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11. ミルクコーヒー味の飴玉。

※ルイス視点2





「がははっ! 魔法使いをナンパしたのか! そりゃあやりおるのぉ」


「私以外にもいらっしゃったでしょうきっと。自分達が上手くいかなかったからって、何も袋叩きにして、八つ当たりしなくても──」


「い〜や。わしの知る限り、食事や買い物なんぞに誘ったのはルイスだけじゃな」


「ぇえ? …………あんな可愛らしい方をごはんに誘わないなんてこと、ありますか??」



「ガハハハハっ!?」



 自身の膝をバシバシ叩いて、豪快な笑い声を上げるのは、ヴァン・フロウ・シュテルン先王弟殿下。


 亡くなったお祖母様の弟君に当たる、私から見ると大叔父になる。

 ルーベンス公爵家の当主である母上の嘆願により、私を王宮に呼び戻してくださった。


 今回、ヴァン殿下がいらっしゃらない間に私が極寒の地に飛ばされたものだから、何をやらかしたのか直接聞かれ。問答無用で理不尽な目に合わされたと、事実を話したら、爆笑される始末。


 普通は恐れ多くて魔法使いを食事に誘ったりしないらしい。──恐れ多い????



「王宮で『魔法使い』と言ったらファーガスじゃからの。魔法使いをあやつ基準に考えてる者は、食事になんぞ誘わんらしい」



 機嫌を損ねたら物理的に雷が落ちて来るくらい、おっかない方らしい。私も噂くらいなら知ってはいる。


 第12魔法具・魔法書管理局の局長であり、王宮図書館に引きこもっているファーガス・フォーサイス。私より上の年齢層なら知らない人はいないみたいだ。


 私の場合は、身内であるヴァン殿下の方が詳しい。成人してからはあまり直接話す機会はなかったが、逸話がすごいので、魔法使いファーガス様同様に有名だ。


 『魔法使い狂い』のヴァン・フロウ・シュテルン先王弟殿下。


 先王陛下は病弱で亡くなるのが早かった。

 今の国王陛下が無事に玉座につけたのは、親代わりとしての務めを立派に果たしたこの方の功績が大きいが、多分、やらかしはもっと大きい。


 外遊先で知り合った魔法使いを、自国に無断で連れ帰ってしまい。さらに、その魔法使いがいた国の王女と、ヴァン殿下が婚約中だったこともあり、国際問題に発展。


 魔法使いを国に帰すと思いきや、多額の賠償金を支払って、ヴァン殿下は王女との婚約の方を解消した。

 世が世なら玉座に座ることも出来たのに、魔法使いを優先したとして、ついた異名が『魔法使い狂い』。

 ヴァン殿下が国王になったら喜んで戦争すると、嫌われすぎて、その国に脅されたらしい。



「最初は魔法使いなどと知らなくての。ファーガスが国に帰りとうないと抜かすから、わしがとばっちりをくらっただけじゃ。わし、悪くない」



 魔法使いを大事にしなかった、繋ぎ止められなかった、ファーガス様の祖国も悪かったと説明される。


 物理的に雷を落とせる方だ。魔法使いの当人は怖くて直接どうこう出来ないので、八つ当たりされたのもある。え、それって──。



「今回の私と一緒じゃないですか」


「そうじゃ。魔法使いと付き合って行くなら、不利益を被るのは当たり前と思うか、自分から動いて上手く立ち回るしかないかの。あとは距離を取るかじゃ。下手すると、……今回みたいに一瞬で消されるじゃろうて」


「肝に銘じます」


「ルイス。さては諦めないつもりじゃな?」


「…………やれるところまでは、頑張ります」



 足掻かないで後悔するより、やっぱりダメだったの方が諦めがつく。いや、そう頭で考えはしても、リリィ殿を想わないなんて無理なんだ。意識なんて意図しなくとも、私は勝手に恋焦がれる。


