ユニークスキル
「ドラゴンなら満足して惰眠を貪ってるぞ?」
「そう……よかったわ」
「ふーん。よくないけど」
チルアウトしたバトルマニアたちが、少し残念そうな表情。
珍しく頑張ったのに、あまり歓迎されなくてぐすん。
「俺、また何かやっちゃいました?」
「ヤマトさんはいつもやっちゃってると思う」
「ほんそれ。期待を裏切り、予想も裏切るとかマジヤマちょ」
「俺も無自覚系チーレム無双転生者になりたい。賞賛しか一切認めん」
残念ながら、今の発言でその線は消えました。
冗談ハーフ、ほんとはクオーター。
俺は、手書きマップを更新した。
メモメモ、腰痛ドラゴン。弱点、クリスと一緒。
今度、酒の手土産持ってこよう。銘柄、竜殺し。
「わたしが何かしら?」
「ひょ、いや別に」
「名前が見えたのよね」
物証を差し出せと、美人の鋭い視線。
クッ……
女騎士の尋問で逆に屈しちゃう寸前。
「眠りこけてるなら、チャンスじゃない。あたしの天誅が伝説を屠ってあげるッ!」
「ミューっち、もうカーテンフォールっしょ。真の強者は舞台上で舞い上がれ的な?」
「ふん、冗談よ。姑息な真似してニヤけるの、おじさんだけで十分ね」
バッドを下げた、魔法少女(物理)。
お前、完全に一発逆転ホームラン狙いだったよなあ。
頬を膨らませたミューの傍ら、フィオナが祭壇へ向かったところ。
「てか、スキル抽選できんじゃん。報酬もガチャチケとかジワるし」
「え、何だって!? よく聞こえたけど、もう一度言って!」
敏感聴覚系主人公、風が強くても聞き漏らしません。
「ダンジョン最奥に設置された祭壇って、いろんなタイプあるっしょ?」
「あーね?」
「このモノクルイケおじの像は、叡智の神オージーンじゃん。ガチ祈りで、新たな魔法を開花してくれる神託パないっしょ。マジオラクルだし」
「それな」
図らずも、聞き上手のギャルと化した俺。マジチョベリグ。
「あんた、一応先輩冒険者でしょ? 知識不足で恥ずかしくないわけ?」
「パストロール歴、かなり後輩だからな。自分は何も知らないことを知っている」
ソクラテスさえ、ムチムチと自分の無知を棚上げしている。
いせソクは美少女だし、無知シチュ大好きに決まっとる。
「学校のつまらない勉強も全く無駄じゃないのね。おじさんを見ればよく分かる」
「よ、よせやい」
「厚顔無恥」
うわあ、幼女賢い。
このパーティー、専門分野の才能あるくせに勉強もできるキラキラばっか。俺以外。
劣等感だし、足引っ張っちゃうし、やはり脱退の方向で検討する協議の調整せねば。
「もう無理……リスケしよ」
「彼、ニヤニヤしてるわね。また妙な企みかしら?」
「ヤマちょはすぐ顔に出るじゃん。面白すぎんか!」
ぼぉーっと思案に耽れば、肩を叩かれた。
「ねえ、ドラゴンに実力を認めさせたのよ? あなたの念願、試してみたらどう?」
「お、おう。やったる」
俺は数歩前に進み、ふと足を止めた。
「ん? 本当に良いのか?」
「どういう意味?」
「クリスさんたちが欲しかったのは、魔力分与だろ。貴重な回復スキル持ちがいなくなり、またメンバー探しが手間だと思わん?」
オンリーワンの性能なければ、俺は美少女パーティーの一員にあらず。
触手の唯一性。
一芸特化を認められたからこそ、チート転生じゃないヤマトがここにいる。
「わたしたちのこと、仲間と認めてなかったの? ショックだわ」
ムッと眉根を寄せたクリス。
「確かに、きっかけはスキルの希少性。でも、それが関係性において最も大切かしら?」
「大事だろ。厳然たる事実として、異世界……パストロールはスキル制なのだから」
即答。
強いスキルを持っていれば、強い奴になれるし。
優れたスキルを持っていれば、優れた奴になる。
実家が裕福で、聖騎士なるレアスキルを持った美人。
これは恵まれたお方と評さざるを得ない。
現代だって、生まれた環境でほぼ決まる。
何の苦労もせず、親の経済力と社会的地位で人生楽チンコースな友人が羨ましかったな。
十代までの経験格差など、努力で覆せばいい?
