『スマホ対応版』 27.アヴィス群島へ
読んで頂きありがとうございます。
この章から読まれた方は、是非【ユキア・サガ 航海① ネフシュタンの魔片 第一巻 第1章】から読んで頂けますと、幸甚です。
レイが作って中央歩柱に括りつけられた
てるてる坊主は、効果抜群だった。
前夜の雨が空気中の塵埃を洗い流し、
清澄な美しい朝のオスティア新港。
蒼氓たる天空には、
大陽が燦燦と世界を光で満たしていた。
降り注ぐ陽光が、
滄海の揺蕩う波と踊ってキラキラと飛び跳ねている。
「ユキア様っ!」
作戦室に飛び込んできたザザは右手で敬礼した。
「出港準備万端に調ったでござるっ!」
オレは円卓のいつもの席でチュチュと戯れていたが
「おっ!」と背筋を伸ばす。
貌中に喜びを溢れさせ急ぎ上甲板へ向かう。
チュチュが羽搏いて後を追い、レイ、ザザが続く。
ロックは椅子から立ち上がり、
右腕をグルンと回し皆の後を追う。
最後にキラが、
なんだか嬉しそうに皆の集まっているところへ足を運んだ。
船首楼甲板に
オレは立ち左肩にチュチュを乗せ、遠く蒼い海原を見渡す。
「よしっ!」オレは頗る楽しかった。
「ウルティオー海賊団をぶっ飛ばしに行こうっ!」
「おいおい」ロックは遊園地に行く子供みたいに燥ぐ
船長に「冒険の目的はネフシュタンの魔片の奪取だろう?
俺の勘違いか?」
レイが泰然自若と代弁する。
「同じことではないか。
目的を果たすには奴等と闘り合う他道はない故」
「レイの言う通りでござる」
ザザは何の問題も無しといった感で
「折角だから
ウルティオー海賊団のお宝もごっそり頂くでござる」
オレは「サクッとぶっ飛ばして、
ヴィオーラ姉妹を自由にしてあげないとだなー。
マンゾの汚名を消し去る為にも。
そうなれば、晴れてロックも結婚できるだろ?」
ロックは慌てて反論する。
「けっ、結婚って勝手に話を膨らませるんじゃねぇ!」
キラは4人の忍者達の会話が楽しくて仕方ない、
という風にくすりと笑う。
「ユキア達といると本当に退屈しない。
きっといい旅になる」
オレはキラににっこりして、
「出航っ!」
と命じた。
ロックが復唱する。
「出っ航ぉーうっ!」
チュチュはユキアの方から舞うように飛び上がり、
空中で太いが短い四肢を踏ん張る。
「ワォーン!!」
ユキア達の心魂を、熱く奮い立たせる力強い遠吠えをした。
オレは嬉しくて「チュチュやるなー。ありがとう!」と以心伝心。
チュチュは尻尾を振り、
シュラークーサエのマグダレナ・マリア教会で出会った
あの日と同じく、ユキアの頬を鼻先で
接吻する。
不意に、エステルの天性のの麗質を備えた
美貌を思い出すオレ。
が、また会いたいという気持ちを押し殺す。
船上では海の者ロックの指示に応え、
レイとザザが術で操っている水夫達を手足として
動かし、錨を引き上げたり帆を張っている。
オレはチュチュを左肩に乗せ船首楼甲板に
立ち続けていた。
その面魂はつい先刻までとはがらりと
変わり、眼光も峻厳で鋭い。
レイとザザを同胞として迎え、
ロックを巻き込んだこの冒険は、
どんな危局に衝突したとしても、
必ず突破して成功させなければならない。
※※※※※
船窓が会え放たれ、潮の馨をまとう涼風が爽やかで気持ち良い、
ノードゥス号の作戦室。
深くf深く透き通った涙色の大空の下航海は順風満帆だ。
円卓中央にいつも通りユキアが座り、
その右隣にロック、ザザ。
左隣にはキラ、レイ。
チュチュはこれもいつも通りユキアの左膝の
上で笑顔。
円卓の上には、テュッレーニア海の海図が
広げられていた。
ウルティオー海賊団が根城にしているアシオー島の地図が、
その上に重ねておかれている。
面々はロックの聲に耳を傾けていた。
「前に話したがウルティオー海賊団は
200人以上。
だが、海軍のはみ出し者の寄せ集めだ。
フライ、コールド、ミッチ、コンディ、
グリンヴィールを片付ければ問題なし。
しかし、この5人が曲者だ。
俺が知っている奴等の情報を教えておく」
ザザが疑問を口にする。
「然れど連中はクィーンズティアラの移民者でござろう。
然れば同情の誼で結束は固いのではござらぬか?」
ロックは即応した。
「その5人に関してはザザの言う通りだ。
他は神聖ロムルス皇国海軍のはみ出し者許りだ。
だから幹部5人を斃せば脆い」
ザザは納得貌でコクン。
ロックは淡々と話をする。
「まず船長のフライだが、剣闘士で格闘士だ。
奴の両刃の剣は片側が直刀で、
反対側が鋸刃になっている。
鋸刃の剣撃は斬るというより、肉を削り刻む。
腕力がなければ、
自慢の鋸刃が邪魔になって使い物にならない。
『暴鋸』と呼ばれるその大剣を握って、
狂喜して闘う奴の周囲に飛散する肉片や血煙の有様から
『血爆のフライ』という異名がついている」
「肉片が飛び散り」レイは眉を顰める。
「然も血煙を上げるように見える程ならば、剛腕に
よる高速斬撃という印象が強い」
ロックはレイの推量の確かさを喜んでいる趣で続ける。
「それだけでも厄介な敵だが、格闘士としての腕も
相当な腕だ。
クィーンズティアラの闘技大会ヴィクトリーの王者を
半殺しにしたって話もある」
オレはワクワクして「面白そうな奴だな。
そいつが船長ってことなら、オレの得物だってことだな。
任せろっ!」
「サミー・コールドだが」ロックは他の要注意
人物の情報を流す。
「元剣闘士でヴィクトリーの王者として無敗のまま
引退している。
幼馴染のフライと共に海軍賊を目指し、
クィーンズティアラ海軍に入隊したが果たせず、
結局神聖ロムルス皇国海軍中佐フェリクスのの部下となり、
その目的を遂げた。
こいつが起こるとフライも口を閉じるそうだ」
オレは両手を頭の後ろで組み上機嫌だ。
「サミーって服着てんのか?
