商売下手
閑古鳥が鳴く頃に。
本当に泣いているのは、心かもしれない。
「需要があるはずなのに……妙だな」
酒場は連日満員ゆえ、怪しげなエリクシール屋なんてさっさと追い出された。
そこまでは想定。
ポーション屋にショバ代を払い、意気揚々と暖簾を構えたのだが。
「人が来ない」
おかしい、ギルドの次に冒険者が立ち寄る店だぞ。
鍛冶屋、武具屋、宿屋。ディスカウントショップ。
周辺ストアを見回ったところで、どこも暇そうな雰囲気が続いていた。
「ヤマト君。この時期はいつもこんな感じだよ」
「くそっ。魔力干潮が起きてるなら、エリクシールが売れるはずなのに」
「はは、その考えは少し甘いかな?」
店主のおじさんは、カウンター越しに新聞を読んでいた。
「当店のお客さん、八割が冒険者だ。主にポーションを揃えているね」
「そっすね」
「ご存じの通り、オフシーズンはほぼ全ての人が活動制限される。しばらく長期休暇という大衆の心理が働くから、回復アイテムをわざわざ補充しておく必要はないんだよ」
「元気な休日に、栄養ドリンク必要なしか」
正直、その発想はなかった。
なんせ、俺に元気な日も休みの日も存在しなかったから。ぐすん。
オフシーズン=活動休止期間。
剣を放り出し、鎧を脱ぎ、仕事は一旦忘れよう。
「フ、皮肉な話だ……俺が一番休みたいはずなのに、皆がホリデーを満喫する間労働に勤しんだなんて」
お笑い種だ。草枯れろ。
「取らぬドラの皮算用。在庫過多。返品不可。机上の空論で金儲けに走った末路だぜ」
「商売はお客さんの笑顔が基本だよ。それが実感できれば、収穫じゃないか」
店主がお情けでエリクシールを一本買ってくれた。
ありがてぇ、これが人の心……っ!
さりとて、ビジネスが総じて性善説を訴えかけるならばブラック企業など皆無。
商売っつーのは、どれだけ客を騙せるかが基本だよ。
性悪説がまかり通る市場がいくらでも存在することもまた、人の心がなせる業。
俺は店主にお礼を言って、ポーション屋を後にした。
「消費期限、そこまで長くないからなあ。どうすっかー」
魔力売りの青年になっちゃった。
道行く人は、今どきそんなもんいらねーと相手にしてくれず。
気づけば、公園のベンチで途方に暮れてしまう。
風が冷たいな。
そうだ、エリクシールを燃やして温まろう。
……うふふ、七面鳥やごちそういっぱい。クリスマスツリーも装飾いっぱい。
完売してれば、今夜は豪華なパーティー開けたのよ。
「おじさん」
あぁ、待って。消えないで。どこにもいかないで。俺を一人にしないで。
もっとエリクシールを燃やしてしまえば、この光景が永遠に――
「無視なんていい度胸じゃない。あたしのストレス解消に付き合いなさい。虚空すら吹き飛ばせ、天ッ」
殺気!
「今、童話語りで忙しいんだ。将来、不労所得を成し遂げた実話を絵本にしてもらうために」
「妄想劇場の間違いでしょ。あんた、独り言垂れ流してたけど」
「うそ!? やだ、恥ずかし」
「それはいつも通り」
ミューが辛辣である。それもいつも通り。
「そっちは何してたん? 天才魔法少女様すら、魔力干潮には抗えないだろ」
「ふん、ふざけた季節なんかいずれ吹き飛ばしてあげる。今回は最強へ至る前の羽休めよ」
「オフシーズン、か……学生の頃、夏休み何してたんだっけ?」
全く記憶にございません。
社畜は過去を、サビ残は思い出を容易くシュレッダー処理しちゃう。悲しいね。
「おじさん、マナコンディショナーって知ってる? どうせ知らないでしょ」
「失礼な幼女。それくらい知っとる。シャンプーの後に使うやつだ。俺はリンスー派」
「はあ~~~~~~~~~」
天下の魔女っ子が、深々とため息をついたのでございます。
「どれだけ愚かでも、大人になれるのね。否、大人になってしまうんじゃない」
「憐憫の眼差しやめろ。研究機関と魔法学園の産学共同プロジェクトなんて、一般冒険者が存じ上げてるわけねぇじゃん」
「ふーん、少しは世間に関心があるみたい」
さっき、ポーション屋で暇すぎて新聞熟読したからさ。
最近のトピックスならば、薄っすら浅い知識を披露できるぞ。
「厄介なマナを、そっくりそのままイドへ変換しちゃおうって計画らしいな」
「そ。魔力干潮で停滞する社会を循環させるのが建前の施設ってわけ」
「画期的な発明じゃん。環境コントロールできれば、世界を獲れるぞ」
「そんな簡単に全部解決すれば、恒久平和が作れるじゃない」
ミューは小賢しく鼻で笑い。
「マナを吸収するテクニックは、あたしの役に立ちそうね。知り合いの教授が実験参加者を募ってたから、特別に参加してあげるの」
「お、不登校卒業か? おめでとう、青春しろよ!」
「煩わしい子供に囲まれて、ストレスの温床よ? ロリコンには楽園かしら?」
ミューの精神年齢が高いのは認めよう。ついでに俺より賢いのも認めよう。
ただし、生意気の権化なのでお前もうるさい子供の一人と断定します。
「個人活動日に、魔法の研究を欠かさないミューの努力恐れ入った。じゃあ、俺は帰るよ。この後、飲みに誘われる予定だし」
酒場に行けば、いつメンが飲んだくれ。
冒険者として、様々な角度からあらゆる分野の情報収集に励まないとね。
エッホエッホ。マナコンディショナーを時事ネタとして伝えなきゃ。
「待ちなさい」
「……いや、バットを構えるな。完全に襲撃者の構えや」
「断腸の思いだけど、おじさんを同行させてあげる」
「如何に?」
美少女パーティー、ソロ活も重視したいはずでは? プライベートは任せております。
「あたし、マナコンの仕組みとあんたの魔力分与に類似点があると睨んでるわけ」
「全然ないっす」
「フィオナはアホだけど、証言に関して信頼できるもの。魔力回復の使い手、業腹だけどその意見が若干参考になるかもしれない」
心中、ウェーイとドヤ顔ダブルピースなギャル。
「天才魔法少女の助手。その名誉を賜ってあげる」
「エリクシールの売上不振で大ショック中。罰ゲームに付き合う余裕ないぞ」
「あたしが不良品を有効活用できるじゃない。一石二鳥ね」
ミューは俺の袖を引っ張りながら、ズカズカと歩き始めた。
乱暴はよしてっ。この人、痴漢です。
わがまま幼女による成人男性連れ去り事案、発生!
悲しいかな、世間は俺が犯人だと決めつける。冤罪が無くならない訳だ。
「やれやれ、先っちょだけだぜ」
くだんのブツが魔力回復できる代物なら、ぜひ一目拝ませてもらう。
どうせ、今日はもう何もしないをするだけ。
世紀の大発明を冷やかすにはちょうどいい。




