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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
四章 消えた過去
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三話 割れた玻璃3

「ねえ、彩夜乃ちゃん。優斗くんはどんなところに行くと喜ぶ?」


夕食をつつきながら参考にしようかと聞いてみた。


「優斗はねー、家でのんびりするのが好きなタイプなんだよね。私は出かけるの好きだからいっつも連れ回しちゃうんだけど」


どうしたら息抜きになるか、考えて見てやっと気づいた。私は結のことをなにも知らない。


「運動するとストレス発散って人もいるじゃん? そっちはどう?」


「運動神経はいいみたいだしそれがいいかも。でも・・運動って1人でしてもつまらないよねー」


あいにく、結の相手ができるほどの運動神経が私には無い。


「お散歩でもいいかな? そろそろ栗とかなってそうじゃない?」


「いいかもね。楽しそう」


栗のなっているは山は結に聞いて・・私が行きたいということにして連れ出そう。優しい結ならきっと付き合ってくれる。


「あんまり聞いたことないんだけど、優斗の実家ってそんな複雑なの?」


「私もよく知らない。でも・・ごちゃーってしてるみたいだよ。そこの家の子じゃないのは確実みたいだけど、もう1人の兄弟のことがなんか隠されてる?とか」


「それはそれでよくない? 私だって小さい時からお母さんがお母さんじゃないって知ってたけどなんとも思ったことないよ?」


それは私も同じだ。知ったのはつい最近だけど、お兄ちゃんがお兄ちゃんであることには変わらない。いちかちゃん達の存在だって関係が悪くならない程度に付き合うと決めた。


「結は育ててくれた親のことがそんなに好きじゃないんだって」


「確かに優斗からもあんまり親のことは聞いたことないかも。兄弟のことは聞き飽きるくらい教えてくれてたんだけどね」


「優斗くんってお兄ちゃん大好きだよね?」


前々から思っていたことを言ってみた。彩夜乃ちゃんに言う分にはいいだろう。


「そうなの! 確かに結理くんはいいお兄ちゃんだと思うよ。でも・・最近気づいちゃったんだけど、あれは相思相愛じゃない?」


「だよね! 結も優斗くんのことはとっても大事にしてる気がするし・・。前にね優斗くんを実家に連れて行ったりしないの?って聞いたんだけど、『優斗くんは自分みたいな思いさせたくない。もうちょっと落ち着いてから連れていく』って言ってたの」


2人とも言葉が足りないのかな? 同じくらいお互いのことを思っているように見えるのに。


「優斗って私が言うのもなんだけど良い子なんだよ。でもね、年齢の割に大人びてるっていうか・・自分のこと後回しにする癖があるんだよね。人のために自分は我慢してる。そういえばさ、優斗の昔の将来の夢ーーーー」


