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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
四章 消えた過去
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五話 割れた玻璃5

お久しぶりです。読んで頂きありがとうございます。

前回から大分間隔が空いてしまいました。


その年は雪の多い冬だった。毎日のように雪が降るのに、その日は久しぶりに暖かな陽が差していた。


「あなたが陸? この子達のことを見てくれるの?」


当時、10歳になったかどうかの年齢だったと思う。藍国で一番の貴族である一ノ宮家の長男として生まれて、幼い頃から城に連れてこられることも多かった。その日もいつものように父親に連れられて、けれど一ノ宮陸にとって一生忘れられない日となった。


目の前で、ふわりと笑ったのは今の自分よりも若かったであろう女性。シャン、と音のなる髪飾りを着けていてとても綺麗な人だった。その人は腕に赤子を抱いていて、横には星よりは少し大きい男の子が2人不安そうな顔をしてこちらを見ていた。


「陸、この子たちが未来の主人だ。今日から世話を頼んだぞ」


正直とても戸惑ったのを覚えている。同時に将来の主人になるはずだった人が亡くなったことを知らされて、こっそり入れ替えそれを無かったことにするのを知らされたから。


「一ノ宮陸です。よろしくお願いいたします」


「私はこれからもこの子たちのそばにいるつもり。でも、堂々と母とは名乗れないの。だからお願い。私の見れないところでこの子達を助けてあげて」


「はい」


ただ、未来の主人だから守るのは当然。その時はただそれだけだった。







「りーく。まって」


優理は人懐っこくすぐに馴染んだ。私にもすぐに慣れてどこにいくにも後ろを追いかけてくる。


「ゆーり、おいてかないで」


逆に結理は警戒心が強く、知らない人と会えばすぐに隠れる。この環境にも馴染めず、でも双子の片割れである優理と離れるのは嫌だからと動き回る優理を一生懸命追いかけていた。


「優理、結理」


「「ははうえ!」」


これが一番の問題だった。まだ大人の事情なんてわかるはずもない年齢。そんな子供に無理やり母を母と呼ばないように教えなければいけなかった。


「2人ともいい子にしてて偉いわ。でもね、そうやって呼んでいいのは母上と優理と結理と優斗だけのときよ」


そこでも双子で違いがでた。優理は要領がよく外では名前で呼び、誰もいない時はしっかり甘え、うまく適応していった。逆に結理は嫌がった。なんで、どうして?と言い出すようになって母とは呼べない外には出たがらないようになっていった。


「結理様、あまりわがままを言うと母上が困られますよ」


当時の自分は碌に弟の面倒も見たことがなかった。幼い子供をどう扱えばいいのかなんて知らなかった。だから自分が大人に言われたような言葉をかけて嗜めようとしていた。


「りく、きらい。ここもきらい。いえにかえる」


そのころは本当によく泣く子供だった。亡くなった子の代わりをするためには2歳は上に見えるように育てなければいけなかった。本来よりも早く大人になってもらうしか無かった。


「ここのどこが嫌いなんですか?」


「ちちうえがいない。みんな、いつもみたいにはなしてくれない。あそんでくれない。ゆいり、ってよんでくれない。あのひとは、ははうえじゃない。いもうとなんかいない」


ちょうど結理は母となった麗華様と妹となった華鈴様と杏様に会ったばかりだった。


「お話?のことは私にはわかりませんが、一緒に遊ぶのはできますよ。私には弟がいるので連れてきましょうか? 結理様と年が近いので仲良く慣れると思いますよ」


それでも泣いて仕方が無かった。結愛様がいてくれればよかったけれど、その日いた場所ははお城の外の部分。結愛様はお城の内側、色葉家の方が生活する場所から出られなかった。そして入れ替わりの秘密を知られるわけにはいかず他の人に頼ることもできない。


