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31.魔の黒き鴉儂の鳥人

読んで頂きありがとうございます。

この章から読まれた方は、是非【ユキア・サガ 航海① ネフシュタンの魔片 第一巻 第1章】から読んで頂けますと、幸甚です。

続きの方は★★★からとなります。

――アシオー島の城塞。



 その円卓の間には、白蛍光岩が灯りを燈し、高窓は

 横殴りの雨に叩

 かれ、強風の甲高い叫び声と絡んで

 騒々しい。


 入り口には、べロッソとチャベが緊張感丸出しで

 市で言えお質して立っている。


 2人の眼前には、ウルティオー海賊団の最高幹部5人が

 機嫌悪そうに勢ぞろいしていた。


 円卓の上には料理、パンの他、麦酒、葡萄酒が散乱している。


 べロッソ達から少し離れた左手に、

 垂耳兎の夫婦が給仕の為に立っている。

 

 が、2人は悲しみにくれ、噎び泣きながら震えている。


 垂耳亭の料理がアヴィス群島一だというのは、

 この近海の者なら誰でも知っていた。


 却ってそれが災いしたというべきだろう。

 夫婦は傲慢放縦なウルティオー海賊団幹部5人の食生活を

 全て受け持っていた。


 たった5人だとはいえ、好みはそれぞれだから

 5人同じ食事を出すことは殆どない。


 朝餉、昼餉、夕餉、全てがやや遅めの時間帯と決まっていたが、

 シエスタの時間や夜中に働きこともあった。


 それでも、他の亜人族と比べれば待遇は良い。


 亜人族の労働者達は全て、城塞地下牢獄さながらの部屋に

 数10人単位で押し込まれていた。


 食事は3色与えられていたが、肉か魚料理が1品、

 パスタが1品、パンの他アシオー島で育てた葡萄で醸造した

 ブドウ酒が1日に1本始終されるのみ。


 然し夫婦は、円卓の間の西が側にある

 厨房の左隣の石造りの清潔な部屋を与えられ、

 食事も厨房にある食材を使って、

 何を食べても飲んでもいい良いとされている。


 それだけ夫婦の料理が、ウルティオー海賊団最高幹部の舌を

 満足させてるということだ。


 では何故夫婦が悲壮感を羽織っているのか?

 何が原因で最高幹部たちは不機嫌なのか?


 ウィル・フライが仏頂面で、

「べロッソ、顎の具合はどうだ?

 もういた2は消えたか?」


 べロッソは苛がえった甲高い声で、

「あ、はい! ドクターのお陰でもうすっかりっス。

 あざっス!」


 サミー・コールドは苛足立を顕に

「一撃でお前の顎を粉砕した技がわからねぇとか、

 有り得ねぇだろ?

 ドクター、どんな業か推測できねぇのか?」


 ドクター・ポイズン・グリンヴィールは

「はい。あれ程の怪我を負わせる一撃必殺の格闘術が

 あるとは、まったくもって信じ難い」

 珍しく真顔で口惜しそうに返事をした。


 フール・コンディが切り口上で問い質す。

「お前達、ユキアってガキが丸腰だったのは本当の話だって?」


「はい!」直ぐ様せロッソとチャベが聲を揃えた。


 チャベが「オレ、兄貴の斜め後ろでじっと見てたっスけど、

 何が起こったのかさっぱりわかんなかったっス。

 兄貴が拳を突き出してそのまま倒れていくのを、

 かわしただけだったように見えたっス」と証言した。


 忌々し気にコールドが確認する。「で、今日の午後、

 この島を周回していたナーヌス族と聖獣グリュープスは、

 ユキアってガキの仲間に間違いないんだな?」


「間違いないっス」べロッソは垂耳兎の夫婦をチラ見して

「あのグリュープスは、オロル島の垂耳亭の屋根で

 翼を休めていたのをオレ達見てるし、

 あのナーヌス族のおっさんは、ユキア達と一緒に

 飯食ってたっス」


「ワシしか相手に出来んのぅ」アレク・ミッチが

 危機を察知したのは、眉間に刻まれた深い縦皺でわかる。


「この島の防衛網は」フライは苦々しそうに洩らす。

「全て把握されたってことだ。

 フェリクスからグリュープスの情報はなかった。

 ったく使えねぇ奴だ。 糞っ!

