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結婚式編 11

 ドラムからの説明が終わった。彼が見た出来事を正確に報告してくれたのもので、実にわかりやすくまとめられていたが、その話をすべて覚えているものはいない。というか、理解が追いつかない。


 なるほど、多数のけが人が出た。大問題だ。王城内で火がつけられた。大問題だ。賊がまだいるかもしれない。大問題だ。


 だが、正直、それより、今、目の前にいる死んだはずの人間について説明が欲しい。教えてほしい。死んだはずの人間が目の前に立っている理由を、何が起きているのか、そちらをきちんと話して欲しい。


 天幕に控える騎士、近習たちの視線がサダークの方に集まる。何せ、この場で一番偉いのは王子たるサダークである。全員が彼に全てを押し付けるように、無言であるのに、実に分かりやすく、催促されている。


「ド、ドラム、その、なぜ? そう、なぜここにいるのだ? 」


 サダークは負けた。いや、全員の期待に応えた。一番、話を聞きやすいドラムに振って、説明を求めた。彼自身、何がどうして、こうなっているのか分からない以上、話を聞かなくてはならない。



「王子、……、大変申し訳ありません。王子からの謹慎の命に背き、出歩いたこといかなる処分もお受けいたします」

「……はぁ? い、いや、違う。そうでは、」

「おい! いい加減にしろ! お前は本物の馬鹿か!! 今、何が大事かわからんのか! 」

「おい、ニック! やめろ! 」

「いいや、もう我慢できん! 王子! 城内で火をつけまわった奴がいるのだぞ? こんなとこで優雅にお話する場合か? 先にすることはなんだ? 怪我をした者を、指揮を待つ者を、今、必死に頑張っている者達に顔を見せるのが先ではないか? ドラムを責めるならすべてが終わってからにしろ。儂も全力でその喧嘩を買ってやる! 」


 サダークの質問の意味をドラム達は勘違いした。そして、ニックが盛大に切れた。


 もともと、先にも言った通り、サダークに対して評価が低いニックは、今回の事で完全にぶちギレた。ニックとしては、今ここには怪我人がいる。火をつけられている。犯人がまだいる。どれをとっても重大で、すぐに動く必要があることだ。


 それを、現場から呼び出すは、長々と説明させるは、挙句に、命令違反とそれを責め立てようとすることにニックの中で、王家に、王子にろくなものがいないと結論が生まれた。王家に向かって啖呵を切って、尋常ではない殺気を浴びせる。


「ニック! やめろ! もともと覚悟はしていた。王子、申し訳ありません。これは全て、私の責任で、」

「王子、私からもお願い申し上げます。ドラム様への処分をどうかお許しください。ドラムは王家に熱い忠誠を誓ったものです。今回も、悩み、苦しみ、それで決めた事です。どうか、寛大な御心お許しください」

「ヒノ! お前も」

「サダーク王子、私からもお願い申し上げます。ドラム様に決して悪意など決してないと、神に誓って申し上げます」

「リョーエン! 」

「ニックが買うのなら、私もその喧嘩を買いましょう。王子、貴方は自分を守る最強の盾を捨てるおつもりですか? 」

「ギクリも、止めろ!」


 ニックが殺気をぶつけると、ヒノクは誠意を、リョーエンは決意を、ギクリは実利を提示した。それぞれが、ドラムを守る為に目的に動いた。そう、いつの間にか、悪役にされているサダークを倒すために、かつての仲間は動いた。



「………………、ドラムについては一切を問いたださない。」


 サダークは長い沈黙の後に一言、約束をした。ニックの殺気が消え、頭を深々と下げていたヒノクが顔を上げる。リョーエンは深くうなずき、こちらを睨みつけていたギクリが目線を反らした。その全員の顔に歓喜が浮かび、ドラムは両目には確かに涙が流れていた。


「王子、ありがとうございます」

「よい。お前の仲間は素晴らしいな」

「はい」

「では、後のこと、全て任せてもいいか? 」

「は! お任せください」

「頼む! 」


 サダークはつきものが落ちたような気持ちで全てを丸投げした。もういい。関わらない。英雄の殺気に正面から味わい、悪役の立ち位置で追い込まれ、本物の道化師まで演じたのだから、もういいだろう。疲れた。


 天幕に控える騎士に近習からのこちらを心配する視線を感じて、お前らのせいだろうがと思わなくもなかったが、サダークはこれ以上関わる余力がなかった。


「サダーク様、大変です!」


 サダークの知らない騎士が駆け込んできた。彼は懸命に急ぎの報告を持て来たのに、それに対して何も感じない。疲れてしまったのだろう。もう嫌だ。


「西の塔に火の手が上がりました! 中に逃げ遅れた者がいる模様で、至急、応援を! 」

「そうか、ドラム」

「了解しました」

「無理のないように頼む」

「はい」


 考えるのを拒否して、簡潔に命じる。短いやり取りにドラムの気合いが満ちていることが伝わる。もう帰ろうか、寝よう。西の塔、そういえば、今あそこにいる大物は、


「西の塔には、逃げ遅れている人は分かるか? 」

「はい、最上階に幽閉されているザーマ・ハイビッシャー侯爵令嬢と何人かのメイドが塔に入った聞いております」

「な、」「なに! 」「何だと、」「急がなきゃ、」


 ザーマの名前を聞いて、英雄たちは一斉に走り出した。

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