好きな努力だけすればいい土台は、努力で手に入りますか?
――フ、俺はすでに一度死んだ身。
今更文句を垂れても詮無きことさ。
「悪かった。非難したいわけじゃない。昔から、自慢できるものがなくてさ」
「わたし、不快な気分にさせたみたい。ごめんなさい」
謝らせたいわけじゃない。
ロンパしたら勝ち。謝ったら負けとか、現世に置いてきたはずだろう。
「ヤマトさん。たとえどんなスキルに変更できたとしても、パーティーをクビにしないし、あまつさえ追放なんてもっての外よ」
「真の仲間! あったけぇ……」
生前の職場や前パーティーで、そんなこと言ってもらえなかった。
自分、一生付いて行きますっ!
「ただのストーカーじゃない。ディバイン・パニッシャー確定ね」
「遺体処理やめろ」
これが犯人隠避というやつか。証拠もろともヤレ!
祭壇の前へ出た、俺。
しかし、スキル変更の方法知らへん。
ドラゴンが祈りを捧げろと言ってた。
目をつむり、合掌。
お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いしまぁーす!
「ヤマちょ、ドンマイ。幸運ってさ、ぐるぐる巡りまくり。善行積んでこ」
「まだお祈りの途中でしょうが!」
ったく、失敗前提の励ましだぜ。
うるさいギャルを追い払うや、改めて集中していく。
――汝、新たな祝福を欲する者なりや?
……心に語りかけてくるタイプ!
欲します。欲せねば。欲させてください。
――執念深く、欲深き者。その渇望を認めん。
ありがとうございます!
おい、触手。聞いたか、触手。
誠に残念だけど、お前との腐れ縁はここまでのようだ。
今後ますますのご活躍と発展の程、お祈り申し上げます。
ぬるぬるぅー!
なぜか荒ぶり始めた粘液野郎。
俺は触手スキルを存分に使いこなせなかった。多分、性癖が合わないから。
次こそ、ローションやらヌルヌルプレイ好きの使い手に拾ってもらうんだぞ。
触手がまるで、電柱の下へ放置された捨て犬のように見えた。それ幻覚です。
刹那、思い出シーンがフラッシュバック。
初めての冒険に緊張したぁ~、ギルド会ぃ~。
一生懸命取り組んだぁ~、回復魔法ぉ~。
長期戦闘を支え合ったぁ~、ダンジョン探索ぅ~。
理不尽な目に合ったぁ~、追放式ぃ~。
「卒業式のお別れの言葉かっ」
泣かないから冷たい奴判定やめろ。
こちとら、お前らを全く冷笑してねえじゃん。
憤怒の念を抱き、第二ボタンを投げ捨てた過去はどうでもいいとして。
――神の祝福、呪いと相違なし。軌跡、再び辿ること叶わず。空虚な心、満たしたまえ。
(スキル変更を決定すると、元に戻りません。また熟練度0からスタート。大丈夫?)
あぁ、問題ない。やってくれ。
ぬ、ぬるぅぅううーーっっ!
さらば、触手――後生だっ!
あ、俺ってば一回死んでたわ。後生じゃなくて転生済みやね。いっけねー。
……振り返れば、セルフツッコミがマズかったかもしれない。
天井から柔らかい光が差し込み、新たなスキルを望んだ者へ祝福を授けん――
――無理なりや。
ん?
――特異性、その運命享受せよ。
は?
――我、女神の資財に干渉不可。
「えーっと、つまり? スキル変更できへん?」
――うん。
うんじゃねえよ!
渇望を認めん。って、仰々しいオッケー出したでしょうが。
認められない。って、意味かよ!?
