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9. 確か、辛いものダメでしたよね?




 ルイス様のご実家である、ルーベンス公爵家の城をあとにし、ヴァン殿下御一行は、行きとは違う帰り道を辿った。


 船に乗るのは変わらないが、違う港を経由して、大回りで王宮へ向かう。

 ぼくが戻って海鮮浜焼きを食べに行ったのは、このためだ。帰りに寄る予定がなかったので、戻ってもカニとイセ海老は食べたかった。



 新たに降り立った港は他国の船も多く利用するためか、異国の雰囲気をところどころ感じ取れる、賑わいを見せた大きな港街だった。


 広場で大きなバザールが開かれており、露天売りしている日用品やら、青果に嗜好品。特に、スパイスを取り扱う店が多い。それに紛れて、量り売りしているコーヒー豆を選りすぐって買う。自分へのお土産だ。


 ルイス様は干したマンゴーを買い込んでいた。さっそくぼくの口にも放り込まれ、もぐもぐしている。濃厚な甘みは強く豊かで、干されて弾力が増した果肉のねっとり感がたまらない。



「本当はスパイシーな羊肉の串焼きがオススメなんですけど、確か、辛いものダメでしたよね?」


「あ〜……激辛はムリかな。ピリ辛くらいならいけるけど」


 噴水付近のベンチに腰掛け、ドライマンゴーをつまみつつ、ひと休み。

 ヴァン殿下の護衛のため、夜番もある不規則な休憩のルイス様に合わせ、共に過ごす時間を捻出していた。基本暇しているぼくなので、時間が合わないとか、困ることはあまりない。



 ここらを治めている貴族のお屋敷に戻り、今夜の宴席をひかえたルイス様は仮眠を取るため、与えられた自室に下がる。


 部屋まで送り届けたぼくが踵を返すと、一度閉まったはずのドアが再び開いた。

 掴まれた腕に、中へ引きずりこまれ、抱きすくめられる。



「……もう少しだけ。一緒にいませんか?」


「…………」



 回された腕にぎゅうぎゅうと縋るように抱しめられ、全力で寂しさを訴えてくるルイス様に負けた。くぅ〜ん、くぅ〜んってワンコの悲壮感漂う鳴き声が幻聴で聞こえる。


 そのまま一緒のベッドで横になり。ルイス様が寝付くまで頭を撫でていると、2人分合わせた温かな体温に、いつの間にかぼくの方も寝落ちしていた。








 ──街道沿いに街から街へと移動するのに合わせ、ぼくとルイス様は逢瀬をかさね。

 当初の予定通り、3週間の日程を経て、ヴァン殿下のバカンスは王都へ無事に辿り着いたことで終わりを告げた。


 帰って来たことで、ひと仕事を終えたルイス様と同様に、数日まとまった休みを頂戴したぼく。結局、荷解きもしないまま、一緒に過ごしたいと言うルイス様に捕獲される。


 そのままルイス様の邸宅に転がり込み、爛れた数日を満喫した。大丈夫。婚約前だけどギリまだ処女だ。本当にギリギリすぎるけど、貞操は無事の範疇にあると思う。


 待てが上手に出来ないぼくを止める男の身になって欲しい。可哀想だった。


 ルイス様の精神はオリハルコンで出来ているに違いない。大事なことなので、何回でも言いたい。可哀想だった。欲しいものを全力で泣いて耐えている姿がとても可哀想で、健気で、可愛すぎた。


 あわやこのままぼくの誘惑に屈するかと思いきや、休暇中なのにヴァン殿下から緊急の呼び出しを受けた。

 ルイス様と結婚どころか婚約が受理されなくて、ぼくが直接出向かないといけない事態にまでなったらしい。



 身支度を整えて、魔法使いの正装であるローブをまとい。ルイス様も連れて王宮へと向かう。さらに、ルイス様から大事なことだからと、いくつかの注意事項を受けた。



 通された会議室を扉をくぐると、室内には結構な数の人々がおり、大きな声で怒涛や、意見が飛び交っていた。混乱を極めるさなか、目立つ席にどっしりと位を構えるヴァン殿下に近寄る。


 話の中心人物として多数に注目を浴びていたその御仁へ近寄るたびに、声がひとつ、ふたつと消えていく。

 呼び出しに参上したことへの、挨拶の向上を口にする頃には、辺りはしんと静まり返っていた。



「ご挨拶申し上げます。──ブラン伯爵家が養女、ならびに、第12魔法具・魔法書管理局に所属しております、局長補佐官の魔法使いリリィです。呼び出しにより、馳せ参じました。お待たせして申し訳ありません、ヴァン・フロウ・シュテルン先王弟殿下」