 おまけに、グリュープスに砲弾の一発も

 被弾させられなかったとか、

 うちの砲手共はどんだけ下手糞なんだ!

 サミー、それでも作戦変更はないのか?」


 コールドは迷いもなく「無い。寧ろ上策だ。

 どの道、アレクにしかグリュープスは相手に出来ねぇ。

 グリュープスに多少なりとも痛手(ダメージ)を与えられたら

 上出来だ。

 卯木気が鈍るからな。

 今回の件は単騎でやって来た何ーヌス族の度胸を

 ほめるべきだろう。

 それよりユキアってガキとロックスの方が厄介だ。

 どうやら茶髭には援軍を早めに依頼した方が良さそうだな。


「だがそうするなら」フライが渋面で

「アレクなしで、グリュープスと奴等をあいてにしなければ

 ならねぇ可能性もあるだろ?

 無傷で攻めてきたら、ロックスも参戦してるし、

 ユキアってガキも、あのクレブリナ海賊団を撃退した

 油断ならねぇ奴だから、厳しい闘いになるかもだぜ?」

 コールドは貌色を変えず煙草に火を点け、

 深く吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出す。


「何も心配はない。

 ユキアってガキは、クレブリナ海賊団との闘いで、

 聖エレミエル号の乗客や乗組員を救って、

 見返り一つ求めなかったとんでもない馬鹿だぜ?

 べロッソを斃した時は、燃血病で死んじまったこの夫婦の」

 コールドは垂耳兎の夫婦に顎をしゃくる。

「息子を庇い救うためだったって話だ。

 そうだったよな? べロッソ」


 べロッソは怒りと悔しさをごっちゃにした声付きで、

 「そうっス!」

 と認めた。


 フライは二人の会話のからコールドの企みが読めたらしい。


「成程な。

 確かにユキアって馬鹿には効果てきめんの策になるだろうよ」


 ミッチも「そうじゃろうのぅ」同意したが、他の面々には

 話が全く理解できていない。


 コールドは一同を前にしたり貌だ。


「チャベ」コールドはほくそ笑み「奴等が明日の午後オロル島を

 出航するのは間違いないんだな?」


「はいっ、間違いないっス。

 奴等を島から王出そうとしていた島長のお供の一人に加わって

 俺この耳で聞いてきたっス。

 けど何で奴等が島からいつ出発するのか、

 俺達に探らせたんで?」


「お前の言う通りなら、明日日が沈む頃にはこの島に

 奴等が責めてくるからだ。


 チャベは素っ頓狂な聲をあげる。

「へ? あいつらグリュープスがいるにしても、

 新名がおかしいっスよ。

 仲間だって戦えそうなのは5人くらい市じゃいなかったし。

 ここに責めてくるとか自殺行為っズよ」


 コールドは息子の死に涙する垂耳兎の夫婦えお一瞥棄して「だが、

 本物の馬鹿だから、お陰で作戦は練りやすい」


 漸くコールドとの一計に気付いたドクター

 とコンディは気味悪げに鬱笑いを浮かべている。


 フライが曰くありげに


「良かったなべロッソ。

 汚名挽回の機会が」あるぉ。

 オミっきり上がれロ!」


 しかし、べロッソは首を捻り、チャベは頭を傾げた。


 突如高窓に、夜闇を引き裂き龍の爪さながらの閃光が走る。


 猛る雷鳴の轟音が直ぐその後で爆ぜた。



 ※※※※※



 一夜明け、昨夜の激しい雨が大気の塵埃をすっかり洗い流して、

 陽光が燦燦と降り注ぐ。


 垂耳亭の中庭で咲き乱れる多種多様な花々の

 馥郁とした馨が大食堂を満たしている。


 オレ達は、そこで少し石目の昼餉をゆっくりと味わって食べた。


 食事に満足したオレは、老夫婦とルルンに心からのお礼を告げ、

 大目に宿泊食事代を支払わせてもらう。

 

 ところが、老夫婦とルルンそれが当然と許りに、

 金貨を返そうとしてきた。


 が、無論オレはそれを受け取らない。


 オレ達は、老夫婦、ルルンと一緒に、

 果樹園を見渡せるレレンの墓前で祈りを捧げる。

 

