ざまあないね
「ほげぇぇえええーーっっ!」
瞬殺。
トレードマークのバンダナを斬られた、ソウケイ。
試合で見せ場を作ることなく、呆れるほど無残に息絶えた。
「デュエルフィールドじゃなきゃ、絶命だったな」
ギルド会館の裏庭には、決闘儀式用の結界が張られていた。
合意した対戦に限り、ルールを課されたゲームとなる。
バトルマニアがよく出没し、スポーツチャンバラ大会を開催してるとかいないとか。
「わたしの勝ちね。先輩冒険者の含蓄、学ばせてもらったわ」
クリスが剣を払うや、青天したソウケイへ手を伸ばしていく。
「かぁ~、よく言うぜっ。怒涛の連撃技、痺れたぜ。そんでもあんたにゃ余裕があった。奥の手を温存するくらい」
「それはお互い様よ。モンクの必殺技を引き出せず残念だわ」
「別に隠してねーっての。使わせてすらもらえなかったんだよ、ったく言わせんな」
ソウケイが立ち上がり、後頭部を乱暴にかきながら。
「あ~、まあ何つうかー……ヤマトの事、頼んだわ。追い出した手前、勝手も承知だけどよお。新しいパーティーなら活躍できるんだろ?」
「彼、わたしたちに必要だもの。サボろうとするけど、しっかり監視しておくわ」
女騎士の視線を感じ、俺は背後を振り向いた。誰かいるのかな?
鈍感アピールはさておき、働きたくないから頑張らなきゃならん。
人は矛盾を抱えながら生きねばならぬ悲しいぞ。
「フラれちまったし、俺は退散する。達者でな、ヤマト。美少女パーティーなんて羨ましいぞコンチキショー。代わってくれ!」
「はよ帰れ」
シッシッと手を払う。
「あんた、クリスだっけ? 実力はすでにシルバー帯の上位だ。早く拠点を王都に移せよ」
「気が向いたらね。わたし、この町が好きだし、冒険者の階級上げとか興味ないの」
「勿体ねえなあ! 俺が聖騎士スキル持ってたら、今頃お姫様の近衛兵だっての」
「ガーディアンは、ミスリルシールドよりお堅い仕事よ。我欲が強い人は即クビね」
全くその通りだ!
ソウケイは爆笑しながら、この場を後にするのであった。
「予想以上に強くて、ビックリ。多分、勝てるんだろうなーと思ってたけど」
「正直、長期戦は分が悪いから。早く諦めさせる速攻。ちょっと張り切りすぎたかも」
高揚感を弛緩させ、クリスの頬に大量の汗が伝っていく。
ゆらりと姿勢が揺れ、そのまま膝をついてしまう。
「ふーっ。魔力……使い過ぎた。もう空っぽ。一歩も動けない」
「強い技を使えば、すぐバテる。燃費の悪さの見本市じゃん」
「あら、ミューほどじゃないけど?」
「あのロリは例外。会場ごとぶち壊しやがる」
魔法少女(物理)はお帰りください。
「今日はエリクシール作りすぎて、触手が萎えてる。一本どうだい?」
いつも美少女相手だとビンビンなくせに、枯れた根っこよろしく生気がなかった。
仲間の分のエリクシールは、ポーチにストックしてある。自分、ヒーラーなんで。
「え。この後、マッサージしてもらうつもりだったのに」
「本日休業日」
「わたし、あなたのために頑張ったのよ? 冷たい仕打ちで悲しいわ」
押し付けられたビンに口を付けつつ、クリスがむぅ~と憤慨。
謝るべきか。誤魔化すべきか。逃げるべきか。
正解は、触手のみぞ知る。
野郎、必要な時にへばりやがって。そんなんじゃ、意味ないよ。
刹那、全く関係ない方向から天啓が下った。
「――っ! ちょ、待てよ! これって、まかさ……ざまあ展開だったんじゃね!?」
「ざまあ展開?」
きょとんと首を傾げた、クリス。
「――ハズレスキルとバカにされた俺。足手まといは必要ないと追放されるが、実はSSS級のチート能力だったと判明。パーティーを理不尽に追い出した連中が全く通用しなくなり、俺の真の実力に気づいた頃には立て直せずもう遅い。今までの悪事もバレて、俺を利用して積み上げた功績が全て崩壊の末路を辿る……ってやつ」
「長いっ」
長文タイトルはお嫌い? 気持ち、分かります。
けど、仕方がないじゃない。この説明文で八割決まるって、ネットに書いてあったもん。
「いや、別にチート能力持ってねえ。あいつらに意趣返しする理由も特にないですやん」
「そういうの、ヤマトさんはやらないで正解よ」
クリスは考えるような仕草で。
「相手の不幸で悦に浸るなら、性根の悪さが同じレベルだと白状しているでしょ」
「だから主人公が悪者にならぬため、悪徳勇者にできるだけヘイト稼ぎ――」
俺は、頭を横に振っていく。
「この後、ガサッツと約束してたんだ。クリスさんはもう帰る?」
「また飲み会? 大人ってほんと好きね、お酒」
「仕事終わりの一杯が唯一の楽しみさ。百薬の長をこうグイっと、魔力も漲るもんで」
「働きたくないと豪語し、アルコール大好き。今度はギャンブルでも嗜むつもり?」
「賭け事は全然。肌に合わなかった」
競馬とパチンコを一度試したけど、何が面白いのか分からなかった。二万返せっ。
ビギナーズラックで脳汁ブシャーせず、逆に良かったね逆に。
「一応、助けてもらったよな。クリスさん、晩飯奢るよ」
「迷惑なスカウトを追い払っただけ。せっかくだし、行きたかったディナーを頂こうかしら」
「ちょ、まっ。今月ピンチで……ポテサラとかレバニラ炒めで勘弁してもろて」
脳内で居酒屋メニューをめくっていた、俺。
「今夜は楽しみだわ、サワークリームたっぷりのビーフストロガノフ」
クリスはご機嫌そうに、軽やかなステップを披露する。
残念ながら、本日の利益がまるっとロシアの郷土料理へ還元されるのであった。
当然のように異世界で現代料理を出すな! 世界観どうなってんの!
ナーロッパ設定に甘えた結果がこれである。
留飲を下げるどころか、涙ちょちょ切れですわ。
やっぱり、ざまあ展開で気持ち良くなるべきだったか。
テンプレの重要性に今更気づいたところで――もう遅い。




