王宮に向かう 2
「リョーエン殿、その、もう一度、教えていただけないか?い、いまなんと言われた?」
「ヒノク様は教会を悪魔に襲われて行方不明になりました。」
「あ、あの報告は真実なのか!」
「あ、悪魔は討たれたのか?リョーエン殿、悪魔は殺したのか?」
「…、いえ。倒してません。」
リョーエン司教は、19人の人の前に旅装束の姿で立っていた。
ヒノクの前でニックの魂が定着した鎧と戦い、ヒノクからの悪魔についての疑義を問われ、教会で一人自問したリョーエンは答えを得るために召喚された大聖堂府の中心 大正教会で質問されていた。
結局、ヒノクの悪魔を信じるという事が教義に反しているのか分からなかった。
悪魔と通じているという事は教会を裏切ることである。しかし、ヒノクという人を知るリョーエンにはそれが信じられない。
だから、嘘を言わずにこの教会の決定に従おうとリョーエンは決めて、その場に立っていた。
大聖堂府の最上位の意思決定機関 賢人会議の面々は王都より戻ってきたリョーエン司教からの報告を受けて顔色を真っ青に染め上げる。
今まで、断片的に入ってきていた噂、悪魔が復活したという話がリョーエン司教の口から真実であると報告されたからである。
彼らが聞きたかったのは、そんな世界の危機が迫っているという話ではない。自分たちの椅子を奪おうとする者がいなくなったのかという事であった。
リョーエン司教が大聖堂府に到着したのは、聖堂騎士団が出立してすぐ、ちょうど入れ違うような形となった。
しかも、間の悪いことにリョーエン司教は大聖堂府に戻り、すぐにリョーエン司教は賢人会議への出席を求められ、不穏な報告が送られてきている王国の詳細を語ることが求められた。
聖堂騎士団の大隊長は王都に向かったマース達に戻ってくるように連絡を取ろうとしたが、緊迫の度合いを日に日に増している王都への緊急性の低い連絡は却下された。
賢人会議は一人の教皇と8人の枢機卿と10人の大司教によって構成される。合わせても僅か19人が世界最大の宗教、一千万ともいわれる教徒を導いている。
教皇は終身制であり、教皇から指名によってその位に任命される。かつて、指名を行う前に教皇が崩御したことがあり、それによる政治的混乱を回避するために、枢機卿、大司教が置かれ今の形となった。
8人の枢機卿は大聖堂府に所属し5年に一度、半数が選挙で入れ替わる。大司教は大国の中央教会、聖地、要地から派遣され10年の任期を与えられる。
ヒノクは大司教の位を持ちここに参加する資格を有していたが、一度も賢人会議に参加したことがない。
大聖堂府、大正教会が女人禁制の場であるために、参加できないのである。ヒノク自身がそのことを気にしたことはなかったが、ヒノク周辺に集まる学士たちはそれを悪習だと考えていた。
初め、リョーエン司教を早急に呼び寄せて賢人会議に参加させた理由は、リョーエン司教を守ることであった。
それは、聖女殺しの疑惑を王国に追及されるものではなく、ヒノク教会にいる教会組織の改革を望む学士たちからリョーエン司教を守る為である。
王国内では聖女ヒノクの名声もあり、女性の進出が著しい。別に教会に限ったことではないが、女性が一歩踏み込んだ先、一歩進んだ位置から世界を覗き込むとそれまで目に映らない不合理が見えてくる。これまでの常識が悪習だと断罪される。
なにせ、椅子の数は決まっている。これも長年の馴れ合いで決まったものだが、決まっている以上は変えることに大変な力が必要になる。改革という名前の下で行われる新たなる権力争いなどこの賢人会議に参加するもの皆がご免なのだ。
ヒノク教会の崩壊の一件はこの改革を望む者たちの身を寄せる場所を奪う強引であるがものすごい効果的な一手である。正直、思いもつかない手段であるが、教会内部での権力闘争が激化した時の被害を考えれば、リョーエン司教が選んだこの手は悪くない一手である。
賢人会議としては、我々の地位を、権勢を、椅子を守るためにその身を盾にしたようなリョーエン司教を責め立てる気持ちはない。むしろ、守るつもり、誰からも非難されないようにするつもりであった。
聖堂騎士団の一隊を王国に送ったのもリョーエン司教を不意打ちから守るためである。
主に賢人会議が議題とすることは世界の危機、聖人の認定など滅多にないことである。しかし、その権力は絶大である。
そこの椅子を奪う敵が将来増えることを阻止してくれたのだから、リョーエン司教は英雄である。
だから、賢人会議の面々は、リョーエン司教を賢人会議呼びだして聞きたかった。
なぜここまで強引な手をリョーエン司教が選んだのか、王国内でその手を選ばなくてはならないほどの動きがあったのか、問い詰めるためにリョーエン司教は賢人会議に呼ばれた。
「悪魔が王国内で呼び出されました。そして、ヒノク様を連れてどこかへと消えていきました。」
「そ、それは、一大事ではないか!」
「はい、ですが、」
「まずい、まずいぞ、巫女の予知はないのか?」
「い、いえ、何も聞いておりません。」
「では、王国の報告は事実という事か?」
「派遣した騎士団の中に息子がいるのだ、早く呼び戻さなくては」
「私の娘も王国いるのだ、何とか連絡を取らねば」
「騎士団をすぐに編成させろ。各国に触れまわれ!」
「あ、あの、悪魔のことで、」
「リョーエン司教!なぜ!戻ってこられた!」
「え、呼び出されたので、」
「ああ、ば…クソ、リョーエン司教!」
「はい、」
「すぐさま、騎士団を編成して王国に向かっていただきます。」
「む、息子をお願いします。」
「あ、あの私の娘も、ランというのですが、中央教会にいるので必ず助けてください!」
「はぁ、」
「騎士団長を呼べ!」
大聖堂府では急ぎ、騎士団が招集され、部隊の選抜がなされる中で、先に派遣した騎士団が壊滅したという報告が入った。




