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「……な?……嘘、だろ」
土屋のこぼした言葉に、数人が振り返る。
「なんだ?どうした?」
竹田が心配そうに問うが、土屋はそれに答えず、目をキョロキョロ動かすだけで、すぐに答えなかった。
その表情が、ゆっくりと強張っていく。
「……な、なんて……数だ」
「数?」
「どういうことだ?」
竹田が眉をしかめ、東間が聞き返す。
数と言えば、今周囲にはドロップが散乱した状態だ。
「あ、ああ。こんなドロップの数は今まで見たこと無いよな!確かに多いが、そんなに驚くことじゃないだろ。」
竹田の返答に、土屋はゆっくり首を横に振った。
「違う。まだ……終わってない」
「え?」
誰ともなく、声が漏れた。
「だから、スタンピードは……まだ終わってないんだ」
「……え?」
言っている意味が分からず、周囲のメンバーが顔を見合わせる。
静かになった中で、何かの走る音が聞こえてきた。それはだんだん大きくなる。それも、最初の比とは比べ物にならないほど大量の足音だ。
「……お、おい」
ドミトリオのダイキが、低く呟く。
「これ……ヤバくないか?」
だんだん近づく足音、枝や木が薙ぎ倒される音。それに、獣達の声。
「おい……マジか、マジか!?」
誰かが叫んだ瞬間、木々の隙間から、それが見えた。
数えきれないほどのモンスターが、黒い波となってこちらへ向かってくる。
先ほどの群れとは、比べ物にならない。
桁が違う。
「……え?」
思わず声が漏れる。
「……多すぎるだろ」
誰かの呟きが聞こえたが、その声は震えていた。
「……おそらく、150体以上だ」
「ふざけんな……」
土屋さんの声がするが、すんなり頭に入ってこない。
東間さんが顔をしかめ、弱々しく悪態をつく。
150体。それは冗談では済まない数だった。
「……撤退だ。村に戻るぞ!」
その声に、全員が村の方へ駆け出そうとする。だが、それを号令を出した当の土屋が止めた。
「……待て!」
「どうした!?」
駆け出そうとした東間が土屋に振り返り、問いかける。
「……回り込まれてる。」
「は?」
「別のモンスターの一団が……、側面から回って村に向かってる」
「な……!?じゃあどうするんだよ。」
ダイキが声を荒げる。
「今から村に戻っても、間に合わない。挟み撃ちになるだけだ。」
土屋が一瞬悩む素振りを見せ、顔をあげて告げる。
「撤退ルート変更だ!村は捨てる、別のゲートへ向かうぞ!」
村を諦める?そこが1番近い帰還ルートのはずだったのに。
「今からあの数は捌けない!無理に突っ込めば全滅する!」
土屋の声が、全員を引き戻す。
「それに、奴らの目的は解放済みのゲートだ。別方向に逃げれば見逃される可能性もある。少しでも生き残る方を優先する!」
そう言っている間にもモンスターの群れが、距離を詰めてきている。
「皆走れ!東間は先導しろ!」
「分かった!」
全員が東間の後に続き 、走り出す。
「殿は俺と竹田が受け持つ!」
「任せな!」
後尾側に土屋と竹田が着く。
「友希、スキルで鎮静化を!」
「了解!効くかは分からないけどね。」
友希が芳香庭園のラベンダーを展開していく。
「全員、限界まで走り続けろ!」
芳香庭園のフィールドに入ったモンスターは少し速度が落ちたような気がするが、それでも足の早い森狼達が追い付いてくる。
「竹田、5秒後、左側二体!」
土屋の声に反応して、竹田が左側に盾を突き出し、迫ってきた森狼一体を弾き飛ばし、右手の剣でもう一体を叩き切る。
右側では土屋が目線も向けず、追い付いてきた森狼の脚を槍で薙ぐ。
森狼達はこちらの攻撃で一瞬動きが止まるが、すぐにまた追いかけてくる。
「くそ!逃げながらじゃたいしたダメージも与えらんねー!」
竹田がまた追い付いてきた森狼を弾き飛ばしながら悪態をつく。
「この先に大規模な遺跡群がある。まだ未解放のゲートがあるはずだ。そこまで諦めるな!」
全員が死力を尽くして走る。
土屋と竹田が追いすがるモンスターをいなしていく。
そして、遺跡が見えてきた。
遺跡には城壁跡のようなものがあり、その入り口に向かって走る。あいにく、朽ちてなくなってしまったのか門は無いが。
入り口を潜ったところで、土屋が足を止める。
「大地の騎士団はここで奴らを足止めする。ドミトリオ、希望の花の5人はゲートの解放を頼む。それまであいつらは俺達で食い止めておく。」
確かに、このまま全員で行っても、ゲート解放迄に後ろの集団に追い付かれて解放どころじゃなくなる。
「東間、お前もゲート解放側に付いていってやれ。」
「分かった!」
ゲートの解放メンバーは一瞬逡巡したが、東間に続き走る。
城壁の門を抜けた先は、家だったのか崩れた壁や柱が乱立する遺跡だった。
「東間さん、良いんですか?」
走りながら東間に話しかける。
「ああ。未解放のゲート前にもモンスターがいる。そいつらを倒すにも人数がいる。」
「いや、でも。足止めに5人だけって。」
確かに大地の騎士団はこの中で一番強い。けれど、東間さんまでこちらに来てしまえば、向こうは半数以下になる。
「……大丈夫、大丈夫だ。それよりこっちも早く倒さなくちゃいけないからね。ほのかちゃんの攻撃力、頼らせてもらうよ。」
「……はい!」
気持ちを切り替えて走る。
「この先だ!」
東間が指し示すその先、開けた空間に見覚えのある濃い青の光を放つゲートがあった。
そして、その前に……。
「……二体、か」
二体の森熊が、ゲートを背にしてこちらを睨み付けていた。




