試練
前回失敗したダンジョン探索の続き。
全員装備を更新し、うおおおお絶対に攻略してやるぜ! などと意気込んでいたのだが。
「この扉の奥がボスフロアよ。気を引き締めましょう」
「……」
「ヤマトさん? さっきから黙ったままだけど、また調子悪いの?」
「いや、全然。なんかあっさり端折られた気がして、困惑中」
中間地点まで、すでにマッピング済み。
それでも、後半の探索は難易度が上がるものだ。
未知の強敵に苦戦させられ、未曽有の迷宮に頭を悩まされる。
そんな常に危険が隣り合わせの冒険者たる所以を実感するはずが――
「割愛!? 無慈悲な全カット!? ねえ、取れ高なかったん?」
「ふん、退屈なところね。はしゃいだ犬の散歩の方が手間じゃない」
「どったん、ヤマちょ? 急に騒いで、フェスりたいん?」
「タイパ重視のZ世代ですら、倍速で視聴するだろ! 何もお届けしてなくなくない?」
三重否定は、否定。
一回でよくね? タイパよくねー。
ミューが、バトンよろしく得物をくるくる回した。
「魔力効率の更新で、あたしはより多くのモンスターを屠れた。感謝してあげる」
「せめて、戦闘シーンのハイライトくらい」
「あーしも、ズットモとグループ念話できるようになってマジ助かるし。ケル、ベロ、スウの同時召喚、三頭合体ガチで激アツっしょ」
フィオナは、スマホのような端末を取り出した。
「だから、披露してくださいよ!」
あるじゃん、見所ぉぉおおおーーっっ!
美少女諸君が花形だろうに。もっと活躍アピールしてもろて。
ぜえぜえと肩で息をせざるを得なかった、俺。
クリスは仲間の体調を慮った様子で。
「やっぱり、一番疲労が蓄積してるみたい。パーティーを支えてくれて、ありがとう。あとはわたしたちに任せて」
「……いいさ、いいとも。そっちがその気ならば、俺にも考えがある」
クックック、ここから先は手段を問わないぞ。
暗黙のルール無用な、テンプレ破りしてやるぜ。
「クリスとおじさん、イマイチかみ合ってないけど放っておくの?」
「いいんじゃね? クリぴも天然なとこあるし、すれ違いコントみたいっしょ」
「道中の描写だっけ? 手記にでもまとめたいのかしら?」
「説あるコアトル」
俺が、これからどんな一手を繰り出そうかにょろにょろと考えれば。
「開けるわ」
大仰な鉄門扉が軋んだ音を響かせる。
奥まった小部屋。
かがり火に灯された祭壇。
足を踏み入れると、侵入者を拒むように冷たい風が吹き抜けた。
「ここが最深部……っ!」
「呆気ないゴールじゃない……アレが鎮座してなければ」
ミューがバットを正面に向けた。
祭壇前で眠りこけたモンスターが、ふてぶてしくも姿を晒している。
――ドラゴン。
頭部に角と髭を蓄え、筋骨隆々な胴体に翼を生やした四足獣。二又に分かれた尻尾の逆鱗が灼熱を帯びた真紅に染まっている。
「ビジュいいじゃん」
創作でいろんな姿を披露するファンタジー界のスター。
今回、一番ポピュラーな格好のファンタジスタだった。
「午睡とはいいご身分ねっ。一撃必殺の餌食にしてあげる」
「相手はこのダンジョンの主よ。迂闊に突っ込まないで」
「ドラぴは知能が高いじゃん。ミューっち、賢くかしこ」
二人が特攻魔法少女を宥めていたちょうどその時。
ドラゴンはむくりと目を覚まして、咆哮。
「――人の子とは珍しい。財宝に目が眩んだか、我の命を狙うとは愚行なり」
「……こいつ、直接脳内に……っ!?」
ファミチキください。
コンビニか。
レジもツッコミもセルフな時代。
「ドラぴの魔力は万能だし。意思伝達がバイリンガルとか余裕っしょ?」
「グローバル人材! いや、グローバル竜種!」
就職に強い系ドラゴン! なんという強敵!
見た目ブラックなくせに、ホワイトダンジョン早期内定組?
「我――話続けていい? 久しぶりの来客で、守護者の役目全うしたい」
「あ、こっちで盛り上がっちゃってすいません。どうぞどうぞ」
なんか、思ってたのと違う。
「オッホンッ。我が住処を踏み荒らした不届き者たちよ。己が欲望のために最強種に挑まんその蛮勇、なかなかどうして面白い。どれ、一つ相手をしてやろう」
ドラゴンは前足を突き上げ、両翼を羽ばたかせた。
強者の貫禄を纏った風圧に、鳥肌が一斉に逆立ってしまう。
こんなん、ブロンズ級が気軽に戦っていい相手じゃない。
俺はなんちゃってシルバーランクゆえ、歴然たる実力差に敏感だ。
若い才能の原石たちも、原初の恐怖で立ち尽くし――
「これが、本物の冒険……っ! ここから先が本番みたいね!」
「あたしは、天才魔法少女! ドラゴンスレイヤーなんて、最強に至る道標じゃない」
「ガチバトル、熱ぃ~。あーしのマブいライガー丸、なるはやしとく?」
流石、期待のルーキー。
三人共、全く怯んでいなかった。
ビビってる奴、いねえよな?
どうせ、俺は小心者ですよ……
「意気やよし、若人たちよ! 臆した者も卑下は不要。その眼力、生き永らえる算段に長けているな」
「お手上げだなと思いました。新人が受けられる依頼に、竜を出すなブレスでイチコロぞ? こちとら、ドラゴンのクエストやりたい勇者じゃないっつーの!」
ぬるぬる!
