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4. 海鮮浜焼き屋に行きませんか?




「聞いてくださいよ大将! リリィ殿ったら──あ、リリィ殿って言うのはそこでカニに夢中になってるレディのことなんですけど。デートの誘いは断られたのに、浜焼きは食べに行くって言って譲らなくて!」


「かぁ〜……嬢ちゃん大したもんだな。こんなイイ男の騎士様取っ捕まえて、ウチの飯を食いに来たってのかい」



 赤く茹でられたカニの身をめいっぱい頬張り、コクコクと頷く。喋れないけど、意味は伝わったらしい。


 冗談だと思っていた話が本当で、一瞬フリーズした大将はすぐさま豪快に笑い「母ちゃんこの嬢ちゃんにオマケしてやってよ!」と、種類は良くわからないけど、気前よく海老を出してくれた。

 小ぶりだと言われた海老だが、ぼくの知っている海老と違って十分デカい。半身にされ、網の上でジュージュー焼かれていく。


 上がる煙に、香ばしい匂いが食欲をそそり、絶対コイツ美味しいヤツだと確信した。

 


 ちなみにルイス様はこの間に高速で大きなカニを解体して、脚をもいで一本一本丁寧に殻を剥いてぼくに差し出す係。

 ちゃんとそれで自分の口にも放り込んでるんだから、要領が良いよね。


 大将に習って最初はぎこちなかったのに、コツを掴んでからは早かった。

 専用のグローブを装着し、パキリ、パキリと小気味いい音をさせてスルリと殻を剥く手際の良さに、イケメンは何をしてもそつなくこなすと感心していた。不器用なぼくでは絶対無理。人に剥いてもらったカニうまい。


 デートは確かにごねた。

 ただ、港に併設された海鮮浜焼きは、カニ付きで、さらに食べやすくする処理をルイス様がしてくれるなら行くと了承した。


 勝負には負けたが、試合には勝った気で、現在、海産物を堪能している。ぼくはデートのつもりでいるけど、ルイス様的には違うらしい。細かいことは気にしないで欲しいと願う。


 浜焼きは店先で自分たちの好きなモノを焼くスタイルなんだけど。混雑加減から、繁盛してるのもわかるし、この味なら納得のひと言。何を口にしてもハズレがない。


 生の岩牡蠣はレモンをキュッと絞ってすでに殻だけになり。

 牡蠣の蒸し焼きと、ハマグリやサザエの壺焼きなどの貝類。さらに、メインの大鍋で茹でられたカニは、蟹味噌をつけてこれでもかと口に詰め込んでいる。幸せがすぎる。カニ、うまい。デカい海老もうまい。最高。なんでこんなプリプリなんだ、けしからん海老。



「んん〜……おいひぃ」


「嬢ちゃんほら、イセ海老の殻はこの小鍋によこしな。シメにスープにして出してやるから」


「ごきゅん。ありがとう」



 この海老は「イセ海老」って名前なのか。ここら近辺の海域にしか生息していない、固有の特大海老らしい。図鑑で見たことあった気もするけど、実物ははじめてだ。


 イセ海老の出汁が効いた、ネギが散らされたミソスープは、それはそれは心温まる美味しさだった。







「────って感じでした。カニもですけど、オマケのイセ海老は格別でした」


「がははははッ!」


「はぁ〜……殿下。カニと海老に負けた男の話ですよ。さぞ、酒の肴に合うでしょうね」



 ヴァン殿下からルイス様共々夕食に誘われ、昼間のデートはどうだったと聞かれたのでことの経緯から説明した。

 最初っから最後まで食べ物の話ばかりなぼくに、ルイス様が嘆く。



 今日は港街にある高級宿に1泊。

 部屋に備え付けの食堂室で、酒を嗜みながらお上品なコース料理をいただく。コレはコレで違った良さがある。ブイヤベースうまい。


 明日から船旅となるので、交代で休みをもらっていたんだけど。まぁ、先王弟殿下の移動に差し当たって大所帯である。目撃者からルイス様とぼくが一緒に出かけた話が漏れても不思議ではない。



