マナコンディショナー
第一印象は、風力発電。
よく分からない機械がぶっといケーブルで風車に接続されていた。
「この羽根、すごく大きいです……」
魔法学園の旧校舎前。
グラウンドに鎮座したそれは、遠目からでも技術力の高さを伺える。
既視感。
ふと、オランダの田園風景が重なった。そのうち、ソーラーパネルも設置されそう。
ローブ姿の魔法使いと白衣姿の研究者たちが、忙しそうに入り乱れていた。
俺は、魔法学園や研究機関の完全部外者。
門前払いされて、渋々スキップしながら直帰予定だったのに!
ミューの付き添いとして、丁重に入校を許可されてしまった。なんでや。
「セキュリティはどうなってんだセキュリティは! 俺が女児を追いかけ回す大佐だった場合、一体生徒の安全を守れるというのだね?」
「変質者じゃない」
「変質者じゃない」
同じ言葉でも正反対の意味。
日本語ってすげー(要翻訳)。
「ひっ」
「くすくす」
もちろん、すれ違う女子生徒たちから歓迎されるはずもなく。
「ふん、つまらない連中」
「……」
好奇な視線は俺よりむしろ、大手を振ってまかり通る魔女っ子へ注がれていた。
学校が楽しければ、冒険者業なんぞ在学中に始めないよな。
手遅れになる前に、外で友人や交流を求めたって全然ヨシ。
俺もせめて、社外でエンジョイしたい人生だった。
「ミューって、飛び級で卒業論文提出済みだっけ? もしや……天才?」
「おじさんが逆立ちしても敵わないくらいよ」
「体勢キツすぎて、できるもんもできなくなるだろ。腹筋で勘弁して」
「あんたはまず、頭の体操しなさい」
知恵の輪とか? イライラして余計考えられなくなるじゃん。
ミューに追随すること五分。
風車に接続された装置まで近づき。
「先生、来てあげたけど」
「やあ、ミュー。まさか、招集に応じてくれようとは。私が一番驚いている」
先生と呼ばれたメガネの美人が、本当に驚いた表情だ。
「ただの暇潰しじゃない。この時期はいつも退屈だし」
「ソーサラー系統が特に影響を受けてしまう魔力干潮。その対策が私の研究テーマさ」
先生はチラリと場違いな男へ視線を向けた。
「そちらの方は?」
「あたしの手下。家来とか下僕、そんなところ」
「使い魔のヤマトです! 一応、同じパーティーの冒険者仲間」
「ふふ、そうか。ミューが迷惑かけてると思うが、世話になってるようだね。ありがとう、使い魔くん」
多分、話の分かる人だ。絶対に間違いなし。
「あたしがおじさんの相手してあげてるわけ。勘違いしないでよね」
「私は、リコール。この学校のしがない講師の一人さ。ヤマト氏は、無理やり連れて来られたと推察する。ぜひ見学して行ってくれまえ」
「話が早くて助かります。これが本当に頭のいい人か」
知力マウントほど知性を感じないと思いました。
バットを突き上げた魔法少女の頭を押さえながら。
「魔力変換が目的でしたっけ? 順調ですか?」
「ほぅ、詳しいじゃないか。興味あるのかね?」
「技術欄で偶然目に留まっただけです」
「一般的に冒険者は新聞を読まないと思うが。失礼、偏見だった」
一般的な冒険者は新聞を読まない。正解、大体当たってる。
「進捗は概ね良好だな。これから実験に入るところだ」
リコールさんがテキパキと指示を出していく。
運ばれてきたのは、ゴーレムと呼ぶには躊躇するほどメカメカしい機械人形。
確か、スチームパンクもファンタジーだよな? SFは難しいからやめてよね。
「変わったドールね。ちっとも可愛くない」
「オートマタと呼称される類だね。まあ、ここでは別の呼び名を付けたのだが」
「先生のことだし、実験に関した名前ってわけ?」
「察しがいいじゃないか。君は手間を省いてくれるが、同時に私の仕事も奪ってくれる」
リコール先生は参ったと両手を広げるばかり。
「マナコンディショナーによるエネルギー供給を可能とした半永久機関搭載型実験機――魔導アーマー」
「魔導アーマーッ!」
その響き、すこぶるかっくいい。
全くファイナルじゃないファンタジーの機械文明に登場しそう。
「ビーム出るんすか!」
「何その食いつき加減。働きたくないってのたまう時と同じ目じゃない」
「ロボットからビームが出るか、それ以上に重要なことがあるか? いや、ない」
「あっそ」
途端に興味が消えたミュー。
「光学兵器の再現は想定外さ。そもそも、魔導アーマーは防衛目的だからね」
「そうですかい」
途端に興味が消えた俺。
ビームのねぇロボはただのロボだ。そうだよ。
合体と変形も望み薄や。こんなんスポンサーのホビー会社納得させられませんよ!
