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遺跡の門が見えてきた。
近付くにつれて、激しい戦闘音と獣の咆哮が大きくなる。
「見えた!」
門の先、崩れた石壁の向こうでは、大地の騎士団が戦っている。
戦闘の音から分かってはいたが、実際にその姿を見てほのかはわずかに安堵する。
大地の騎士団の足元には、無数のドロップが落ちていた。
狼系が多いのは、先に足が早いモンスターが追い付いてきてそれを倒した証拠だ。
だが、熊や蜘蛛等の大型種が合流し、戦況は確実に悪化している。
その奥にはまだ到達してないが、ボスらしきモンスターが見える。
それ以外にも、今までに見たことの無い木のような動くもの、巨大な鎌を持つ昆虫、大型の爬虫類等も。
そして何より、大地の騎士団は満身創痍だ。
一人は頭や肩から血を流し、別の一人は脚から血が出ていた。
疲弊しHPも尽き、現実のダメージが出ている。
「先に行くよ!」
「たのむ!」
友希が先に駆け出し戦場へ向かう。
同時に東間が弓を引き、負傷者へ向かうモンスターを射抜く。
ほのかも友希の後に続く。
前線では、土屋が槍で蜘蛛を薙ぎ払い、竹田が盾で熊を押さえながら剣で応戦している。
他のメンバーも踏ん張ってはいるが、限界が近い。
その時、一人が体勢を崩した。
モンスターの一撃を受け損ね、よろける。そこに追撃が襲う。
「——っ!」
友希が加速するが、間に合わない。
その瞬間、矢が飛んだ。
モンスターを射抜き、動きが止まる。
その隙に友希が滑り込み、ワイヤーで加速したままモンスターを蹴り飛ばし、距離を開ける。
「ごめん、遅くなった!ゲートは解放したから!」
息を切らしながら叫ぶ。
「それと、回復薬!」
回復薬では傷は治らない。
だが、HPが回復すれば被ダメージの肩代わりをしてくれる。
「ユウキか、助かる。俺と竹田はいい。他のメンバーに薬を。」
土屋が短く指示を出す。
友希の持っている回復薬もこれまでの戦いで消費して、残りは多くない。
だが、二人を除いた三人くらいなら分け与えられられる数はある。
既に受けた傷までは治せないが。
「よし、タイミングをみて引くぞ。」
土屋がメンバーが回復薬を服用したのを確認し、更にほのかも合流したのを確認し、声を上げる。
「よし、今だ!」
土屋の掛け声で、それぞれがジョブスキルを放つ。
土屋が、槍術士のスキル、スウィープで薙ぎ払う。
竹田は盾使いのスキル、バッシュを、剣闘士や剣士などの剣を使うジョブの人はスラッシュを放つ。
ほのかもスラッシュを放つ。
数体のモンスターが倒れ、吹き飛び、一瞬、包囲に穴が開く。
「引けー!」
その隙を逃さず、土屋が叫ぶ。
全員が後退を開始する。
傷ついた者に肩を貸しながら、必死に走る。
「どこまで効果あるか分からないけど……!」
そう言って友希がワイヤーを門の通路に張り巡らせる。
「多少、足止めにはなるかな?」
「どうだろ、あの数だから。」
振り向くと、蜘蛛はワイヤーを壊せないのか、壁を登り隙間に回り込んでいる。
熊は難なくワイヤーを引きちぎっている。
だが、そのまま追いかけられるよりはわずかに時間を稼げているみたいだ。
それでも、怪我人もいるし、足の遅いメンバーに速度を合わせないといけないから安心はできない。
門を抜け、瓦礫の間を縫うように全員が走り出す。
後ろからは、地鳴りのような足音が追いすがってくる。
「振り返るな!走り続けろ!」
土屋の声が飛ぶ。
だが、誰もが分かっていた。
――このままでは、逃げ切れない。
怪我人を抱えたままでは、どうしても速度が落ちる。
距離が、じわじわと詰まっていく。
「来るぞ!」
土屋の声に、東間一瞬振り返り矢を放つ。
先頭を追ってきていた森熊の眉間をかすめる。
だが、それでも止まらない。
「チッ……多すぎる!」
竹田が舌打ちをする。
東間が、再度矢を数本放ち、森熊の一体を倒す。
だが、次から次へと押し寄せてきている。
「このままじゃ追いつかれるぞ……!」
足を怪我していた騎士団の一人が叫ぶ。
呼吸は荒く、動きも鈍っている。
限界が、近い。
その目が置いていけ、と土屋を見つめる。
「……確かに。このままじゃ逃げ切れねぇな」
竹田が低く吐き捨てる。
「おい、何言って……。」
土屋が問い返すが、その言葉を言い切る前に竹田が振り返り、盾を構える。
「俺が足止めする。先に行け!」
「ふざけるな!!」
土屋が即座に怒鳴るが、竹田が言い返す。
「お前こそふざけんな!ここで誰かが足止めしないと、全員助からない。」
「……あぁ、クソ!」
