これからは、私の歳を追い越すね
そろそろ元マネージャーのスドウが再びリョウの担当になって3ヶ月が過ぎ、
リョウはハリウッド作品の東洋人枠の鑑識官の役のオファーの打ち合わせのためにLAXに向かう機内で、
もし日程が合えば別のアメリカドラマのサムライ気質青年役のオーディションも受けることになっていて、そのためにアメリカで活躍していた日本人俳優MIFUNEのDVDを観ていた。
多くの少年が特攻隊として死ななければならなかった戦争を実体験していたMIFUNEは、眼差しが慈愛に溢れているのに仕草は荒々しくて発声も激しく自分にも厳しく、とてもリョウと似たタイプの俳優ではなかったが、
人が死ぬことの重さや残された者の心の痛みを知るところでの演技にはひとかたならず通じるものを感じていた。
機内のスクリーンには日本の季節に合わせて、古都の桜並木の華々しい様子が映し出されている。
ユウコは、
秋の京都旅行から帰っても変わらずリョウのために生き、リョウも仕事を一つずつ丁寧に向き合うようにしてこなしていた。
年も変わり、霜が降りるような寒い朝が減り春に向かうのが感じられる風が吹くようになった頃、
ユウコの体調が悪くなり、しばらく入院することになってしまった。
リョウは自分のために時間を使うことなく不規則な食事や睡眠を一般人のユウコに長く強いてきたことへの反省から、
一度ユウコがゆっくり静養出来るように入院を受け入れ、時間があればすぐにでも会えるよう仕事を調整していった。
ユウコはリョウのために元マネージャーのスドウが戻ってきてくれるよう事務所に掛け合い、
スドウには自分の病気のことや余命についてなど全てを話して今後のリョウのことを委ねた。
ユウコは、リョウと結婚する前からマネージャーのスドウが時おり熱い眼差しを向けるリョウを相手として愛しているのではないかと気がついていて、一時期はリョウもその気なのかと思うこともあった。
スドウは昔ユウコに、自分がゲイでもリョウは素直に人として自分を好きで信頼してくれているということを、よく理解している、
と話してくれたことがあった。
スドウはリョウのマネージャーを辞めてからは福岡でゲイバーの雇われ店長をしていたが、リョウのことが忘れられずいつもリョウの活躍と健康ばかり気にして暮らしていたという。
ユウコはそんなスドウにならリョウの仕事の采配を任せられると思い、自分が消えたあともリョウの負担にならないよう遺書などは一切残すつもりはないと言った。
スドウへの頼みごとは、
赤いハイビスカスを私からリョウに、
ということだけだった。
自分の免疫細胞を賦活する医療を選んでいたユウコは髪が抜けることもなく顔が真ん丸に浮腫むこともなかったのでリョウに癌治療をさとられないまま、
病院の満開の梅の木の下で眠るように、急に力尽きて亡くなってしまった。
映画の撮影で出待ちだったリョウはユウコの死の知らせをうけるやいなや初めて仕事を放り出して、病院に向かった。
マネージャーのスドウから全てを聞いたリョウは、妻ユウコのために気が済むまで泣き続けたあと、
ユウコも望んだ「人を心から感動させられる表現者」になるため、
スドウと共に仕事に生きようと決意していた。
京都の廣沢の池の畔では、
枝垂れ八重桜が温かい風にフワフワと吹かれ、
ユウコとリョウが歩いていたその道のりに花びらを散らしていた。