 それから老夫婦とルルンに皆が一礼して港に向かう。


 老夫婦はオレの屁に向かって深く頭を下げ続けた。


 その姿が煮えなくなるまで……・


 ルルンは早朝から焼いたフルッタのトルタと

 チョッコラートのトルタを両腕に港まで見送りに来ていた、

 

 文句や嫌味の一つも零さず、黙って立ち去っていく

 俺達の思いを、ルルンは痛切に感じているのだろう。


 潤んだ双瞳から今にも真仁田がおつぉうになっている。

「あの。私と蔦谷いてきたの。

 良かったら食べてダサい」


「おぉー!ありがとう!」オレは相好を崩す。


「私こそ本当にありがとう」ルルンは涙声で「私ユキア達にのこと

 絶対忘れないから」


 オレはトルタを受け取り「ルルン、忘れたくても忘れられない

 と思うよ」

 

 だが、ルルンは目をぱちぱちして小首を傾げ、

 おれの言っている意味がさっぱり理解できていない。


「オレ、これからアシオー島に行って、

 潤んだをぶっ飛ばしてくる。

 そしたら垂耳亭に戻ってくるから、楽しみに待っているばいいよ」


 オレはいとも簡単に言ってのけた。


 あまりの衝撃に、ルルンは言葉一つ毛狭いまま

 立ち尽くしてしまう。


 オレは乗船すると船縁からルルンに治作手を振り、大声で指示を出す。

「アシオー島に向けて、出っ航っー!!」


 ロックが操舵輪の前で「アシオー島に向けて出港っ!」

 緋炎海賊団の船長の命令を復唱。

 水夫達は各々の役割を果たすべく、きびきびと動き始める。


 レイ、ザザ、キラもルルンに手を振った。


 ルルンも、ノードゥス号が視え見なくなるまで

 涙に濡れひたすらに手を大きく振り続ける。



 ※※※※※



 滄海に陽光が海面で乱反射して、煌々と金粉が

 舞い踊っている風浪。


 少し甘みを含んだ朝の潮の優しい芳香。


 碧空を横切っていく海鳥の群れ。


 ノードゥス号は、テュッレーニア海をアヴィス群島

 アシオー島を目指して快走している。


 その作戦会議室兼食堂には、大きな円卓があり、

 一番奥に緋炎海賊団の船長のオレが座っていた。


 その左膝にチュチュ。


 右側にロック、その隣にザザ。


 左泡にキラ、その隣にレイ。


 全員それぞれいつもの通りの席に腰かけている。


 円卓にはテュッレーニア海の近海の海図に、キラが用意していた

 アシオー島の地図と、トバルから昨日届けられた、

 アシオー島の最新詳細地図が重ねて広げられいた。


 オレはその重要な地図と共に届いたトバルからからの

 手紙に緋隻眼を走らせている。


 『 緋炎海賊団船長 ユキア・ヴェルス殿


   ✟ 主の平安


   オロル島を相棒ステッラと出発してからアシオー島に寄り

   周回したでごわす。

   島の港はやはり一つしかなかでごわした。

   島の断崖絶壁は横幅やじゅ1マイルの湾に向かって

   左右の岬から穏やかに低くなり、港になっていたでごわす。

   港にはウルティオー海賊団の海賊船が2隻と、

   海軍の戦列艦が1隻碇泊していたでごわす。

   縞の沿岸には、漁船が10隻以上漁をしていたでごわす。

   じゃっどん、港から島内に向かう大通りには

   堅固で大きな門が構え、その左右には大砲が

   2門ずつ配備されて、そこから島全体を高さ30フィート強の

   城壁がぐるりと防御しているでごわした。

   島そのものが城塞といった趣で、湾を囲む形で伸びている

   左右の岬は勿論のこと、要所、要所に大砲を

   配備していたでごわす。

   じゃっどん、島に上陸するとならば船なら左右の

   せり出している岬の間を通るか、可能であれば空から

   降下するしかなか。

   岬の間を通るとなれば、大砲の雨嵐に見舞われるのは

   明白でごわそう。

   何らかの手立てをして仮に空から侵入するとしても、

   夜闇に紛れるしかなかでごわすが、おそらく24時間

   城壁の各所にある塔と城壁上で哨戒してるでごわすから