「今回のテストは、ミューの必殺の一撃を耐えうる性能があるかどうか」
「へー、高いオモチャを壊しちゃっていいわけ? あたし、手加減できない性質よ?」
「上級魔法の中でも最大火力を誇るディバイン・パニッシャー。その稀有な使い手にして、学園随一の才能。存分に振るってくれたまえ」
リコールさんの試すような物言いに、稀代の魔女っ子がとても愉快気に。
「いいじゃない……っ! その辺の鉱石や障壁じゃ満足できなかったもの!」
一般通過デストロイヤー。
マジプリっつーリリカルなスキル持ちの発言じゃない。
ミューがふと、口を大きく開いた。
「待って。オフシーズンは魔法の精度が落ちるじゃない。渾身の一撃が練り上げられない」
「お、やる前から言い訳かぁ~。ハードルは低い方がいい。その気持ち、分かります」
「まずはあんたから処して、調子を取り戻そうかしら?」
こいつはガチで、ヤル側である。
「サーセン」
すぐシャザれるゆえ、逆に俺は大人だと証明しちゃったね逆に。
「その懸念は問題ない。構内全体がマナコンディショナーの効果範囲だ」
「というと?」
「普段通り、スキルを十全に発揮できよう。訪問前に比べ、体がだるかったり、気持ちが疲弊していないはずだ」
メガネをくいッとさせた、先生。
「なるほど、確かに! いや、全然体だるいし。気持ちも落ち着かないです」
「ただの老化現象じゃない。おじさん、すっこんでなさい」
「りょ。別に、帰ってしまっても構わんのだろう?」
フラグにあらず。やる気がないなら帰れと言われれば、全力を出す所存。
「ふふ、あの何にでも噛みついていたミューに友ができたか。嬉しいよ、まったく」
先生も天才児の扱いに困っていたようだ。
その気持ち、分かります。
ミューは俺に一瞥をくれた後、意識を魔導アーマーへ向けた。
メタルボディに刻まれた幾何学的な模様を朱色に発光させ、蒸気が噴出した。
「タイミングは任せよう。魔力感知でオートディフェンサーが発動する」
俺とリコールさんが十分距離を取った頃合い。
物理を極めんと願った魔法少女が、全てを打ち砕きし相棒へ想いを託す。
「創造とは破壊っ!」
「創造だろ」
せめて、再生を司れ。
「あたしの前に立ち塞がるもの全て滅ぼせ、天・誅ッ!」
フルスイングと同時、稲妻のようなフラッシュが瞬いた。
大気を震わせ、地面を揺らした衝撃。
爆発音が一瞬遅れてやって来る。
「相も変わらず、ぶっ飛んだ威力が心地良いな。アレで発展途上とは将来が末恐ろしいよ」
リコールさんは腕を組み、苦笑い。
「オーバーキルの一発屋より、天才なら他の魔法も駆使してくれ。せっかくの変身スキルが勿体ない」
「不器用な子なのさ。見守ってあげてほしい」
「俺は新参者なんで、保護者枠に任せます」
頼んだぞ、クリス。
土煙が晴れれば、日課のごとくぶっ倒れたミューのシルエットと――
「……マジか」
そこには、片手を突き出しながら泰然と佇んだ魔導アーマーの姿があった。
「――損傷軽微。活動継続可能」
宣言通り、彼は表情一つ変えず鈍い輝きのボディを保っていた。
「どんな城壁さえ崩壊させる無属性上級魔法がかすり傷!? おいおい、こりゃ絶対防御じゃねーか!」
図らずも、解説役のモブを担ってしまう。
こと頑丈さだけは一丁前なコケロック。
そんな奴をワンパンした攻撃がダメージ小?