 何もしないで我慢出来るほど、私の想いは小さくなかった。


 肉になって噛まれて呑み込まれるなんて、一過性のものじゃダメだ。猫でもダメだ。撫でられ、ペットとして愛されるだけでは、今の私では満足できない。


 二度と会えないかも知れない状態にたたされ、私は自身の渇望を知った。リリィ殿女に特別と想われたい。離れたくない。

 私じゃない、別の誰かが彼女の隣りにいるのを想像するだけで、胸が苦しくなる。すでに、もう──友人では足りない。男としてあの人が欲しい。



「これでもまだ、諦める気はないかの?」


「──これ、は……………っ」



 ヴァン殿下から差し出された紙に目を通す。

 具体的なリリィ殿の婿候補である、裏リストを確認させてもらい、私は天を仰いだ。


 名だたる上位貴族に、王族。ヴァン殿下が何番目かに名前を連ねているのは、間違いなくリアルな優先度順だと察した。


 いくつも引かれた斜線には、婿候補から除外された者がいる形跡があり、自分もその中に含まれていた。このリストに載ることすら、許されていない現状。


 あの親の仇を目にするような、強く冷めた視線を私に浴びせた第一王子殿下ですら8番目。


 優先順位的には、1番上──自国の国王陛下の名前を目にし、心が折れそうになる。


 3番目に魔法使いファーガス・フォーサイス様。この方が1番でも、2番でもなく、3番目なのが、王国側がリリィ殿を囲い込むつもりでいるんだと、本気度が伺える。

 

 這い上がると言うより、全て敵に回す覚悟で行かないと、リリィ殿の隣に並び立つことが出来ない現実を噛み潰し、呑み下す。


 私は覚悟を決め、リストを静かに手渡して返却する。

 受け取ったヴァン殿下が目を細めた。この方は4番目だ。ここですらビビっていては、その上には進めない。



「無謀なのは百も承知の上で、人生かけようかと思います」


「若いのぉ。まあ、それも良かろう」



 自前の首は──大丈夫、繋がっていて、ホッと息を吐き出す。


 逆に、ダメだった時は骨くらいは拾ってやると笑いながら言われた。


 諦めの悪さを面白いと評価したヴァン殿下に、専属近衛騎士にならないかと誘われ。冴えた頭で反射的に「はい」と返事をし、私は異例の出世を果たす事となった。


 例えその誘いが、ヴァン殿下がリリィ殿を嫁にしたら、色んなところから恨みを買うからとか、私を矢面に立たせて頑張って貰いたいなんて事情があるにせよ。応援されていることには、変わりないと思うことにした。



 他の王侯貴族の動向を探るのに、こんなに適した居場所はない。ヴァン殿下の専属近衛騎士となり、リリィ殿と再び言葉をかわせた時は嬉し過ぎて、もっとお話ししたいと思ったが、グッと我慢した。今は欲張っては駄目だ。


 手紙のやり取りや、菓子の交換を続けている内に、リリィ殿に目で追われていると自覚した時は、あの瞳に映れる栄誉に感謝した。


 何だったら、直接本人から、目の保養にしていると言われたくらいだった。私の容姿を気に入ってくれて、ありがとうと声を大にして言いたい。何度でも言いたい、本当にありがとう。



 ただ、やはり。リリィ殿が目にかけていれば、それなりに目立つし、やっかみは勿論ある。耐えた。数年全力で受け流した。



 特に第一王子殿下は、わざわざお声がけくださり、リリィ殿と逢瀬を重ね。折を見て結婚を申し込むとまで言われた。流石に焦った。



「叔父上と違って、わたしは魔法使い様を共有する意思はない。それだけ伝えに──」



 叔父上とは、裏リストの2番目に名を連ねる、王弟殿下。

 訳のわからない動きをしているが、普段から貴族と王家の微調整役を請け負えるくらいだ。正直、油断ならない。


 リリィ殿を娶ったあかつきには、皆で可愛がろうとかなんとか、私のはらわたが煮えくり返ることをホザいて味方を増やしている。頭の痛いことに、賛同者が一定数いるのが無視できない現状になっていた。



