8. 魔法使い上司の名前はファーガス。
「アーチバルドと周りが勝手に盛り上がってるだけじゃ。気にせんでいい」
「そうなんですか? 私の方は第一王子殿下が最有力候補で、婚約秒読みだと聞きましたが……」
「あらあら。わたくしは議会で直接、アーチバルド様のお話を伺いましたのよ? ジョンソン殿下のお話は初耳ですわ」
「アーチバルドは議会に話が上がっただけじゃ。リリィさんの預かり知らぬところで話がまとまったところで意味もないじゃろうて、気にせんでいい。ルイスの話はジョンソンが無駄に根回ししてるやつじゃろう」
「私は第一王子殿下から直々に──」
ルイス様とのことを家的にはオッケーって言われたと思ったら、ぼくが他の人と結婚した後の愛人の話を持ち出したと思われたらしい。
ルイスママ曰く、ルイス様が好きな相手だから、魔法使いとか関係なく、了承したと。コソッと言われた。
貴族の常識は、やっぱり未だにぼくには本当の意味での理解が難しい。
契約的な政略結婚が主流なら、せめて好きな人をそばにって、愛人を容認する愛のカタチもあるのか。大人な関係だ。我が身にソレは無理だ。
そして、色々と3人でお話ししてるけど、ぼくはブランデーをチョコレートと共に味わう係。話の行く末を静かに見守る。
賑やかなこの方々が集まると、やはり会話が途切れることを知らない。ミルクチョコレートうまい。
ヴァン殿下が参加されてから、紅茶からお酒に切り替わった。
色んな人の名前が出てくるけど、誰がどれでさらに、どこの派閥で大臣がとかチンプンカンプンすぎてついて行けない。
10代のころにブラン侯爵家へお世話になってから習ったはずだけど、忘れている部分もかなり多い。国王陛下が即位されてから前と状況が違うし、情勢も変化している。全部言い訳だ。めんどくさいことは覚えない。以上!
ヴァン殿下から、無理に覚えなくても、近衛騎士のルイス様が職業柄、特に詳しく把握出来ているので大丈夫だと言われた。ありがたい本当。
「帰ってからリリィさんの口からルイスとの話が出れば全て消し飛ぶじゃろう。それと、この際じゃからファーガスの養子にルイスを推したい」
「そうですわね。それで話をお進めくださいませ。ルーベンス公爵家の出で、さらに魔法使い様の方の跡取りを加えれば、王家の横槍もさらに入り辛くなりましょうし。わたくしに異論はございませんわ」
ファーガスは……うちの上司の魔法使いですね。流石にわかります。え、ちょっと待って。
「ルイス様の新しいお父さんが、うちの上司になるんですか?」
「そうじゃ。元々、わしの親戚のどっかから、領地を任せられるヤツを勝手に見繕ってあてがってくれと言われとっての。リリィさんを嫁にするならルイスが丁度良いじゃろう」
「リ、リリィ殿をお嫁さんに……」
ルイス様とぼくは互いに顔を見合わせる。
そもそも、何でこんな話をしているのかを、ルイスママとぼくで、急に呼び出されたルイス様に説明するところからはじめた。
お宅の息子さんに結婚を前提で交際を申し込みたいんですけど、お家的には大丈夫ですか? と、裏でコソコソしているのがバレた。これは恥ずかしい。
説明が進むにつれ、間接的に告白したみたいになってきて、とてもいたたまれない気持ちになる。
本人に直接お付き合いしようと言っても、家の方針でダメって言われたら元も子もないので、先にルイスママンに確認したんだけど。
なんなら、ルイス様の方に結婚する意思まであったのかも確認前で、時期尚早かと思われた。けけど、そこのところ問題なさそうだった。
「うれしい……どうしよう。リリィ殿からプロポーズとか。……ッぃ、生きてて、よかっだぁ゛っ!!」