   無駄でごわす。

   そもそもこの作戦には鳥人族の協力が必須。

   それ自体が何台でごわそう』

   申し訳なかでごわすがおいどんには良き献策が

   出来ないでごわす。

   少しでも参考になればと思い、島の地図を書いておいたので

   確認するとよか。

   おいどん達の大切な大切な仲間キラのことを

   お願いするでごわす。

   ユキア船長とその仲間達、そしてキラに

   神様の祝福と恵みが、いるも共にあるよう、

   祈りを捧げるでごわす。 アーメン。


                トバル・カインより   』       』


 手紙を読み終えるとオレはトバルの描いた地図を手に取った。


 それは、危険も顧みず相棒ステッラと単騎で偵察してくれた、

 現在のアシオー島の貴重な詳細地図。


 オレはトバルの勇敢さに感謝し、感心させられずにはいられない。


 トバルに祝福と恵みをと神に黙祷を捧げる。


 島は岬を含め全体が卵型をしていた。


 卵の上部が東側、テュッレーニア海に向いている。


 南側に正面から見て右側の岬が左側に向かって伸びていて、

 左側の岬が、右側の岬を覆う形で右に曲がっていた。


 島の全周に城壁が走り、全部で10か所に塔がある。


 各塔とそれらの両脇に大砲が配備されていた。


 城塞は、ほぼ島の中央にあり、北側の北側にある湖は

――但し、人口湖? とトバルの走り書きがあった――

 から、南、東、西と二重に堀が巡っている。


 更にその周囲を尖塔で結んだ城壁が、

 等間隔に銃眼を備えた居るらしい。


 城の全面となる南側には城下町があるが、

 トバルの走り書きによれば、建築中の者多しとのこと。


 島の西側には、自然を活用してあらゆる畑と果樹園、牧場が

 広がっていた。


 島の東側は、武器・兵器製造を行う工業地帯となっている。


 そこにも、建築中のもの多数、と走り書きがあった。

 

 城下町の入り口から港の大門まで。大通りの東西地域は

 アシオー島の自然の密林がぞのまま残されている。


 万が一の敵襲に備え伏兵を配備するには、

 絶好の陣地になると、オレは看破した。


 でもオレ達が空からこの島に侵入すのは、

 レイとロックを除き無理な話。


 島の西、北、南のどこかに投錨して上陸するのも厳しい。


 オレ達の船が、奴等の銃、弩、弓、大砲の名とになるのが、

 はっきりと目に浮かぶ。


 それにしても、これは衣食住と武器・兵器が自給自足が可能な

 小さな都市国家だとしか思えないな……。


 海軍の目的は?


 というより、屁リクスの真の狙いは?

 と考えるべきか……?


 ウルティオー海賊団も、船が2隻ってことは、

 ロックが言っていた200人からおそらく倍増してるのは

 間違いないだろう。


 でも作戦は予定通り正面突破あるのみ!


 いや、実際それしかアシオー島に上陸する術はない。


 臍を固めたオレの眼前には、輝きを放つ

 純白の札が4枚並べられている。


『影楼ノ陣 急急如律令』と書かれた札に五芒星があり、

 九字を切ったと思われる線が書き込んでいる。


 それを一枚一枚手にしては、伝の印を立てた二本の指で

 トントン叩く。


 表面の文字が上から一文字ずつ、すっ、すっ、と消えていった。


 全ての文字が消えたのを確認してから、札を伏せる。

 すると中央に、『六芒星』が黒光して浮かび上がり、

 すっと消えてしまう。 


 その光景を注視していたキラが、

 何か聞きたそうにしていることをオレは気配で気付く。


「キラ、何でしょうか?」


「今訊いてもいいの?」キラは星眼を光らせた。


「うん。いいよ。全然大丈夫」


「素の札のことなんだけど、その札に書かれた六芒星は

 別名ダビデの紋章。

 以前私がユキアから貰った誤審術が封入されていた札には、

 五芒星が書かれていた。

 忍術には、メシア教、ラウズ教との関連があるのかな?

