結局、第一印象は見た目で決まる
【1章】
触手ヒーラー。
回復がコンプラ違反で追放。
――これまでのあらすじ、二行で終わる。
俺の名前は、蒲生大和。享年25。
ブラック会社の社畜だった。
連続勤務12日を超えたあたりで、アパートの階段から落ちて人生終了。
――否。
俺の名前は、ヤマト。新生25。
どこにでもいるような転生者。いわゆるテンプレ導入から異世界へ。
女神の面接……すこぶる圧迫だったなあ。転生氷河期かよ。
やれこんな資格役に立たない、せめて学歴はなどと難癖をつけられた。
否、ブラック会社で精神攻撃など慣れておる。そんな人格否定効かんわ! ぐすん。
上司のご機嫌伺いよろしく女神さまに接待するや、三度目で転生の許可を頂いた。
とにかく、チートスキルは貰えなかったものの、比較的マシな異世界へご案内。
それが《パストロール》。
剣と魔法の、ナーロッパワールド。
会社。労働。社会の歯車から解放してくれるなら、細かいことなど気にしない。
「働きたくない。でも、楽しく冒険したい。ままならないなあ」
期待と不安を抱えながら、俺はかつて新社会人の時に抱いていた感情を灯すのであった。
……なんて、あらすじを思い出していた。
例の件を経て、一週間。
王都から南の街。そこからさらに南の田舎町へ下った俺。
昼食にはまだ早いブランチタイム。
俺はギルドに併設された酒場に入り浸り、相席の隅っこで一杯ひっかけた。ツマミはコケバードの焼き鳥セット。
ゴクゴクゴク。
「かぁ~っ! 働かないで飲む酒は染みるねえっ!」
持ち金なんてすぐ底を尽きそうだが、一切考慮しないものとする。
幸い、このギルドでは左遷や都落ちした冒険者の噂が広がっていなかった。良くも悪くも個性的な人材が集まって、騒動面倒トラブルなど日常茶飯事らしい。
一癖二癖なんのその。駆け出し冒険者の町は、今日も平和である。
「にしても、そんなにアカンか?」
俺は小さなため息をこぼし、触手でペン回しをしていた。
ぬるっと星マークを作り、そのまま串を五本掴んだ。
「結局、人は見た目が全てかよ」
触手は気持ち悪い。
ドロドロした粘液が無理。
絶対いやらしい事が目的だ。
なるほど、否定できない。
俺も初めは<触手>なんてハズレスキルじゃん! と思った。
かっこよくない。ビジュが良くない。
しかし、あくまでスキルの一つ。個性みたいなものでは?
とはいえ、触手一本で全てを失った身なり。
スキル変更の方法、チュートリアルで聞いたはず……
「よお兄ちゃん、景気はどうだい」
「全然ダメ。懐が寂しいぜ」
「ガハハ! そりゃそうだ。オメーさんが働いてるとこ、見たことないわい」
飲み仲間のガサッツが豪快に笑う。
筋骨隆々の巨漢は、<土木>スキルを持つ建築系冒険者。
いや、建築系とはいかに。普通に大工してくれ。
「ガサッツは忙しそうだな。こんなところで油を売ってていいのか?」
「なあに構わん。ちょうど深夜の仕事が片付いたところだ」
「お疲れさん」
早速ジョッキを傾けたガサッツへ、にゅるりと焼き鳥を触手渡しすれば。
「……ほう。あいかわらず器用な奴だわい」
「気持ち悪いって正直に言っていいぞ。慣れてるし」
人差し指から伸びたジェルが心なしか萎れていく。
俺はこれで、パーティーを追放になりました。
「ああん? それが兄ちゃんのスキルだろ? たかが魔力の塊じゃねえか。キモいもキモくねえもあるか」
焼き鳥を奪い取るや、豪快に口へ運んだガサッツ。
「見た目なんざ関係ねえ。使えるかどうかだろうが。現場は忙しいんだ」
「お、親方っ」
「なんなら、うちで働くか? 来週から公共事業の大型案件が始まるんでな。触手の手も借りたいとはこのことだわい」
明日から働きますと飛びつく寸前。
だが待て、落ち着け。
そもそも、俺の目的は何ぞや?
