7. ぼくがか(略)
「聞いてくださいよ大将! リリィ殿ったら、『わたしがかんがえたさいきょうのでぇと』を吹っ飛ばして、浜焼きを食べに行くって言って譲らなくて! じ、じぶんから、自分からデートしようって言ってくれて、うわぁぁぁぁん! うれじぃいぃぃ゛──っ!!」
「こんなイイ女の魔法使い様取っ捕まえて、ウチの飯をま〜た食いに来たってのかい。兄ちゃんやるじゃんか」
メソメソしているルイス様の口に赤く焼かれたカニを突っ込む。大将が「母ちゃんこの兄ちゃんにオマケしてやってよ!」と言うと。
カニを飲み込んだルイス様が負けじと「この場い居合わせた者に酒を奢る!」なんて言ったものだから、あたりはちょっとしたお祭り騒ぎになった。
ちなみにぼくはこの間に高速で大きなカニを解体して、脚をもいで全部の殻を一緒くたにして剥いてルイス様に「あ〜ん」する係。
ちゃんとそれで自分の口にも放り込んでるんだから、魔術って便利だよね。
ぷわぷわと空中に浮かぶカニの身を魔術操作で引き寄せ、ぼくは口を開けた。カニはやっぱりうまい。
ぼくは海鮮浜焼きを譲らなかった。ルイス様側がごねにごねて、カニの甲羅の処理をぼくがするだけではなく、「あ〜ん」を強要されて手を打った。代償はどデカいが、カニはやっぱ大事。
ちなみに、最初の一本は魔術を使わず、自力でちゃんと手を使って剥いた。
超絶不器用に悪戦苦闘するぼくの手元を、固唾を飲んで見守っていたルイス様は、ちょっと崩れた身を口にすると感動で涙していた。人に剥いてもらったカニはうまいよね。わかる。
そのあとものの数秒で魔術でプリンッと丸裸にされたカニの身に、ルイス様は感情のないスン顔になった。
うん。ぼくも情緒的なモノはないと思うけど、コイツは美味しい割に面倒くさいヤツなのだ。あと地味にルイス様の口元に手ずから持って行くのが恥ずかしい。むり。
貴族になった今までだったら人目がある外でこんなこと普段はしないけど、ルイス様に魔法使いと言うか、ぼくの素の状態に慣れてもらいたい。後から聞いてませんでしたとか言われたら、こっちも困るからね。
今のところは大丈夫そうだけど。流石に海を渡るために空へ飛んだ時はビックリしていた。
メインはイセ海老。今日はこれを目当てに食べに来た。
前はおまけの小ぶりサイズだったらしいんだけど、確かに販売品は前の倍以上のさらにビッグサイズだった。歯切れの良い繊維に、プリプリ通り越し、ブリッブリの食べごたえ抜群の身は、肉厚なジューシーさの濃い旨みに甘みを兼ね備えていた。声を大にして言いたい。前にも増してけしからん海老うまい。
食後は軽く白い砂浜を散歩し、ぼく達は再び飛び立った。
旅路を逆走し、通過した時に気になっていた森に入り、キノコに重宝する薬草、魔物狩りを少々してから、近くの街を散策して果物を買い込み、暗くなる前にルイス様の生家であるルーベンス公爵領の城に戻る。
ルイス様のご実家だ。旅行カバンひとつで足を踏み入れるには、ぼくの手持ちは少なすぎた。
デートコースで手に入れた品々を手土産に、ご両親に挨拶をすませる。
普段は王都に在住しているが、ヴァン殿下の訪れに合わせて先立って戻っていたというご両親は、ルイス様に似て優しい雰囲気でぼく達を出迎えてくれた。
晩餐の席にお呼ばれし、領自慢の特産品だというワイン類に合わせた料理をいただきながら、話に耳を傾ける。
「まさか自領で新鮮な生の『フィズの実』をいただけるとは思いませんでしたわ。美味しいんですけど、輸送が難しいでしょう? 夫の好物で、毎年の行き帰りを楽しみにしておりましたのよ。雨に見舞われて、今年は行きで食せませんで、わたくしも残念に思っておりましたの。ん〜……このパチパチ弾ける果肉がたまりませんのよね。素敵なお土産をありがとうございます、リリィ様」
