コスプレパーティー
【3章】
修練場の休憩スペースへ向かうと、魔女っ子が大の字に寝転んでいた。
レースが山盛りなワンピースではなく、簡素なTシャツと短パン姿だ。
「おじさん、もう元気なわけ? そ、心配して損したじゃない」
「俺の安否に損得勘定働かせるな」
「肉体の衰えは誤魔化せない。疲労は遅れてやって来る。中年の悲しい性ね」
「筋肉痛は24時間のタイムラグあるよコンチキショー」
勝ち誇ったミューが、オレンジジュースを一気飲み。
「何してんだ? 日光浴したって、生意気な性格は直らんだろ」
「あたしが生意気なら、あんたは生気がないじゃない」
ミューが見つめた先、平らな空地に大穴が開いていた。
「深淵の入口か? アビスホールじゃん」
「ふん、悪くない例えね。天才魔法少女が最強へ至るエチュードよ」
「ミューは意外と努力家だよな、自称天才なのに」
「バカね。才能余って仕方がないから、より研鑽を積む。当然じゃない」
才能に驕って、練習サボるタイプじゃなかった。
特訓? 修行? くだらねえ、俺様に勝てる奴は俺様だけよっ!
異能力バトルマンガなら、楽しんでる系主人公に負ける天才キャラ。
「おじさんがここに寄ったなんて、おかしいじゃない。キャラが迷走したの?」
「いいや、頑張らないために俺は頑張っている。一貫性あります」
「目を輝かせながら言わないで。まあ、おじさんを鍛えてあげれば、あたしのトレーニング効率も上がるわけね」
ニッコリと幼女スマイルを携えて。
「公園10周。腕立て100回。腹筋100回。スクワット100回。それを三セット。二日毎にこなせば、体力つくでしょ。年寄りは何より、基礎代謝」
「超回復理論教えてくれて、どうも」
「あの触手、魔力分与でたんぱく質出すじゃない? 運動後、三十分以内だからね」
「プロテインじゃねえよ!」
飲みやすいヨーグルトテイスト、登場! ケフィア風味もあるよ!
ぬるぬるぅ~。
ご好評につき、新作フレーバー開発中?
余計なリソース割くなって。俺の魔力が資本やろ。
元気にうねる触手を無理やり引っ込ませた。
「冒険者の成り上がりが目的なら、筋トレに精を出すのも良かっただろう」
「粘液ばかり出してる変態でしょ」
「誤解されるから。セクハラ事案、コンプラ問題。俺の場合、笑い事じゃねー」
悲しい事件だったね……
「ミュー、クリス、フィオナ。お前らみたいなタレントになれやしない。今更どう足掻こうが、それは揺るがない事実。あぁ、全部諦めたわけじゃないぞ」
「ふうん?」
「だから、考える。賢くないけど、頭を捻る。たった一つの冴えないやり方で」
マンガ、ゲーム、アニメを思い出す。
子供の頃から好きだったコンテンツ。
オタクが一度は考える。ある日突然、異能力に目覚めたら――
「創造する触手<クリエイト・テンタクル>ッ!」
触手がひらひらと舞い、俺へ向かって粘性ゼリーを放射した。
繊維を紡ぎ、膝丈の長いコートを形成していく。
「服屋でも開くわけ? おじさん、ファッションに興味ないじゃない」
「着るだけで疲労回復、リカバリーウェアだ」
「健康グッズの応用……」
へえと感心したミュー。
「常時魔力回復など叶わない。この世界じゃ、流石にぶっ壊れ。しかし、常時自然回復力向上ならできるやろ」
代謝の活性化を図り、魔力コストを引き下げられた。
パーティー全員が装着すれば、さらなる活動の継続が可能。
鑑定してもらったので、効果はバッチリ。
「コートの格好にした訳は? 正直、似合ってないけど」
「ほんとに正直なお嬢ちゃんや。昔の転生者と言えば、同じような顔で同じようなロングコートを着るのが暗黙のルールだったのじゃよ」
「嫌いなのよね、伝統や習慣とのたまって思考停止した文化気取りが」
テンプレ嫌いなタイプ?
気持ちは分かるけど、助けられる場面も多いから悪口発しません。
「ロングコートが嫌なら、スク水や園児服でどうだい? 幼女にピッタリ」
「おじさんの気持ち悪い趣味に付き合いたくない」
「ロリコンじゃないろり」
異世界ポルノ、マズいですよ!
