15
「さてと。」
ほのかは盾と剣を構えて、森熊達を見据える。
分断はできたけど、足止めの為にも足掻かせてもらわないと。
最初のスタンピードを倒した後、ステータスを確認した時にレベルが上がってた。つまり、二つ目のスキルが解放されていた。
そのスキルは、
「勇者の魂」。
効果は――
折れない心とその勇気が魂を燃え上がらせ、あなたを何度も立ち上がらせる
なにこれ?フレーバーテキスト風な説明で効果がよく分からない。
「よく分からないけど、勇者ってついてるくらいだから期待してもいいよね?」
見栄をきって、覚悟を決めたつもりだけど少し手が震えてる。
でも、ここで粘らないと友希ちゃんや他の皆が危険になる。
剣を握りしめ、一歩踏み出すと同時にそのスキルを起動した。
「勇者の魂、起動!」
ほのかの身体にうっすらと青く揺らめくオーラのようなものが現れる。
更にもう一歩踏み出すと、森熊が襲いかかってきた。
その爪を盾で逸らし、剣を振り下ろす。
その一撃で森熊の肉を深く裂く。
怯んだ隙にさらに首元へ、回転を加えて剣を叩き込んだ。
森熊が咆哮を上げながら崩れ落ち、青い光へ変わっていく。
しかし、もう一体の森熊が横から攻撃を加える。
「ぐぅっ!」
防御が間に合わず、撥ね飛ばされる。
痛みはあるけど、HPがまだあるので身体は無事だ。
森熊が更に迫ってくる。
友希がいない今、敵の攻撃を引き付けてくれる人はいない。
「ぅ、あぁあーー!」
叫び、ほのかも前に出る。
HPがつきる前に倒す!一匹残らず!
森熊の突進を盾で受け止め剣を突き刺す。
更に別の森熊が横から噛みついてくるが、盾と剣を手放し、両手で無理やりその顎をこじ開け、そのまま顎を破壊し、殴り飛ばす。
更に剣を拾い、止めをさす。
しかし、次から次に森熊が通路に入ってくる。更には蜘蛛も。
盾も拾い、構え直して更にモンスター達へ向かう。
攻撃を食らっても怯まず、一匹、また一匹と倒していく。
そして十数体倒し、通路の入り口まで押し戻した頃、ほのかのHPは尽きて、身体にも傷ができていた。
「はぁ、はぁ。結構倒した、けど。まだ一杯いるなぁ。」
口から「ははっ」と乾いた笑いが出る。
城壁の門に続く広い通路には、まだまだモンスターが犇めき、更にはボスや大型のモンスターも。
それでも、ここで粘れば友希ちゃん達への追撃が少しでも減るはず。
そう信じて、握った剣に力を込める。
HPも尽きて身体中痛い。剣も半ばで折れ、盾もヒビが入っている。
それでも、前に出る。
そして、蜘蛛の脚に足を貫かれ足を止められた隙に、鎌を持ったモンスターに切り裂かれる。
「あ……。」
崩れ落ち、身体がうごかない。
もうここまでかな。十分頑張ったよね。
友希ちゃん、ちゃんと逃げれたかな。
あぁ、モンスター達がゲートに向かっていく。
薄れ行く意識の中で、走馬灯のように過去の記憶がよぎる。
ああ、悔しいな。悔しい。
諦めたくない……、諦められない。諦めない!
倒れたほのかの身体に纏った青い炎のようなオーラが、傷口を包み込む。
――友希サイド――
「うぅ。」
「目を覚ましたか」
目を開けると、白い部屋と覗き込んでくる男の人の影が見えた。
一瞬誰かと思ったけど、それはドミトリオのリーダーのダイキだ。隣にはショウコさんもいる。
「ここは?」
「あぁ××市の総合病院だ。気絶したお前を運ぶためにわざわざ13-0-47028のゲートから出て救急車呼んでやったんだ。」
あぁ、そうか。自分は気を失ってしまったけど、無事脱出できたのか。と、少し前の状況を思い出して頭の中で整理していく。
「それで、大地の騎士団の人や他の人は?他の病室にいるの?」
あの状況で1番怪我をおってたのは、食い止める役をやっていた大地の騎士団のメンバーだ。
友希以上に重症をおっていても不思議ではない。
「あ、ああ。大地の騎士団のメンバーは別の病室にいて、そっちにはソラタが付いている。何人かは怪我がひどい奴もいるが、皆命に別状はない。」
「良かった。それで、ほのかは?ほのかもそっちの病室に?」
その質問に、ダイキとショウコの顔が歪む。
その様子に、イヤな予感がした。
「ほのかちゃんは……」
言いづらそうにショウコ言葉を区切る。
よく見ると、目に涙を浮かべている。
「友希、落ち着いて聞くんだ。ほのかちゃんは。俺達を逃がす為に、1人残ったと聞いている。あのモンスターの大群を足止めするために。恐らくは、もう……。」
「……え?」
何を言っているのか、分からない。
あのほのかが?なんだって?