「ワハハハハ! 正直な奴め。気に入った! 我を屈服させてみろ、むろん方法は何でもいい。さすれば汝らに勝利の栄光を授けよう」
表情豊かなドラゴンが、屈託なく破顔した。
「ん? 今、何でもって言ったよね?」
「我に二言はない。文字通り、貴様の手練手管を披露してみせろ」
怪しく輝いた竜の魔眼。
ぬるるん!?
手の内を読まれた!?
瞬く間に、スキルバレ。
知能の高いモンスターは分析魔法くらい使えるらしい。
「問題ないっ。元より手に負えないからな」
触手がドラゴンに勝てる道理なし。
まさに、手に余る相手だ。
ぬるぬる!
お前、やる気か?
先端を振り回すや、ネバついたジェルをどろりと垂らしていく。
「あなたの気が進まないなら、わたしに任せてちょうだい。目下の聖騎士スキルがどこまで通用するか、ぜひ試したいわ」
「独り占めなんてズルいじゃない。トカゲが吐く炎より、あたしの火力が上よ!」
クリスが剣を抜き、ミューはバットを構えた。
どちらかと言えば、先方より好戦的な仲間に手を焼く次第。
「とりま、チルれー。おハーブ焚くっしょ」
フィオナがアロマキャンドルを取り出し、二人へフローラルな風を流した。
「「……いい匂い~」」
「こっちはあーしに任せろり。ヤマちょはお客さんを満足させてもろて」
「難易度鬼ハードだし。顧客満足じゃなくて、カスハラ対応だわ」
俺は肩を落とすや、渋々モンスターカスタマーの元へ。
ドラゴンが吠えた。
「女神の祭壇に祈り捧げたくば、我にその覚悟を示せッ!」
「俺の真の名は、蒲生大和! かつて、ブラック企業のパワハラで精神を摩耗した者! 理不尽なクレーム要求一切認めんぞ! 断固として徹底抗戦だ!」
初手、魔力全開。
十指とリンクした伸縮自在なゲルを縦横無尽に放った。
ぬるぅぅうううっっ!
触手が容易く格上なボスの胴体に絡みついていく。
「竜鱗はあらゆる魔法攻撃、武器攻撃に耐性を備えている。その程度の貧弱な拘束など」
「一体いつから、触手スキルが攻撃だと錯覚していた?」
「……なん……だと……!?」
「自己紹介が途中だったな。俺はヤマト。触手ヒーラーや!」
出来ることは回復全般。
主に、癒しのリラクゼーションが得意です。
「揉みほぐせ、指圧する触手<アンマ・テンタクル>ッ!」
潤滑油を浸し、ねっとりさすり、凝りを和らげ、血行刺激せよ。
「ほ、ほげぇぇえええエエエエーーっっ!」
ドラゴンは、落雷に打たれたかのごとくのけ反ってしまう。
「お客さぁん。翼の付け根、リンパ溜まってますねぇ~」
「な、なぜ、それを……はぎゃぁぁあああアアアアーーっっ!?」
気持ち良さが我慢できず、涎をまき散らしながら暴れたドラゴン。
「鎮痛ゼリー塗っときますよぉ~」
「お、おおお、おおおおおっ! そこ効くぅウウウウ~」
患者は恍惚の笑みを漏らすや、ゆっくりと胴体を弛緩させていった。
ハアハアとちょろ火を吐きつつ。
「人の子……我が弱点を的確に突いたその手腕、称賛に値する。よくぞ見抜いたものよ」
「お前は典型的なドラゴンの姿をしている。すぐに予想が付いた」
「如何に?」
「だって、中腰の姿勢は辛いもんな。俺もそれで、ギックリ腰になったことがある」
中腰ドラゴン、腰に爆弾を抱えていた。
ならば、触手先生のマッサージがぬるりと光る。
ダンジョンの王が魔眼を丸くして。
「ワーハッハッハ! 古今東西、竜族と対峙して整体を施した冒険者は貴様が初めてだ! その蛮勇、我を屈服させたと認めよう」
「え、いいの? パーティー全滅回避用の接待だったけど」
「うむ。腰痛仲間のよしみだ。そもそも、我は徒に生物を殺めん。この迷宮など、あくまで試練の場。死闘の域に達した英傑に限り、こちらも本腰を入れようぞ」
炸裂、腰砕けジョーク。
最強の幻想種は、氷ブレスも吐けるらしい。
「人は考える葦とよく言ったもの。力とは、知恵や勇気を奮ってこそ発揮されるのだ。ヤマト、また訪れよ。我が真名・ペインバックロワ、汝の魂に刻むがいい」
ドラゴンは大きな欠伸をかみ殺した。
翼を畳んだと思えば、さっさと眠りについてしまった。
……いい夢見ろよ。
「やったかっ!?」
何もやってない。フラグやめろ。
「腰が抜けたぜ」
ふらふらと座り込んでしまった、俺。
誰だ! 今、腰抜け野郎って言った奴はっ。
お前か、触手。
ぬる。
被害妄想乙。
「生前、散々パワハラ上司のご機嫌取り・接待・叱責サンドバックを受けてきた。戦わずしてドラゴンを満足させるくらい、朝飯前さ」
正しくは、昼飯前。
目下、ブランチタイム。
小休止としゃれこもう。
フルーツサンド。卵チキン。BLT……
サンドイッチ警察だ!
異世界にサンドイッチ伯爵が――以下略。




