再設定
「若いからって無茶は禁物だのう」
「はい、すいません」
「スキルの乱用は、交感神経が不調になる一番の原因。これほど魔力の流れが悪くなるとは、どんな暴れっぷりだったんじゃ?」
「回復魔法を少々……」
触手ヒーラー、トレニーの診療所で診察してもらう。
ダンジョンの安全地帯でぶっ倒れた後、退却を余儀なくされる。
目が覚めれば、一日経っていた次第。
「自分の力量を越えた治療なんて、満足な医療と呼べん。前線を支えるヒーラーならまず、自分の健康を守るのじゃよ。分かるか?」
「はい、すいません」
「医者の不養生を体現したわしも偉そうなこと言えんのう。薬、出しとくぞい」
「あざしたー」
肥満気味の先生に処方せんを書いてもらい、俺は薬局に寄った。
外へ出ると、鬼の形相な美人に遭遇してしまう。
「わたしが何に怒っているか、もちろん見当が付くわよね?」
「……ヒーラーのクリニック通いってボケが弱い?」
「違うっ」
「えぇっ!? てっきり、お前が治療されるんかーい、ってツッコミに来たのかと」
回復術師と病院や医者じゃ専門性がダンチ。
ヒールを唱えたところで、ドクターは名乗れない。試験受けて、研修して。
医療分野がテキトーじゃなくて安心したぜ、パストロール。
「もちろん、ヤマトさんのふざけた態度に怒り心頭よ」
「サーセン」
「けど、一番許せないのは――わたし」
「その責任感は大げさだな。クエスト提案したのに、失敗してごめん」
俺がペース配分を見誤っただけ。
新技、消費魔力デカいぞありゃ。
「魔力分与と粘体精製だっけ? 常識に縛られないすごいスキルよ。わたしたちが貰ってばかりで、あなたに負担を押し付けていた点を除けば」
クリスが隣に座れと、ベンチを指さした。
「甘えすぎたかも。パーティーは四人いるのに、全く協力できてなかったわ」
「前のパーティーじゃあこんなもんだったぞ」
「それは結構、ひどくないかしら?」
「まあ、俺が一番実力ないからな。一番頑張るしかない」
俺は苦笑しつつ、肩をすくめるばかり。
「一番下の奴に合わせてたら、いつまでも上に行けないだろ」
「意外な心情ね。働きたくないんじゃないの?」
「働きたくないと働かなきゃいけないは、残念ながら両立しちゃう」
俺は出来が悪い方だから、ブラック会社でよく叱責された。
やる気がない根性がない使えない奴と、怒声で昼夜問わず。
結論、いない方がマシ。
周囲に迷惑をかけるくらいなら、元より働かない方がいいだろう?
「優しいのね。でも、寂しい考え」
「昔から、友達が全然いないもんで」
「わたしたち、友達でしょ。フィオナとミューも」
パチパチと瞳を瞬かせた、クリス。
眩しいっ。
他人と簡単に仲良くなれる素質。そんなスキルが欲しかった。
「とにかく、ヤマトさんだけやせ我慢する冒険は禁止だから。リーダー命令ね」
「おけ」
「あなたはもっと仲間を頼りなさい。触手だけが友達じゃないのよ」
「いや、連中など友人にあらず。いつも通勤電車で隣に居合わせたよく知らない人」
ぬるぬる!
フン、勝手に出しゃばれず残念だったな。
俺は今、魔力が不安定で触手を伸ばせんのだよ。
……え? ちょっと待って、じゃあ抗議の声はどこから……?
ひぇ~。
「顔が真っ青じゃない、大丈夫?」
「イマジナリーテンタクル怖いなあ~」
「いつもの調子みたいで安心したわ」
なぜか美人が呆れたご様子。
幻聴聞こえたので、診療所へUターンしかけるや。
「今日はもう休んでちょうだい。元気になったら、ダンジョンリベンジよ」
「クエスト失敗したはずでは?」
「依頼文、ちゃんとよく読んで。あなたが持ってきた案件でしょう?」
依頼書を押し付けられ、俺は下記の内容に目を通していく。
つまるところ。
「期限は発注後、一週間以内……一週間以内っ!」
「そ。日程に余裕がある。誰かさんが無理したおかげでね」
「おーっ。まだだ、まだ終わらんよ!」
刹那、エナドリをキメたサビ残二日目くらいアドレナリンが沸騰。
「やはり、俺は触手マスターになれる器じゃない。可及的速やかにスキル変更するため、明日までにレベル3の技を使いこなしてみせるぜ!」
「実践とモチベーションが矛盾してないかしら?」
「人生とは矛盾に付き合う余暇である――蒲生大和」
最近、面倒事が増え、悩んでしまったけどさ。
厄介事を置き去って、嫌なものから逃げればええ。
初心に帰ろう。
さようなら、全てのストレス。
さようなら、全てのプレッシャー。
チートがなくとも、スローライフ始めたっていいじゃない。
俺に必要なもの。それすなわち――
「目指せ、不労所得!」




