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彩る夜に結ぶ  作者: 浅葱 咲愛
四章 消えた過去
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二話 割れた玻璃2

あけましておめでとうございます。


「彩夜ちゃん、持って来たんだけどー」


先生の声がして扉を開けて一度外に出た。


「どう? 落ち着いてる?」


「でも誰にも会いたくないって言ってます」


「・・優斗くんと宙くんに何があったのか聞くのが早いかしら?」


「そうですね」


「優斗くんは彩夜乃ちゃんと一緒にいるから彩夜ちゃんは結理くんのこと頼める? とりあえず今日の間は見ててくれる?」


「はい」


夜までには仲直りしてくれると助かる。どこにも空き部屋がないから夜になったら2人は一緒に過ごすしかない。


「結、先生からもらってきたよ」


「ありがとう」


ちょっと声が枯れてる?


「お茶飲んだら?」


一口飲んで・・結は顔を顰めた。


「・・これお茶じゃない。紅茶だしゆずとハチミツ入ってる」


喉にしみたのかもしれない。なぜかペットボトルのお茶も持たせられたのはそういうことか。


「おいしいよね」


結が布団の上から動いて、部屋のあちこちに散らばったものをゴソゴソと漁り始める。


「どうしたの?」


「あった。・・これあげる。本屋でシリーズの次の巻出てたから」


渡された紙袋の中には私が楽しみにしていた新刊が入っていた。


「覚えててくれたんだ。ありがとう」


「ついでに買ってきただけだから」


散らばった物の中にはあちらの時代から持ってきたであろう古い本がいくつもある。本が雑に置かれているのはあまり良くない。拾って重ねていく。


「たくさん勉強してるんだね。歴史、地形、これは・・戦術?」


「紅国が荒れてる。その影響が周りの国に出始めているから、・・対策を考えないと」


「全部、結のしなきゃいけないことなの?」


実家に戻ってまだ数ヶ月しか経っていないはず。なのにたくさんの仕事を任されることがあるだろうか?


「違う。でも・・先の時代を知ってるからこそできることがあると思う。失敗例なんて歴史からたくさん見れる。あの家は続いていくんだから・・あんな怖い思いをする子供はおれが最後でいい」


一ノ宮家の人たちと関わった時になんとなく当時の出来事を聞いた。とある家が反乱を起こしたことによって姫2人と結は燃える屋敷を逃されて護衛とも逸れながら、それでも一晩中追ってから逃げ続けた。鎮圧されてようやく逃された姫達を見つけた時、敵に捕まりかけていたところだったらしい。


現代人に雰囲気を分かりやすく言うとすれば地獄の鬼ごっこ。相手は大人で自分は子供、そして舞台は夜の森で捕まれば命はない。


「瑠璃さんだって・・あのまま状況が悪くなってたら同じような経験をしてたかもしれない。ほんの十数年前に色葉や三葉と並んでいた家が反乱で潰れてるんだ」


「思い出すと・・きついよね。私もたまーに結が助けてくれたあの日が夢に出てくるよ」


もう終わったことなのにどんどんひどくなっていくのだ。いつまで経っても誰も助けてくれなかったり何度も何度も撃たれるような夢になる時もある。自分の想像で勝手にそうなっているだけなのにどんどん怖い方に膨らんでしまうのだ。


「あれさ、本当に相手は人間だったのか? 彩夜は銃で撃たれたーって言ってたけどおれはその物を見た覚えがない」


あの時、結は私の目の前に立って大人から守ってくれたのだから見ていないはずはない。


「誰かが記憶を変えてくれたのかもね。ちっちゃい私が大人に変なことを言わないように」


奏さんあたりがしそうなことだ。そんなことができるのなら結の怖い思い出も消してくれればいいのに。


「その日、大人が権力を欲したせいで真希まで亡くなってるんだ」


聞いたことのない名前だ。すでに亡くなっている人なら今更話題に出ることも無いだろうから仕方がないのかもしれない。


「真希さん? 女の人だよね? 双子のお姫様のお友達?」


「2人とも仲が良かった。それに・・おれたちの婚約者でよく一緒に遊んでたんだ」


婚約者、その意味くらい知っている。結はこの辺りを治めていた領主の息子。子供の頃からそんな人がいても当然なのだろう。今も・・そんな話が出てきてるのかな?


「7歳の子供が何もするはずないのに。裏切った家の子だからって、そんな法律があるのが悪い。だから、変えたい。そもそも反乱なんか起こそうって思わないような国になればいい」


「すごいね」


結はその気になれば家のことなんか放り出して自由になれる。今までみたいに行方不明になればいいだけ。もしくはあちらの何もいらないのならこの現代でだって生きていける。なのに、一番辛くて険しい道に進んで行こうとしているように見える。


「優斗くんと何があったの? あ、言いたくなかったら別にいいの。誰にだって言いたくないことくらいあるもん」


「・・・優斗は信じていいと思ってた。顔も似てるし、両親や妹みたいに血のつながりを疑わなくていい。ただ信じられる存在だと思ってた」


なのに、と言ったっきり黙ってしまった。疑心暗鬼になっているのだろう。周りの実際の気持ちはどうであれ、自分の生まれを何かで誤魔化されていたから。









本を読んでいると時間はあっという間に過ぎていて時計をみれば6時に近くなっていた。


「結、ご飯食べに行こうよ。お腹空かない?」


「・・・行かない」


「でも」


「明日にはあっちに行くし、そっちで食べればいいから。一晩くらい我慢できる」


夕食を食べにここから出てくれないと優斗くんと仲直りする機会が無くなってしまう。私だったらお兄ちゃんと喧嘩しても一時間あれば仲直りしてしまうのに。そんな軽い物じゃないのかな?


