2.パスタも食いたくありません?
「リリィ殿は何を?」
「ラザニアに、メインはフライの盛り合わせですかね。パンケーキは苺のヤツです」
「ラザニアもあるのか──。パスタも食いたくありません? 苺も良いですね。キャラメルとナッツのパンケーキも捨てがたいですけど、ブルーベリーも気になるな……う〜む」
王宮寮に引越し作業が終わり、午後に向けての買い物前にルイス様と腹ごしらえ。
パンケーキが自慢のカフェの個室で、他にも目移りしつつ、食べたいモノが多すぎるのでシェアしないかと持ちかけられた。全力でのっかることにする。
昨日話したのがはじめてとは思えないくらい、気安い感じのルイス様につられて、食事をしつつ話に花を咲かせる。
大の甘党だというルイス様だが、甘党同盟を組んでいたお姉様が他国にお嫁に行かれて、最近外食で甘いモノにありつけていなかったんだとか。
「ぼくは食べに行くより作る方が多くて」
「え、作れるんですか? すごいなリリィ殿は。私はもっぱら食べる専門でして」
「食べる量が多いですから、必然的に。好きなモノを好きなだけとなると、作った方が安上がりですし、何より早いですから」
「なるほど。そうか、『魔法使い』の方はエネルギー効率が悪いんでしたっけ。……大変ですね」
美味しいモノが沢山食べられる体質は、良いことなんだけど。小柄な身体に対して燃費が悪く、いかんせん量が多すぎる。なんだったら、今も、成人男性のルイス様並みに食べてる。
魔術を使わなければそんなに食べなくても良いんだけど、引越し作業で色々と消費されたのがね。うん。シェアされたロゼクリームのきのこパスタが身に染みておいしい。
平打ちのもちもちとした麺にコクのあるパスタソースが絡まって最高だ。クリスピーなチキンのフライを合間にはさむ。うまっ。
やっぱり、良いことかも。今は食事関係で困ることはない。食べても食べてもお腹が空いて仕方がない成長期は過ぎた。
「ふふっ。そう言うルイス様も結構食べますよね」
「恥ずかしながら、特に今日は。苺のヤツが甘くてジューシーで美味しい飲み物と化してます。いやあ〜、よかったリリィ殿を誘って」
色々食べられて最高だと、ご満悦なルイス様に向かって「こちらこそ」と返すぼく。
パンケーキも良いけど、昨日お土産にもらったクッキーの詰め合わせも美味しかったので、どこで売っているのか確認する。
じゃあ、買い物がすんだらお菓子屋巡りをしようと、これまたトントン拍子に話が進み。
就職しても、いつの間にか、お菓子を交換する間がらになっていた。
近衛騎士のルイス様と、王宮図書館勤務のぼくでは、接点がなくなると思ってたんだけど。
贈り物形式で、たまに「リリィ殿が好きそうなのみつけた」と、手紙と共に配達されて来る。ソレがまた良い感じに洒落た焼き菓子やちょっとつまむのに最適な小分けのチョコレートとかで、絶妙にチョイスが上手い。
ぼくの方もルイス様の口に合いそうな菓子を作ったり、買ってはお返しをと。さらにお返しのお返しで、となる。
どこかへ特別に食事しに行くとかはない。
でも、王宮内ですれ違ったら挨拶はするし、短いながらもやり取りはある。目の保養に良いので、見かけたらついつい視線が追ってしまう。
うしろは短めに刈り上げ、上は艶やかな青髪は、ブーツを履いた長い脚で歩みを進めると、ゆるふわと風を受けて揺れる。
近衛騎士のカチッとした黒い隊服のおかげもあり、しなやかさを兼ね備えた筋肉に、柔らかな雰囲気がギャップを添えて、眼福なのだ。
琥珀色の瞳と視線が合えば、はちみつがとろけ出したみたいな笑顔を向けられ。あまりに屈託のない好意的な態度に、コチラも自然と、つられて口元を綻ばせる。
直接的な接点はあまりないけれど、お菓子と手紙のやり取りで、同期との不思議なつながりを感じていた。
