結婚式編 10
呼び出された5人が向かった先には、王宮の騎士団が壁を作り、野戦時の天幕が張られた野戦時の仮設の本陣が作られていた。案内人の若い男が天幕の入り口に立つ騎士に声を掛け、ニック達をそのままその天幕の中に案内する。そこは先ほどまでの、うめきや怒号が響いた怪我人と医師たちの戦場とは違い、ある種隔絶された静かな世界であった。
「前にどうぞ進みください。正面にいらっしゃるのがサダーク様です」
天幕の中は非常に広く、何かの魔術なのか明るかった。案内を務めた若い男は天幕の入り口で立ち止まったニック達に更に前に向かえと伝えてくる。彼自身はそこから先の案内をしないのか、出来ないのか、全く動こうとしない。仕方がないので、ニックは何も考えずにずかずかと前に進む。後ろでドラムがものすごい表情を浮かべているが、それニックが気づくことはない。
ニックに遅れるように、ドラムが、リョーエン、ギクリ、ヒノクが本陣の中央に座るサダークの目の前まで進む。およそ残り5歩の距離を残して、サダークの前に控えた騎士が停まれと声を掛けてきた。ニックがそこで立ち止まり、礼儀として片膝をつける。その横にドラム、リョーエン、ギクリ、ヒノクと並び、同じような姿勢をとった。
「楽にせよ、まず、……、ドラム、体の方は大丈夫か? 」
目の前にいる5人を見回して、サダークの口から一番初めに出たのは、ドラムへの心配であった。混乱激しい現場を病み上がりの体で指揮したのだから、何か不都合はないかその不安からサダークは一番先にそれを訊ねた。
「は、はい、体は何ともございません」
「本当か? 本当に大事ないか? 」
現場の状況を聞かれると身構えていたドラムは先に自分の体調が心配されて、返答が少し遅れた。ドラムのその返答にサダークは再度、同じことを訊ねた。天幕の中にいるサダーク配下の護衛騎士、近習にはその質問の意味が分かったが、あいにく、呼び出された5人は全く分からない。
まさか、ドラムが自決を図り、その治療を受け、回復してすぐに王城の危機にその身を挺して駆けつけたなんてストーリーが描かれているとは思わない。むしろ、今、混乱している現状で無関係な質問を繰り返すサダークに対して、ニックは減点を与えた。それでなくとも、ノイエを振った奴の兄貴であるサダークに対して評価が低いニックは、がっかりとした気分で言葉を挟んだ。
「王子、それより、先に、現状を確認をするべきではないか? 」
「ニック! お前、待て」
「無礼者! 王子の言葉を」
「あん? なんじゃ? 」
「待って、ニック! 黙れ! 」
「いや、そうだな、ニック殿か、貴殿の言われることはもっともだ。一応の話はここに来る前に聞いたが、何が起こったのか説明してくれぬか」
「ほら、ドラム、王子様が説明してくれとさ、」
「ニック! 」
「……、大変なご無礼を、また、寛大なご対応を感謝申し上げます」
「いや、よい。ニック殿、それより、何が起きたのか説明してくれ、言葉遣いは気にしないでいい」
「儂は、ヒノの傍にいただけだから、ドラムから聞いた方がいいと思うぞ」
「ニック、王子、では、まず、私が見たものから説明いたします」
王子が臣下に対して言葉を授けるさなかに横から割って入るなんて無礼という言葉では済ませられないが、ニックの言葉に一理ある。しかし、ニックの態度はとてもひどい。護衛の騎士、王子自身までその殺気を込めた言葉で脅し、謝罪しながら更に威圧した。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというべきか、とにかく、王家に対しての評価が辛いニックに困りつつ、ドラムは現状の説明を始めた。
「……、以上ですな、」
「そうか、火の手の付いた建物は? 魔術師殿がいると聞いたが? 」
「それは、ギクリが全て対応してくれました。のう、ギクリ? 」
「ええ、燃えていた建物はそれ以上燃え広がらないように壊して、水をかけました」
「ギクリ? 」
ドラムからの報告を聞いて、疑問に思ったことを訊ねると第二研究所のハーフエルフの名前と同じ名前が挙がる。ほとんど王城に来ない人だったので顔にも、声にも覚えがないが、とにかく美形だったと聞いたことのあるその人は、確か、一か月前の事故で、死亡したはずだ。
ドラムから話を振られ、嫌々とぶっきらぼうに報告を上げる美形のハーフエルフがそこにいた。あれ?
「あと、リョーエンに混乱しておった聖堂騎士団の面々を取りまとめてもらいました」
「リョーエン? 」
「お初にお目にかかります。サダーク王子。大聖堂府、異端審議官の職をいただいております。リョーエンと申します」
「こ、これは、ご丁寧に、……、あ、あの、神父リョーエン様ですか?」
「はい、位階は司教を預かっております。弟様の結婚式にて恐れ多くも、神父として参加させていただきます」
「は、はぁ、よろしくお願いします」
小声でサダークがつぶやいた言葉は、ドラムの下まで届かなかった。ドラムは話を続ける中で、今度はさらに大物名前を挙げる。今回のつぶやきは大きかったのかリョーエン司教が丁寧に対応してくれた。ああ、そうですね。結婚式、教会の方は敵に回られているのに来てくれるのですか? ありがたいなぁ~、あれ?
「よろしいですか? それと、火傷や骨折などの怪我人に関しては、全てヒノ、いや、ヒノクに任せまして、」
「王子様、昨日ぶりですね。お加減は変わりないですか? 」
「い、いや、ヒノク様? 教会の? 聖女のヒノク様? 」
「王子様? 大丈夫ですか? 何か声が震えて、」
「ち、違、いえ、大丈夫です」
ああ、よかった。自分を治療してくれたのはすごく信頼できる人だ。なんといっても、聖女様だもんね。あれ?
今度は、同じく1か月ほど前に行方不明となった聖女の名前が挙がる。だんだんに震える声が、自分でも抑えられなくなった。声の大きさも、触れる幅も大きい。ふと、前に立つ騎士がカタカタと小刻みに震えているのが分かった。ああ、そうか、私だけの幻覚ではないんだなと理解できた。
「それで、ヒノクに襲い掛かったものを取り押さえたのが、」
「儂じゃ! で、王子様、ここまで聞いて分からんことはあるか? 」
「いや、ちょっと待って、ギクリ様、リョーエン様、ヒノク様、ドラムにニック? ニック・ノーキン子爵か? 貴方はニック様か? 」
「……、なんで様付けするんじゃ? 」
先ほどの無礼を咎めなかった自分の判断が大正解だった。とりあえず、これだけは分かった。




