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3. やっと気がつきました?




 普段は第12魔法具・魔法書管理局の職員として王宮内にある図書館に駐在ちゅうざいしている訳だけど。

 主な仕事内容は魔法具や魔法書の管理点検、修理等。


 ソレを外出先で行うってなると、実際にはあまりやる事は少ない。魔法具の軽い点検と魔力補充の他には、せいぜい緊急時の対応くらいだ。


 好々爺とした先王弟殿下付きとして、夏の避暑地に同行する任務を賜ったぼくはビックリするくらい暇を持て余していた。

 それが態度に出ちゃったのかも知れない。


 2日目くらいに先王弟殿下の馬車にお呼ばれした。全部で3週間予定の今回。有力貴族の屋敷に泊まりながら、ゆっくりと続く旅路。ぼくより確実に暇してる人がいた。



「ファーガスが来ないと聞いた時は、今年は中止しようかと思っとったが。適任者がいて何よりじゃった。わしはヴァン。よろしくな」


「この度はお招きいただき、ありがとうございます。ブラン伯爵家の養女リリィです。気軽に『リリィ』とお呼びください」


「わかった。リリィさんと呼ぼうかの」



 出発前に軽いあいさつはすませたけど──馬車の中という私的空間で自分も好きに呼べと言われ。先王弟殿下を好きに呼ぶって難しいな? 無難にヴァン殿下で落ち着いた。


 ちなみにファーガスは上司の名前だ。

 第12魔法具・魔法書管理局の局長で、この王国に2人いる『魔法使い』の称号持ちの1人。


 人嫌いで気難しいファーガス様の親友だと言うヴァン殿下は、気さくでパワフルなおじいちゃんだった。

 この押しの強さに眉間にシワを寄せて負けている上司の絵面が容易に浮かぶ。


 ──うん。何か既視感あるなってなった。


 ヴァン殿下の姉君である王女が嫁いだ先が、ルイス様のご実家。ルーベンス公爵家なんだけど、毎年、この時期に休暇も兼ねてお墓参りに行くと説明は受けた。

 ルイス様に似てるというか、血縁者のヴァン殿下にルイス様の方が似ているのかと察した。


 彼に似ているならちょっと引っ込み思案なぼくと相性悪いわけもなく。

 共通する話題と言ったらおのずと上司やルイス様になる訳で。


 ルイス様の可愛い食いしんぼうっぷりや、上司の昔の武勇伝に笑わされ、次の小休憩を挟んだら、ルイス様が馬車に乗り込んで来た。



「ルイス。馬車に乗るのはおぬしの番ではないじゃろうて」


「外まで笑い声が響いてるんですよ。このままリリィ殿や他の騎士に幼少期のおねしょの話まで持ち出されたら、たまったもんじゃありません」


「そうじゃの、アレは確か2歳くらいじゃったか……夜中にピーピー泣いてると思ったら── むぐっ」


「うわぁあぁぁっっ?! 本当にあったんですか! ストップ、ストップ!」


「あははっ」


「リ、リリィ殿。笑ってないで殿下を止めてください!」



 無茶振りだ。不敬罪で捕まりたくないので、無理な相談だった。


 物理的にヴァン殿下の口に手を当てて、ルイス様は本気で焦っていた。それが余計に笑える。

 普段の余裕ある爽やかイケメンといった感じの態度が崩れ、素のルイス様って感じがして、親しみが増した。


 流石にそれ以降は本人を目の前にして話をするのははばかられ、もっぱら博識なヴァン殿下の話に耳をかたむける運びとなった。


 ヴァン殿下のおかげで、思ったよりも道中楽しい時間が持てた訳だけど、かの御仁はあのお人柄もあるが、人気だった。独占するのも悪いと思って、次の休憩時間には馬車を降りた。




