13. うん。タイトルを聞く限り、男性向けのですね、リリィ殿。
ルイス・ルーベンス改め。
ぼくの上司と養子縁組をしたルイス様は、家名が『フォーサイス』となった。
もともと自分で所持していた爵位や領地と合わせ。ダンジョンを所有する領地の経営を上司から任され、ダンジョン辺境伯という特殊な爵位も一緒に引き継いだ。
この爵位は普通の辺境伯同様、貴族としては公爵家に次いで上の序列になる。
国王陛下の専属近衛騎士になる話を蹴ったルイス様なんだけど。
あとから聞いたら、いつ殺されるかわからない場所に無理にいる必要もない。と、言うことで、自身の領地に引き篭もる姿勢をみせた。近衛騎士の仕事も辞める方向で話がまとまり、ぼくも職を辞して一緒に領地に着いて行った────んだけど。
「なんだ、叔父貴も一緒にくるのか?」
「そうみたい。俺たちが集めた図書館の本をどうするって話し合ってたら、何かいつの間にか……」
「王宮図書館の貴重本はヴァン殿下とほとんど集められたんでしたっけ。あの量を仕分けるの大変そうですもんね」
「そう! そうなんだよ。どさくさに紛れていくつか俺が貰おうと思ってたら、アイツ先回りして引っ越し準備してやがって──」
引っ越して来るのは、なぜかぼく達だけじゃなくなった。
紅茶とカラメルプリンをいただきながら、上司こと義父予定のファーガスパパとオヤツの時間。
領地で行われる結婚式を明日に控え、王家の代表者として来ていたアーチバルド王弟殿下も一緒だ。良いお相手でもいないか、ぼく達の結婚式に便乗して、婚活しに来たらしい。
うろついていたアーチバルド王弟殿下がファーガスパパに捕獲され、美味しいお茶を淹れてもらった。コーヒー派のぼくだけど、この人の紅茶もうまい。
ルイス様とヴァン殿下は挨拶周りや結婚式の最終確認中。そういった社交や準備に向いてないファーガスパパとぼくなので、お任せしている。
一応これでもぼくはブラン侯爵家の養女なので、マリアンヌお姉ちゃんやご当主夫妻には挨拶してある。成人してからは割と放任主義なブラン侯爵夫妻だけど、流石に嫁入りとなると話は別だった。
着る物やら輿入れの際の色々をマリアンヌお姉ちゃんやブラン夫人の手を借りて揃え、床入りについても学んだ。
簡単な閨の流れと合わせ、「旦那様に全てお任せしなさい」とのブラン夫人の言葉に、首を傾げ、内心冷や汗を垂らしたりもした。
医学書や書物で得た知識を活用していた訳だけど、普通は男性に任せるものらしい。うん。大体はコチラからがっついてるね。
ぼくが読んだことがあるのは、男性向けの官能小説だったことが判明した。慎ましやかな貴族の淑女向けではないらしい。恥を忍んでルイス様に確認したら、爽やかに微笑まれた。
むしろ良いとまで言ってもらえて、ぼくの方は胸をなでおろした。寛大なルイス様に感謝です。
子どもの話は割と最初の方でした。欲しいけど、ぼくに任せるって。
『リリィ殿の子どもなら絶対可愛い』
そう言ってくれたルイス様だけど、あなたの子でもあるから、イケメンが生まれる確率もある。
そして、魔法使いが生まれる確率もある。
ルイス様はそこのところを考えてくれていて、そのためにファーガスパパを拝み倒したと言っていた。
「俺が誰とも番わなかったのは、普通の子が生まれたらどうしようって考えちゃったんだよな。お前なら何となく分かるだろ」
「本当に何となくですけど、分かります。どうやって子育てするのが正解なんですかね」
「正解なんて、本当はないのかもな知れないけど。ルイスに先生を頼まれた時は、素直に感心した」
膨大な魔力を所持する魔法使いの子どもがぼくから生まれたら。
ぼくの旦那様になる相手共々、子どもの先生として、魔法使い目線で指導をして欲しいと。相手が自分とは限らないが、その時はお願いしますって。
色々考えてくれて、本当に頭が上がらない。健気すぎる。出来た人だなって惚れ直した。
ヴァン殿下が持って来た、養子縁組の話がまとまった後。上手くいって良かったって普通に祝福された。
ちなみに、ファーガスパパをどうやってルイス様が引きずり出したかと言うと、貴重な魔導書をダンジョンの宝箱から神引きし、王宮図書館に寄付したらしい。3巻セットの、真ん中だけ引き抜いて。鬼だ。