「俺達はその場に居なかったから分からないが……そう聞いている。」
その時、病室の扉がガラッと音を立てて開いた。
「その事については、俺から語ろう。」
「土屋さん!?」
ダイキとショウコが驚き振り返る。
この先にいたのは、包帯でぐるぐる巻きにされた土屋さんだ。
それから、土屋が友希のベッドまで近づき、事のあらましを語った。
「友希、すまない。本来なら俺や竹田が残るべきだった。」
「……、いえ。土屋さん達が謝ることはないです。」
そこまで、俯いていた聞いていた友希が顔をあげ、土屋の目を見る。
「ほのかは、まだ向こうにいるんですね。なら、迎えにいかなきゃ。」
「そ、うだな。せめて亡骸だけでも。」
土屋がそう言って、顔を歪め俯かせる。
「何いってるんですか、誰もほのかが死んだところは見ていないんですよね?」
「あ、ああ。」
「なら、ほのかは生きています。あの子、トロそうに見えるしおとなしい感じだけど、ああ見えてめっちゃしぶといんですよね。」
「い、いや、それでもあの大群だ。酷なことを言うが、望みは持たない方が……。」
土屋が諭すように言う。周りにいるダイキやショウコも、言葉には出さないが、その表情から土屋と同じ考えだと言うことが伺える。
それを見て、ぽつりぽつりと友希が昔話を話し始める。
「昔、あたし達が小学校低学年の頃にね。近所の公園で上級生と揉めたことがあったの。」
「何を言って……?」
土屋が怪訝な顔を向けるが、友希はそのまま話を進める。
「切っ掛けは遊具の場所取り、後から来た上級生に無理やり追いだされてね。
あたしは小さい頃からこんな性格だったから、上級生に食って掛かったの。
もちろん、体格も違うし向こうは5、6人いたから、簡単に突き飛ばされて、その拍子に大切にしていたリボンを取られたの。
まぁ、でもあたしは勝てないって悟ったからね、諦めようとしたんだけど。
ほのかがね、そのリボンを取り返えそうと上級生に向かっていったの。それも何度も何度も。
突き飛ばされても、殴られても諦めずに。
結局は他の友達が大人を呼びに行ってくれて、収まったんだけどね。」
そこまで話して、一旦言葉を区切る。
「まぁ、何が言いたいかと言うと。あの子はね、一度スイッチが入ると絶対に諦めないし、簡単に負けるような子じゃないんだよ。
だからね。絶対に生きてる。だから、あたしが迎えに行かないとね。」
そう言って、ベッドから降り、立ち上がる。
身体に痛みはあるが、なんとか動ける。
「おい、無理をするな」
土屋が友希をベッドに押し戻そうとする。
その様子を見ていたダイキが、「あー、くそ。」と頭を書き、悪態を付いた後、覚悟を決めたように顔つきを変えた。
「俺も付いていってやるよ。」
「な、ダイキ!?」
「土屋さん、行かせてやろうぜ。土屋さんも言ってたが、どのみち行くつもりだったんだろ?それが早いか遅いかの違いだぜ。」
「いや、しかしだな。」
「無理はしないし、させないさ。遠くから様子を見て、近づけそうになければ戻ってくる。友希もそれで良いな?」
友希は少しだけ目を閉じて、ゆっくり目を開け頷く。
「よし、じゃあ行くか。ショウコ、肩を貸してやれ。俺はソラタに声かけてくる」
そう言って病室を出ていこうとするダイキに、土屋が意を決したように声をかける
「まて、俺も行く。俺の目があればより安全にほのかを探せるはずだ。」
「それは助かるっすね!」
結果、ゲートに向かうのはドミトリオに土屋と友希の5人となった。
「いいか、俺達が出るときに使ったゲートは恐らくもう使えない。だから、別のゲートから入るぞ。使うのは二つ目の村、そこなら大丈夫のはずだ。」
土屋の言葉に面々は頷く。
友希にとってはいつもの高台のゲート。いつもはほのかと二人で潜っていた。
でも、今はいない。皆を逃がす為に1人残って。
流行る気持ちを押さえ、ゆっくりとゲートに進む。
