表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/113

激突編(王宮) 8

 馬車から降りると、こちらを恭しく迎える案内人らしき男と、10人ほどの完全武装の騎士が立っていた。ザーマにはかなり物々しい雰囲気に感じたが、父から黙っていろと言われているので、とりあえずは無言で案内人の男に頭を軽く下げて挨拶をする。


 案内人は2人に終始笑顔で応対した。案内人はにこにこと張り付いた笑顔を浮かべて、2人を王子が待つという謁見の間に案内する。その前後左右を騎士たちが護衛の為とぐるり囲む。彼らがこちらに話しかけることはなく、ただ、不気味なほど静かに囲んでいた。


 実はザーマが、王宮に入るのは今回が初めてであった。もともと、王宮は王家の私的な空間であり、そこに立ち入ることが許される者は少ないので当たり前といえば当たり前なのだが、そんなザーマには王宮のこのような警備体制に対して、ずいぶんと厳重だなという程度の印象しか持てなかった。


 イダンソはこの護衛の為に囲む騎士たちを、案内人を勤める第一王子の近習を怒鳴りつけたいの我慢した。まるで罪人を連れ出すように騎士達がぐるりと囲み、無言でこちらの一挙手一投足を注視しているのが分かる。一体なぜ、王子がこのような非礼な対応をさせるのかイダンソは考え込んでいた。


「ハイビッシャー侯爵様、王子は中にてお待ちです。」

「……、ああ、案内、ご苦労。」

「お言葉に感謝いたします。」


 イダンソは心にないねぎらいの言葉を案内人の男にかけ、男はそれに先ほどから全く変わらない笑顔で、型通りの言葉で返す。その顔を見るほど、その言葉を聞くほどに、イダンソの頭の中では警鐘が打ち鳴らされていた。


 謁見の間の扉が開くと、そこでは二人の王子が待っていた。周囲には先ほどの騎士達と同じように完全武装をした騎士が少し間隔をあけて立ち、ローブを着た魔術師らしき姿の者も見えた。


「ハイビッシャー侯爵様、前に!」


 いつの間にか、ここまで囲んでいた騎士たちが後ろに立っていた。それは、退路を塞ぐような形で、前に2人を押し出すように、その集団のリーダーになる男が大きな声で叫ぶ。


「ハイビッシャー、火急の要と聞く、こちらで話を聞かせてもらえるか?」


 サダーク第一王子の声は何か魔術的な力が使われたのか、先ほどのような力一杯の叫びでないのに、不自然なほどはっきりとこちらに聞こえた。王子から、招かれている以上は、部屋に進むべきはずなのに、イダンソの足は何か動かない。頭の中の響く警鐘が先ほどより強くなる。何か重大な、そして、最悪なことが待っている。イダンソの第六感はそれを理解していた。


「どうした?来ないのか?話があったのだろう?」


 今度はメラク第三王子から言葉がかかる。それは、何もない、何の色もない言葉であった。無色で透明で、温かみも、冷たさも、匂いも、味もしないその言葉は毒のような言葉が全身に走る。床に貼りついていた足が動いた。イダンソは、失礼に当たらない程度に急ぎそちらに向かい、ザーマはそんな父の後ろに控えて進む。


「王子!こ、此度は、貴重なる時間を割いていただき、」

「よい。先に、用向きを、」


 ようやく、前に進み出たイダンソは、定型の言葉を口にする途中でサダークから止められる。本来ならば、かなり失礼な対応であるが、誰もそれに異を唱える様子はない。


「で、では、わが娘、ザーマと第三王子との結婚を破棄されるという話がありますが、これは誠でありましょうか?」

「……メラク、という事だが?」

「……はい。兄上、現在、王都が置かれている状況は、慶事を祝うような状況でありません。ですから、私は、そのように提案をいたしました。」

「そうか。という事だが?」

「お、恐れながら、此度の結婚は、王国に降りかかる凶事を払う機会でもあると私は考えております。」

「ほう?」

「……」


 重苦しい空気の中で、イダンソは何とか口を動かす。サダーク王子は少し興味があるのか、表情を動かすが、メラク王子は表情を変えずにこちらを見ている。


「私は、王都の民の間に、悪魔の噂が蔓延するのを聞いております。民は、不安を感じておるのです。現在、王陛下は執務を取れる状況ではなく、サダーク王子が全てを任されております。」

「悪魔の噂…、それで、それが今回の婚礼といかに関わるのか?」

「……」

「であるからこそ、王国貴族に対し、睨みを効かせられる我が家と王家が縁せきを結べば、王国の政は安定し、民の不安が払しょくされると、」

「そう考えての事、と言いたいのか?」

「……」


 イダンソが懸命に考えてきた言葉を口にすればするほどにその場の空気は冷たく、重くなるのが分かる。特に、サダーク王子の隣に立ってこちらを見ているメラク王子からは尋常ではない、殺気めいた圧力を感じる。


「……、既に、結婚式の為に国内の貴族、周辺の使者も王都に見えられています。この方々に対して、なんと言うのですか。」

「ふむ。それは、一理あるな。」

「……」

「そうです。みな、本来はこの結婚を祝いたいのです。不幸なことは、多発しましたが、それによって未来を暗くする必要はないはずです。」

「そうか、そうか。」

「……」


 少しづつ、話の方向性が見えてきた。サダーク王子の反応に光明を感じつつ、イダンソは話をどんどん続ける。


 その間、ザーマ黙り続けた。それは、イダンソから言われたことを守るという態度でもあるが、同時に、物凄い目でにらみつけてくるメラクからの防御でもあった。


「バッチ卿も、」

「もうよい!」

「ああ、もう、うんざりだ。」

「王子?」

「ハイビッシャー、お前には王位簒奪、他国への内応の嫌疑がある。」

「はぁ?い、いや、お待ちください。私にはそのような考え、全く、一体だれが!」

「騎士団長リョーダンからの申し出である。」


 イダンソがドラムの家名を上げた瞬間、空気は変わる。サダークは席から勢いよく立ち上がり、イダンソの話を打ち切り、先に連絡のあったイダンソへの嫌疑を口にした。


 イダンソが抗議を口にすると同時に、騎士が動き出す。それをサダークは止めて、イダンソに向かい嫌疑の説明が始まる。


「以上だが、申し開きはあるか?」

「ま、待て頂きたい、そんなことは、そのようなことは一切関りがない。私が教会に通じていたなど、手紙など、あれは、騎士団の件を謝罪するもので、」

「いずれにせよ、檄文の写しが手に入るまで、そのままここで待たれよ。」

「待て、ドラムだ、ドラムをここに、あ奴こそが、こたびの件はあ奴の暴走だ!現行犯ではないか!現場で兵を動かしたのは、ドラムである。儂を捕まえて、あ奴を許すなど、」

「……、そうか。」

「王子、考えてください。私は、ドラムに指示したのではありません。あくまでも、相談をしただけで、全てはドラムが起したことではありませんか? 私が罰を受けるならば、あ奴にも同等の罰を!」

「ドラムと同じだけの罰でいいのだな?」

「い、いえ、私は、」

「ならば、ドラムのように潔く自決せよ!」


 サダーク王子は冷たい声音でイダンソに声を掛けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