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激突編(王宮) 9

修正しました。

 イダンソがサダークから冷たい声で決断が迫られている時、ザーマもメラクから同様に言葉で責められていた。


「ザーマ! お前の野望はこれでお仕舞いだ!」

「……」

「ふん、言葉も出ないか? 神子の力を悪用しての……、」

「……?」


 メラクが自分の推理を語る最中、ザーマは考えていた。父、イダンソが王子から悪事の証拠を突き付けられて、大勢の人の前で断罪される光景はまるで芝居のような、いや、いっそゲームのような作り上げられた完璧な勧善懲悪の場面である。


 それは、最期の最後、悪役が追放される場面。正義が勝つのだと観客が満足を得る場面である。


 いったいなぜ、なんで忘れていたのか、これは、これこそが自分が一番恐れていた最期の場面ではないか。


 王子がこちらを見下すような目で睨みつけてくる。それは、怒り、軽蔑、蔑み、どれほどの負の感情が詰まったものなのか、考えられないほどに冷たく、恐ろしい表情である。しかし、一方でそんな表情をしていても王子の称えられるような美貌はその負の思いで生まれた表情であっても美しいと感じるものである。


 そう、姉が前世で大好きだった少女漫画のように、ライトノベルのように、ゲームのように、悪役を追い詰めている王子様の表情だ。そして、追い詰められた悪役はそのまま退場を選ぶという場面だ。


 私は勘違いをしていたのだ。


 自分さえ、何か悪いことをしなければ大丈夫なのだと、あのキラキラした男たちと恋愛のフラグさえ立てなければ大丈夫なのだと、学園を卒業すれば大丈夫なのだと、勝手に勘違いをしていた。自然と、何か冷たいものが頬を伝う。


「いまさら、泣いても遅い。お前がしたことは、それだけ、」


 どうやら、涙が流れていたらしい。この後自分に待つ運命がいかなものか、考えると絶望的な気持ちで、ザーマは目の前の王子を見る。



 すると、ヒュン!と風が鋭い音を立てた。何かがどさっと落ちる音が聞こえ、メラク様と周囲の騎士がざわめき、動き出すと同時に、「ザーマ様!」「ザーマ!」「姫さん!」「お姉ちゃん!」と声が聞こえた。


「王子! これ以上は例え、貴方様でも、決して許せません!」

「メラク! 仮にも婚約者であろう! 女性を、父の罪で責め立てるなど、間違っている!」

「姫さん! 泣かないでおくれ、おいで、君はもう自由さ!」

「お姉ちゃん、泣いてるの? 誰、だれ、ダレ? オシエテ、ネェ、ダーレ?」

「お前たち、邪魔するなら容赦はしない!全員を取り押さえろ!」

「待て、メラク、おい、みな、落ち着け!」


 一年ほど前まで、あれほど悩まされた4人の男の声が響いた。王子は後ろに下がり、騎士が突然の乱入者を取り囲むように動き出す。


 僅か4人の乱入者に対して、20人近い騎士が一斉に向かう。赤毛の騎士は迫る複数の騎士に軽やかに立ち回り、銀髪の貴公子がそれを支えるように動く、くすんだ金髪がそこから漏れた騎士と拳でぶつかり、茶髪の魔術師がなにか風の刃を使って騎士たちを牽制する。


 メラクはその光景を見ながら、大きな声で指示を飛ばす。控えている騎士たちに魔術師に命じて、乱入してきた学友を力づくで押さえつけようとする。さすがに、サダークはそれを取り下げ、皆落ち着けと場を収めようと声を張る。


 一気に部屋の中は混沌とした状態になる。乱入者は今は優勢だが、数が少なすぎる。王子側も違う命令が同時に下り混乱している。イダンソは呆然と光景を眺めている。そしてザーマ、


 

 落ち着け、落ち着け、ドキドキするな。あれは男だ。私も男だろ? 落ち着いて、お願い!


 少女漫画していた。


 絶体絶命のピンチに颯爽と現われて助けに来る仲間、少年漫画なら王道の展開であるし、ザーマも前世の頃、少年であった頃は大好きだった展開だ。しかしまさか自分が女になって目の前で展開されると、乙女な気持ちで眺めてしまう。


 どうやら、学園でのフラグは折れてなかったらしい。戦う4人にザーマは先ほど流れた涙と違う、涙が流れる。



 ザーマに良いところを見せるため、4人は持てる力の限り戦う。


 4人は自分たちが互い牽制しているさなか、横からザーマを奪い取ったメラクを深く恨んでいた。しかし、メラクは王宮に引きこもり、なかなか問い詰める機会を得られなかった。そして、ザーマの結婚式が近づくさなか、その結婚が中止になるという吉報を耳にして、確かめるために王宮に乗り込んできていた。


 そして、偶然、騎士に取り囲まれている愛しのザーマを見かけ、ストー、尾行、追いかけた。ザーマが王宮の一室に入るのを確認し、部屋の前にいる騎士を取り除いて、部屋の様子を確認していた。


 部屋の中で、ハイビッシャー家の悪事が追及されていたが、4人の関心は一年ぶりのザーマだけであり、王子が詰め寄ってザーマを泣かせた光景を見て、怒り心頭で突入してきたのであった。



 4人の乱入者と王子達の護衛騎士がぶつかりあう中で、イダンソはどうするべき考える。王家に、次代の王に睨まれてしまった以上、これより先は暗い未来しか見えない。


 自分に何の落ち度がないとは言わない。確かに、もしかしたらと夢想したことではある。だが、それだけで、こんな横暴を受ける道理はない。


 展望への不安、理不尽に対する怒り、そんなイダンソの目の前に何処からか飛ばされたのか一振りの剣があった。

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