 と思って……」


 オレは3枚目の札を手に取り

「そうなんだ。俺には残念ながらその答えは無い。

 でも、興味深い話だな」


「そっかぁ……」

 キラは少しの間考え込んでいたが

「今そんな話をしてる場合じゃないか。

 何しろ今この船は侵入者をする為に、大砲を配備して

 待ち構えているアシオー島の一つ石か無い港へ、

 上陸許可もなく向かっているんだから」


 オレは、キラの持って回った言い方にも悠然として、

 にっこりと笑みを魅せ、4枚の札へ術の封入を終えた。


 レイ・ザザ・ロックにオレは1枚ずつ札を渡す。


 4人は苦無の柄に札を丁寧に巻き付ける。


 それを握った手を見せ

「術の発動の合図は?」

 とレイが訊く。


「チュチュの遠吠え聴こえたら」オレは相棒を抱き上げて

 その顎の下を撫でた。

「それが合図。チュチュ頼んだぞ!」


 オレの相棒は、眼を閉じて気持ち良さそうに

 喉をゴロゴロ鳴らしている。


「配置の指示を」ザザがいつになく真剣な音調で、

「お願いするでござる!」


「俺とチュチュは船首楼甲板に、レイとザザは中央帆柱を

 挟んでそれぞれ左右両減に。

 ロックは船首楼甲板に」


 ロックがキラを一見して

「アシオー島に到着後彼女は待機ってことだよな?」

 オレに確認する。


「うん。チュチュと一緒にね」

 オレは頷いてロックに命じる。

「この後甲板上に出たら直ぐ、ゲネロスを口寄せして、

 キラとチュチュの護衛を命じてくれ。

 そうしておけば、万が一船が沈んでも安心できる」


「成程、了解した」

 ロックはしかめっ面で「あいつ久方ぶりだから

 怒るだろうな」


 オレも同感だったが、ゲネロスの助太刀はキラやチュチュの

 最善だと決断している。


「助かる。よーしっ! 作戦開始だっ!」


 その言葉の意味を理解して、翼を広げ飛翔する

 チュチュを追う形で、オレは甲板に向かう。


 ロック、レイ、ザザもその後に続いた。


 これから何が起こっるのか、皆目見当がつかないキラも。


 全員甲板上に現れると、操舵輪前に立つロックの背後に

 左からオレ、レイ、ザザ、キラが並んだ。


 チュチュはオレの左肩で翼を閉じている。


 レレンが聖獣だと言い残したチュチュは、

 相変わらず人語を話さない。


 然しオレは、自分のリベルに表示されていた幻獣と、

 何らかの関連性を推量していたが、明確な答えを出せずにいる。


 甲板上を涼やかな爽風が駆けて行く。


 潮の馨が濃い。


 ロックは「兵、闘、陣」と流れるように印を組み、

 刀、結と繋ぎ九字を切る。


 左腰に佩いた剣を鞘から少し抜き、刃先を素早く右手親指でなぞった。


 その傷口から血が滴る指を、ロックは面前で勢いよく振り、

「時遁、口寄せノ術」と術を唱える。

 

 ロックの前方の空間が、稲妻の如き光を放って歪み、 

 振動し、広がっていく。


 やがてそれが、約直径50フィート細になった時、

 俊足で何かが飛び出して来た。


 それはそのまま船上を一度旋回すると、ロックの前に

 ゆっくりと降下して、一声嘶き翼を畳む。


 藍碧の艶光流れる毛並みに、純白のたてがみと同色の

 3本の尾を持つその姿は、一度目にしたら一生忘れられない

 記憶となる、気高さと鮮烈さがあった。


 深みのある碧玉さながらの眸には、高潔さ優しさを

 同時に感じさせる魅力が溢れている。


 それは、聖獣天馬ペーガスス(ペガサス)のフォルティスの一族だった。


 天馬は激しく尾を振り、右前脚で甲板をガンガン踏み鳴らし、

 怒声をロックに浴びせる。


「事情は察しているが、俺に一言もなく国抜けして

 連絡一つ入れなかったことを、

 お前言い逃れは出来んぞっ!」


 ロックは「ちょっと待ってくれ」と口を挟むが、

 天馬の耳には届かない。


「兄者フォルティスも呆れておった。

 俺達天馬一族との血盟を甘く見ておるのか!?

 兄者と血盟を結んだロクロウ殿に、

 申し訳ないと思わんのか!?