寒くてコールドなのは、裸だったりして。
変態なのか?」
キラは、ぷっと吹き出した。
オレのボケが面白かったらしい。
が、ロックは「正に寒い駄洒落だが、
確かに奴は闘う 時以外ほぼ上半身は裸だった。
筋肉自慢だろう。
ま、一種の変態だな」さらりと受け答えした。
「他の三人は?」レイがくだらない話を打ち切る。
「船医のグリンヴィールは」
ロックが三人目の情報を流す。
「奴は医者だけに大小様々な手術刀を使って闘う。
暗器使いの印象がある。
間合いのとりづらい相手だろう。
異名のポイズンは、奴があらゆる毒の魔術研究家で、
意外にもその権威だからだ。
武器と魔術を操る。俺達に近い存在だ」
オレはロックの話を意にも介せずケラケラわらう。
「何だか曲芸師みたいで面白い奴だなー」
間髪容れずレイがやや低い聲で窘める。
「ユキア様、チルコを観覧するのではありま
せぬ。
我等は闘いに行くこと、相手は敵だということを
くれぐれもお忘れなく」
ロックがわざとらしく咳払いをした。
レイが怒ると怖いということを熟識してるからだろう。
ザザはオレに大きく双眼を見開いて、
余計なことを申すと拳骨が飛んでくるでござるよっ!
と訴えた。
キラは4人の忍者達を退屈することなく眺め、
楽しそうに笑みを湛えている。
「残りの2人は」ロックが本題に戻す。「何れも亜人族だ。
岩松の木人フール・コンディは操舵手を務めている。
その独特の体躯は文字通り岩で硬い。
天然の鎧を破壊しなければ倒せない。
下手すると攻撃して痛手を負うのはこっちだ。
『飛針』という尖鋭な針葉で攻撃してくることに加え、
数本生えて売る枝腕は岩の槍だ」眉間にしわを寄せ
ザザが「こっちも岩松の木人に変化すれば
問題なでござろう」とドヤ貌をしている。
ロックが面倒くさそうに「おい。
ツッコミを入れる俺やレイの身にもなれ。
一体誰が岩松の木人になれるんだ?」
「ロックは変化できないでござるか?」
ザザは然も意外そうに
「奴等の動向を探っていたでござるなら、
さすがに握手は出来ないでござろうが、
飛針の一本も取れたでござろう」
ザザの発言は忍者が対象に変化する為には、
相手に一度でも触れるか、
身体情報をもたらす何かが必要になるという故由からだ。
「あんな」ゴツゴツした不細工な木人に変化したくもねぇよ」
「それは言い訳だな」オレも突っ込む。
「天然の堅固な鎧がついてきて、
飛針や岩槍もおまけにつくとは。
お得じゃないですかー?」
到頭ロックはガハハッと笑って「ユキア、俺を珍木にしたい
のか?」と腹を抱える。
オレは漸くロックの笑い声が弾けて嬉しい。
この気持ちは、レイとザザも同じだろうとオレは思う。
少なくともこの二年間ロックは今みたいに心から聲をあげて
笑ったことは皆無だったに違いない。
一方でキラはにこにこしてるけど、
これから強敵と闘うオレ達の作戦会議の雰囲気に
驚いているようでもあった。
オレもその反応は当然だと思う。
真摯に、熱く、強気言葉によって
士気を鼓舞していく作戦会議が普通だから。
でもオレはふざけている訳じゃない。ヴィオーラ姉妹やマンゾ
のことを肩に力が入っているロックを、適度に脱力させたい。
待ち構えている闘いの目の恐怖、不安、緊張を振り払い、
いざ撃をかわす時には持つ力の全てを発揮させる手段、
テンポだと言える。
オレ達は真の武人なんだ。
「せて、最後の一人だが」ロックは気負いが抜け軽快に語る。
「鷲と鴉の混血鳥人でアレク・ミッチだ。
言った通りの姿鵜をしている。
鴉のように黒く、鷲の翼と鋭い鉤爪の四肢。
それに奴は召喚術士だ。
何を召喚するのかオレも知らない。
ミッチも格闘術と召喚術を操る。
俺達に近い存在で、おそらく5人の幹部達の中では戦闘力が
最も高い。
奴等の情報は以上だ」
「空飛ぶ召喚術しか」オレはうずうずしていた。
「幹部5人に関しては粒ぞろいってとこか。
早く闘りたいなー!」
オレが燥いでいると、キラがアシオー島の地図の湾をトントンと
人差し指で叩く。
「ところで、ウルティオー海賊団が現在いる島は、
この通り湾は左右の岬に囲まれた一ヵ所しかない。
どうやって乗り込む心算なの?