前後の魔導書を求めて姿を現したファーガスパパを、全力で拝み倒したみたいです。
ちゃっかりヴァン殿下の休暇は同行拒否して、ぼくが行くのを後押しして欲しいと約束まで取り付けさせられ。別で新種の魔導書を気前よくポンっと手渡されたものだから、何か色々諦めたって。
「絶っっ対にお前も逃げらんないだろうなって、薄々俺は思ってたけどな」
「だろうな。オレも無理だと思って途中でやる気うせたわ。ふんっ」
「あ、お代わりありがとうございます。アーチボルド殿下」
「アーチ『バ』ルド、な。いい加減覚えろよ!? これだから魔法使いどもはっ」
「はぁ? お前だって、俺のこと猫か何かだと思ってるだろ」
「どう見ても猫だろう、この自由人どもめ! これでもオレ王族なんだぞ! お茶汲みに使うなよ!?」
シャー! と、お口を剥き出しにして威嚇する黒猫ファーガスパパ。今は完全に獣化した小さな猫状態だ。義父予定者、気まぐれすぎる。
文句言いつつも美味しいミルクティーのお代わりを甲斐甲斐しく追加してくれるツンデレ具合に、今日も平和だなぁってしみじみ思った。プリンもうまい。
結婚式は明日。ぼくはこの先どうするべきなのか。どうあるべきなのか。王国の意向を知るため、夜分にある人の元を訪ねた。
王国関係の上層部の考えは、この方に聞くのが一番はやい。
「──── 好きにすれば良いだろう」
「はぁ……ん? 好きにしていいんですか?」
豪華な王宮の一室。ぼくは夜分に国王陛下を訪ねた。
領地から飛んで来てバルコニーから室内に侵入したら、呆れた顔をされた。行儀がよろしくないから、正面から来いと。
一応、訪問してもいいか確認は取った。小鳥スタイルで。
お返事は「正気か?」だったけど、しばらくしたら領地に仰々しいお手紙が届いて、今日の日付指定で政務が終わったら来てもいいって書いてあったので、お邪魔した。
結婚式の前の日だ。来られない想定で、嫌味のつもりだったらしい。そういう意味を汲み取れない自分で、逆に申し訳なくなった。
まさか本当に来ると思っていなかったらしく、寝巻き姿の国王陛下は何だか疲れた顔をしていた。
「はぁー……もう、好きにすれば良い。王侯貴族の不文律で、魔法使いの行動を阻むことは我とてできん。そもそも魔法使いを武力で止められないから、こんな決まりごとがあるのだ。我が国に留まるのなら、もうとやかく言わんし、策も練らん。子どものことはルイス・フォーサイスと今一度話し合え」
「…………なるほど。分かりました」
粗野な態度でずいっと差し出されたウィスキーをいただく。グラスを一気に傾け、飲み干した国王陛下に習って、ぼくも口をつけた。
喉にカッとくるアルコールに、雑味ないキレの良いあと味。さすが王族の飲み物。
「美味しい。どこで売ってますかこれ?」
「獣人の国の王女が挨拶がわりに持って来た品だ。あちらの国の献上品なら非売品だろう」
「買えないのかぁ……」
結婚式関係をぼくの代わりに頑張ってくれている、ヴァン殿下に買って帰ろうとしたんだけどなぁ。酒屋なら夜遅くまで開いてるかと思ったけど、流石に売ってないモノは買えない。残念。
そう呟いたら、1本お土産に投げて寄越してくれた。せびったみたいになって何だか申し訳ない。でも、貰えるものは、ありがたく頂戴することにした。
第一王子殿下は、獣人の国の王女と婚約し、立太子して、王太子殿下となられた。
ヴァン殿下は近々王族籍を返上して、こちらの領地に越して来る。長年、国交がギクシャクしていた両国だけど、政略結婚で関係改善をはかると説明された。
あぁ。ピンと来てなかったけど、魔法使いである、ファーガスパパの母国のことかと途中で気がついた。
自分がいなくても、もう王国は大丈夫だと話していたヴァン殿下を思い出す。
余生くらい好きにさせて欲しいと言っていたけど。この話を聞いて、理由の内、半分は違ったんだと気づかされる。説明されなければ一生気がつかなかっただろうな。
「──リリィ・ブラン」
「はい。何ですか?」
「私がそなたを愛してると言ったら、王宮に戻って来たりはしないだろうか。何がダメだった?」
慈悲も何も無い、悲痛な顔を浮かべるこのシュテルン王国の王様──シャルル・フロウ・シュテルン国王陛下は、そう言って、ポロリとひと粒の涙を流した。




