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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
四章 消えた過去
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四話 壊れた玻璃4


「数日こちらに居れる余裕はあるか?」


難しい顔の陸様に尋ねられる。


「明日と数日くらいなら大丈夫だったと思います」


主な撮影が今週なくてよかった。確かちょっとはあったけれど、あれは最終話の部分だから後回しになっても問題ないだろう。出演者が学生ばかりだからこそ、順番の入れ替えなんてよくあることだ。


「これは全く関係ない話だが、あの服は・・」


「あ・・それは・・・」


今日着ていた服は上はTシャツで下は中にズボンがあるタイプの短めのスカートだった。そして突然のことだったからそのままの格好でここに来てしまった。もちろん陸様達にも見られている。


「あちらでは普通で・・でも今度から気をつけます」


あんなに足を出していればこちらでははしたないと言われてしまう。郷に行っては郷に従え、だ。


「結理から・・未来はずいぶん違う場所だと聞いている。戸惑うことも多いだろう?」


そこまで聞いていたとは。陸様は私のことを気にしてくれているのだろうか?


「大丈夫です。こちらの時代のことはちゃんと記録に残ってますからなんとなく知ってます。国が違うと考えれば対して気になりませんよ」


言葉が通じるだけで十分です、と言っておいた。もちろん戸惑うこともたくさんあるけれどいつも結が助けてくれる。


トントンと叩く音の後で締められた襖が開いた。葉様が結を連れて戻ってきたらしい。


「あの、結に夕食を用意できませんか?」


「私たちもこれからだから大丈夫だろう」


「僕が行ってきます。これくらい僕にだってできますから」


「彩夜は?」


葉様の後ろに隠れたまま静かだった結が口を開いた。いつもよりずっと口数が少ない。


「私は食べてきたから大丈夫」


食事の途中で出てきてしまったけれど、ほとんど食べてしまっていた。


「じゃあ、5人分を運んでもらうように言ってきますね」


入れ替わりで星くんが出ていくとなんとなく部屋の中の空気が変わった。どこか重い。平均年齢が上がったからかな?


「髪が濡れたままではないですか。ちゃんと拭かないと風邪をひきますよ」


「うん」


珍しい。陸様達に対して子供扱いするなといつも世話されるのを嫌がっている結が髪を拭かれてもされるがままになっている。


「陸、なにも聞かないの?」


「聞く必要もないだろう。言いたいなら話せばいい」


陸様の一見そっけないように見える態度も優しさなのかもしれない。


「それより、・・いい話だ。()()に客が来ている」


「良い話じゃない。会いたくない。調子が悪いってことにでもして」


「そうか。せっかく遠いところから来てくださったのにな」


なら仕方ない、とどこかわざとらしくため息をついた。葉様はちょっと笑っている。


結愛(ゆあ)様なら会うかと思ったんだが」


「!・・ゆあ様? 戻ってきたの?」


表情はあまり変わらないけれどさっきまでとはちょっと様子が変わったように見える。


「どこにいるの? もう来てるの?」


「うちの客室に泊まっていただいてる。でも会うのは明日だ。それくらい分かるな?」


「・・・なんで来てくれたの? 用事?」


「それくらい自分で聞け。私だって知らない」


昔の知り合いだろうか? 聞いたことのない名前だ。名前からして女の人かな? でも結のように女の子っぽい名前の男子かもしれない。


「よかったね。会いたかった人に会えるんだよね?」


5人もいるこの空間がとても静かになる。何か間違ったことを言ってしまった?


「何か違いましたか?」


「会いたいっていうか・・」


結は困ったように目線を陸様や葉様の方へ動かす。


「結愛様は結理様の乳母だった方ですね。いわゆる・・親代わりのような関係でしょうか?」


会いたかったことに間違いはないけれど、そこまで子供ではないため恥ずかしさもあり素直に会いたいとは言えない。そんな感じだろうか?


「お貴族様って感じですね」


「ここで実感するのか」


「そこまで身分の差がない場所で育ったのであまりその感覚がなかったんですよ。見比べたらもちろん違うってことくらいわかりますけど」


瑠璃だってお姫さまだけれど話してみれば普通の女の子だった。


「お偉いさんってもっと近よりがたくて偉そうなイメージだったので、思っていたよりも普通だなーと」


ふっ、とどこからか吹き出す音が聞こえた。


「結、笑ったでしょ」


「いや・・・」


絶対に笑った。いくら無表情を装ったってまだ口の端が緩んでいるのがその証拠だ。ちょっとした仕返しに結のほっぺをムニムニと引っ張る。


「でも、やっと笑った」


「彩夜には敵わないよ」


膝立ちで結のほっぺをムニムニしていたのが悪かった。結が動いたことで私ももうちょっと悪戯しようと近づこうとしてすっかり着物を着ているのを忘れていた。着物はもちろん裾が長く・・


「うわっ!」


裾を踏んだまま動いてしまい思ったように進めず・・


「危ないなー」


転けてはないから痛くない。ただ顔の周りと背中に体温を感じる。頭は結の顔の横に突っ込むような感じで・・きっと抱き止めてくれたのだろう。背中には腕が回されている。


「あ・・」


これは・・なんか暖かくてとても良いけれど、とてつもなく恥ずかしい。


「ごめん」


離れて距離をとる。ついでに襖を開けて廊下に出る。これはダメだ。きっと赤くなってる。こんな顔見せられない。熱を冷ましたくて廊下の淵に座った。縁側のような作りだからちょうどいい。


「はぁ・・」


大雨の降る外を見つめてため息をついた。結はこの時代の人。私とは遠い人。いつかは会えなくなる。これ以上気持ちを大きくしたらダメだ。ちゃんと、さようならと言えなくなってしまう。