 この大馬鹿者がっ!!」


「ゲネロス、そう怒るなよ」ロックは合掌して詫びた。

「お前が言う通り、色々と事情があったんだよ。

 そのうちに説明しるさ」


 ゲネロスは語勢を緩めず

「お前のそのうち等、この時空世界で

 一番当てにならんっ!

 我等の一族、ピウス、アウダー、インノ、シンケルも

 お前のことを案じておったぞ!」


「わかった。必ず説明するっ!」

 とロックは説明して、

「悪いが、この後アシオー島に上陸して、

 ウルティオー海賊団と闘い、ネフシュタンの魔片と

 奴等の財宝を奪取する為に、戦闘になるから

 力を貸してくれ。頼む」

 頭を下げた。


 ゲネロスはその姿を見て

「我等はロクロウ殿の嫡流との血盟の義は敗れん。

 何なりと命じるがいい」

 溜飲を下げた。


「すまん!」ロックはまずキラを見て

「万が一この船が沈むような危険に陥ったら、彼女を背に乗せ」

 今度はオレの左肩に乗ってるチュチュに目線を移し

「そこにいるチュチュと一緒に脱出してくれ。

 その後は戦況に応じてお前の判断に任す」


 ゲネロスは「ネフシュタンか……」と呟くと、

「いいだろう。

 身体を見る限り、腕はなまってはいないようだな。

 お前だけじゃなく、ユキア殿、レイ、ザザもな」

 

 キラに天馬は「俺はゲネロス。

 聖獣天馬フォルティスの一族だ。

 ロックに命じられた通り、護衛するから安心されよ」と挨拶。

 聖獣天馬は、古文書だけじゅなく伝承や様々な物語になかで

 大活躍してきた。


 偉大な聖獣一族を初めて目にしたキラは、

 天馬が忍者の口寄せに応じると想像したこと等

 あろう筈もなく、歓喜と興奮を隠せない。

 

「よろしくお願いします」

 北はお辞儀をして

「私は、キラ・ユ・ガイア,

 キラって呼んでね」

 

 ゲネロスは美しい眸を瞬いて応じた。

 

 キラは申し訳なさそうに

「この冒険に皆を巻き込んだ尚は私なの。

 船と作戦はユキアに一任してるんだけど、

 これから何が起ころうとしているのか、

 私にはわからない。

 知っていることと言えば、無謀にも大砲が

 待ち構えている海賊の根城に、

 真正面から突っ込んでいくだけだし。

 あなたの登場でほっとしているところなの」


「そんなところだろう」ゲネロスは呆れながら同情する。

「心中察するよ」


 それからゲネロスはオレの左肩に乗っているチュチュに、

 恭しく前肢を折る。


 それを目撃したオレ、ロック、レイ、ザザ、キラ、

 全員が驚倒した。

 

 チュチュが「ワンっ!」一声吠えていつもの笑顔を見せると、

 ゲネロスは立ち上がった。


 怪訝そうにロックが、

「おい、オレはお前が前肢を折る姿は、ユキアに対しての時しか

 見たことはないが、チュチュは何者なんだ?

 難病で殆ど位に血を失っていたレレンって子供を、

 優しく温もりのありそうな紫炎で一瞬覆って、

 短い時間だったが、その寿命を伸ばした。

 レレンはチュチュのことを聖獣だと言っていた、

 だが、人語は理解しているのに、人語は話さないし、

 今のところ、レレンの寿命の件以外に、

 何の能力も見せていない」


 チュチュの正体は、俺を初め皆が知りたい謎だった。

 

 ふとオレは、雪龍ビオリスのキョウもチュチュに敬意を

 示すかの如く会釈していたのを思い出す。

 