「良かったわね、ルイス。お母様ずっと心配してたのよ貴方のこと。想いが報われて良かったわぁ。リリィ様、ありがとうございます。うちの子をよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「具体的な話がまとまったら呼ぶでな。あとは若い2人で、──これは見合いのセリフかの。好きにせい」
執務室から笑って締め出されたぼくは、うるうるしているルイス様に、とりあえず庭園に行かないかと誘われた。
ルーベンス公爵城の自慢の庭園の一角は、夜でも魔道ランプの灯りが遊歩道を照らし、幻想的な光景を作り出していた。
庭園内にあるベンチのひとつに案内され、勧められた長椅子に座る。
座っているぼくの前に膝をついたルイス様に、両手を握り込まれる。
そのまま、祈るように、許しをこうように、膝上に握り込まれた両手ごと、顔をうずめられた。自分じゃない震えが、下肢から伝わる。
「ほんとに、……本当に私なんかが想いをよせていいのか、何度も悩んでいました。あなたに不相応なのは百も承知で。でも、諦めきれなくて。私を選んでくれてありがとう。この世界の誰よりもリリィ殿を、愛しています」
「こちらこそ。ぼくが相手で大丈夫? 後から後悔しても遅いよ?」
「しません。絶対に。ダメって言っても、もうぜぇっったいに離れませんから!」
「ふふっ、ありがとう。ルイス様のこと──たぶん好き」
「ぐっ……た、たぶんでも。今はいいです。私を選んでくれた事実が大事です」
「たぶんでもいい」って言う割に、泣き顔を上げてぼくを見つめた彼は、めちゃくちゃ不服そうな表情をしていた。眉間のシワに、軽く口付けをする。
涙をこぼし、キョトンとしたルイス様の頬がみるみる内に赤く染まる。
「うそ。好きだよ。これから末長くよろしくね、ルイス様」
「…………」
向けられる特大の愛してるには敵わないけど、時間の問題だと付け加えたぼくに、ルイス様はそれはそれは優しく、幸せそうな笑顔を向けられ。──愛しさが込み上げてきて、自然とぼくの顔もほころぶのを感じた。
握られていた手を解いて、涙を流すルイス様の頬を両手で包み込む。
「……ぁ、のっ、リリィどの?」
「ん?」
「まって、んッ! くっ、ふぁ……これ以上は……っ……」
水滴を吸い取り、可愛くてどうしようもないルイス様の顔中に何度もキスをお見舞いする。音を上げて顔を伏せられたので、頭にチュッとしたら唸られた。反応がやはり可愛い。クスリと笑えば、嗜められるみたいにグリグリと膝に顔をうずめられた。
そのまま、ルイス様のカタチの良い頭を撫でる。さらふわの青髪が触り心地抜群。
「……からかわないでください」
「ごめん。つい──いやだった?」
「嫌じゃないから困ってます。…………リリィ殿、耳はよして……んっ、……はぁ……っ変な声、でそっ……クッ!」
髪の間からのぞいた耳を指先でなぞる。気持ちいいらしい。
「ルイス様って健気だよね。可愛いからぼくが困るよ」
赤く染めた目元に、キッと睨まれる。
「リリィ殿のエッチ!」
ルイス様を長椅子に押し倒し、麗しい姿を鑑賞していたら、テレられ。再びの可愛さにやられる。
唇に飽き足らず、本能に従っていたるところにキスをしまくり、ルイス様を悶えて蕩けさせたころ、ぼくはやっと満足した。きっと寿命は盛大に伸びたに違いない。
こんなぼくで大丈夫かと本当に最後の確認をすれば、「みなまで言わせないでください! 好き!」って、視線をそらされ。真っ赤になっていた顔をさらに染め上げ、筋肉質な腕で隠された。大丈夫だったらしい──それは良かった。
仰向けで寝そべるルイス様の上へ、馬乗りになっていたぼくの背中に片腕が回され、抱き込まれ、拘束される。
太い腕に上体を倒され、胸元に耳を傾ける。バクバクしているルイス様の心音を拾った。整わない呼吸とあわせ、全身でもぼくに「愛してる」、「離さない」を伝えてくれる。胸にまたチューしといた。すき。
こうしてぼく達は、今日という日を境に、晴れて恋人同士になった。