 もう、あまり猶予はない。私は一か八かの望みをかけ、──魔法使いファーガス・フォーサイス様が所持する領のダンジョンに潜った。



「きっつ…………」



 前々からちょくちょく足を踏み入れていた場所にはなる。

 今回は溜まっていた休みを高難関ダンジョン攻略に費やし、1週間。私は苦戦していた。

 ヴァン殿下の夏の休暇が近い。王都に帰る日数を考えれば明日、いや、日付が変わって今日中に何とかしないと間に合わなくなる。


 満身創痍の傷だらけで、洞窟を模したダンジョンの地べたへ大の字に力尽きる。最後に寝たのはいつだったか。瞼が重くなって、何だかむなしくなって来た。


 いま気絶したら絶対に間に合わない。どころか、こんなところで寝たら命すら危うい。


 でも、もう──いいんじゃないかと思えて来た。


 ここ数年。命までは取られないまでも、度重なる嫌がらせに、私を害そうとする者が増えつつある。心当たりが多すぎて、手の施しようもない。


 自身のエゴと気力だけでここまで来た。

 しかし、何もかも他の候補者と比べれば持ち合わせていない自分が、リリィ殿を娶って、それで果たして良いのか。分からなくなっていた。



 絶望とともに、うつら、うつらと、瞼が重くなって来る。

 十分頑張った。だから──。




 ひょこっ。




 視界に突如現れたピンク色。小鳥が、私の心に彩りを、想いを、熱量を戻して、──自覚させた。


 この小鳥のつぶらな瞳の色までも、リリィ殿と一緒だと気がついたのが、遠い昔のように感じる。逢いたいなぁ。



『ルイス様、今大丈夫?』


「……今度こそダメかも知れません」



 クツクツと自重気味に笑った私に、小鳥はいつものように、勝手にさえずり始めた。



 この間のお菓子のお礼と、たわいない世間話。あまりに日常的でいて、ダンジョンの奥底ではそれが非日常に感じる不思議。


 慣れ親しんだピコンと立っているトサカを人差し指でなでつけるように、ソッとなで続ける。可愛くて、ふわふわすぎて、リリィ殿の落ち着きのある声が心地良すぎて、本当にダメにされている。こんな場所で。



 モンスターが迫り来る中、私は小鳥を鷲掴みにして、立ち上がった。







「ゼェ……ハァ……」


『ルイス様、今大丈夫?』


「はぁー……ちょ、ちょっと、おまちください……ふぅ〜……よし」



 いつからか、聴き逃した時用にと、届けられた言葉をはじめから再生出来るようにしてくれたリリィ殿。それを逆手に取って、ダンジョンの隠し部屋に踏み入れた足で、元来た道を引き返し、地上に戻る。


 この小鳥は無敵だ。攻撃を受ければエゲツない魔術を飛ばすは、強固な結界を張るは何でもありで、攻撃対象者に己が入っていないのが救いだった。

 未だに私にほっぺを潰されても、不服そうな顔もせずに、パカッとクチバシを開くお利口さんだ。



「お待たせしましたリリィ殿。すみません、お休みを利用して欲しいものを探してまして。用事は終わったのでこれから帰ろうと思うんですけど、お土産は帰ってからのお楽しみで──」



 いつもの調子で軽口をたたきつつ、私は手に入れたあるものを片手に、小鳥にクソデカ感情満載の返信をお願いして、王都に戻った。



 ヴァン殿下の夏の休暇が始まる1週間前。

 私はある一冊の魔導書を、王宮図書館に寄付した。



 そして、いくらもしないで、最後のパズルのピース。


 魔法使いファーガス・フォーサイス様が雷を落としながら、私の元に舞い降りて来た。



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