第45章
「長谷川、左足だな。痛むか?」
「……やれます」
「わかった。ちょっとベンチに戻って治療しよう」
「大丈夫です、やれますっ」
「う、うん、わかってる。でも脱いでみないと。ほら、乗って」
「え、あ……はい」
長谷川を背負って僕はベンチに下がった。足先だったし、表情からしてだめかも知れない。
「スパイク脱いでみな。左」
「あ、いや……」
「どうした?ほら、早く」
「で、でもその、におっちゃったりとか」
「そんなこと言ってる場合か。じゃあ脱がすぞ」
「あ、す、すいません」
スパイクを脱がすと、靴下の先が赤く染まっていた。
「爪が割れてるな……沙織に代走出てもらおう」
「嫌です。まだ私、活躍してません」
「もう十分やってくれたよ」
「嫌です。嫌ですっ」
「長谷川。今から試合が終わるまで、俺の隣にいてくれ」
「え……え?」
「勝つために、おまえの助言が要るんだ。頼むよ」
「……手」
「ん?何か言った?」
「手、握っててくれますか」
「え……うん、わかった」
僕は沙織を呼び、主審に代走を伝えた。一塁コーチは愛ちゃんに任せた。
「うわー、うち出ることになると思わへんかった。あかん、どきどきする」
「こっちが沙織ちゃんだよね?可愛いわー。あたしもね、あんたたちと同じくらいの妹いるんだよ」
「えっほんま?でも愛ちゃん、お姉ちゃんて言うか、おかんみたいやなあ」
「こら、後でお尻ぺんぺんの刑だよおまえら」
「いや怖いわ、あれ?でも詩織は関係ないんちゃう?」
無死一塁で三田村。いい形で上位に回したい。
僕はこの試合で初めてバントのサインを出した。牽制の後の初球、三田村は低めのカーブをバントして小さく打ち上げた。落ちるかと思ったが、バントを読んでいた捕手上本が前に飛び出し地面すれすれでダイビングキャッチ。そのまま一塁へ送球、飛び出していた沙織も戻りきれずアウト。三田村は天を仰いだ。
いきなり二死、走者もなくなった。打者は蘭ちゃん。四死球戦法で五球怖い思いをして、結局見送り三振でチェンジ。