土屋の表情が歪む。
「二人とも冷静になれ!この先通路が狭くなってる。そこまでいけば追ってくる数も少しは減るだろうし、上手くすれば通路を塞いで時間を稼げる」
東間の先導に従い、狭い通路まで差し掛かる。
通路は広くはないが、戦えないほど狭くもない。だが、崩れた瓦礫が散乱して足場は悪い。
周囲は崩れた建造物や巨大な石柱があり、確かにうまく倒せば道を塞ぐこともできそうだ。
「急げ!距離が詰まってる!」
後方では、すでに森熊が迫ってきている。
その時――
「っ……!」
大地の騎士団のメンバーの一人が瓦礫に足をとられ、倒れ込んだ。
倒れ込んだメンバーに森熊が襲いかかる。
「危ない!」
気づいた友希が倒れたメンバーを突き飛ばし庇う。
だが、変わりに友希が森熊の攻撃をモロに受け、吹き飛ばされ、壁へ叩きつけられる。
「友希!!」
ほのかが駆け寄る。
壁際に叩きつけられた友希は、そのまま崩れ落ちていた。
「ゆ、友希……!」
抱き起こし声をかけるが、返事がない。
息はある、だが抱き起こす時に背に触れた手に、血がついていた。
「ッ……!」
まだ森熊との戦闘は続いている。
友希に一手遅れてカバーに入った竹田と土屋が、追撃を必死に抑えていた。
「ほのか!ユウキを連れて下がれ!!」
「で、でも――!」
現状、満足に戦えるのが土屋と竹田、東間、ほのかの4人しかいない。
「早くしろ!!」
狭い通路に入ったため、対面で2、3体程しか来てない。
だが、ここで足を止めていると他のモンスターも追い付いてくる。挟み撃ちとかになれば絶望的だ。
「竹田!」
竹田の盾が弾き跳ばされる。
「大、丈夫だ!」
竹田が歯を食いしばり、残った剣で何とか応戦するが、剣だけでは捌ききれず、徐々にダメージを蓄積させる。
土屋も疲弊が溜まって、竹田のカバーに入る余力がない。
そして、遂に身体へのダメージが入り始める。
「ぐぅっ!こ、ここまでか。」
土屋が竹田の方を横目に見る。竹田もその視線に頷く。
「ほのか!遺跡を壊して道を塞げ!東間!他のメンバーを連れて逃げろ!」
「でも……。」
ほのかは、友希を抱き上げたまま、視線を土屋と竹田へ向ける。
傷だらけの二人。
それでも前に立ち、モンスターを迎え撃とうとしている。
そして――腕の中の友希。
血に濡れ、動かない。
「……」
ほのかは抱き上げていた友希を他のメンバーに預け、決心し瓦礫へ向かう。
そして、何かの崩れる音がなる。
戦闘を継続していた土屋と竹田の背後で、何かの崩れる音が聞こえた。その音に、二人の表情がわずかに緩む。
「よし、あとは俺達がどれだけ時間を稼げるか、だな。」
「ああ!」
土屋と竹田が再度覚悟を決めたその時。
――ガッ。
襟首が、強く引かれた。
「……え?」
次の瞬間、視界が浮く。
土屋の身体が、宙を舞っていた。
「なっ――!?」
そのまま、瓦礫の向こう側へ投げられる。
「何して――うわっ!」
竹田も同様に放物線を描いて瓦礫を越える。
通路は、完全に塞がれた。
向こう側に残されたのは、ほのか一人。
「……おい、ほのか!!なにやって!」
竹田が叫び、土屋が瓦礫に手をかける。
その向こうから、声が届く。
「……この中で満足に戦えるの、私だけだよね。足止めは、私に任せて。」
「ふざけるな!!戻れ!!」
土屋が怒鳴る。だが。
「大丈夫です。友希ちゃんを、お願いします」
瓦礫の向こう側で、気配が一歩、前に出る。
モンスターの咆哮が、すぐ近くで響く。
「……ここは、私が止める」
「ダメだ!残るなら俺が残る!……くそ、竹田!この遮蔽物をこわすぞ!」
土屋と竹田が武器を構えるが、それを東間が止める。
「やめろ!」
「離せ!!まだ――!」
「この後もまだゲートまで逃げなければいけない。その為にもお前の目は必要だ!!」
その言葉で、動きが止まる。
歯を食いしばる。拳を握り締める。
「……っ、クソ……!!」
「行くぞ!」
東間が再度声をかける。その声に土屋は無言で頷き、全員を連れて、遺跡の奥へと走り出す。
ゲート付近では、ドミトリオのメンバーが待機していた。
数体のモンスターの死骸が転がっている。
「戻ってきたか!」
戻ってきたメンバーを見て、ダイキ声をかける。
だが、その人数を見て、表情が変わる。
「……おい、ほのかは?」
誰も答えない。
「え?……え?」
ソラタが状況が分からず土屋とダイキを交互に見る。
そしてショウコは、察したのか口に手を当て、「そんな。」と呟き、膝を付く。
重苦しい雰囲気の中、土屋はただ一言だけ告げる。
「……出るぞ」
そして、ほのか以外のメンバーはゲートを抜け、迷宮の外へ脱出した。