――働きたくない。
――楽しく冒険したい。
――触手スキル変えたい。
「考えとくよ。結局、直近の活動資金は工面しなきゃだし」
「ガハハ! 人手が足りなくなったら肉体労働の素晴らしさを味わわせてやる」
異世界転生したら土木作業員な件。触手スキルが効率チートでどの現場も引く手あまた。
ある意味、無双している。
現実感溢れるファンタジー、なんか嫌……うん、今日から頑張ろう。
クエストボードを確認するため、ギルドの受付に向かった。
肩に小竜を乗せた青年、マント姿の短剣使い、でっかい金庫を背負ったターバン巻き。
冒険者と名乗っても、スキル次第で職業は千差万別。
待合室で駄弁る同業他種を横目に、俺は急募案件でも冷やかそうとすれば。
「どういうこと? なぜ、わたしはそのクエストを受注できないの?」
事務的なカウンターに、華やかな景色が彩られていた。
中心に佇む少女へ、思わず視線を奪われてしまう。
凛々しい表情を浮かべながら、白を基調とした革防具にプレートを仕込んだ格好をしている。プリーツスカートから伸びた脚が眩しく、まるでゲームに登場する女騎士そのもの。
「こちらのクエストはシルバーランクから受注可能でして、クリス様の階級を確認させていただいたところブロンズランクでして……」
「その辺のシルバーなんかより断然強いわ! わたし、<聖騎士>だけど?」
「と、おっしゃられても……ギルドの規則ですので。申し訳ございません」
「もう! ほんと融通利かないのねっ」
ムスッと頬を膨らませた、美人。
長い金髪をふわりとなびかせ踵を返すと、一瞬だけ目が合った気がする。
……絶対強いじゃん。ほんとにブロンズランクか?
彼女は、入口で待つ仲間の元へ合流していった。
フリフリドレスのロリ。オフショルダーにショートパンツを合わせたギャル。
とても冒険者に見えないメンバーである。
俺が珍しそうにチラリズムすれば、隣にいた冒険者が盛り上がっていた。
「あれが噂のトレニーギルドの綺麗どころかー。へー、可愛いじゃん。よし、声かけようぜ」
「おいよせっ。やめとけやめとけ。あの三人組、顔が良い分我が強くて始末に負えないらしい。ナンパ野郎は即撃沈って有名なんだぞ」
「ちぇ、駆け出しならワンチャンいけそうなのにな」
そんな冒険ごめんだぜと捨て台詞を聞き流し、俺は先ほどのクエストを確認していく。
・ハニーベアの討伐。必要資格、シルバーランク以上。
「ヤマト様、お待たせしました。そちらのクエストを申し込みですか?」
受付のお姉さんが席に戻ってきた。
「いえ、ちょっと気になっただけです」
「そちら緊急クエストでして、シルバーランクのあなたが引き受けてくださればこちらも助かります」
「俺、戦闘はからっきし。おこぼれで階級を上げたヒーラーなんで」
「あら、こちらもいろいろと噂を聞き及んでいますよ」
うふふとほくそ笑んだ、お姉さん。
まさか、コンプラ違反の件? セクハラ野郎を懲らしめるため、無理難題を押し付ける?
冷や汗が頬を伝っていく。
「ああーっ、そういえば今日薬屋に注文したポーション取りに行かなきゃ! 依頼はまた今度おなしゃす」
俺は立ち上がると同時、脱兎のごとく駆け出した。
「ちょ、待ってっ。ヤマト様、シルバー級の依頼がまだ山積してますから!」
今日できることは、明日やろう。
現世でべらぼうな残業を強いられたんだ。
異世界くらい仕事に余裕を持って臨みたい。
最終目的はそう。
目指せ、不労所得っ!




