オフシーズン
あのスキル変更詐欺事件から一週間。
階級がランクアップし、受注可能なクエストが増えたとウキウキな仲間たち。
ピュアハートを弄ばれ、傷心な俺とはモチベーションがダンチだ。
さりとて、クリスたちの冒険心を燻ぶらせてしまう問題があったりなかったり。
「一番テーブル、焼き鳥セット! 二番席、生一丁! 三番カウンター、おしぼりどうぞ!」
店内の狭い通路を駆け回った、フロアスタッフたち。
「ったく、どいつもこいつも昼間から酒場に入り浸りやがって。お天道様がカンカンやで」
「ガハハ! オメーさんが一番顔真っ赤だわい」
俺が枝豆をかじれば、ガタイのいいオッサンはジョッキを傾けた。
「いやいや、ガサッツの方こそくだを巻きしすぎてもはやヘビ」
「「ガハハハ!」」
今日は平日。
そもそも、冒険者に祝日ないよ、んなもん。
母ちゃんに頭が上がらないガサッツでさえ、仕事をほっぽり出した理由とは。
「オフシーズンの時期はなあ、魔力がバカみてぇに枯渇しやがってしんどいじゃねえか」
「大変だよなー。んで、本音は?」
「飲み会が仕事代わりで大助かりじゃねえか!」
「「ガハハハ!」」
パストロールには、オフシーズンという季節があった。じゃあ、オンシーズンでは?
世界の魔力マナが活性化し、個人の魔力イドが弱まる時期。
ただでさえ魔法のコスパが悪い設定なのに、魔力消費量がなんと通常の二倍! 魔力回復量がなんと通常の二分の一!
インフレなのかデフレなのか、これが分からない。
この世界における職業は、スキル頼り。
専門職ほど自分の能力をろくに発揮できない。
働きたくても、働けないでござる。
「俺は毎日、働きたくないでござる」
正直はさておき。
この時期は凶暴なモンスターも大人しくなり、掲示板から求人のビラも減少する。
つまり、閑散期だ。
ブラック企業に閑散期なる概念は存在せず。社畜のマンパワー以上に業務を押し付けるゆえ、常に余裕なかった。
無駄な縦割りの無駄な承認プロセスの無駄な会議の無駄な資料作り、虚無るぜ?
ギルドが全体的に暇で、緩い雰囲気が新鮮な俺が通りますよっと。
「昔は魔力干潮って呼んでたわい。平民も貴族も、分け隔てなくボンクラときた。どこぞの若いもんが口にした、オフシーズンが定着したってわけよ」
魔力干潮……太陽と月の引力が関係あるのかい?
ご都合テンプレ異世界に転生した手前、余計な詮索はやめとこ。
「ガサッツ。干潮があるなら、満潮も来る?」
「ったりめえじゃねえか」
「そうなるよな」
つまり、繁忙期だ。
無限残業編である。
劇場版の勢いに先んじて、俺は不労所得の目途を立てなければならない。
労働は嫌だ! 仕事は嫌だ! 業務は嫌だ!
誠実な願いが今、俺の頭脳へ覚醒を促していく。
「……っ! 需要がなければ、作り出せばいい。供給がなければ、増やせばいい」
ビジネスってシンプルだね。
「砂漠に行けば、一杯の水が金の価値となる。オフシーズンに変われば、一杯の霊薬が金の価値となる」
当然、エリクサーの価値は爆上がり。お値段ピンハネ粗利マシマシ。
であるならば、お得なプライベートブランドさんの出番や。
「時代はジェネリック! ピンチはチャンス!」
俺は立ち上がり、スパークリングワインを一気に煽った。
「セルフサビ残発生だ。ったく、タイムカードは切れねぇぜ?」
「落ち着かねえ野郎だわい。いい加減、こっちの現場手伝いやがれ」
「死んでも嫌だねえ!」
まぁ、もう一度死んでるんですけどね。
転生ギャグは、転生者にしか通じない。
「じゃ、上がるわ。またな」
「おう」
俺は、鮭ダシ茶漬けにも別れを告げた。
名残惜しいけど、振り返らない。
だって、決意が揺らいでしまうから。
目前の旨みより、長期の利益を見据えて。
それが経営者の資質。
冒険者とはフリーランス。
個人事業主よ、俯瞰せよ。