パストロールの成人年齢を後で調べておこう。
「じゃあ、キュアプリイメージのフリフリドレスな。昔、見たやつ」
「最初から出しなさい。まったく、近頃の中高年ときたら……っ!」
「中学生に難癖付ける言い方」
匠の触手を振るうや、生意気ロリにゴスロリ衣装をマジカルコーデ。
大きなお友達が後方腕組満足面するくらい変身シーンがあったりなかったり。
「このデザイナー、見所あるじゃない。おじさんがパクりたくなるわけね」
袖やスカートの模様を吟味し、くるりと回ったミュー。
「……魔力の自然回復量アップ。パッシブなら、触手が塞がっていても問題ない。あんたたち、寄生先と違って優秀じゃない」
ぬるぅ~。ぬるぬるぅ~!
そこに気づいてほしかった!
幼女のお世辞で承認欲求を満たすな。
「ヤマトさん。また面白い事やってるみたいね」
「完全復活かましてんじゃん! おめっ」
クリスとフィオナが合流した。
俺の練習に付き合ってもらうため、こちらもラフな格好。
今までの経緯を、かくかくしかじかっと説明する。
「ヤマちょ、仕立てならあーしが協力するし。オサレのテッペン、目指すっしょ」
「実物参照のファッションだから、別ブランドの参入はお断りで」
「ガーン。つらたにえん」
フィオナが膝から崩れ落ちてしまう。
さっそく魔力切れかしら?
「あなたの負担が減るチームスタイルを編み出したのよね?」
「パーティーバフみたいなもん」
「分かった。協力しましょう」
クリスが腕を組んで、苦笑い。
「でも、今度は仕立て屋? ほんと、冒険者より商人の方が向いてるわね」
「弊社は副業OK! マルチに活躍する社員を応援しますっ」
ただし、始発に乗って終電に駆け込むのがブラックあるある。
福利厚生なんぞ申請したら、部長の終業後に面談である。評価、向上心×と。
「聖騎士だし、かっこいいアーマーか」
「わたしはガチガチな見た目より、動きやすい方が好みよ」
フルメイルじゃ、美少女要素が消えてしまう。
ビジュアル面を考慮すると……うーん、難しい。
エロゲの姫騎士鎧をイメージしたいものの、残念ながらエロゲは未プレイ。
どこを防御してんだとツッコミ満載なビキニアーマーって、偉大だったらしい。
「ダメだ、思いつかん。万策尽きた!」
ぬるっ、ぬるるる!
俺がさじを投げた瞬間、神デザイナーは諦めるなと粘りを見せた。
これが、捨てる人あれば拾う触手ありというやつか。違うね。
ぬりぬり。ぬめりめり。
なに。任せておけ、だと?
クリスの全身をねっとり舐めるように眺めた、触手。
「もう散々舐めつくしただろ」
「卑猥な言い方しないで」
きぃっと睨んだ金髪美人を横目に。
触手がうねりを上げた。
粘体精製の巨匠が新たに生み出したコスチュームとは、はたして――
「ちょっと何よこれ!?」
「なにって、魔力切れ対策のリカバリーウェアだが?」
「効果じゃなくて、見た目の話よ!」
「デザインが洗練されてないって意味だよな?」
全身のぴっちりライン。
スベスベの光沢。
凹凸がはっきり表れたシルエット。
「ボディスーツだ。悪の組織の女幹部みたい」
「クリス、その格好で出歩くつもり? 今度から最後尾ね」
「ふーん、透け透けのスケベじゃん」
三人が徐に感想を漏らした。
エロ担当のセクシー枠が蹲ってしまう。
「ヤマトさんっ、こういう趣味だったのね! は、ハレンチだわ!?」
「マエストロの好みだぞ。俺はデザインから製作の行程まで、今回関わっていません」
「触手ーっ!」
ぬ、ぬる……っ!
