28.ウルティオー海賊団
読んで頂きありがとうございます。
この章から読まれた方は、是非【ユキア・サガ 航海① ネフシュタンの魔片 第一巻 第1章】から読んで頂けますと、幸甚です。
続きの方は★★★からとなります。
薄暗い空間を、白蛍光岩が照らす殺風景な石造りの一室。
シエスタの時間に男達が気怠そうに酒盛りをしている。
楽に10人以上は席を持てる花崗岩の円卓には、様々な料理やパンが散乱している。
ルム酒や葡萄酒が並び、それらが空になった酒瓶が転がっている。
が、そこに座っている者はたった5人。
右腕の手首辺りから螺旋状に腕輪を巻き付けた男が、部屋の中央奥側に座り、左隣の椅子に大剣を立てかけている。
ぞの身には珍しい角象ーー頭部から攻撃用の円錐形の角を二本生やせている獰猛な象ーーの武具を装備している。
両拳の親指を除く指関節の付け根には、茶金に耀く金属が埋め込まれ目を引く。
肉汁と血の滴る馨ばしい串刺し肉に、がぶりと食いついて勢いよく噛みちぎった。
その口許が脂ぎって、てらてらと鈍く光ってる。
男は肉を呑み込むと「フェリクスの野郎使えねぇ奴だな。茶髭のバルバロッサの援軍は無しだとよ」
カエルム便で先刻届いたフェリクスの手紙を空いた方の手で持って読み、肉を喰らう。
「船長、いつになったらキラって女はここに現れるって?
待ちくたびれてオレの背中に苔が生えてきたって」
岩松の木人は、正に前進がゴツゴツトした岩で、武具を装備する必要がない。
枝野しか観えない四本の枝腕で、ガリガリ背中の岩肌を掻く。
頭、肩、肘に岩の針葉が生えていて、その一本一本が尖鋭な槍先だ。
「はい。コンディ」汚れた白衣の上に灰色の外套姿をしたやせこけた男が「では私がその痒みを止めて差し上げます。
腕を一本差し出しなさい」
何時用意したのか、太い注射器の針先から毒々しい黒緑のどろりとした液体が溢れた。
蒼白な貌に嬉しそうな笑みを浮かべ気味が悪く、どこから見ても怪しい。
慌ててコンディは全ての枝腕を背中に回し、
「ちょっ、注射なんかしないって!
ドクター、俺まだ死にたくないって!」
と左隣にいる船長フライに向き直った。
「つか、俺達いつまで城塞建築や街造りを続ける心算だって?
そもそもオレ達は海帝艦隊の一員だって。
茶髭が応援に来ねぇなら、俺達もとっととこの島から出て行こうって。
こんな蒸し暑いところにいたら、オレ干乾びるって。
大体、キラって女がいつここに来るのか、誰も分からないって!」
フライは行き成り立ち上がり、コンディを蹴り飛ばす。
その右隣にいたドクター・ポイズン諸共ぶっ飛ばされてしまう。
「喧しいっ!」フライは激怒した。「じゃあ今すぐここから出て行けっ!
序にもう二度と俺の前に、その苔くせぇ匂いがプンプンする姿を見せるなっ!
俺と、サミーとフェリクスの考えがってのことだとわからねぇのか!?
この馬鹿野郎がっ!
その岩頭の脳みそも岩なんだろ?
え? 違うのか?」
残っていた肉を一気に頬ばると、手にした鋭い鉄串をコンディに投げつける、
キーンッ と高い金属音を響かせて鉄串は見事にコンディの眉間の間に命中。
が、その堅固な岩鎧に嫌われ、傷一つ負わすことは出来ない。
「ごめんって!」コンディは四本の腕を合わせているが、ケロッとしている。
腹では舌を出しているのが見え見えだった。
「はい。大丈夫ですか?」ドクター・ポイズンはどこから持ち出してきたのか、大きな槌を持ってコンディにじりじり近付く。
「はい。傷口から黴菌が入るといけません。
私に診せて下さい」ドクターは大喜び。
「ちょっ!」憎たらしいという目でコンディは「何で傷もついてないのに、そんなにでっかい槌を持ってんのかって。
殺す気満々でしょって?」
「はい、鉄串の命中した」ドクターは当然だと言いたげに「その眉間を槌で殴ります。
そして割れたその奥を診てみたいのです」
「いやいやいや」コンディは頭を振り「もうそれ話が違うって!