「実はルイス様にお土産ならフィズの実もぜひと教えてもらいまして。確かにこれはクセになる味ですね」
「まぁ! そうだったの。ルイスもありがとう。フィズの実もそうですけど、お持ちいただいたトリュフの香りを、我が家のコックがたいそう気に入りまして。明日の朝にオムレツのソースにして……あ、リリィ様はオムレツはお好きかしら?」
「はい。普段はスクランブルエッグを食べることが多いんですけど、卵料理全般好きです」
「お好きでよかったわぁ。ワインビネガーのサラダも──」
ルイス様は、ママ似だった。
見た目は入り婿だという爽やかダンディ紳士のパパ似だけど、性格はまごうことなきママに激似だった。口下手な自分でも、話しやすくてとても助かった。
ヴァン殿下に、ルイス様のママ、ルイス様が揃うと晩餐が終始賑やかで、話の盛り上がりに、食事もお酒も楽しく美味しくいただける。ルーベンス公爵家の家族仲は皆良好らしく、あったかい家庭だなって思った。
食事が終わり、ぼくはこの家にある執務室を訪れた。
入室の許可が出て、ドアをくぐり、勧められたソファに腰掛ける。
ルーベンス公爵家の実質的な実務を行う、ニコニコとしたルイスママが出迎えてくれた。いわば、一族の代表者だ。少しだけ緊張する。
淹れられた紅茶に口をつけ、カラカラの喉を潤し、ひと息ついてから話を切り出す。
内容はルイス様に交際を申し込んでみたいが、家的にはどうでしょうか? と。お伺いをたてる。
ブラン侯爵家の養女ではあるが、結婚関係に関してはぼくに一任されている。
一代限りではあるけれど、騎士伯と同等の魔法使いの称号を持っているので、ぼく自身が家長になる。貴族の家同士の話し合いだ。
公爵家に比べれば平民に毛が生えた程度の身分ですが。うん。
魔法使いの称号っていうのは、法的効力は実はあまりない。はずなんだけど──。
「まぁまぁ! ご丁寧に、ありがとうございます。リリィ様に望まれるのならわたくしから言えることはございませんわ。お声がけしてくださって、ルイスも喜ぶでしょう」
ヴァン殿下が何者も魔法使いの行動を阻むことは許されない。って説明された意味を、身を持って感じる。
ぼく自身がこれまで周りを気にしないどころか、そもそも、あんまり話しかけられることもないし、仕事に支障もなかったんで疑問に思ってなかったけど。貴族階級だけで考えたら常識外れな待遇だと思う。
初対面でガンガン話しかけてこられた時の、ルイス様の珍獣感が凄かったのを思い出した。逆だ。ぼくがイレギュラーな存在だった。
「えっと、それではルイス様と結婚を視野に入れてのお付き合いをしたいんですけど、大丈夫ですかね?」
「…………ルイスとですか?」
「はい」
「え???? アーチバルト殿下は、どうされるおつもりですの?」
「?」
だれぇ? アーチバルトって。と、記憶を引っ張りだしてみる。「殿下」とついてるけど、いや、どれだっけ?
今の国王陛下の子に当たる、3人いる内の王子殿下のひとりだと思うんだけど。多分。
不敬を承知で、何番目の方でしたっけ? と、ルイスママに白状する。王女殿下も3人いるんだ。どれが誰で何番目とか、全員ぼくより年下で、みんな成長速度が早くて覚えきれない。
────って思っていたら違った。
国王陛下の弟君だったらしい。
だから、本当だれぇ?
ヴァン殿下が先王の弟殿下で、アーチボルト殿下……ごめんなさい、アーチバルト? 殿下が今の王の弟殿下ね。やっぱり覚えてられない。やめよう名前の話とか。
ルイスママは困り顔。ぼくと話してもらちが明かないので、ヴァン殿下を呼んでもらった。
あと、当事者であるルイス様も追加でお願いします。お手数おかけして本当スミマセン。