首根っこを掴まれ、息ができな……などと悶え苦しんでいた。
遺言くらい聞き届けてやろう。
「ふむふむ。このワーキングアシスタントパワードスーツは、腰痛防止サポート機能搭載。オーダーメイドの健康グッズに設計しました、と」
「ネーミング長すぎ。誰も注文してないけどね」
魔女っ子の冷静な指摘。
今更である。
「確かに、負担が少ない気がするけど……柔軟なコルセット巻いてる感じ」
「着心地どう?」
「悪くない。むしろ、違和感ないのが悔しいわ」
クリスは、ぐぬぬと歯がゆさを残した。
「ジャストフィット。こいつら、好きな相手のボディラインを形状記憶してるっぽい」
「ワイシャツか! 王都のアパレルイベントで見たことあるぜい」
「ファッション系転生者でもおるんか」
冗談はさておき。
「クリスさん、他のコスチューム作り直す? 時間かかるけど」
「……いい。二度手間だし、これにします」
「いかに?」
正直、似合ってる。エロい。
聖騎士の誉れはどうしたとそしりを受けたら、まあうん。
「見た目で決めつけない。あなたをパーティーに誘った時、決めたことよ」
「っ!」
清廉な精神。
聖騎士の誉れよ、ここにあり。
クリスの気高さに、俺は改めて感心させられ――
「いや、それはそれ。これはこれだろ。伸ばせる美人は容姿にもっとこだわれ」
「あたしもそう思う」
「あーしも」
「あなたたちねえっ!」
そして、激おこである。
「わたし、ハンターに転職しようかしら。隠密行動したいし」
「せっかくのレアスキルがもったいないぞ。回避ビルド型ナイトとか目指そう」
「ハァ~、ヤマトさんがそれ言う?」
ジト目のクリスをなだめつつ。
「はいっ、はぁーいっ。はいはいはーい!」
「大変元気な返事でよろしい」
「ねえねえ、あーしの番っしょ? どんなコス見繕ったん? 楽しみだし」
美人エルフが大きな瞳をキラキラさせた。
「フィオナさんはパッと思いついた」
触手にイメージを伝え、クリエイト・テンタクル。
ぬるぬる!
解釈一致!
「ギャルと言えば、JKじゃん。とりま、制服みたいな?」
「おお、かわよ。JKって響き、めっ~っちゃいい感じ!」
赤いスカーフに白のセーラー服。
「ふうん? 魔法学院のローブより涼しげじゃない」
「フィオナがより可愛いわね。わたしもそっちにし」
「パターン2」
紺のブレザーにギンガムチェックなスカート。
「うぇーい。ギャルはこっちかぁー?」
「パターン3」
デカリボン! ピンクカーディガン! ミニスカ! ルーズソックス!
そこに、往年のギャルが現れた。マジチョベリバぁ~。
「はあはあ……三連続粘体精製が捗るで……流石にキツすぎるッピ」
「どこで本気出してるわけ、おじさん」
かつて、なんか有名人が語った。芸術は爆発だ!
今こそ、なんか触手人が語った。創造は膨張だ!
「……」
全身を小さな鏡で見つめ続けた、フィオナ。
返事がない。もうマヂ無理茶漬け、だろうか。
「ギャルだぁぁああアアアアーーっっッッ!?」
「お、おう」
「あーし、ギャルじゃんっ」
「逆に今まで何だったんだ?」
テンション高くて、ノリ軽い人?
「あーね? ギャルに正解はないっしょ。ギャルに終わりなし的な? いつまでも追い求める姿こそ、ギャルだし」
「急に深い話か。なるほどぉ~」
「どこがよ。そこの洗面所より浅いじゃない」
「ミュー。価値観は人それぞれだわ」
ちょっとそこ。ひそひそ話やめて。
俺にギャル哲学を丸投げしないで。
「このコスは紛れもなく、ギャルのフォーマル。冠婚葬祭も余裕でイケる正装」
「いや、その理屈はおかしい」
「サンクス、ヤマちょ! ギャルの一つの深奥、覗かせてもらったぜい」
「フィオナさんが楽しそうで何よりです」
君はいつもそうだね、訳が分からないよ。
……ヌ……ル……? フ、メ、ノ、レ?
触手も目が回ってしまい、ゲシュギャルト崩壊を起こしていた。
「バフ量と効果時間を把握したい。知り合いのリサーチャー呼んで、解析してもらおう」
「え。他所の人来るの?」
露骨に嫌な顔をしたクリス。
「俺、アナライズ系アイテム持ってない」
「わたしが急いで買ってくる! まだ誰も呼ばないでちょうだい」
「あ、ちょ待てよ!」
言うが早いか、全速力で金髪をなびかせていった聖騎士。
「錯乱しすぎ。結局、他人に見られるじゃない」
「怪奇! 町に出没するターボ美人! ボディスーツの謎に迫る!」
「ん~、空気抵抗減少で移動速度10%アップ? 都市伝説ウケるし」
フィオナになぜか肩を組まれた。マブか。
「うわあ、エルフ賢い」
「フィオナが分析魔法使えたでしょ。おかしな目玉のペット召喚して」
「それな」
ミューは付き合いきれないと帰る気満々だった。弊班、早上がりないぞ。
羞恥心で空回りしたクリス、嫌いじゃないわ。
そもそも。
俺はあのコスプレ、嫌いじゃないわ!
魅惑のプロポーションが強調され、チラリズム必至。
ぬるんぬるん。
エロに偏りすぎない女性らしさの主張にこだわりました。
まさに、匠の技術が光る手腕であった。