――うん。
光がパッと消えた。
「ダメだ、こいつ……使えねー」
頭痛が痛く、俺がよろけてぶっ倒れる寸前。
「ヤマちょ。っぱ、無理ぽよ? ワンチャンなしかー」
「フィオナさん、これは一体どういうことだってばよ?」
確信めいたギャル。その根拠、はたして。
「やっぱり、ユニークスキルだったんじゃない。おじさんの触手」
「触手で回復は確かにユニークさ、そんな面白くないぜ」
「あんたみたいな自称転生者連中が大体持ってるスキルのこと。主にスキル抽選で発生しない特別な能力を、ユニークスキルと呼ぶ。常識じゃない」
やれやれと肩をすくめた、ミュー。
「ユニークスキルはマスターしないと変更できないっしょ。レベル10まで熟練度稼ぎ、世界一周クルーズの如し。あーしも優雅な船旅してー」
「……そマ?」
「マ!」
突如突き付けられた残酷な真実。
逆説的に、世界には優しい嘘が存在すると証明してしまった。
「俺は一体、何のために生まれ、何をして生きるのか……」
たとえアソパソマソでさえ、この乾いた孤独感は癒せまい。
今お腹空いてないし、口の中パサパサになるんだよなあ。
「――っ! ちょ、待てよ! まかさ、お前ら……この惨状を予想してたな!」
「そんなこと、ないわよ? 証拠でもあるのかしら?」
語るに落ちたフレーズ殿堂入り、証拠を出せ。
この勝負、もろたで工藤。
「俺がこのクエストを提案した時、なんか内緒話してただろ! その後、あっさり依頼を引き受ける運びになった。どうせ触手スキルは変更できないのに、スキップるんるん成人男性の姿を見て内心ほくそ笑んでたんだろ!」
「アレ、ほんと気持ち悪かった。中年の徘徊、二度と披露しないでちょうだい」
侮蔑の幼女。
サーセン。
「ユニークスキルかどうか、確証なかったもの。レアスキルなら問題ないけど。冒険者が他人のスキルをしつこく聞くのって、マナー違反でしょう?」
「マナーより、ぬか喜びを制してほしい」
「結果的に、変更できなかったのは仕方がないわ。ちゃんと受け入れてよ」
「はい……」
俺は、リアルガチで落ち込むばかり。
ダンジョンボスを倒したリワード。スキル抽選。
クエスト報酬。ガチャチケ。
どちらも無駄……ってこと?
これが骨折り損のくたびれ儲けってやつか。とほほ。
「わたしたちは、ダンジョン探索のいい経験になったわ。これでシルバーランクへ昇格できそうよ。パーティー全体で考えれば、ヤマトさんにもメリットがあるはず」
クリスが俺の背中をさすってくれるも、どんどん丸くなっていく。
なあ、触手よお。まだ長い付き合いになりそうだなぁ。
……
返事がない、無視のようだ。
触手?
ぬいっ。
プイッとそっぽを向かれた。
「いやさ、お前は本来エロ路線の選手だろ? もっとリビドー丸出しな人間とコンビを組みたかったのでは?」
ぬるぬる!
勝手に、触手へエロスを押し付けたのは人間都合。ヘンタイの精神など元より、こちらに内包されていない。
「それはある。すまん! しかし、美少女相手だとやる気出すよなあ。いつもより多めに出すよなあ!?」
ぬりゅっ。
肌感が合うから。他意はなし。
「じゃあ、是非もなし。誰だって、ぴちぴちお肌触りたいもんな」
うんうんと頷いた、触手。
「友達いないからって、大きな独り言やめてちょうだい。通報事案じゃない」
「お巡りさん、この手です。ぜひ引き取ってちょうだい。触手の意思疎通がやけに上手いの、ユニークスキルだから?」
「フツーの触手と違って、コミュ力自慢っしょ。知らんけど」
さいで。
ユニーク部分のリソース、もっと有効活用してくれ。
「ちょっと。くすぐったい……あんっ」
クリスの腰にぬらりと巻き付き、マッサージを始めた粘液たっぷりジェル。
完全にセクハラじゃん。
電車でこの人痴漢ですパターン。手が、手が勝手にやったんだっ。
最近、彼女の腰痛ケアに従事する機会がなかった。
触れずとも患者の容態に気づくゴッドハンドの鑑かよ。
「クッ……ほぐせ……っ!」
まあ、本人が顔を赤らめていたのでヨシとしよう。