あんたそれdも本当に医者なのかって?」
「はい」ドクター・ポイズンは気色悪い笑みを歪め「人は私のことをドクター・ポイズンと呼びます。
私に治療できない怪我も病気もありません」
「そりゃそうだって」コンディはあきれ果て、
「あんたに治療させたら皆みんな死んでしまうって。
死んでしまったら、怪我も病気も関係なくなるからって。
有り得ないって」
突然「カッカッカッ」と呼吸困難に陥ったフライは、貌が真っ赤になっている。
「船長、それ笑いすぎッて!」
そういうコンディもフライを見てゲラゲラ笑っている。
「ったくよー!」フライの左隣に腰を据えていた男が、「息が詰まったのか、笑ってんのか紛らわしい笑い方をするんじゃねぇ。
何度言せりゃ分かるんだ。
何ならそのまま逝ってしまえっ!」
面倒臭そうに口を開いた、船長フライと同尾い年で幼馴染のこの男。
上半身裸だが、鍛え抜かれた身体は見事だ。
下半身には角鰐の武具を装備していることから、闘う時には上半身にもそれを着装するのだろう。
隣席に宝石で装飾された鞘が華美なスキアヴォーアという長剣が立てかけられていた。
柄の部分が籠状になっていて、斬り合いになった時には拳を守ることもできる。
サミー・コールドの愛剣だ。この長剣は、コールドの特別仕様で両刃の剣身は通常の者より長く、その切っ先は槍の刺先と同じく先鋭になっていた。
そのことからか、この著意見は『剣槍死斬』と名付けられている。
ティターン海の海軍や海賊には、フライの暴鋸と共に名剣としてその名が知られていた。
「何だと? おい、サミー!」フライは悲し気に「お前は俺の笑い方を、俺を棄てたバカ女みたいにケチをつけっるのか?
俺は馬鹿どもの話にツボってただけだぜ。
安心しろよ」
「ウィル、それなら是非」コールドは上機嫌で「ツボにはまったままでいてくれ。そうすりゃ呼吸困難で目出度く楽しいまま陰府に逝っちまうことができる。
そうなりゃ俺は表剣闘士稼業に戻れるからよ。
「サミー冷てぇことを言うなよ」笑いが止まった目頭を押さえた。「俺の心はヴェートロなんだ。
撃たれよ弱ぇーから、傷つくと直ぐに割れちまうんだぜ……」
「はい、船長」今度は到頭斧を振りかざすドクター¥ポイズン。
「私は、イカれた脳を正常にする治療法を幸いにも知っています。
お試しになって視ませんか?」
またしても「カッカッカッ」と呼吸困難に陥りフライは腹を抱えて笑う。つられてコンディーも爆笑する始末だ。
ドクター・ポイズンはそんな二人を交互に見比べ、嬉しそうに不気味な笑みを更に歪める。
[おいおいおい」コールドは苛々した口調で「そこ笑うとこか?
いいかお前らもっと真面目に海賊やれっ!
じゃなきゃ、お前ら3人で仲良く逝ってしまえっ!」
「全く馬鹿って奴は……」フライが途中まで読んでいた手紙を奪う。
騒ぐ仲間をよそに、暫く黙ってそれに目を通す。
「で、結局のところ」コールドの左隣から鷲鴉の鳥人アレク・ミッチがうんざりしている表情丸出しで、重要な盲点を衝く。
「キラって女は本当にワシらのところへ向かっとるんか?」
墨を流したように黒く艶光りする羽毛に覆われた巨躯は7フイート近い。
両手の爪は両脚と同じく鋭い鉤爪だ。
広げれば16フィート強の両翼の先は、床に届いている。
「ああ、向かってるぜ」コールドが説明する。
「昨日の午前中に出発して、暫く怪しまれないようにその後を追わせたらしい。
その結果、こっちに向かっているのは間違いないと確認したうえで、この手紙を寄こしたって訳さ」
「それなら」ミッチは無表情で「もうアヴィス群島の海域に入っとるな。
おそらくオロル島で一旦宿をとるじゃろう」
コールだはそれには答えず「フェリクスの泣きっ面が目に浮かぶようだぜ」そう言うと仲間達が一斉に注目した。
話を先へコールドは進める。
「キラの船に、あのロックスが乗船したようだ。
フェリクスがご執心だった奴の女ヴィオーラは、カボットの部下が射殺したんだとよ。
だがロックスはそのことを知らないそうだ。
船には二人に獣人の姿はないらしい」
コンディは忌々しく面貌を顰める。
「なんでそんなことになってんだって。
ロックスはマンゾの件で、俺達を疑ってったって」
フライはコールドから手紙を引っ手繰る。
今度は目の色を変えて手紙を一気に読んだ。
ロックス・マレノの剣闘術、格闘術の実力はここにいる全員が熟識している。
この男に潰された海賊は、両手の指の数に近いことも。
「フェリクスの馬鹿野郎は、一体何やってんだ?
バルバロッサと揉める、ロックスがオレ達を狙っている、愛しい女が部下に射殺されたじゃあ、サミーの言う通り、あいつ今頃屋敷に引きこもって泣いてるな」
フライは涙を流して「カッカッカッ」と笑う。
コンディは腹を掻き毟りながら一緒になって馬鹿笑いする。
「はい。泣き疲れた目に、この点眼薬を使って差し上げたい」
毒々しい緑色の液体が入った小さな薬瓶の蓋を取ると、吐き気を催す刺激臭が襲う。
ドクター・ポイズンは嬉々として、且つ陶然ととその匂いをすんすん嗅ぐ。
フライとコンディは鼻をつまみ、ドクターの姿に爆笑している。
★★★「ウィル、コンディ、ドクター、いい加減にしろっ!」コールドが脅しのきいた声色で「手紙にロックスを生きて返すなって書いてあっただろ?
