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鹿鳴の庵で夢を語るなんて、ドラマみたいじゃない?

京都も、嵯峨鳥居本界隈は嵐山より比較的観光客が少なく、特に廣沢の池の平日はどこか地方の人里離れた田舎のようで、

帽子にマスクであればリョウでも普通にユウコと手をつないで何時間でも歩き回れる。


この池は、小さな中島(通称観音島)が突き出ていて風情があり、リョウが面白がった島内に安置された総高160cmの十一面千手観音石像は、もとは鳴滝音戸山の山上にあった蓮華寺の石仏群中から明治年間より借り出されている一体で、現在蓮華寺にある五体の如来座像と同じ作者によるものだという。


源氏物語の夕顔モデルになったともいわれる大顔(おおかお=具平親王の妾妻)が10世紀の後半ごろ、お月見の最中にこの池の畔で急死したという記録もあるほど古くからある池だ。


源氏物語の登場人物で、愛されながらも急死してしまう夕顔は、

可憐で朗らかな性格で、源氏は短い間とはいえ彼女にのめりこんでいき死後も面影を追う、というキャラクターだ。


そういえば、来年リョウに光源氏の映画の話が来るかもしれないと聞いたが、ユウコは六条御息所と夕顔に親近感を覚える気がした。


この池の遊歩道をリョウと缶コーヒー片手に散歩するだけで、

大昔から恋する男女が月見や釣りで桜、柳、紅葉、雪を楽しんできたであろう過去と繋がるような、そんな京都は時間の流れまで特別にできる気がした。


2人が今夜泊まることになる紅葉が見事な離れの庵に戻ると、地主の女主人が庭で弓を引いており、時代劇で殿様をやったときに少し弓を習ったリョウが望むままに弓矢を貸してくれて自分はしばらくして母屋に帰っていった。


京都の左京区や右京区には何千坪もの植木畑の所有者も多く、ここも親戚の植木畑を500坪程庭として所有しており、その中に桜の木10本、紅葉15本、竹500本を中心に松、桐、ヤマボウシ、椎、椿などがいくらでも育っていて、地鎮社や弓道場も作ってある。


女主人はリョウが俳優だとは思っていないし、客用の離れの食事を用意してくれる仕出しの配達人もさほど2人に興味を向けない。


食事の後、お風呂から出て2人で静かな庭の石に腰かけて月を眺めていると、哀しむかのような鹿の鳴き声が何度も響いた。


ユウコはリョウに寄り添って、映画のことや舞台のこと、これから出たい作品、やってみたい役、目標の俳優など、

リョウの仕事のことばかり広く深く話して長い夜を過ごした。


真面目でポジティブになったリョウへのユウコからの願いは、

働きすぎないこと、歳を取りながら役の幅を拡げること、やりたくない役はやらないこと、役は自分が一時的につける仮面でしかないこと、私は居なくなるので私以外にも信頼できる人物をつくることなどを聞いて欲しい、ということだったのだが、とても美しい月が白く輝いているような楽しい夜なので面と向かって口にすることが出来ず、

いずれ手紙で遺せばよいと思い直した。


眠そうな笑顔で、廣沢の池は桜の頃も綺麗だそうだから春にまた2人で来よう、とリョウが言って先に寝てしまった。


前回の診察で主治医の若い医師が悲しそうな表情でユウコに、余命は半年くらいだと思われますが最後まできちんと面倒をみますので、と言った声が思い出され、全部夢であって欲しいと強く願いながら、

せっかく忙しいリョウとこんなに近くに居られるのに何時間も眠って意識が無い時間を過ごすのは余りにももったいなくて、

ユウコはリョウが起きないように出来る限りそばで寝顔を見つめていたが、止まらない涙をぬぐうこと無くいつの間にか眠ってしまった。


赤や黄色の紅葉に、朝の薄い陽射しがかかってサワサワと葉が揺れていた。




















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