「せっかくの休みにすまんのぉ。いつものように、ヴァンでかまわんよ。ルイスも連れて参ったのか……席はわしの隣で良いかの?」


「ありがとうございます。大事なお話のようなので、ヴァン殿下からお声がけくださって助かりました。席は──はい、ここで大丈夫なら」


「殿下、私はリリィ殿のオマケですので、後ろで失礼いたします」


「あいわかった。好きにせい」



 ルイス様はヴァン殿下とコソッとやり取りをして、ぼくが座った席の後ろに回って、立っている状態。ぼくが護衛されているみたいな図になってるけど、コレでいいらしい。


 途中参加で、何がどうなっているのか、詳しいことの経緯をヴァン殿下が説明してくれた。


 貴族の婚姻関係は国王陛下の許可がいるんだけど、横槍が入って、婚約書類を偽造、もしくは無理やりサインさせた疑いをルイス様とヴァン殿下がかけられているらしく。許可が降りなかったと。


 第一王子殿下ならびに、王弟殿下がぼくと既成事実があると言うので、他から婚約の話が出るのはおかしいって。



「え゛っ……誰かと間違っていませんか? ぼくに恋人がいるってことですか? しかも2人????」


「リリィさんはこう言っておるが、どうなんじゃ。まずはジョンソン」



「はい。ごきげん麗しゅう、魔法使い様──」



 ジョンソンは──この方、第一王子殿下だったのか。長すぎる話の大事なところだけ要約すると、何度もぼくと2人きりで会っていたと主張する第一王子殿下。

 実際にはぼくがこの方の部屋の魔道具類の点検作業をしている時に、毎回隣にいただけだ。てっきり、点検作業中の監視者で、第一王子殿下の側仕えか何かだと思っていた。


 確かに話しもしているけれど、魔道具や魔術関係のことばっかり聞いたり話したりするので、報告作業や、専門に任されている方なんだと思い、そっち方面に必要なことかも知れないと回答とかしていた。


 ちなみに既成事実って何のことかと思ったら、密室で男女が共に過ごしたとか。



「空調設備の空気の流れを見るのに、部屋のドアを閉めた状態で、魔道具を作動させる作業内容がありまして。まさかソレですか?」


「具体的にジョンソンの部屋はどれほどかかるんじゃ?」


「各部屋で大体10秒から30秒です」


「よし、ジョンソンはギルティじゃ」


「そんなっ! わたしも、わたしにもチャンスをお与え下さい!! 数年はやく生まれていれば、先に魔法使い様の目に止まるのはきっとわたしでしたっ、だから──」



 断言出来る。仮に先に第一王子殿下と出会っていても、ぼくがこの方を選ぶことはない。先とかあととか関係なく、比べた時にルイス様の方が大好きだ。数年はやくって、2歳違いなら、ルイス様とぼくの年齢差と変わらない。


 仮にルイス様がいなくとも、第一王子殿下を選ぶくらいなら、王族でいったらヴァン殿下の方が一番平和的な結婚生活をおくれる。そう述べると、相手が膝から崩れ落ちた。どちらにしろ選ぶ余地がない。



 第一王子殿下は涙目で会議室から出て行った。それに続いて、第一王子殿下をなぐさめながら、何名かの人たちがゾロゾロと一緒にご退出された。




 お次はアーチバルド殿下と呼ばれた人物。

 隣りのヴァン殿下が少々嫌そうな雰囲気を醸し出しながら、紹介された。



「ご無沙汰だったね、ブラン嬢。よりにもよって、魔法使いを私利私欲に使う叔父上に目をつけられちゃったのかい?」


「戯言ほざきよって。リリィさんとの事だけかいつまんで話せばよい」


「はあぁ〜……老い先短い年寄りはすぐに話を急かすんだから。それとも、図星を突かれて痛い腹がさらに痛み出したかな。ははっ」



 これだ。まさにこの方はまごうことなき悪役だ。愉快犯みたいな、軽い空気で口を開くその人の言葉を耳にするたびに不快感が増してくる。

 ヴァン殿下が魔王系の悪役なら、第一王子殿下が四天王最弱系の悪役なら、コレはピエロ系の小者臭がする三下悪役。そして、やっぱりだれぇ?


 面識があり、会話を交わしていれば、この不愉快で強烈な態度は、流石のぼくでも忘れる訳なさそうだけど。




「──って感じで、媚薬に倒れたブラン嬢を休憩室で一晩介抱しちゃって、折を見て迎えに行くと約束した訳だ」


「「「「「…………」」」」」



 ぼくが会議室に来る前は、散々、身に覚えはないけどぼくの名誉のために話せないと言っていたらしい。

 その割にスラスラと物語を読むように、芝居がかって話した内容は、流石の三下悪役。支離滅裂だった。



 コレに付き合うのが嫌になったぼくは、その場でヴァン殿下に「帰っていいですか?」って会議室から退出していいかお伺いをたてたが、却下された。くそぅ。




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