「私は行ってくるね」


「うん」


みんながテレビを見ながらくつろいでいるスペースまで行くと・・


「彩夜芽ちゃん、どう? 結理くんは大丈夫そう?」


彩夜乃ちゃんが駆け寄ってきて、そう聞いた。心配という顔だ。


「ちょっとは話してくれたけど・・優斗くんから何か聞いた?」


「なにも教えてくれないの。ただ僕が悪いの一点張り。でもさ、優斗は悪いことしたらすぐ謝ると思うからただの喧嘩じゃない気がするんだよね」


2人の状況と似ているけれど私と彩夜乃ちゃんはお互いにただの友達と思うことにしているからまた違うと思う。


「ねえ、どうなった? 仲直りしそう?」


燈依先生もそばにやってきてそう聞いた。だから2人で揃って首を振る。


「結理くんを今日はうちに泊めようかなって思ってるんだけどどう思う?」


「それがいいと思います」


結だって先生の家を気に入ってるし、あそこなら成雨さんや癒し系でもふもふの夏牙もいる。なんとなく安心する場所だから大丈夫だろう。


「ご飯は食べに来ないって?」


「はい。明日は実家に行く日だからそれまでくらい我慢できるって言ってました」


「もう」


「あの」


ぼろぼろのノートを持って優斗くんがやってきた。どこか泣きそうなその表情は結とよく似ている。


「・・・彩夜芽ちゃん、ちょっといいかな? 兄上のことで」


「うん」


「じゃあ、こっちで」


人の少ない場所に連れて行かれる。あまり聞かれない方がいい話だろうか?


「兄上、頑張りすぎてる気がするんだ。行方不明だった7年分を今から学ばなきゃって焦るのはわかるけど・・それだけじゃないような気がして」


「結、継ぐつもりなのかな?」


「そうだと思う。なんか目標ができたって言ってたし・・、この前陸から手紙もらったんだ。それに、もうちょっと周りに頼るように言ってくれって書いてあって」


「言ったの?」


それで喧嘩に?


「言ったんだけど、・・これは自分のためだからって聞いてくれなくて。その時は良かったんだけど・・・今日、これ見られちゃったんだ」


そのぼろぼろのノートを差し出された。


「見ていいの?」


優斗くんはただ頷く。表紙を捲るとふにゃふにゃの子供が描いたような勢いのある字が並んでいた。全部ひらがなで読みにくいけれどちゃんとわかる言葉で書かれていた。


『ゆうりあにうえ、ちちうえのところでくーーてる。なんでーおしえてくーる。ゆいりあにうえ、ーーもしらーい。いっぱいあそーーくれる』


その後もたくさんの言葉が続いている。所々読めない文字のあるけれど理解はできる。


「これって・・」


「僕が家族のことを忘れないようにメモしてたんだ。だんだん記憶が薄れていくのに気づいたから。時代が違うのに気づいてからはもっと焦って、なにも忘れたくなくて覚えているだけの出来事を全部書いた。・・兄上は知らないこともたくさん書いてある。これを見られたんだ」


自分と同じように知らないと思っていたのに優斗くんは知っていることがあった。それで、信じていたのにとなった?


「なんで教えてくれなかったのかって怒ってるんだと思う。兄上だって最後までは見てないみたいだからそのことを知ったわけじゃない」


「そのこと、結には話せないの?」


優斗くんからちゃんと話せば解決することなのではないかと思った。


「当時だって結兄上のために言わなかったの。ゆーり兄が・・ゆい兄は頑張ってるから言っちゃダメって。だから言えない」


兄弟の中で決めたことなら私が口を出すことではないだろう。


「優斗くんはもう1人のお兄さんの居場所を知ってるの?」


「知ってる。でも今のゆい兄とゆー兄は他人だから知らない方が良い。兄上は本当に色葉結理なのか疑われてるんだって。7年も経てば変わるし仕方ないけど、ちょっとでも疑われる要素は少なくしたいんだ」


優斗くんは優斗くんなりにできることをやっている。でも結の思っていることとはすれ違っているのかもしれない。


「わかった」


「彩夜芽ちゃんからちょっとは手を抜くように言ってよ。遊びに誘うとかそんな感じでもいいから」


「うん。そうしてみる」


私の気分が乗らない時だって遊びに行こうと部屋から連れ出してくれた。その時と同じように結を誘うくらい私にもできるだろう。

読んでいただきありがとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

割れた玻璃は結と兄弟のお話が中心になっていてその周りで彩夜芽やその他の人たちがどう動いていくのか、という様な内容になっています。今まであやふやだったところが色々見えてくるかと思います。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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