間違いなく左右の岬や港には大砲が配備されて李筈だけど……?」
「んーどうしよっかなー」オレは眉間にしわを寄せ
「全く、卑怯に難しい問題だ」
ロックはオレの言動が面白くて仕方ないようで、
笑いを堪えているのは明らかだ。
「おいおい、船長も部隊長もユキアだろ?
まだ何も勧化てなかったのか?」
「キラさん、心配なく」レイが口を挟む。「到着する前には、
結論を出さねばならぬ故」
然しまたまたドヤ貌のザザが「キラさん、
ユキア様はもう決めておられるでござる」
「だな」ロックもニヤリ。「船長としてもったいぶっているのさ」
「正面突破!」
レイは呆れ顔で仲間達を見渡し
「この一つしかない湾に船を突入します」
アシオー島の地図の上で、湾に人差し指を滑らせるレイ。
「去らば敵は自ずから姿を見せるに違いありますまい」
「あーっ!」
オレはお急ぎでレイの言葉に被せる。「今言おうと思ってたのにっ!」
オレは怒って「狡いなっ! レイはっ!」
と悔しかった。
が、レイは涼しい顔をしている。
「狡いなっ! レイはっ!」
口を尖らせるオレにレイは
「同じことを二回も申せられたのはなに故に?」
拳骨を握りしめる。
オレは見てはいけないものを見てしまったことを認めて、
緋隻眼を直ぐに閉じた。
しかし、キラにはその策の意図が理解出来ないのだろう。
が、言いかけた言葉を飲んだようだ。
そんな作戦を決行すれば、
船は飛んで火に入る夏の虫となる。
湾に配備された危険な大砲の集中攻撃という洗礼を
浴びるのは必至。
その後、沈みゆく船目掛けて、
敵は狂喜して飛び込んでくることが、
キラじゃなくても容易に想到できる。
心配顔のキラだったが、船長として、
部隊長としてオレに作戦を一任している以上、
受け容れるしかないという語韻で、
「分かった。ユキア、私もあなたを信じる。
ここにいる仲間達と同じように」
そう伝えると、受け入れ難い現実を封じる為なのか、
ギュッと瞼を閉じた。
その時「ワンッ!」チュチュがキラに一聲吠えた。
心配する必要はないと訴えているらしく、
機嫌よく大きくぐるぐると尻尾を振っている。
「キラ、あのさ」オレが問いかける。
「ネフシュタンの魔片のこと、
どんなものかもう一度説明して欲しい。
新情報はないの?」
聖遺物、魔遺物、幻玉はそれを所持する者に、
何らかの効果・能力を与える。
俺達はこの点、まだ推測すらできてない。
ネフシュタンの魔片は、
これから戦う相手にどんな効果をもたらせて、
どんな力を与えているのか?
俺だけじゃなく皆気になるところだろう。
然も、その形状も分かってないのだから。
「そのことだけど」
キラは栗目がちな双瞳を開き
「一部判明したことがある。
それは砕かれる前のネフシュタンの姿。
その模造品を私の仲間が、完璧に作っている。
仲間の名は、トバル・カイン。
私を含め仲間は彼のことをトバルと呼んでいる。
彼とはモノマキアのユキアの闘いを全て一緒に観戦した。
アヴィス群島の交易の中心地、
オロル島で落ち合うことになっている。
その他、これといった情報はない。
オロル島からアシオー島までは、そうね、」
ロックが話を引き取る。
「5時間前後ってところだろ」
「じゃあ、
オロル島でトバルから模造品の説明をしてもらってから、
作戦会議だな」
オレは、一つ欠伸をして結論を出した。
読んで頂きありがとうございます。
駄作ですが、批評も含め、ご感想を頂けると喜びます!
評価✩✩✩✩✩やブクマをして頂けると更に喜びます!
長い物語ですが、様々な要素で楽しんで頂けるよう努力してます。
これからの物語も是非読んで頂けますように・・・。 m(_ _)m