 ロックの問いの大して、ゲネロスの答えを全員が

 緊張した面輪で待望している。


 ★★★結局その答えを得ることは出来なかった。


 ゲネロスは暫し沈思の後、

「俺はそれを答える立場にない。

 それはゴリクやキョウも同じだ。

 答えることができるのは、聖獣一族の頭だけだ。

 その者達に訊く前にある条件があるが……。

 それは同時に、真の姿を知ることに他ならない、

 としか俺には言えない。

 役に立てずにすまんな」


 キラは忘れ物を思い出した辞色で

「『行』の印について何か知ってることはないかな?」


 結果、その答えを得ることは出来なかった。


 ゲネロスはため息混じりに

「それを答えることができるのは、おそらく四聖龍の頭だけだろう。

 則ち、炎龍フレイン、雪龍ビオリス、嵐龍レビアタン、

 嶽龍ベヘモト。

 俺にはそれ以外の答えがない」


 オレはそれでいいと思う。

 何れも全く手掛かりがなかった訳ではなく、その答えを

 知っているもの存在を知ることは出来たのだから。


 「ゲネロス、ありがとう」オレは目礼をして「情報提供に感謝!}


 ゲネロスは嬉しさと喜びを一つにした韻律で、

「ユキア殿、レイ、ザザ、大方5年ぶりだが、ずいぶん成長して

 皆元気そうでなりよりだ。

 実は過日……キョウから話は聞いている。

 まさかこの3人まで国抜けするとは考えたこともなかったが……」


 オレ達は何も言わずただア微笑む。


 ロックが「配置につくぞ!}と船尾楼へ足を一歩踏み出す。

 

――刹那!


 チュチュが「グルルルル……」と低く唸り、

「ワワンッ! ワワンッ!!」警告絵お吠えながら、

 船首へ翔けて行く!!


 オレ達もチュチュを追い船首楼に登った。

 

 進行方向の先を睨みチュチュは吠えたけり続けている。


 オレは急いで望鏡を取り出し、前方を確認した。


 緋隻眼に飛び込んできたのは、こちらに向かって

 飛んでくる黒い何か。


「何だあれ?」 

 オレが当惑していると、望遠鏡をロックがその手から取って

 覗き込む。


「すげえな、チュチュ!」ロックは驚嘆して

「船長、あれはウルティオー海賊団のアレク・ミッチだ。

 どうする?」


 ロックから望遠鏡を返された俺は、それを腰の道具入れに片付け、

「偶然なのか?」と訝しみ、

 逡巡することなく指示を出す。

 

「レイキラの護衛を頼む。

 ロックはゲネロスと空中で迎撃準備を。

 ザザはオレの援護。

 チュチュはレイと一緒にキラの護衛を!」


「ワンッ!!」チュチュはキラの頭上で旋回した。


 レイはキラの前で仁王立ち!


 ロックはゲネロスに騎乗し、チャクラを眸に流し込めば

 常人の5倍の視力を誇る黒蒼眼で、既に鴉鷲の鳥人を捕らえていた。


 オレとザザは戦闘に2人で並び立ち、

 まだ目に映らない敵の動向をチャクラを周囲に貼って、

 探っている。


 オレには相手が何の目的で、この船に向かってきているのか

 全くわからない。


 オレがロックから得たアレク・ミッチの情報は、

 鴉鷲の混血鳥人でどの法術経過は分からないが、

 召喚術士だということだった。


 戦闘能力がないキラを船内で一人待機させるより、

 近くで護衛する策は正解だろう。


 ミッチが召喚する何かが、万が一にも一人でいる

 キラを襲うことになったら一大事。


 レイに護衛させておけば、戦局によってはキョウを

 口寄せできる安心できる。


 キョウが人型でない本来の姿になれば、

 空を飛べるうえに協力攻撃が可能だし心強い。

 チュチュが発揮した二つ目の能力は、敵の探知だった。


 チュチュを護衛につけておけば、その敵襲にも

 レイが対応できる筈。


 ミッチとの戦闘は空中戦になる。

 