「え?」


その時、また遠くから叫び声が聞こえた。何か物がぶつかる音もする。


「優斗がいない。もしかして結理くんのところ?」


夕食どきでみんな揃っているのに見当たらない。


「まだダメそうだったのに・・」


「止めに行かないと!」


ご飯を食べている途中だったけれどそれどころではない。


「優斗、結理くん! 喧嘩はダメだって」


部屋の扉を開けると、昼間とは違う様子だった。叫んでいるのが結なのは変わらない。でも・・


「ねえ、兄上」


「来るな! そんな目でみるな!」


結は優斗くんに対して明らかに怯えている。もう怒ってなんかいない。ただ怖がっている。


「兄上、僕は・・確かに嘘をついてたかもしれない。でもね」


「優斗、今は無理だよ。もうちょっと時間が経てばちゃんと話せるって」


私は結のそばにいく。家具の影に隠れるように座っている結に手を伸ばす。


「結、外に行こうよ。ここより自由な陸様達のところに行こう。そしたら優斗くんもいない。どうせ明日は行くつもりだったんでしょ?」


返事も聞かずに部屋の外へ連れ出す。そのまま玄関へ行き・・


「彩夜、もう遅い時間だし・・雨降ってきたし」


窓の外はバケツをひっくり返したような雨が降っている。


「ちょうど良いじゃん。雨に濡れるのもたまには良いものだよ」


気分が落ちている時にたくさんの雨が降っているのをみると私は落ち着く。


「彩夜ちゃん、どこに行くの?」


先生が心配してやってきたけれど先生ならわかってくれるだろう。


「ちょっと行ってきます。多分すぐ戻るから」


結の手を引き、靴を履いて土砂降りの雨の下に飛び出す。この時間から山の中のこちらとあちらを繋いでくれる場所に行くのは難しい。


奏さん、こんな時くらいどうか繋いでください。水さえあれば道を作ることもできるって奏さんは言っていたから、きっとできる。


「彩夜っ」


結の手をぎゅっと握る。冷たい水が心地いい。


「見つけた」


ふと体が水に包まれるあの感覚に変わる。ここからもっと包まれれば沈めば辿り着ける。そのまま深く沈んでいった。








「彩夜芽ちゃん!」


消えた。雨の中で2人の姿が突然消えた。


「ねえ、優斗。今・・」


優斗はほっとしたように座り込んだ。


「よかった。あっちなら大丈夫。陸達がどうにかしてくれるはず。彩夜芽ちゃんもいるし、大丈夫」


「優斗ってさ、遠いとこから来たの?」


「え?」


「だって、結理くん見て気づいたよ。あの本とか、歴史でしか出てこなさそうな本だったじゃん。そんな場所の生まれなんだよね?」


優斗は目を丸くしてちょっと口を開いて何か言いかけたと思ったらすぐに噤んでしまった。


「どっから来たとしても優斗は私の弟だよ。お兄ちゃんだって優斗のこと許してくれるって」


「兄弟なのに、何もかも違うんだよ? それでも許してくれるかな?」


初めて優斗と会った日も雨だった。その時の優斗の言っていたことは、『帰りたい』と『ごめんなさい』だった。


「優斗は自分なりに考えてやったことなんでしょ? わかってくれるって。兄弟としての時間を取り戻したいって言ってたじゃん。悔しいけど、私は結理くんには敵わないし」


私の方が優斗のことを知ってるのに。兄弟としても私との方が長く一緒。それでも、優斗にとってはお兄ちゃんの方が特別なのだから。


「兄上は甘えるのが下手だから。大人ぶってるだけで・・だから僕がゆー兄の代わりに無理しないように見てなきゃ」


「やっぱり相思相愛」


「なにそれ?」


「ううん。一緒に夕食食べようよ。まだなんでしょ?」


「ちゃんと前見て、転けても知らないよ」


みょうに面倒見がいいとは思っていたけれどそういうことか。同じく面倒見のよかったお兄さんたちの真似なのだろう。


「私がお姉ちゃんなんだからね」


「はいはい。そうだね、お姉ちゃん」









「・・はあっ」


やっと水に包まれる感覚が消えて息が吸えた。いつもより水中にいた時間が長かった気がする。溺れるかと思った。


「結、大丈夫? 溺れてない?」


私と同じく頭からびしゃびしゃで握っていた手はとても冷えている。


「移動するつもりなら、先に言っといて欲しかった」


確かにその通りだ。結からすればいきなり水の中に落とされたようなものだろう。


「ここどこかな?」


どこかのお屋敷の庭に見える。水場に辿り着かないなんて珍しい。こちらも雨が降っているからだろうか?


「さあ、どの家も作りはほとんど変わらないから見分けなんかつかないし」


知ってる家ならいいけれど・・もしどこかの貴族の家だったら不法侵入? 捕まっちゃう?


「そんなところでなにをしてる?」


遠くから炎を持った人影が近づいてくる。しかも何人かいる?


「結、誰か来た。どうしよう?」


私がやったことだけれどどうしよう? 大人の人にちゃんと事情を話せる自信なんて無い。


「・・陸?」


「結理様? 明日いらっしゃるはずでは? というかどうして一ノ宮家の庭に?」


もしかして、直接たどり着けた? ここに繋がればいいとは思ったけれどこんなにうまくいくなんて。


「話は後で聞く。・・・早く中に入れ。そんなに濡れたら風邪引くぞ」


突然来てしまったから迷惑だろう。陸様、怒ってる?


「夜遅くにすみません。私がやったことなので結は怒らないでください」


「怒ってない。ただ頭が痛くなっただけだ」


「大丈夫ですか?」


「・・・実際に痛いわけではない。」


なんかズレたことを言ったのかな? 呆れられた気がする。


「傘の中に入ってください」


「もう十分濡れてますから平気ですよ?」


和紙が貼られている傘はそこまで大きくない。2人で入ってしまうとどちらかはみ出て濡れるだろう。


「これ以上女性を濡れさせるわけにはいきませんよ」


「ありがとうございます」


お言葉に甘えて建物まで流さんの傘に入れてもらった。






「着替えまでありがとうございます。着方あってますか?」


「大丈夫ですよ」


屋敷の中の一室で陸様たちに囲まれていた。陸様、流さん、星くんはいるけれど着替えるからと別れた結が見当たらない。


「結はどこに?」


「ずいぶん冷えていたから湯浴みに行っている。それより、何かあったか?」


結の様子から気づいたのか、こちらにいる時から様子がおかしかったのか。


「はい。優斗くんと喧嘩?になってしまったみたいです」


「今は同じ部屋で生活しているのだろう? それで?」


「最近の結はピリピリしてたじゃないですか。それもあって余計になのかもしれませんけど優斗くんのメモ・・じゃなくて書いていたのを見てしまったようで、その内容が結の知らなかったことで、なんで隠していたのかと大喧嘩に」


話がややこしくて難しいが私の語彙力でも伝わっただろうか?


「結が優斗くんに本を投げつけたり掴みかかろうとしたりと大変だったのですが、・・しばらくして優斗くんが謝りに行ったんです」


そしたら来るなと言って怯えた様子だったことを話した。それでここに連れてきたと。


「その書いてあったことの内容。分かるか?」


「もう1人のお兄さんのこととかが書かれてるって言ってました」


「・・そうか」


「そのお兄さんとの約束だから結に話すことはできない。これ以上結が怪しまれるのも避けたいからと言ってたと思います」


んー、と言ってから陸様は黙ってしまう。困ってキョロキョロと流さん達の顔をみると・・。


「兄様はいつもこんな感じですよ」


「怖い顔なのはいつものことです。気にしてたら大変ですよ」


流さんと星くんは親しみやすい性格なのにお兄さん2人はちょっと違う。


「あまり似てらっしゃらないですよね?」


こそっと陸様に聞こえない程度の声で話す。


「母が違うんですよ」


この時代らしい理由だった。それだけでなく元の性格も理由にあるような気がするが・・


「なにをコソコソ話している?」


「ちょっと質問してただけです。考え事をされてたようなので」


「・・あれの考えていることがさっぱりわからないんだ。戻ってきてすぐはすぐ表情に出て誰だって分かるような顔をしていた」


なのに最近はわからない。勉強を嫌がることも愚痴を漏らすこともある時から無くなった。ただ成長したのだと思っていたけれど、それは違ったのかもしれない。ため息を吐きながら陸様はそう話した。



読んでいただきありがとうございます。

今回のお話は兄弟、姉妹の関係が良く見えるお話だったかと思います。今まで仲が良かった結理と優斗は距離ができ、逆に彩夜芽と彩夜乃の距離は縮まった気がします。中学生という微妙な年齢ならではの不安定さを描いたつもりです。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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