いつものように、真っ白な空間で行き先を選ぶウィンドウが表示される。
そこに、見覚えのないゲートがあることに気づく。
「これって。」
番号的には3階層、見覚えが無いってことはつまりこれが逃げてきたゲート。
確か、スタンピードで襲われたゲートは再度開放しない限り封鎖されるはず。
つまり、これはまだゲートが無事ってことを意味している。
「ごめん、土屋さん。ほのか……、今助けに行くからね。」
友希は、迷わずその見覚えの無い出口を選択し、ゲートをくぐった。
潜った先は、確かに逃げるときに開放したゲート。
あの時戦った熊はもちろん、他のモンスターも周りにはいない。
気を失った付近の場所は覚えている。土屋さん達の話ではそこでほのかと別れたらしい。
そっちの方角へ周囲を警戒しながら進む。
あの時はモンスター達の音や戦闘音が聞こえてきたけど、今は音がしない。
周りで潜んでいるのか、それとも別の場所に行ったのか。
特にモンスターに会うこともなく、別れた場所にたどり着く。
「な、なによこれ」
そこには、ほのかの姿はなかった。
その事自体は問題ない、というかむしろ安心した。
それよりも、友希が驚かされた現状、魔晶石や肉や牙、爪等、ドロップアイテムが散乱していた。
「向こうの方まで続いている。」
そのドロップをパンくずを追うよう追いかけ、大通りまで出ていく。
細い通路を抜けた先、その光景に友希は息をのむ。
通路にあったドロップとは比ぶべくもない夥しい数のドロップ。
その数がここであったであろう戦いを物語っていた。
そして、そのドロップの中に探していたものを見つける。
遠目にも分かる、真っ赤な血溜まりに、ボロボロになった布切れの塊のようにも見える、人の姿が。
「ほ、ほのか?」
ゆっくりと、近づくにつれその姿がはっきりと見える。
服どころか、腕や脚は傷だらけ、腹部はなにかに貫かれたのか服が丸く穴が空いて、更には切りや噛み傷が無数に付いている。
もはや、傷が無いところが無いのでは?とうほど惨状で。
「ほのか……ぅ、うぐぅ。ほのか。」
もはや、周りの警戒も忘れ、ほのかであったものを抱き抱える。
「ぅ、ぅう」
「ほのか!?」
まだ息がある。
「どうしよう、とにかく安全な場所に。」
急いで他のゲートまで引き返したいが、ここにいるのは友希一人。ほのかを抱えて一人でそこまで行くのはかなり厳しい。
「土屋さん達と合流しないと。」
生薬や包帯でとりあえず応急処置を施し、ほのかを背負って土屋達がいるはずの三階層二つ目の村の方向へ歩き出す。
それから2、3時間後、無事土屋達と合流しゲートから帰還、ほのかをなんとか病院まで連れていくことができた。
医者の話では、なんとか処置を施したが未だ余談は許さず、例え助かっても何かしらの後遺症が残るだろうと。
「と、言う話だったんだけどねぇ。」
ここ数日の日課としてお見舞いにきた友希が、病室のベッドに座るほのかに話しかける。
「あはははは」
「何でたった4日で、歩けるようにまでなってるのよ!」
「まだ、松葉杖無いと歩けないよ?」
そう、まだ退院はしていないがほのかは寝ている間にみるみる回復し、なんと3日目には目を覚ましたのだ。
まだ、大きな傷のあった場所には傷跡が残ってるし、骨折し肉が抉られていた右足は歩くのに支障があったが、あの惨状からのこの異常な回復に、医者も開いた口が塞がらず驚愕していた。
「たぶん、安眠の効果だよね?確かに寝れば疲れとかすっかり回復したりしてたけど、すごいスキルだったんだね。」
そう言ってほのかが「あはは」と笑う。
「凄いってもんじゃないでしょ。まぁでも、無事で良かったよ。」
「いや~、ご心配おかけしました。」
検査や諸々でほのかは念のため後一週間は入院とのことだけど、この分だと後遺症もなく完治するだろうとのことだ。
なにはともあれ、これで3階層の初めてのスタンピード討伐は一旦終了した。