 わぁ、綺麗な鳥。

 本日午後の最後の休憩。野鳥に向かって口笛を吹いたら、美しい鳴き声が返って来た。


 もう一度返事をしようとしたら、おもったよりも近い距離で声をかけられた。



「── ナンパですか?」


「………………ちょっと挨拶しただけじゃないですか」


「ふ〜ん」


 

 まるで疑うような、独特の圧があるほほ笑み。ルイス様にそんな表情を向けられ、何故か嗜められたみたいに感じて、思わずサッと視線をそらす。


 悪いこともしていないのに、良くわからない罪悪感みたいなものが胸の片隅に居座る。


 飛び立った小鳥が、不穏な空気に残り香をくように小さく鳴いて、森の奥に消えて行った。

 森を見つめるぼくの紅藤色の瞳を、顎に武骨な指を置かれてクイッとルイス様の方に向けられる。


 ビックリして目を見開いたぼくの視界に、青い髪色が写り込む。



「私というものがありながら、ひどい方だ」



 いつもの優しさに、どろりと甘いなまめかしさを混ぜた、悲壮感をにじませるルイス様のかすれた声が、ぼくの脊髄をビリビリにシビレさせる。


 急に大人な雰囲気で本気出して来た同期に、ぼくはどう太刀打ちすれば正解なのか、わからなかった。いいや、太刀打ちしても、きっと敵わない。


 長いため息を吐いたルイス様はかがみ込んで、ぼくの華奢な肩へ頭を乗せる。ビクッと身体を強張らせると、自重気味にフッと笑われた気がした。



「リリィ殿、次の街でデートに行きませんか? 何か欲しいものとかあれば。白浜を散歩しても良いですし」


「え? あ……──」



 これは口説かれているのでは?


 彼の心情に何か変化があったのか。もともとそうだったのか。


 そういった色恋の経験が皆無な自分は、その内情を推し量ることはできない。

 でも、長く続いた友人関係に、ひずみが生まれたのは理解出来た。シンプルに「それはイヤだな」って秒で答えが導き出される。


 今まで考えもしなかったけど──。

 勘違いだって思いたいけど、今までと明らかに違う態度が、それを否定して来る。


 今度はぼくがため息を吐く番だった。



 パッと顔を上げたルイス様は、いつもの爽やかで、優しげで、先ほどの甘さが幻想だったと思えるくらい、ほんわかとした笑顔を浮かべていた。



「港に海鮮浜焼き屋があるんですけど──メシも食いに行きませんか?」


「デートなの?」


「…………」


「…………」



 プイッと顔を逸らすと、再び顎を取られてグ〜イッッと戻される。いつにも増して押しが強い。


 獰猛な笑みでニヤリとするルイス様。

 爽やかイケメン過ぎて、どう頑張っても悪役顔にならず、ちゃめっ気を含んだヤンチャ感しが出ていない。気がする。



「この時期の岩牡蠣は蒸しても焼いても最高に美味しいんですよ。生でも食えるくらいですから。どうします?」


「いかない」



 顎を捉えていた指が、両頬に添えられる。


 でっかい片手に挟まれてむぎゅっと押し込まれたぼくの顔は、さぞかし間抜けな面構えだと思う。

 でも、笑顔のルイス様の目は笑っていなかった。



「大ぶりのハマグリを焼いてソイソースを垂らしても美味しいんですよ。炭火ですから、こうばしい香りが食欲をそそって──」


「いかひゃ()い」


「…………」



 耳があったら垂れてるだろうなと思えるくらい、迷子の子犬みたいにシュンとされる。罪悪感がすごいよ。やめてね。


 その後、休憩時間ギリギリまでやり取りと言う名の攻防を繰り広げた結果。ぼくはルイス様に白旗を上げた。


 知ってた。ぼくはこの人に口で勝てた試しがない。無駄な抵抗だったけど、争うことに意義はあった。


 次の街に辿り着くのが、今から楽しみでしょうがない。






リリィ「むぐゃ〜」


ルイス(くっ……タコくちがとてもカワイイ)


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