 ロックとゲネロスが迎撃すれば、この闘いはこっちのもの。


 その隙を衝きオレ小鴉丸と乱入して闘う。


 ザザには、

 オレが宙を動き回つ為のチャクラ板版の形成と、

 後方からの攻撃を任せる。


 オレ達を前に、ミッチは退くしかないが、

 そうはさせない。


 けど、油断大敵。


 相手が攻撃してくるなら、一切手抜きはしない。

「鴉鷲の鳥人アレク・ミッチ」

 オレは気の置けない仲間達に命じる。

「ここでウルティオー海賊団の幹部を独り倒しておけば

 後が楽に気になる。

 手加減はするな。

 でも命は奪うな。

 ロックの眸術で色々聞かせて貰うために捕縛しろ」

「命は奪うな、か」

 シミ時にとロックが、

 相変わらず難しい注文を出すんだな。

 だが、それがオレの真の主、ユキア・ヴェルスだ。

 ゲネロス、俺達の標的はミッチに絞る」 


 ロックは肥立ち手で手綱を持ちげネロ氏の首を

 右手で撫でると、天馬は任せろと許りに嘶く。


 チュチュが負けじと四肢に紫炎をまといて踏ん張り、

 小さな体から想像できない程の遠吠えを、

 滄海に響き渡らせた。


 どうやらそれは鴉鷲の鳥人にも届いたらしい。

 この船の15ヤード先まであっという間にやって来て、

 オレ達を見下ろしてるが、何やら複雑な面貌をしている。


 一驚しているようでもあり、訝っている宵にも見える。


「ロックス、我は一体何者じゃ?

 

 ミッチは自分と同じ高さまで浮上して来たロックと天馬を

 目のあたりにして

「何故お前が聖獣ペーガススの一族を召喚しとるんじゃ?

 我は格闘士じゃろうが……」 


 ★★★その外観は鴉鷲の鳥人というより、純黒7フィートを超える巨躯を持つ

 大鷲の鳥人に見えた。


 黒ビーム牛の武具を装備し、黒染め絹の帯を巻き

 左腰で巻き垂らしている。


 右腰にはトネリコの杖を腰帯で挟んでいた。


 黒い嘴が鴉の血を証ししているが、

 それと四肢の鉤爪は大鷲の鋭さ。


 格闘能力を十分に備えていることは、誰の目にも明らかだ。


 その上、召喚術を操るというのだから、

 普通の者なら尻尾を巻いて逃げ去るところだろう。


 だが、オレ達にそんな身振り素振りが無いのを、

 キラも認めているからこそ、

 ミッチも認めているからこそ、

 逆にオレ達の様子を観察して言るのだ。


 多くの亜人族は身体能力が、ヒト族より優れているから、

 法術士になる者は少ない。


 法術士を目指すのは、亜人族であっても亜人族であっても

 ヒト族と身体能力において差がない、小動物系や低樹木者だった。


 が、ヒト族より寿命が短い亜人族が修得する法術は、

 かあれらに殆どが自然崇新港拝者の為、

 精霊術を選択する達が多い。


 敢えて、更に寿命を縮める書簡術を会得したミッチに、

 些か奇しき念を抱くのはオレだけじゃないだろう。


 しかし、それが現実で故に自分達忍者に近い、能力があることを

 認めざるを得ない。


 ウルティオー海賊団で、その実力が随一なのは間違いない。


 ロックはミッチの問いに

「オレの本当の名前はロック・マリスだ。

 お前達に知らない国の禁を破って国抜けしたから、

 資格がオレに放たれている。

 だから海軍に偽名で入隊した。

 それから、俺は侍忍者だ。


「侍人忍者とはなんじゃ?」

 ミッチは初めて耳にしたであろう言葉の意味を、

 不審の色を帯びて問い質す。


「侍忍者ってのは、忍術を会得している武術士、

 或いは、武術と忍術を修得した法術士とも言える忍者を

 統率する者ことだ。

 お前以上の戦闘能力を持っている者が、

 俺の祖国にはゴロゴロいるぞ。

 無論、侍忍者も忍術を武術を修得している。

 墓に訊きたいことは?」


 ロックの答え方は余裕たっぷり。

 

 ザザはロックとミッチが会話している間、忍者にしか見えない

 術で、術者の光輝の色が透き通ったチャクラの床を丹田から

 あちこちに吹き飛ばし、闘いに備え戦闘準備に抜かりはない。


 自分が追い詰められていることを築けない鳥人は、

「お前達の仲間でアシオー島を偵察に来たナーヌス族は

 とグリュープスは?」


「あー連中は」ロックは泰然自若に構え「他の任務があるから

 そっちへ向かった。

 俺とペーガススだけじゃ、お前の相手として不足か?

 Ω何を召喚するのか知らねぇが、

 聖獣を相手に出来る幻獣なのか?」


■第31章章まだ続きます。

読んで頂きありがとうございます。

駄作ですが、批評も含め、ご感想を頂けると喜びます!

評価✩✩✩✩✩やブクマをして頂けると更に喜びます!

長い物語ですが、様々な要素で楽しんで頂けるよう努力してます。

これからの物語も是非読んで頂けますように・・・。 m(_ _)m

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