「名前だって呼んでいるじゃないですか」


もう何が嫌なのかわからない。こっちが泣きたい気分だった。


「さま、はいらないの。です、もきらい!」


「敬語が嫌だったのですか? ですが、結理様は将来偉い人になるのですよ」


敬語が嫌い。それは自分もその気持ちを知っていてあまり否定はできなかった。


「なりたくない。なったら、ははうえともゆうりともあえなくなる。ちちうえのとこにもいけない。りくだって、今だけだもん」


どうしてそこまで知っているのだろう?とただただ困った。優理とはこの先も離されることはないだろうが、結愛様は後々離れなければいけない可能性は高いとなんとなく察している。ここに来るまでに何人もの人と離されてきて気づいてしまったのかもしれない。


その時に初めてこの子達の力になりたいと思った。自分だって理不尽さを身をもって体験していたから。


「結理、もう様はつけないし、敬語もやめる。でも、偉い人にならないなんて無理なんだ。周りと距離があって寂しいかもしれないけど、結理なら我慢できるだろ? 優理は絶対にそばにいてくれる」


「りく、ほんとう?」


「それに、私はずっと結理を支える。私がもう少し大きくなったらもっと自由になるようにするから。優理の真似をするんだ。それならできないか?」


今は一緒に大人に褒めてもらえるように頑張ろうと、今ではそう言ったことをとても後悔している。







その日から結理は変わった。私にもしっかり甘えてくれるようになった。まだまだぐずって泣くことは多かったけれど優理の真似をして色葉結理として生活できるようになっていった。


その頃ちょうど優斗が体調を崩して結愛様はそれにつきっきり、2人は母と会えない日が続いていた。だから気づくのが遅かった。


「ねえ、おかあさまはどうしてこないの?」


春がやってきたその日、結愛様の前で結理はそう言った。


「あんとかりんはいっしょなのにどうして? ねえ、ゆあさま」


結理はこの城に来る前の記憶を無くしていた。無くした、というよりずっとここで育ったと思い込んでいた。結愛様の子ではなく、大人が望んだ色葉結理になっていた。







「ゆあさま、おべんきょう、がんばったよ」


それでも自分を可愛がってくれる大事な存在ということは変わらないようで甘えるのは麗華様にでは無く、結愛様にだった。


「結理、がんばったのね。偉いわ」


結愛様は記憶を無くしたのは自分のせいだと責めていた。自分のことを母とは思っていない結理に対して今までと変わらず接し続けた。母親がわりとして。


「おかあさまもほめてくれるかな?」


とても残酷なことに見えた。結理は大人の願いを叶えるためにそう思い込んでしまったけれど、母と思い込んでいる麗華様が結理を見ることはない。それでまた結理は泣くのだ。


「陸、あの子の事お願いね。もう・・私にできることは少ないわ」


自分にも責任があると思った。言い聞かせて結理にそこまでさせてしまったのは自分だから。


「わかりました。結理のことは私が生涯守りましょう」


当時はまだ優理と結理、どちらが私の主になるかわからなかったのにそんなことを言った。自分の中では結理が未来の主人だと決まっていたのかもしれない。







変わったのはそれだけ。優理も何を思ったのか結理に合わせて会話をするようになった。まだ幼かった優斗は色葉家の子として育てられ、3人ともすくすくと成長していった。


「陸、どっちでしょう?」


視界が小さな手に覆われる。双子の2人は悪戯好きでこんなことをしてくることも多かった。でも表に出る時は6歳になった2人は8歳に見えるようにちゃんとやってくれるのだ。だからこれくらいなら自由にさせていた。


