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奇跡編 8

修正しました。

「コーショウ様、急にどうされました? そちらの方は? 」

「耳を貸せ」

「はぁ? 」


 コーショウの呼びかけにすぐさまドラムに後事を頼まれた副団長が現われる。コーショウは副団長にひそひそとドラムの屋敷にて襲撃を受けたこと、その後、後をずっと追いかけられていたことを耳打ちした。内容を聞くうちに、副団長は顔を緊張させ、最後は真剣な顔で無言でコーショウの話を聞いていた。


「……、で、こちらの方は、奇跡の使い手様で名前は、名前は、」

「分かりました。ここは、私が引き受けますので、先に王子のもとに、」

「そ、そうか、では、後は頼む」

「は! 全員、これより警戒を厳にしろ! 」

「「「おう! 」」」


 ここで、コーショウは自分がまだ使い手様の名前を聞いていないことを思い出す。しかし、既にここまで話をしているのに、今更名前を聞いていないとも言えず、言葉を詰まらせていると、副団長は何か察したように深く、ゆっくり頭を上下に動かして了解したことをコーショウに伝えた。そして、コーショウに先に行くように勧めてくる。これ幸いと、コーショウは後のことを任せてサダークのいる王宮の私室に使い手様を案内する。



 副団長はサダークの下に向かう二人に向かって心の中で祈った。


 教会との関係が悪化する中で連れてきた方なのだから、おそらく、コーショウ様は何らかの取引を行ったのだろう。名前を口にできないという事に、副団長は別の意味を感じながら、部下に指示を飛ばす。彼の頭の中では、コーショウがタフなネゴシエーションを行って、連れてきたという物語ができていた。



「こちらです。足元にお気を付けください。」

「コーショウ様? そちらは?」

「こちらの方は、奇跡の使い手様だ。サダーク様の為に使い手様をお連れした。」

「は、はは、こちらにどうぞ」

「……」

「まずは、傷を確認するわね? 失礼いたします。」


 コーショウは使い手様の名前を聞く機会を得れぬまま、サダークが眠る私室まで連れてきた。私室では、意識が戻らないサダークの傍に何人かの医師が控え、苦しそうに息をするサダークの汗を拭き、懸命に自分ができる事をしていた。


 傍に控えていた医師の一人がコーショウに気づき、隣にいる老女の正体を訊ねる。コーショウは先ほど副団長に話したように、名前を知らないことを何とか誤魔化し、サダークの傍に向かう。



 ヒノクは浅く、早い呼吸をするサダークの様子を確認すると、早速、傷口の上に手をかざし、長年唱え続けてきた天上の神の言葉、癒し聖詞を朗々と口にした。


 清らかなる言葉に反応したのか、徐々にヒノクの体に光が集まり始め、その光がかざされた手を介して、サダークの体にも変化を与え始める。静かな王都の夜にあって、昼間のように明るく光り始めるヒノクとサダークに、それまで、どうしようもないと絶望の淵に立って懸命に治療をしていた王宮の医師達は、その理不尽な力、奇跡の光景に言葉を発することはできなかった。


 やがて、ヒノクはその清らかなる神の言葉を口にするの止める。彼女に集まった光が、体の先から中心に集まりはじめ、それが腕を通り、ゆっくりとサダークの方に向かう。サダークを包み込む光はその後急速に小さくなる。そして、浅く、早い呼吸が、徐々に深く、ゆったりとしたものに変わり始めた。ヒノクも先ほどのどこかこの世ならざる神々しさが消え、どこか普通の人らしい雰囲気を取り戻し始めると手をおろし、額の汗をぬぐった。


「一応は、これでもう大丈夫だと思われます。」

「……、そ、そうですか、あ、ありがとうございます。誠にありがとうございます。貴女様が来て下さったおかげで、王子は助かりました。」

「いえ、私だけではなく、ここで治療に携わった方々にもお言葉をおかけください。」


 ヒノクの見立てでは、傷口の深さ、出血した血の量など考えれば、ここに来るまでに間に合わなくなってしまうことも十分に考えられた。そうならなかったのは、王子を助けようとした医師たちの力である。


 奇跡の力があれば、ほとんどのケガや病気に打ち勝てる世界であって薬や医術については懸命に修めようとする者は少ない。しかし、そういった知識をきちんと修めたものがいれば、助かる可能性は非常に高くなる。大切なのは、使い方なのだが、なかなかうまく共存できていなかった。


「いえ、使い手様がいてくださったからこそ、」

「奇跡の力があれば、もっと早くに王子を助けられました」

「貴方達の懸命な処置が、適切な対応があったからこそ間に合ったのです。胸を張りなさい! こっちに来なさい! 」


 ヒノクが医師たちを褒め称えようと動いても、肝心の医師が先ほどの奇跡の力で自分たちが修めてきた力が無力ではないかと疑い始めた。ヒノクはそんな医師たちを一喝し、全員を一か所に集めてお説教を始める。その一連の流れを止めるものは誰もいなかった。



 リョーエンは馬車が王城に消えていくのを確認して、急ぎ、ドラムの屋敷に戻った。屋敷の門は固く閉ざされていたが、リョーエンはそれを無理やりこじ開けた。とにかく、ドラムに確認を取らなくては、その一心で気配を隠すことなく扉をこじ開ける。



「大変、お騒がせしました。すべて、私の確認不足が原因です。すみませんでした。」

「あ、あの、おじい様、悪魔さんも反省してますし、頑張ろうとしていただけで、あ、あの、その、」

「ノイエ、貴女怪我はしていないの? そう良かった。悪魔、あなたももう少し確認をしてから叫ぶべきよ? ニック? 疲れているでしょ? 少し、向こうで一緒に休みましょ」

「ニック? 儂が呆けているのか? 皆で悪魔をかばっているように見えるが? 何で儂の屋敷に悪魔がおるんじゃ? お前、これはどういう事だ! 儂にきちんと説明しろ! 聞いておるのか! ニック! 」

「旦那様、落ち着いて、ほら、ニックさん、説明して、早く! 抑えてるから! 」

「ぞ、賊はもういないのですか? 」

「せんせぇ、大丈夫ですか? 」


 悪魔が土下座で儂に謝罪して、ノイエがそれをかばっていると、ドラムが悪魔の事を騒ぎだして、ギクリとベスがそこに現れて、包丁を握ったメイとニーナがそこに来たところで、儂は大きな物音を聞いた。

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