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幕間 悪夢再び

 ニックがノイエを可愛がるのはただ一人の孫娘であると言う点が大きい。ただ盲目的に愛して、可愛がってしまうのは血が繋がっているというのも重要な点だと言える。


 しかも、ノイエは実に愛らしい顔立ちをし、異性ならば、気付くと目で追いかけてしまうほどの美人だ。故に、それをただ自分一人だけが可愛がれるというのは、男ならば大変な優越感を得られる。


 もちろん、ニックはノイエが6才の頃までは出来る限りの時間を傍に立って過ごしているので、ノイエの内面のやさしい心持ちを知っている。

 決して、爺の欲目や虚栄心を満たす為ではないが、全くないとは言い切れない。何せ、ニックは目に入れても痛くない程の溺愛をしているのだから。


 しかし、王都にはニックと同じくらいにノイエに過剰な思いを抱く人間がいる。


 ニックがノイエに愛を与えているというならば、それは、ノイエを愛している。いや、敬愛、尊敬、信仰、狂信というのが正しい。


 しかも、血の繋がりや外見は一切関係ない。


 ノイエの内面を、ニックよりも長く共にして深く、ふかーく知る彼女の名前は、ノイエ・ノーキンの幼なじみにして専属の下女メイである。


 メイはもともと奴隷身分の出身である。奴隷身分がなぜ子爵令嬢の専属の下女になったのかと言えば、ニックが僅か3時間で解決した貴族子息の連続誘拐が関わる。事件解決後に再発防止として、奴隷の身代わりが王国貴族の間で流行り、各地で奴隷狩りが行われた。


 ノイエの父は直ぐにそれらを違法とする法整備を整えたが、奴隷狩りは地下にもぐって続けられた。

 メイはそんな被害者の一人であり、ノーキン家が保護者として引き取った子供である。しかし、自ら貴族身分での奴隷所有を禁止する法律を作り出しているので、あくまでも、ノイエの専属の下女として雇いいれていた。


メイの視点


 ノイエ様!早まらないでください!


 メイは机に残された書き置きを読み終えると、涙を流しながら、部屋を飛び出した。 

 その足で王都中のノイエが立ち寄りそうな場所を片っぱしから探した。


 王都は昨日発表された第三王子と侯爵令嬢の結婚のことでお祝いムード一色であった。

 才気溢れた令嬢と美男子と名高い第三王子の結婚は王国に一層の繁栄を約束してくれる。

 そんな未来を描いて、王都の民はみな笑顔でそれをめでたい、めでたいと口にする。

 街中を懸命に探し回るメイの耳にも、何人もの人が楽しそうに話す言葉が耳にはいる。


「結婚記念だ!串焼きはどうだい!」

「お嬢ちゃん、おめでたいいからって走っちゃ危ないよ!」

「乾杯!ほらあんたも、乾杯!」

「あはは!カンパ~イ!」


 ふざけるな!

 あんな馬鹿の結婚なんてなにもめでたくない!


 一年前に、こちらに目を向けることなくノイエ様との婚約を解消した悪魔よりも憎たらしい顔を思い浮かべ、有らん限りの罵詈雑言をぶつける。


 ノイエ様、ノイエ様、どうか、どうか!決して、早まらないでください!


 騒がしく祝う街中を離れて、最後に大英雄ニック・ノーキン様の墓に向かう。


 私が、ノイエ様から離れなければ、あの話をお耳にいれなければ、あの、


 墓に向かいながらも、メイは反省と後悔をしていた。


 婚約解消後、ノイエは度重なる不運に襲われた。

 ノイエに関わる人が次々に裏切りを働いた。


 婚約解消の後、ノイエ様の気持ちを少しでも励まそうと仲の良かった令嬢が企画されたパーティーに参加すれば、見知らぬ令嬢に喧嘩を吹っ掛けられ、衆目の中で謝罪を強要された。いきなり、覚えの無い契約書をもって御用の商家が住み慣れた家屋敷を差押え、その日のうちに夜逃げのように追い出された。学友の令嬢に事情を話して、部屋を一室借りると令嬢はノイエ様を部屋に監禁し、自分のものにしようとした。何とか事に及ぶ前に救いだし、外に連れ出したが、今度は姿が見えない間に淫乱だの、性悪だのの噂が広がりメイは火消しに奔走していた。


 メイがノイエ様の側から離れたときに、ノイエ様は第三王子の結婚の話を耳にされ、書き置きを残して失踪されてしまった。


 個人ではどうしようもない事であったが、メイは責任を感じていた。暗く沈んだ気持ちのまま、ニック様の墓にたどり着く。


 ニック様の墓は荒らされていた。


 大英雄が安らかに眠るはずのその場所は無惨な姿であった。墓石にはかすれた黒色の血痕が付着し、ニック様の埋葬されているはずの場所は掘り返されて、むき出しになっていた。


 メイは絶望に沈んだ。


 あの血は、ノイエ様のものだ。メイにはすぐにわかる。故に、絶望は深い。


 いない? 襲われた? 連れ去られた?


 英雄の遺体と彼の血が繋がっている孫娘が消えたのだ。メイはあらゆる感情を消した。


 何をするべきなのか? 答えは直ぐに生まれた。



 かつて、悪魔を信仰していた国があった。

 悪魔の力を借りて、世界を支配する妄想にとりつかれたその国は王族も国民も皆狂っていた。


 そんな国は、周辺の国からすれば、脅威でしかない。

 長い戦争の末に国は滅び、その国の民は奴隷へと落とされた。


 メイは、ほんの僅かにその血を受け継いでいた。自分の全てを差し出す覚悟で、悪魔の力を呼ぶ。


 僅かに受け継いでいた血だけを頼りに、大規模な準備も生け贄も用意しない呼び出しに悪魔というには存在が小さなものがこたえた。


「・・あれ?ここは?」

「ノイエ様を助けて!悪魔様!私のす、」


 メイが対価を口に出す前に、悪魔、魂を誘う鬼火はノイエという名前を聞いて思い出す。


「ノ、ノイエ?イヤァァァアアアアア・・・、」


 死にかけの魂を誘う鬼火は再びリングに上がる為によびだされる。


一章の終わりになります。

二章は準備できしだい上げますので、すこしだけ、お待ちください。


全く関係ありませんが、関西、西日本の方は地震は大丈夫ですか?

久しぶりに、緊急地震速報を耳にして不安な気持ちを思い出しました。

早く、いつもの生活が送れますようにお祈りしております。

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