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結婚式編 3

「お嬢様が10歳の時に領内で大雪が降りました。珍しい雪に、はしゃぐ子供たちの中、お嬢様は一人、領内の春先の水が確保できたと喜ばれました。先を見る目、常にあの方はその眼を持っていたの! しかもね、降り積もった雪を、洞窟に集めるように命じられたの、なぜか分かる? 雪よ? お嬢様はその雪を集めた洞窟を氷室といていたわ。すごいのよ! 夏の盛りでもそこには、」

「分かった。もういい。しゃべるな。凄い子なんだな、そのザーマさんは、それで、今の事を、」

「あ? さん? だと? こら、聞いていたのか? 様だろうが? 我々でもお嬢様だぞ? ザーマ様、最低限は様をつけろや!! 」

「……、すみませんでした。あの、昔話は充分お聞きしましたので、今のお話を聞かせていただければ、」

「ちげぇだろう? 申し訳ありませんだ! 生きる女神に向かって!! てめぇは私の信仰を汚したんだぞ! そんなおざなりな謝罪が許されるか! 」

「誠に申し訳ございませんでした」

「よろしい」

「で、その、もうお話はいりませ」

「まあまあ、遠慮しないで、それでね、その年の春にね、」


 ザーマ付きの、メイドたちへの尋問の抽選はすさまじかった。10人全員がそれぞれタイプが違う美女であり、それに息のかかる距離で話ができるのだ。普段そんな機会などあり得ない、むしろ、お金を払う側の騎士たちはすさまじい気合いを持ってその席を勝ち取り、その後、あまりの話の通じなさに涙した。


 ザーマへの個人崇拝でできている集団は、ザーマのすばらしさを語り続け、騎士達が下心からする質問や、真面目に聞いた質問に一切答えない。しかもなにか、間違うとヒステリックにまでの言葉責めを受けてしまい、ザーマ教への改宗をするか、何か別の道に目覚める騎士たちが出てきた。


 そんな大変な思いをして、聞き出した情報は実に膨大な無関係で、いよいよもって騎士達は匙を投げた。最後にメイド達の責任者であるカースへの尋問はザーマ13歳冬で打ち切られ、それを持って、ハイビッシャー家への尋問は終了となった。


 一応、ハイビッシャー家にいた人間は全て、王城に運ばれて自分の知ることを話すように取り調べられた。そして、その間誰もいない屋敷の中は洗いざらい調べられ、他国との繋がりがないか徹底的に検められた。何ら証拠らしいものは発見されず、領内の仕事の一切を取り仕切るバスと必要以上に語るメイドたちのみを残して、他の者の取り調べは僅かな時間で終わった。



 これはもともと周辺へのアピールという面が大きい。すべての問題の根源がここだと、知らぬ者たちに教える為のパフォーマンスであり、犠牲なのだ。


 王国には侯爵位を持つ貴族は僅かに3つ、そのうちの1つがハイビッシャー家であり、経済的にも、権力的にも筆頭の立ち位置にいる。この家を仮に取り潰す事になると大きく権力の構造が変わる事を意味していた。力の強いボス猿がいなくなれば、果たして、サルの群れは平和裏に次のボス猿を選ぶだろうか?


 3つの極が存在することで、貴族たちを上手くけん制し、制御してきた王家にとって、いくら問題を起こしたからといってそれが全て消え去るのは問題であった。ゆえに、王家は将来につながる問題を小さくする為に解決策を講じた。それはつまり、胴体のみを残して、首を挿げ替える事であった。


 全てはハイビッシャー家の総意ではなく、イダンソ一人が行ったこと。


 こういう形にしてハイビッシャー家の一族の血を引くもの誰かがその場所に座らせる。これが王国、王家にとって一番いい形であり、流れる血が少ない方法である。サダークは意識を失う前にメラクにそのことを伝え、メラクはその通りに騎士を動かした。



 ここで一つ問題が生まれる。イダンソの直系、彼の血を唯一引いた娘ザーマの存在である。


 このような大逆事件を起こした人物の直系を何もせずに放置することはできない。普通の存在であれば、そのまま父親と一緒に処刑するのが一般的だが、彼女は少し事情が異なり、ひとまず、彼女は一人、王宮の一室に軟禁されていた。


 彼女自身を悪いとだれも思っていない。いくら神子の娘、世間で騒がれる人物であっても彼女は17歳の女性でしかない。彼女が何か計画的に考え、行動したと本気で考えているのはメラク王子ぐらいで、他の誰もが父親からの命令で動き、その結果として、今まさに全てを失おうとしている悲劇の姫に思ていた。


 しかし、このまま王家として進めたいハイビッシャー家への処罰には彼女の存在がどうしても邪魔になる。可哀そうだから何もしないとすると、彼女がその後、子供を成せばそれは侯爵の血が残ることになる。せっかく挿げ替えた当主の正当性も危うくなる。ゆえに、彼女を処刑すべきだという意見が出ないわけではない。


 だが、彼女は領地を発展させた神子であり、一時は王子の婚約者になった娘である。今回の事件は全て、イダンソ一人が画策し動いたことにする以上、処刑という決断は世間の同情がかなり彼女に集まる結果になる。王都の民の不平不満が高まる中でそんなことはしたくない。


 そこで、ザーマ付きのメイドたちからの話を聞いて、ザーマ自身の関与の度合いを測り、処遇を決定するという運びになった。そして、冒頭のザーマ教徒へ無事改宗した一部の騎士が残した報告、更に、メイドたちに精神汚染された騎士たちはザーマに関して全くの無関係、潔癖の白だと報告がされ、それを目にしたサダークが教会との関係改善後に修道院に送るという事で話がまとめられた。


 なお、強硬にザーマの処刑、暗殺を強く主張したメラク王子が北の砦に向かうことになり、話がすんなり決まったことは議事録には残っていない。



「ザーマ様はどちらに? 」

「西の塔、幽閉されています」

「警備の体制は? 」

「鍵はこちらに、警備の者はいないと約束を取り付けました」

「逃走用の馬車は? 」

「クソ王家の紋章が入ってますが、準備できました」

「陽動は? 」

「武器庫、詰め所、北の見張り塔に日没後、火をかける用意ができました。同時に、捕まっている外国の騎士たちも外に出して、混乱を大きくします」


「はい、よくできました。では、皆さん! 日没後、ザーマ様をお救いしますよ! 」

「「「はい!!!」」」


 狂信者は、夜を待った。

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