「彩夜、どうした?」


「・・ちょっと暑いなーって思って涼みに来ただけ」


「手、冷たかった。髪もまだ湿ってる。お風呂行ってきたら?」


いつもの結じゃない。いつもはもっとお兄ちゃんみたい。だから言い聞かせられるのに、速くいつもの結に戻ってくれないと。


「そうだね」


その後はもう寝てしまおう。きっと明日になればいつも通りだ。








翌日


「おはよう」


「おはよう」


まだ、いつも通りとはいかないらしい。でも昨日よりは調子が良さそうに見える。


「おかわりが欲しいときは言ってくださいね」


今、そばにいるのは葉様だけ。陸様は家族と過ごし、流さんは雑用。星くんは寝坊で起きてこないと葉様は愚痴を漏らしていた。


「うん。彩夜、桜に手紙書こうと思ってるんだけど友梨に言いたいことある?」


「手紙?」


わざわざ手紙で言うほどのことはない。けれど今度会った時には色々のお礼を言っておこう。


「もう、荷物も回収してきちゃったから。多分用事がない限り行かないし、結理様からの手紙として送るついでに私的な文章を紛れ込ませるつもりなんだけど」


それっていいの?と同じように食事をしている葉様を見た。


「職権濫用ですが、それくらいしてないとやってられないのがこの仕事です」


「もう、滅多に帰ることはないってこと?」


「そうなる。家だってないし、・・・あそこに住んでたのがおれってバレるのは良くないらしい」


「いつか会いにいくって伝えてくれる? 友梨さんは瑠璃にもよくしてくれたの。この前、瑠璃から手紙が来たでしょ? あれにいつか友梨さんと私を家に招待するから待っててって」


友梨さんと瑠璃は直接会っているわけではない。私達からの話だけで瑠璃は友梨さんのことが気に入ったらしい。


「わかった」


「実現するといいですね」


瑠璃が一番現実を知っているだろう。可能性が低いことをわかった上で、それでもそうなったらいいと思って言ってくれたのだろう。


「葉、いつ会えるの?」


誰に、と言うのがなくてもここにいる私達にはちゃんとわかる。


「ご飯の後、ちゃんと着替えたら会いに行けますよ。着替えるのも嫌とは言わないでくださいね。立派な姿を見せた方が喜ばれますから」


「うん」


「彩夜芽さんも行きますか?」


ふるふると首を振る。私からしたら知らない人にわざわざ会いたいとは思わない。







「・・」


庭に植えられている花を地面に座り込んで眺めていると長い影に傷いて顔を上げた。


「おはようございます?」


「おはよう。なぜ疑問系?」


長い影は陸様だったらしい。暇つぶしに庭にいるだけなのに立ち止まるなんて何か用でもあるのだろうか?


「なんとなくです」


「怖くないのか? 子供にはよく泣かれる」


「もう慣れました。陸様は見た目が怖いだけで実は優しいのも気付きましたし」


正直に言いすぎて失礼だったかな?


「彩夜芽さん?は・・」


「彩夜でいいです。もしくは呼び捨てにしてください。陸様にさん付けされるのは変な感じがします」


「そうか」


陸様は私と同じようにそばに座った。


「彩夜芽は・・結理が泣くのを見たことがあるか?」


「ありますよ。たった1回ですけど」


質問の意図はわからないけれど答えておこう。


「理由は何だった?」


「幼い頃です。私が帰る時・・寂しいから離れたくない、1人にしないでって泣いてたらしいです」


当時のことはほとんど記憶にない。ただ、当時のことを夢に見てそれをうっすらと覚えているだけ。


「そうか」


「はい」


陸様は奥様と娘さんがいると聞いている。ここにいるくらいならば家族サービスでもすればいいのに。


「結理がなんと言おうと、無くした記憶に関わるものは見せないほうがよかったのだろうか」


「?」


その顔には後悔と迷いが浮かんでいる。眉が顰められていていつもよりも眉間の皺が深くなっている。


「何が正解だったのかがわからない。あいつは無理をしてる。最近なんか・・突然泣き出す時があったんだ」


理由はわからない、きっかけもわからない。でもふとした時に突然泣いている。本人も気づかない間に泣いている。褒めたり休憩を増やしたり、色々と工夫してみても変わらない。結理は気づくと『ごみが入ったかな?』と笑って誤魔化す。


「結愛様はあいつの実の母親なんだ。その記憶はなくてもなんとなくで気づいている、と私は思っている。・・これでよかったと思うか?」


お母さんだったんだ。それなら会いたいと思うだろう。でも実のお母さんなのに乳母ということになってるのはどうして?


「どうでしょうか。何が正解かなんて誰にもわからないと思います」


「そうだな」


「どうして、結にそこまで関わろうとするんですか? 昔から知ってる上司と部下の関係、だけではそこまでしませんよね?」


不思議に思っていたことだった。流さんは結に付いていたからそれで愛着のようなものがあって2人が親しいのはなんとなく知っている。4兄弟のうちの他3人は違って、でも陸様は流さんよりも何か情を隠して持っているように見えた。


「・・当時何もしてやれなかったから。今なら大人と並べる。まだ振り回されてるあいつを守ってやりたいと思うのは当然だろう」




読んでいただきありがとうございます。

タブレットの不調で書こうとすると何も押していないのに消えてしまったり、変換がきかなかったりと色々あり投稿が止まっていました。これからは投稿再開できそうです。

頻度はわかりませんがちょこちょこ更新していきたいとおもいます。

次話も読んでいただけるとうれしいです。

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