「ハア、ハア……ちょっぴり、油断したわけ……あたしの思いやり? 先生の研究成果を無に帰するの、悪いじゃない?」
ミューはバットを杖代わりに、砂まみれになった顔を力強く拭った。
「おい、ミュー。世の中、属性攻撃無効なモンスターとかいるだろ。だから」
「関係ないっ。どれだけ魔法抵抗が高くても、それを上回るってみせるが最強って事!」
獰猛な獣さながらに吠えた。
「そのための、無属性! 相性不利で負けたなんて三流の言い訳じゃない!」
強い信条。恐れ入ったね。
さりとて、俺には全く響かない。こちとら、三流にも届かない元会社の歯車さ。
「ふん、まだ負けてない。あたしはまだ、勝ってないだけ」
「けっして折れないプライド、か。そこがお前の強さかい」
本気で最強目指してる奴は、覚悟も最強。参考にならないね、どうも。
「十分よくやってくれた、ミュー。君以上の一撃を放ってる猛者はここにいないよ」
リコールさんが教え子の頭をポンポン叩いた。
「エリクサーだ。英気を養ってくれ」
「それ、苦いから嫌。おじさんので我慢してあげる」
恩師にお高い霊薬を突き返すや、なぜか俺が睨まれる。
「おじさんのバナナ味がいいのかな?」
「ストロベリーに決まってるでしょ。人の嗜好くらい把握しなさい。商売やってけるわけ?」
「うちはクレープ屋じゃないぜ」
俺はやれやれと肩をすくめるばかり。
ポーチから幼女用と書かれた甘いお薬を手渡した。
ゴクゴクゴクと一気飲みしたミュー。
「足りない。全部出して」
「お腹壊すぞ」
「その前に機械人形ぶっ壊してあげる」
エリクシールの用量用法を守れ。
エナジードリンク飲みまくって、健康を害した社畜の屍など数え切れず。
「ヤマト氏、それはエリクサーではないのかね?」
「あ、いやあ、似たようなモンです。俺のスキル、回復系なんで」
「ほお。魔力回復とはなかなかどうして興味深い。ポーション精製かな?」
「大体合ってます」
自分、触手っス!
極めて説明が億劫である。誤魔化しましょ。
リコールさんが納得してくれたようで。
「ともかく、魔力変換のサンプルが取れた。ありがとう。これでエネルギー供給の問題に着手できるよ」
「先生! こいつと決着付けるまで」
「現状、結果を変える根拠不足。聡明な君なら判断できるだろう?」
「くっ」
ミューが悔しそうに歯を食いしばった。
「私はこれから、マナコンデショナーの実験配備の準備を進めなくては。ミュー、リベンジの機会は改めて用意しよう。ではまた」
数歩の後、振り返るや。
「講義にもちゃんと出席するように。特待生でも補習サボりは卒業させられない」
「敷かれたレールは、あたしを最強魔法使いへ運んでくれるわけ?」
「実に頼もしい問題児だよ、君は」
今度こそ、先生はこの場から去ってしまった。
「ふ、ふふふふ……っ!」
「どしたん? 話、聞こか? フィオナさんが」
「面白くなってきたじゃない。金属の塊はあれくらい硬くなきゃ糧にならないわけ」
「なんか、元気そうで何よりです」
向上心の塊かよ。
エリクシール二本目を飲み干したところ。
「しばらく修行するから。おじさんも付き合わせてあげる。感涙に咽びなさい」
「俺、オーバーワークで体調崩すタイプだから」
「あたしを本気にさせたこと、絶対に後悔させてあげるんだから!」
新たな目標ができて、とても嬉しそうだと思いました。
後悔先に立たず。
覆水盆に返らず。
否、ここは魔法が発達した異世界。
スキル次第で溢した水などいくらでも返してみせよう。
リコール先生の成功体験がアフターフェスティバルにならないよう、祈ります。
もちろん、俺は国語が赤点ギリギリの落ちこぼれだったので。
後の祭りを、完全に言い間違えるのであった。




