激突編 5
「ここは、」
「お、起きたか、リョーエン!」
「リョーエン、無事か?」
「リョーエン司教様、お加減よろしいですか?」
「えっ?ドラム兄さ、いや、ドラム様?あれ?ここは?」
「ん……、あっ、……、リョーダン、すまんが一度、人払いを頼む。儂が良いというまで誰も近づけるな。いいな?」
「えっ、あ、はい、分かりました。」
リョーエンが、目を覚ますとそこは知らない場所であった。ここがどこだと考えるよりも前に、すぐに知る人の声がそばから聞こえた。
それは先ほどまで目の前に立っていたニックの声であり、王都にて知恵を借りようと思っていたドラムの声であった。北の砦にいるはずがないドラムの声にリョーエンは驚き、そちらをまじまじと見る。
リョーエンから返された反応に、ドラムはここにきてある事に気づいた。いや、本来ならば、もっと早くに気づくべきなのに、ドラムはすっかり失念していた。
―既に死んだはずのニックが動いている。これを教会の人間たるリョーエンがどう思うのか?
ドラムは自身が初めてニックを見た時を思い出すと、その存在を信じられずに殴りかかった。死んでいるはずの人間が動いているのだから仕方がない。同じような反応を返したと教会に所属したヒノクが答えていたのだから当然の反応だ。
―では、リョーエンはどう反応を返すだろうか?
ここにきて、ニックは自分の初手からの間違いに気づいた。ドラム自身はいつの間にかニックの存在を許容していたのだ。だから、ニックをリョーエンの方に向かわせてしまった。
死者であるニックが前に立つなど、リョーエンのような教会の人間には許せないものではないだろう。先ほどの戦闘は、その結果だ。ニックを怒鳴りつける前に自分が一番の失敗をした。
リョーエンの問いかける視線に、そんな事を考えたドラムはまずはニックについて説明をするための方策を立てる。ここで、リョーエンに上手く説明しなければ、再び同じことになる。
まずは事情を知らないリョーダンを遠ざけることにする。こちらの事情が全く分からないかつての部下を有無を言わさずに、その場から退出させる。気配が十分に離れたの確認してから、ドラムはリョーエンに本題から切り出した。
「先に言う、ここにいるのはニックだ。」
「…、はぁ?」
「信じられないだろうが、孫可愛さに化けて出てきた。……だが、安心しろ。話す限りは昔のままだ。もし暴れるようなら全力で協力する。だから、リョーエン、ここは矛を収めてくれ。」
「ドラム、なんか馬鹿にしていないか?儂の事?」
ドラムはニックのこと如何に説明しようか考えたが、正直に自分が感じた通りをリョーエンに伝えた。ドラムにはニックが何かしらの悪意を持って存在しているとは思えなかった。本人が言葉を借りれば、ただ未練だけがその存在理由になっている。
かつての友として、その未練を晴らしてあげたい。しかもその未練は、自分の今までの積み重ねにも関係している。だからこそ、ドラムはリョーエンにニックを許してもらいたい。どうしても、認められないならば、自分が責任を取ることも辞さないと合わせて、提案した。
「いきなり、死んでいるはずのニックが動いていることに、色々疑問はあると思うが、儂を信じて、」
「あ、あの、いや、ニックには一度会ってますから、それより、」
「……、はぁ?会ってる?いつだ?」
「2週間前か?ヒノ教会をこいつがぶっ壊しての、」
「あれは、壊したのではなくて、注目を集めるために、」
「……待て、黙れ!ニック!…リョーエン、お前、じゃあ、なぜあんなに派手に戦った?」
「あ、いや、その聖剣を寄越せと言われまして、借り物なのでだめだと伝えると、いきなり、」
「待て!それじゃあ、儂が悪いみたいではないか。儂は、わしの剣だから儂に返しに来たと思って、」
勇気を出して説明をしたドラムに返された言葉は、予想していない言葉であった。
-会っていた?教会を壊した?剣を取り返すために喧嘩した?
ドラムは自分が何かふつふつと湧く感情を抑えていることをあえて無視して、更に2人に質問をした。2人は、もちろん英雄といわれる人物なので、質問に対して、正直に答える。……質問するドラムの後ろにごうごうと燃え盛る炎のような気配を感じつつ、2人は互いに非があると答えを返す。
ドラムからの返答は、遠く離れた場所にいたリョーダンの元にまで響いた。
リョーダンは副官に、先ほどまでの決闘の興奮気味に話していた。副官も熱心に眺めていたが、英雄に憧れるリョーダンの熱量はすごく、若干辟易していた。そこに、雷鳴のような怒号が落ちた。それまでの熱に浮かされたリョーダンの表情が一変し、言葉はおろか、全ての動きをやめて、直立不動の姿勢を取る。それは、かつての地獄といわれたドラムの騎士団長時代を経験したリョーダンのトラウマで、ドラムから部屋に呼ばれるまで、彼はそのまま立っていた。
リョーダンが再び部屋に戻ると、ニック様もリョーエン司教様も足を組んで背筋を正していた。
特にニック様鎧を着たままその姿勢を保っていたので、かなり苦しそうに見えたが、本人はあまり気にしている様子はなかった。
「すまんの、リョーダン、……この、いや、2人には色々と言わくてはならなくてな。」
「は、はぁ、ゴホン、えーっと、ドラム様、では、先に、一報を入れました件、お話を、」
「そうだった。教会の方には伝手ができた。国内の貴族さえ、何とかできれば、」
「……、まぁ、協力いただけるなら、助かります。」
「おう!早く解決せにゃならんからの!」
「リョーエン司教、ニック様、はい!お二人の力があれば、ハイビッシャーの手から、王国を救うことができます!」
「「えっ?」」
ドラムとニックは貴族の家名に同時に反応した。
北の砦では、先ほどの決闘を目撃した騎士や兵士、商人たちが集まって熱っぽく語りあっていた。
特に彼らが気にしたのは、戦った二人の正体である。一人はすぐに判明する。物見やぐらから、戦いの始まりから終わりまでを見ていた3人が剣を持っていたのリョーエン司教だと知っていたので、もう一人の正体に皆が注目する。
一人がかつての英雄ドラム様だと言えば、別の者が違う人の名前を口にする。誰もが、あの騎士の名前を騎士の名前を知りたがる。リョーダンの副官がその騒ぎの現場に着くと、興奮はいよいよ手が付けられない様相を呈していた。
騒ぐもの誰かが、副官に気づき声を掛ける。あの騎士をご存知ですか?と、副官は団長であるリョーダンから騎士の名前を聞いていた。それを口にすると、先ほどまでの喧騒がウソのように静かになる。
誰もがその名前を知っていた。そして、あれだけの戦いを行える人の名前としてそれ以上の名前を知らなかった。
そして、そのままそれは人を介して、広がる。
リョーエン司教をニックが打ち倒した。