「ルイス。魔法使いの気を引くのは大変じゃろうて。はぁ〜……わしも若い頃はファーガスに手を焼いたものよ」


「殿下がですか? 今からは想像出来ませんね。そんなに大変でしたか?」


「そうじゃ、あやつ観劇や演奏会に連れて行っても途中で堂々と寝るヤツでな。話の種を仕入れるのに、片っ端から書物を読み漁って────」



 有名な劇場に連れて行っても、何回も寝てしまうので、劇団の団長を泣かせた逸話があるらしい。あの上司ならやりかねない。いや、他人事ではない。ぼくも演目によってはやりかねないからガチで笑えない。


 王宮図書館の書物が豊富なのは、ヴァン殿下や上司が競うように、国内外限らず、片っ端から読み漁って寄贈したおかげもあるらしい。

 おかげで豊富な本や魔道書が揃いに揃い、今度はそこから本人が出て来なくなったとか。うちの上司、書物が好きすぎて王宮図書館に住んでます。


 ヴァン殿下は白ワインを一気飲みして、机の上にダァンッとグラスを叩きつけた。



「魔法使いは手強いからの。カニに負けたぐらいで泣き言なぞ、30億年はやいんじゃよ。わしは未だに泣きをみとるわ」


「くっ……殿下……」


「魔法使いがぎっくり腰になんてなるか!? あやつ新種の魔道書を解析するのにわしを、うわぁぁぁぁん! ──わ、わしをひとり旅に出したんじゃっ! 土産は絶っっ対買ってくれるなよリリィざぁん゛ッッ!!」


「ハイ。買イマセン」



 姿が見えないと思ったら、自室に引きこもっていたのか。


 何で急にぼくが旅の同行者に加わったのかと思ったら、ドタキャンされたらしい。あー。泣き酒が入ったヴァン殿下の前では、上司が羨ましいって口が裂けても言える雰囲気じゃないので、お口にデザートの氷菓子を突っ込む。



 刺さる視線に「観劇はなしか……」と、ぼくを見ながら何やらルイス様がぶつぶつ言っているのが、少々怖い。


 飲み過ぎなヴァン殿下に配慮して、給仕をしていたお付きの方がお開きを言い渡し、ぼくとルイス様は自室に下がる許しを得てから、その場を後にした。


 部屋まで送っていただいたルイス様に就寝の挨拶を笑顔で遮られる。


 ドアを閉めようとしたら、ガッッ! とブーツをねじ込まれた。物理的に扉が閉まらない。おわた。



「リリィ殿、次は領地を案内しますから、予定は空けといてくださいね」


「……同行するのも急に決まったし、予定なんて元々ないから。大丈夫だよ。どこに行きたいの?」


「これから練り直します。観劇は行きません」



 目に見えてホッとしたぼくに苦笑したルイス様は、今度こそおやすみを口にして、──自然な感じでぼくのオデコにちゅーしてから帰って行った。扉が閉まる。







「「「キャァーーッ!!!!」」」



 遅れて同室の女性陣の黄色い悲鳴が響き渡る中。ぼくは真っ赤な顔をローブのフードで隠し、頭を抱えてその場にうずくまるくらいしか、なす術がなかった。


 

 そんなんだから、ルイス様がぼくにご執心だとの噂が瞬く間に広まるのに、時間はかからなかった。



 色んな人に好奇な視線やら、今までにない生暖かい目を向けられ、逃げ場のない船旅で。ぼくは今後の身の振り方を決めなければいけないと、真剣に将来のことについて考え、悩み。

 悩みに悩んで結果の出ないまま、とりあえず先人の知恵を借りるため、相談することにした。



 魔術を駆使して小鳥を構築し、遠距離の言葉をはこぶ。行き先は王宮の図書館。



 相談相手は同じ魔法使いの上司になる訳だけど、『あきらめろ』と、重いため息と共に紡ぎ出された返信の言葉に、そのひと言に先人の心理が凝縮している気がした。



 ぼくは相談することの無意味さを理解し、直接、ヴァン殿下へ尋ねようと決めた。



 あなた達は、──王国の上層部はぼくにどうあって欲しいのか。


 どうしたらいいのか──を。


 


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