「どっちだろうな? 優理か?」


どっちかなんてすぐにわかる。2人は似ているけれどちゃんと違うから。でもあえて間違いを言うことも多かった。


「ゆーりじゃなくてゆいりだよ?」


その時の私はちょうど今くらいの結理の年齢だった。子供の相手も慣れて毎日が楽しかった。ただ、時々感じる複雑な思いを感じながら。


2人はそろそろどちらが城主に向いているか、そんな話が出てくる年齢になってしまった。だからまた2人が泣くことにならないようにもっと勉強しようとがんばった。





そんな年の夏、また転機が訪れた。






「ねえ、陸。あれ、だれ?」


庭で3人は走り回ってあそんでいた。側付きになっていた流は今日は来ていなかったから、久しぶりに3人と一緒に過ごしていた。


「ゆあ様と誰かいっしょにいるよ?」


結愛様と見たことのない男が一緒にいた。優理だけはその様子から、誰なのか知っているようだった。


「陸、ゆいりとゆーとを連れてへやに戻ってて。ははうえのところに行ってくる」


それで大体の状況は察した。


「結理、優斗、おやつを食べに部屋に戻ろうか」


「「はーい」」










「こんにちは」


知らない声がして咄嗟にそばにいた優理と結理を自分の後ろに隠した。


「陸? どうしたの?」


「あ!」


「・・何か御用ですか?」


振り返って顔を見ればこの前結愛様と一緒にいた男だった。直接近ずいてくるなんて。


「許可証はちゃんと持ってる」


本物の許可証を見せられれば何も言えない。大人は知っているなら来ると教えてくれればいいのに。


「・・そうですか」


優理が私の服を引っ張りながら顔で『だめ?』と訴えている気がした。


「優理、奥の庭に移動しようか。そこに綺麗な花が咲いているらしい」


城の内側の住居部分だって掃除をしたりなどの仕事をする者たちはいる。その者たちに怪しまれるわけには行かない。


「陸、ゆうとも連れていくの」


「わかってる」





「一緒にあそぼう!」


庭にたどり着いた途端、優理はその男の手を引いて広い場所に走っていった。


「陸、あのひと誰?」


何となく、誰なのか予想はついた。優理たちとその男はどこか顔が似ていたから。でも言うわけには行かない。


「結理、あの人は一緒に遊んでくれる人だ。優斗も優理と一緒に遊んでこい」


「はーい」


パタパタと走っていく優斗とは対照に結理は動こうとしない。外では誰にでもニコニコと愛想がいいけれど本当は人見知りなところがあるから。


「陸とあそぶ」


「・・一緒にあちらであそぼうか。大人数の方が楽しいだろう?」


まだまだ小さな手を引いて3人の輪に入る。これが優理とこの男の望みだろう。男のことなんか知らないが優理には我慢させていることも多い。これくらい叶えてあげたい。


「結理、大きくなったな」


近づくと男の方から寄ってきて結理に目線を合わせるように座った。


「なんで、名前、しってるんですか?」


「昔、あったことがあるから。私は結愛様のお友達、とうやだ」


泣き笑いのような情けない表情で・・・子供の前なのだからもう少し表情を作ればいいのに。当時はまだ自分も子供でとうや様の気持ちはさっぱりわからなかった。


「とうや様? どっかいたいの?」


「・・心が痛い。いや、結理たちに会えたのが嬉しかっただけなんだ。これお土産なんだ、受け取ってもらえるか? 好きだろう?」


とうや様が差し出したのは結理が好きな果物だった。ここに来る前のほんの幼い頃から好きだったのか、結愛様から聞いて用意したのか。


「陸」


見れば飛びつくほどの好物のはずなのに受け取ろうとはしない。代わりに私をじっと見つめていた。この目は何か確認したい時の目。


「受け取っても大丈夫だ」


知らない人から物を受け取ってはいけない。知っている人からだとしても食べ物は迂闊に口にしてはいけない。そう教え込んでいるから取らなかったのだろう。


「とうや様、ありがとう」


「わあっ」


なんとなく、わざと結理の背中を押した。とうや様にうまく倒れ込むように。


「結理・・いくつになった?」


「8さい」


「そうか。元気に大きくなってくれて・・ありがとう」


その後にごめんと音にはならなかったけれど、とうや様の口はそう動いていた。それに気づいたのは私だけだっただろう。






すみません。何ヶ月かぶりの投稿になってしまいました。ちゃんと完結はさせるつもりです。

最近はカクヨムでも投稿をしています。彩る夜に結ぶも書き直して投稿しています。

続きを書きつつ、前半の方はカクヨムで書き直したものを少しずつ移してくるつもりです。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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