触手の十本釣り
「ヤマちょの出番、ちゃんと用意してるぜしくよろ~」
「フィオナさん」
「んにゃ?」
「何で二回言った?」
俺はラブコメ主人公にあらず。風が強くて聞こえないよーしないよー。
「フッ……パート跨ぎのタイミングを読んだ的な?」
「じゃあ仕方がないね」
編集点、あると思います。
「噂のいい考えを聞かせてくれ」
「ヤマちょ、指伸びんじゃん? マナを変換して魔力分与できる神回復! マジカルイオン濃度、何するものぞ! この勝ち確ムーブに乗るしかねえっしょ」
「飛び込めば、人体に有害な塩湖。されど、おたくの触手ならヘッチャラってこと?」
「要約助かるし」
グッと親指を立てた、フィオナ。
触手、行けんのか。
にゅるにゅる。
触手、やれんのか。
うにゅ~ん。
器用にクエスチョンマークを作った。勝手にうごめかないで。
「とりあえず手を動かせの精神、っぽい」
「触手だけに?」
「触手だけに」
我ながら、彼奴の声なき声が聞こえそうで怖い。
幻聴は状態異常。疾く治そう。どうも、ヒーラーです。
「海女さんじゃなくて、漁師だったか」
俺は思考を巡らせ、水中の獲物を狙う方法を絞り出した。
十指の触手を伸ばし、枝分かれ、絡まりながら編み込んでいく。
イメージが見えた。底引き網だ。
「大きなネットを作って、すくい上げる作戦? ヤマちょ、スキルの応用上手じゃん」
「ヨイショはいいよ。回復魔法しかできないヒーラーほど、一番のリストラ対象だろ。冒険者はフリーランス。突然、人員整理なんて分かったもんじゃない」
実際、俺はパーティーを解雇されたもんで。
お前は真の仲間じゃなかった!
それを言われちゃ、返す言葉もないのだが。
俺は、お手製もとい触手印の網を水中へ放った。
岩礁スポットを感覚頼りに探していく。
「水中だと触手レーダー機能せんぞ」
「やーね? マジカルイオン濃度が」
「それはもういい」
アルカリと酸性、結局どっちか分からない。
ぬるぬるっ。ぬるぬるぬる!
触手が反応した。
うん、なに? しょっぱすぎて潜るのヤダ? 湖の水、全部抜いてみたら?
「こいつ、直接脳内に……っ!?」
「どったの、ヤマちょ。大丈夫そ?」
「大丈夫だ、問題しかない」
「ダメじゃんっ」
フィオナのツッコミに構う余裕がなかった。
そもそも。ピンクソルトが欲しければ、塩湖が干上がる季節を待てばいい。
渇水せよ、渇水せよ。採取が楽になる。依頼もなくなる。
「お前がブツを手中に収めれば、帰ってヨシ。残業は嫌だっ、残業は嫌だっ」
心の底から願い、湖の底へ伝える。
ピタリと、ネットが当たりを捉えた。
粘着性のゲルを、吸盤よろしく獲物へ張り付ける。
「来た! 来た! 来てんだろ!」
あとは伸ばした触手を縮める簡単なお仕事。
勢い良く引っ張り上げるが、ビクともしなかった。
「こなくそっ。岩にこう、釣り針が引っかかった感じ」
「根がかりっしょ。あーしも手伝うし」
フィオナが俺の背中に密着すると、なぜかバンザーイさせられる。
むにゅっ。むにゅっ。
「きゃっ。柔らかい弾力で集中を乱されるッ」
「ライン緩めてー、竿振ってー」
美人の細い腕で腰を抱きしめられつつ。
彼女は触手の尾部をぎゅっと掴んだ。
ちょんちょんと弄られ、しゅこしゅこと擦られるや。
そこ敏感らめぇぇえええーっ!
じゅるっ! びゅるるっ!
触手が思わず、魔力を噴き出した。
「いや、俺じゃないからなっ!?」
達した勢いを推進力に変え、岩礁から結晶を剥ぎ取ってド派手に浮上。
これこそ、コンバート・テンタクルの真の能力か。違うね。
放り投げられたピンク色の六面体が、雨のようにたくさん降ってくる。
俺はできるだけ回収し、一番綺麗な結晶をフィオナに手渡した。
「すごく、大きいです……」
「質もサイコー! っぱ、ヤマちょに頼って正解だったし」
「触手には荷が重かったぜ。潜水やら釣りが得意なスキル持ちの仕事では?」
「それなっ」
ドヤ顔ダブルピースのギャル。
「新作コスメはマストでゲットじゃん? マジで負けらんねえ戦いがそこにあるっしょ」
「昔、そんなフレーズを聞いた覚えがある。サッカーだっけ?」
ゴールキーパーよろしく、ピンクソルトの取りこぼしを防いだ触手――いや、選手たち。
「ぬるっちもサンクス! ガチ感謝」
フィオナが触手の先端をツンと小突くや。
ぬるっ、ぬるぬるぅ~。
顔(?)を真っ赤に染め、俺の背後に隠れてしまう。
「照れ屋か」
「お、シャイかー? ウケるし」
感情表現豊かになりやがって。いよいよ恐ろしくなってきた。
俺もエルフお姉さんのテクニックに翻弄されたい人生だった。
「本日の営業、終了。撤収しよう撤収しよう撤収しよう」
予想より一時間早く、クエスト達成。
飲みに行こう飲みに行こう飲みに行こう。報告するまでが依頼だぞ。
「ヤマちょ、しごできなわりにモチベ低くない? もっと楽しんじゃいなよ」
「社畜はさ……どれだけ効率を上げても、増えるのは業務だけ。給料はむしろ減る」
「虚無感ハンパねえ!」
「フィオナさんもブラックでお勤めしてみれば、答えが得られるぜ?」
美人はセクハラがキツいな。止めとけ辞めとけ。
過去と決別するように、俺は首を横にブンブン振った。
「今回、マジ助かったじゃん。次はあーしが手伝うし。何でも言えし」
「ん……? 今、何でも言ったよね……?」
荒ぶる触手の気配。滾り、昂ぶり。
「もち、エッチなのはダメー。あーしたち、マブダチっしょ?」
萎える触手の気配。鎮まり、治まり。
ったく、思春期の相手は疲れますよホント。
正直、俺はこやつを御しきれていないと感じていた。
欲望を解放すれば、もっと性能が向上する気もする。
三大欲求に数えられるエロパワーが強いのは事実。
認めたくないものだが、俺はアラサーで性欲減退中。
若さゆえの過ちを言い訳にできるほど、ローマンティックにもなれやしない。
俺はもう、安寧を求めちゃってるよ……
まだ気張れるうちに、当初の目的――スキルの変更方法を探しておこう。
結論。
ここは一つ、音楽性の違いで解散を視野に入れなければならない。