「──……の、……──リ………どの。──あの、大丈夫ですか?」
「へぁっ!??? ぁ、はぃ。ダイジョウブ」
「ご休憩中に申し訳ありません。リリィ殿に仕事のお届けがありまして」
こじんまりとした、お気に入りの中庭の芝生上。取り急ぎご確認をと言われ。
とてつもなく申し訳なさそうに差し出された、封書を開ける。
気持ちの良い木漏れ日の中、寝ている場合ではなかった。
差出人は先王弟殿下専属の近衛騎士に出世したルイス様を伝令として使えるほどの相手だ。待たせるのも悪い。
王宮に就職して数年。
ぼく達の関係は変わらず。むしろ、当初よりぼくの方が砕けた感じでルイス様に接するようになったほど、仲は良かった。
貴族としては最上位の爵位ある家の出身だと知ったのは、だいぶ態度が軟化した後だった。本気で泣いた。教えて欲しかった。普通なら、首が繋がっているのが奇跡のレベルで不敬の数々を働いたあとである。
笑って許してくれる懐の広い男で良かった。ぼくの改まった態度に、今度は向こうに嘆かれたので、プライベートの時だけは普通に接している。
まぁ、あちらはルーベンス公爵家の三男で、それを差し引いても騎士伯とは別にいくつかの爵位を持っている相手ではある。公式の場ではこちらが改まった態度で接しているが、2人きりの時はなぜか立場が逆転する。本当に不思議な関係だった。
同期の知り合いから、友人くらいにはなったんじゃないかとコチラは勝手に思っている。
キョロキョロと辺りを見回したルイス様が、懐から包み紙を取り出し、マーブル模様の中身を摘んで、ぼくのお口に放り込む。とびきりの笑顔が眩しい。近距離イケメンありがたい。きっと寿命が伸びたに違いない。
そういう気さくな行動が、高貴な身分をカモフラージュさせていた要因なんだけど。
行い自体は嫌じゃなかった。気を使わない間がらが、好ましくすらある。
ほろ苦い甘さにミルキーで滑らかな口当たり。カラコロと口内を行き来させて、ソレを堪能する。
「うま……ミルクコーヒーの飴玉?」
「正解。キャラメルバター味もあるんですよ」
そう言って、自分の口に違う飴玉を放り込み、可愛らしい包み紙にくるまった飴を新たにぼくに数個くれた。フルーツやはちみつなどの味が主流の中で、この味の組み合わせは珍しい。気に入った。
あとで店を教えてもらおうと頭の隅にメモを取り、書類の続きを読み進める。
来た時点でよっぽどの事がないと断れなさそうな豪華さの見た目をしたお手紙。
王家から発行された、正式書類の内容は、端的に言うと「先王弟殿下のバカンスに同行してください」だった。出発は異例の3日後。
「……3日後」
「そうなんです。急で申し訳ないが、毎年の担当者がぎっくり腰で」
「あ〜……なるほど?」
ぼくのところの上司ですね。分かります。
ここ最近、珍しく職場にいないと思ったら、可哀想なことになっていたらしい。
おかげでぼくが忙しくしている訳だけど、旅には同行不可だが、近日中には普通の仕事の方は出来るだろうと。
命令書の返信用書類や、いくつか王宮不在の手続き書類にサインをして、ルイス様に手渡した。
いつもより、さらにニコニコとしてご機嫌なルイス様にどうしたのか伺う。
「仕事中もリリィ殿と一緒だと思ったら、嬉しくて。楽しみですね」
「ルイス様も行くの?」
「そうなんです」
それは確かに楽しみだとぼくが言葉にすれば、ルイス様は笑顔を深め、口の中に含んだ飴より、さらに甘くとろけるような顔を向けられた。苦さのカケラもない。
尻尾が生えていたらブンブン振ってると思う。本当に、この人は。──何でこんなに自分に懐いたのかは良くわからないけれど、全面的に向けられる特大の好意に、ぼくの方は悪い気はしなかった。
むしろ、仲良くしてくれていつもありがとうとルイス様に感謝していた。
ルイス(くっ……相手は天然だ。手強い)