例え馬鹿でもフェリクスは仲間だろうがっ!
茶髭の応援はもう来ない。
作戦の練り直しだ」
フライはしゃっくりをして笑いを止めると、居心地悪そうに座りなおした。
ウルティオー海賊団の副船長のコールドは、同胞に問答無用という語気を発し「いいか、お前等! 俺達はフェリクスのお陰で海軍賊になり、海帝艦隊にも入れたってことを忘れるな!
それからもっと真面目に海賊をやれ!
じゃなきゃお前ら3人逝ってしまえ!」
小さく顎を引いたフライに続き、「「アイ・サー」」とコンディ、ドクターが聲を張り上げた。
「で、作戦はどうなるんじゃ?」ミッチがコールドの話を振る。
フライは一言一言考え確認する概で、作戦を立てていく。
「ミッチが言った通り、さすがに今日直ぐここへやってくることは無いだろう。
オロル島辺りで宿を取って、こっちの情報を集めてから、動く筈だ」
先刻と変わり、お馬鹿3人も真剣に耳を傾けている。
「まずは奴等がいつオロル島を発つのかを知りたい。
あの島出身の、ベロッソとチャベを向かわせろ。
いつ出発するのがわかったら、ミッチお前がまず奴等の船を襲え。
空中攻撃と召喚術でキラって女を捕らえろ。
成功すれば、俺達はこの島を出れる。
それに難儀するようなら、ロックスか、ユキアって小僧を斃すか、奴等の船を航行不能にできれば上出来だ。
一つでも目的を達成したら、一旦戻って来い。
だが、もし何れも果たせなければ、バルバロッサの援軍が必要になるから、奴の根城に行って、援軍を引き連れて来いっ!」
「わかった」ミッチは自信あり気に胸を張った。
「そのいずれか一つなら容易い仕事じゃ!」
然しコールドは「そう簡単にはいかないだろうよ」否定的だ。
「獣人2人がいないとはいえ、この海域であのカルロス・ファルカンに初黒星をつけたユキアって小僧の実力は侮らない方がいい。
それにロックスだが、奴個人の戦闘力はこの近海でも屈指だ。
銃、弓、弩の腕も超一流。空中にいるからと言えども油断は絶対に禁物だぞ」
ミッチは些か気分を害したのか「分かっとる。了解じゃ」憮然とした。
「さて、残ったオレ達だが」コールドは同胞を見回し「コンディ、とドクターは海軍の連中と一緒に、港に装備してある大砲の発射準備をして、ミッチの先制攻撃をかいくぐった奴等の船を待ち、船が湾に入ってきたら一斉射撃。
俺はリベンジ号に乗り込み、奴等に発見されないよう島の東側で待機。
砲撃を合図に、俺達の船も湾に入り愛護から攻撃、船を制圧してキラを捕縛する。
もしミッチの先制攻撃で奴等の船が航行不能になった場合、こっちから出撃、拿捕する。
ウィル、お前は城塞の前で待機だ。
2つ策があるが、それはまた後で話す」
ミッチが首を捻った。
「奴等がなに故バカみたいに湾に突入してくると、断言できる?」
★★★コールドはこの日初めて笑った。
「商船を改造しただけの船で、今や300人を超える俺達ウルティオー海賊団に挑むような奴をお前なら何て言うんだ?」
「ちと頭のイカれたbかってとこかのぅ」ミッチは考えるまでもないとばかりに言う。
「コンディ、この島の地図を広げろ」コールドが人差し指でコンディ、の背後を刺した。
コンディは背後の壁に全員が見れるよう、羊皮紙の地図を広げ、自らの針葉をその四隅に刺して張り、自部の席に戻る。
「手術刀を一本寄こせ」コールドがドクターに手を出す。
ドクターはよれよれの外套の裏からそれを一本差し出し刺す素振りをしてにやけるが、コールドに睨みつけられそれを渡した。
コールドはが手術等を地図に向かって投げると、一つしかない湾の中央に突き立つ。
「ミッチの言う通りだ。馬鹿だから、小細工せず正面から来る。
お陰で簡単に逝ってもらえそうだぜ」
フライがコンディに「ベロッソとチャベを呼んで来い」と指示を出す。
それからフライは「野郎共、作戦開始だっ!」と宣言した。
「けどよ」フライは何かすっきりしてないのか「いくら馬鹿でも大砲で迎撃されることは分かるだろう?
どうやって砲弾を搔い潜るつもりなんだ?」
よくぞ訊いてくれたと言外に匂わせコールドは「船を縦にしてこの島に上陸するのが奴等狙いだ。
船が沈んでも、俺達の船を奪ってやろうという魂胆なのさ。
クレブリナ海賊団の船を奪った時のようにな」
フライは「成程な、舐めたガキだってことか」葡萄酒を一気に飲み干した。
読んで頂きありがとうございます。
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長い物語ですが、様々な要素で楽しんで頂けるよう努力してます。
これからの物語も是非読んで頂けますように・・・。 m(_ _)m




