」
「大丈夫? よく分からないこと言って……普段のあなたと変わらないか」
クリスさんが顔の前で手を振っていた。
「ヘーイ、クリぴ! ヤマちょ! お久っ」
閑散とした酒場にて、喧騒の嵐が吹きすさぶ。
「どしたん、ヤマちょー? いつもの発作かー? ウケるし」
「フィオナさん。リーダーのパワハラがしんどいっす」
「愛の鞭っしょ。あーしもビシバシ叩かれるじゃん」
「してませんから!」
ギャルがタピりながら、マリトッツォを一口。
マリトッツォ!? 奴のブーム、一瞬で廃れたはずでは?
そうか……お前もオワコンの烙印を押され、異世界左遷されたのか。
「オフシーズン、いつもはフェスりたいのに頭痛と肌荒れでガチ萎えだし。けどさ、ヤマちょのフェイスパックで魔力の流れバッチシ! 毎日パーリナイとか最高かよっ」
「フィオナは人一倍、マナ濃度の影響受けるものね」
「それな。エルフは辛いぜ。てか、ミューっちいなくね? 全員集合じゃないん?」
左右に首を振った、フィオナ。
「こっちに来る前に誘ったんだけど、断られちゃった。しばらく特訓で忙しいから、クエストは二人とおじさんで受けなさい、だって」
「素直に三人と言え」
やはり、俺は真の仲間じゃないようだ。もうマヂ無理、脱退しよ。
「特訓ねぇ。今日は本来、ソロ活じゃないんだけど」
「あー、全然よくないけど、心当たりなきにしもあらず」
「詳しく説明して」
三日前。
魔力変換テストの顛末をかくかくしかじかっと共有。
「必殺の一撃が通用しなくて、相当悔しかったんだわ。あの子」
「マナを吸収して、常時エネルギーマックスな魔導アーマー。こんなん、チンケな魔力回復がバカらしいですわ」
ぬるぬる!
粘体物質が抗議の手を挙げた。
「あーね? 半永久駆動可能なオートマタっしょ? 環境コントロールを目指したマナコンの実験で生じた副産物。案外、こっちの方が産業革命的な? 生産性の向上と効率化が将来、人の仕事を奪うんよなー。スタイリストも他人事じゃないし」
「っぱ、このギャル先見の明強し。研究機関でその頭脳を役立ててくれ」
「あーし、じっとしてるもこもるも苦手じゃん? あざまるめんご」
メイク技術の改良や化粧品開発なら喜んでやるらしい。
それ、自由研究!
「とにかく、町中だけでもクエストはたくさんあるでしょ。活動再開ね」
「ミューの奴、サボりやがって許せん! リーダー、俺がガツンと言ってやりますよ! 二人は先に、困ってる人を助けてあげてください。シルバーランクかっくいいー。それじゃっ」
「わたしが今、一番困ってる理由分かるかしら? ヤマトさん、最近ダラダラしすぎよ。いっそのこと、トレーニングに励みましょうか?」
柔和な笑みがとても似合う金髪美人でした。
「俺の、オフシーズン……カムバック、魔力干潮……ぐすん」
魔法学園と研究機関、余計なことしやがって。
どうせ、悪徳貴族の利権が絡んでんやろ?
テメーらの邪な計画はぜってぇー俺が潰してやるぞ! 覚えてやがれー。
逃走阻止のため、左右から腕を掴まれつつギルド会館まで連行。
「フ、両手に花とは羨ましいぜヤマちょ」
「ちょっと、触手伸ばさないでよ。あんっ」
ぬりゅ~。
聖騎士の腰をもみもみ。
「こいつ、勝手に!? 取引先の社長のご身分か!」
同伴。接待。援助交際。セクハラマズいですよ!
魔力干潮が終わった途端、こいつらビンビンになりやがって。
「ついこの間までヨボヨボに萎えてた姿が懐かしい」
「クッ、そこ……んんっ、らめ……っ!」
クリスは壁に手をつき、快感と羞恥の狭間で身をよじらせてしまう。
「ぬるっち、美人大好きかよ。フ、次のターゲットはあーしっしょ?」
ぬ。
「気が散るってさ」
「つらたにえ~ん」
ぴえんなギャル。
言動はアレだけど、すこぶる顔が綺麗なのにね。
バシッと触手を捕まえた、クリス。
「もうっ。マッサージは頼んだ時に張り切ってよね。あと、ちゃんと個室を用意して。プライバシーを守ってほしいわ。ヤマトさんのスキルでしょ、あなたの管理責任だから」
「せめて、ペットなら飼い主の自覚出るんだけどなあ」
勝手に住み着かれた宿主として、ドロドロなゲルとねばねばの粘液を凝視する。
ちっとも、可愛くねー。
俺の率直な感想が伝わったらしい。
触手が俺の頬をグリグリと指圧。ドリルすな。
連中を無理やり引っ込め、シルバーランクの掲示板を覗いた。
「お詫びに好きなクエスト選んでくだせえ。特別受注だって構わねえですたい」
「いいの? それじゃあ仕返しさせてもらおうかしら」
「クリぴは根に持つタイプじゃん。後がデーモン怖いし」
「あなたもわたしを誤解してるようね。親睦を深められる高難易度に挑戦しましょ」
パーティーの皆は仲良しなので、三人で手を繋ぎました。
手汗が止まらないのはきっと、美少女に触られて緊張しちゃったからです。
「すいませーん! ヤマト様! ヤマト様はいらっしゃいますか」
奥のカウンターから受付嬢が身を乗り出した。
俺たちは一瞬顔を見合わせるや、呼び出しに応じる。
「はい、ヤマトです」
「あぁ、よかった。こちらにいてくれて、助かりました」
「どうしました? 俺、一応シルバーランクなんでノルマないですよね?」
安堵した様子の受付嬢に対して、俺は首を傾げるばかり。
たとえ全く働かなくとも、報酬0なだけで済む。全くよくないね。
「ヤマちょ、とりま謝んなー。あーしも頭下げてやっからさ」
「フィオナ姉さん! いや、ちょ待て」
「連帯責任だわ。パーティーリ―ダーの監督不行き届きね。管理責任を責めておいて早速このざま。笑ってちょうだい」
「うそぉ……俺の信頼、低すぎ……っ!?」
いくら探せど、心当たりしかなかった。
じゃあ、仕方がないね。
「俺、また何かやっちゃいました?」
先方はあくまで神妙な面持ちで。
「実は、当会館へ冒険者ギルドのコンプライアンス部門の方が訪問中でして。ヤマト様との面談を要請なさっております」
「……ふぁっ!?」
どうやら、リアルガチの方。
俺、また何かやっちゃいました?
――みたいである。




