第二魔術研究所編 1
「ヒノどこにいくんだ?」
リョーエンと別れた一行は、目深にフードをかぶり朝日が昇る街を進んだ。崩れた教会に人が殺到する前に離れることで、人目を避けることができた。
「兄さんは、何かあてあるの?」
「いんやなんもないが、どこかノイエがゆっくりできる場所があればいいんじゃが、教会は、そう言えば、お前の教会はいいのか。アイツ派手にぶっ壊したぞ。どうせ、いまもアイツは金持っとらんじゃろ。」
「兄さんも人の事言えないでしょ。お金については! それに、リョーエンなら自分が悪い事したときは、必ず何とかするから心配いらないわよ。まぁ、それにあそこだとノイエは休めないわ。きっと。学士の子達が絶対になにかいうだろうしねぇ、あ、そう言えば、みんなになにも言ってこなかった。どうしましょ、」
「ぶっはっはっは、やっぱり耄碌してきたな! 口うるさいばばあがいなくなって、きっとそいつらは清々しておるよ。ガキじゃなかろうし。」
「うるさい!この死に損ない! でもまぁ、そうね。みんな大人だしね。」
ひさびさの兄妹の会話は実にほのぼのしたものであった。
約10年の時間があったが二人は昔と変わらず、軽口も憎まれ口も叩きながら王都を進む。
ニックに担がれたノイエはいまだ気絶していた。
ヒノクから命の危険がないと言われて、ニックは安心してノイエを運んでいる。
「それはそうと、兄さんギクリさんやドラム兄には会った? 」
「いや、きのうだぞ、動けるようになったのは。会う時間がないわ。それに、アイツら偉くなってから会ったことないしの。」
「じゃ、今から、二人のとこに行くわよ」
「えー、嫌じゃ。なんでアイツらに会いに行くんじゃ?」
「悪魔について調べるからよ。」
兄妹の会話が止まる。
「・・・?なんでじゃ?」
「北に行くのだから、出国の許可もらわないと。」
欲しい答えが返されない。兄は妹の話し方を思い出す。
ヒノクは、自分と違い頭が良かった。
本を読めば一回で内容を覚えたし、なにか教えれば一度で出来た。だからなのか、他人にも同じことをする。
一度言えば自分が言いたいことを相手は理解しているとして話を続ける。今の言い方では、永遠に答えてもらえない。
言い方を変えて、再度問いただす。
「ん?その、なんで悪魔を調べるんじゃ?」
「は?ノイエの恩人よ?いえ、恩悪魔かしら?とにかく、人を助けたのよ悪魔が!これは、教会の教えが、」
ながい話が始まり出して、ニックはひどく後悔した。
リョーエンみたいにくそ真面目なやつなら、ヒノクの教義についてのマンツーマン講義は喜ばしいことだが、ニックにはただの迷惑行為だ。
「わかった。悪かった。でどっちから行くのじゃ?」
「そうよ。ではまず、ギクリさんのとこよ。」
「アイツは今、宮廷魔術師長だったか?」
「いいえ、魔術研究所の所長よ。」
「会いたくないのぉ、どうせ燃えるか爆発しているだろ?吹き飛ばされた古傷が痛むのぉ。」
「王命で禁止されたから、今は違う魔術を研究しているわよ。」
渾身の動く鎧ジョークを流されて、ニックはヒノクに真面目に話しかける。
「アイツに会いに行ってどうするんじゃ?」
「あの人、エルフの血が流れているから長生きでしょ?なにか知ってるかもしれないし、北の生まれだから、向こうにも詳しかったじゃない?」
「そうか?あれがじじいなのは知ってるが、魔術と女以外はどうしようもないやつだろ?」
「じじいって、にーさん?」
かつて旅を共にした二人の仲間の顔を思い浮かべるニックの様子は、顔も頭もないのにどこか懐かしそうで、楽しげにどこか昔の雰囲気をまとっていた。
二人の仲間は、それぞれ、魔法使いのギクリ・ウェストと魔法剣士のドラム・バッチという。そこに、ニックとヒノクの兄妹、リョーエンを含めた5人でさまざまな伝説を作った仲間である。
ギクリは魔法使い、人間とエルフの血が混ざり合い奇跡を再現するそれは、正規の力ではない力、魔法の力と呼ばれていた。
人が再現する力は魔術で、それ以外は魔法と区別され混血のギクリは両方の使い手として呼ばれていた。
エルフの血の力なのか、100は過ぎているはずなのに見た目は30歳程度にみえ、人の性か、知り合った頃から女遊びが激しかった。
ニックはギクリが偉くなったからと言ったが、実際は嫁を口説き、娘に愛の言葉を囁いた事があるギクリにその度に怒鳴りこみ、笑って誤魔化されていたので、会いたくないという理由が大きい。
ノイエが生まれてからは、日々の幸せの中忘れていた名前であった。
「ノイエは先にどこか休ませよう。宿を探そう。」
「いいじゃないの、連れていった方がいいわよ?向こうも歓迎してくれるわ。」
「だからじゃ!あんな女好きのひひじじいを見たら、ノイエが寝込んでしまう。」
「それは、ジョークをいってるの?相変わらず、にーさんは冗談がへたね。」
「バカ野郎、冗談じゃない!アイツ10年位じゃ変わらんじゃろ。ノイエに迫ってきたら、どうするんじゃ!」
「問題ないでしょ?いつも通りでいいじゃないの?」
「は?何を言っとるじゃ?」
「だから、いつも通りでいいじゃないのと言ったのよ。」
真顔で返事を返され、言葉がつまる。
妹は頭が良いのになぜ人の心配を理解しないのか。
それこそ、新種の化け物を見るような表情を浮かべたニックだが、今の彼にはくりかえすが頭がなかった。
「いつも通りとはなんじゃ?」
「だから、義姉さん達の時みたいに、四六時中見張ってなにかされれば、怒ればいいのよ。にーさんは得意でしょ?ギクリさんもそれ狙いみたいでやってたし、」
「はぁ?」
「ギクリさんがちょっかい出すのはね、にーさんの事が大好きだからよ?」
「それが嫌なんじゃ!あの男はいつも、いつも、」
「えっ!?にーさん、もしかして?気づいてないの?」
「何をじゃ?」
「ギクリさん女性よ?口説くのはポーズだけよ?」
「はっ?・・・え?」




